ツケ
8月25日 宮古空港 10:35
久米未来は、数十人の仲間と共に、宮古空港に降り立った。
彼等は数便に渡って、宮古島だけでなく、石垣島、与那国島、奄美大島、沖縄本島に「展開」している。
表向きの理由は、久方ぶりの環境保護活動となっていたが、本当の目的は未来と李達、中国人メンバーだけが知っている。
いまやSONは完全な反政府組織だ。沖縄県知事は、NPOや一般社団法人群の暴走を放置し、夏になってから「琉球独立論」が急速に叫ばれていた。
SONは、沖縄県知事の黙認の下、他の組織と共に、一気に活動を先鋭化している。
1年かけて「教育」されてきた彼等の任務は「人間ドローン」だ。
一時期選挙活動で停滞した時期もあったが、彼等は「合宿」「オリエンテーション」名目で、沖縄本島や離島の各地を訪れ、自衛隊施設周辺の土地に慣れている。
彼等は、SNSやドローンを使って、自衛隊や米軍の位置を、中国軍に無自覚に通報するのが主な役割だ。
メンバーの中でも、先鋭的な連中は、李達が調達してきた弾薬を搭載した自爆ドローンで自衛隊や米軍の資産を攻撃するつもりだ。
かれらは、既にそういった行為に正義があると思い込む段階に陥っていた。
宮古島にやってきた反政府グループは、SONや昔からの「平和団体」「市民活動家」を中心に、200名にも上った。
それでも数が足りず、テコ入れで東京のNPOから、青少年を「補充」されている。
彼等は行くあても、金も無く、東京を彷徨っているところをNPOに保護され、生活を保護されていた。
彼等は、NPOに恩義を感じるあまり、言われるがまま、旅行気分、アルバイト気分で先島諸島に来てしまっていたのだ。1週間後の自分達の運命を知る由もない。
未来は着陸間際の見た、宮古島の景色について、友人達と盛り上がっていた。
だが、内心では冷酷な感情が渦巻いている。
(こいつらの内、何人が生き残るかな?)
彼等は中国軍の奇襲攻撃を成功させるための、捨て駒になるため先島にやって来たのだ。
未来だけが、攻撃当日は、中国の工作員グループと共に、事前に設定された安全地帯に隠れ、仲間、友人が自衛隊、米軍諸共に吹き飛ぶのを見物する手はずだ。
空港から、宿へ向かう途中、友人達と談笑しつつ、未来は宮古島の景色を、うっとりと見ている。
この美しい島は彼女にとって、将来的に支配下に収める土地なのだ。
日本を裏切る。
そして、中国に占領された南西諸島の島々に打ち立てられる、傀儡政権の中核に収まる。
それが、20歳になったばかりの女子大生の人生設計だった。
ちまちまと、日本政府から、つまりは国民から補助金を騙し取っている彼女の母親とは違う。
未来は、母親すら内心では見下していたのだ。
同時刻 東京
田中総理は不眠不休で震災対応に当たっている。
田中自身は、実のところそこまで無能な人物では無い。
だが、生活新党をはじめ、連立与党の政治家は問題のある人物が揃っている。
田中のブレーンも最悪だ。「ウクライナを支援する金があるなら国民に」「自衛隊の装備はアメリカの型落ち品を買わされている」などと、総理に吹き込んで来たのは彼等だ。
お人好で一度仲間になった人間には極端に甘く、人を見る目が無い。そんな人間性も含めるなら、結局、田中は無能だった。
実は、田中の会社が、社長が甘すぎる性格でも成功したのは、中国での売上が盤石だったからだが、これとて中国側に「支援」されてきた結果だった。
ちなみに批判は人権擁護委員会と、インターネット規制法により弾圧していた。
(実は田中はその中身をよく分かっていない。彼自身は日本人の給与を上げることが主目的で、その他のことには関心が薄い。そのスキをついて、副総理達、政権内の左派メンバーが彼等の悲願を達成してしまったのだ)
既に摘発された人間は万単位に登る。これで日本の言論から自由が奪われないわけがなかった。
摘発で済めば、まだ良かった。
中国側は、今や遠慮なく日本国内で特殊作戦を行い、暗殺や脅迫といった手段で、言論空間に干渉していたからだ。
実に50人以上もの日本人が、中国側の工作員に暗殺されていた。
中国の危険な兆候は、現場サイドからさかんに上がっていたが、例えば防衛省におけるものは、濱田統幕長が握り潰している。
それでも上がってくるが、中国人に極端に甘い田中には、まったく響いかなかったのだ。
一方、西側諸国は中露の仕掛ける認知戦に蝕まれ、ウクライナを見捨てつつある。進攻当初はウクライナの善戦敢闘と、大統領のリーダーシップによって、積極的にウクライナを支援していたものが、3年後の現在には下火になっている。
とりわけ、日本は先頭を切って支援を打ち切ってしまった。他の国々も、日本に倣って、ウクライナ支援より自国の医療、貧困、経済成長、難民支援を優先すべきという野党の声に叩かれている。
この結末が、世界の現状変更を企む国々、とりわけ中国に、どのようなシグナルを送ってしまったのか、それを大半の日本人は理解していない。
そのツケは、2週間後の未来に迫っている。




