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貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン五歳編

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開花その13 太陽の精霊

 


 悪役風ロビンフッドたちに連れて行かれた先は、エルフの里と豪語するだけあって想像の中にあるエルフの村そのものだった。


 天然の立木が大きく変形して造られている樹上のツリーハウスが、同じく天然素材の生きた吊り橋の空中歩道で繋がっている。


 村全体がテーマパークであり、アトラクションであり、フィールドアスレチックだった。


 周囲の森には様々な果樹が競うように実り花咲き乱れ、羽の生えた小さな妖精さんが飛んでいないのだけが残念でならない。



 エルフは誰もが二十代の若者のように見えるが、正直何歳なのか不明で不気味だ。


 長老である里長さとおさですら、同じような年齢の若者にしか見えないのだから。


 とりあえず案内された樹上の家には私のような子供も、年寄りもいなかった。


「私はこの里の長をしている、アロイ村のヘルゼマークと申します。里の皆はアロイ・ヘルゼ、または単にヘルゼと呼びます。皆様もどうぞ、ヘルゼと覚えてください」


 ヘルゼマーク・アロイではないのか。里長さとおさのヘルゼは、見た目は若いが話し方はそれなりに落ち着いている。


「さて、どうしてこんな遠いところまでいらしたのかを、聞かせていただきましょうか」

 里長は不思議そうに私を見る。

 その表情が崩れて、だらしのない笑顔になった。ま、まさかロリコンか。いや単に子供が珍しいのか。


「あれ、どうしてだっけ?」

 動揺した私は救いを求めるように、師匠フランシス護衛プリスカの二人を振り返る。


「そりゃ、姫様が言い出したことじゃないですか」

「そうですよ。私はこの場所へ案内しただけです」


 いとも簡単に逃げられた。


「えっと、私は王国の北西にある山間部を領地とするウッドゲート男爵家の次女で、アリソンと申します。この春に、五歳になりました。で、こっちが魔法の師匠のフランシスで、こっちは護衛のプリスカです」


 言ってから、間違いに気付いた。忘れていたが、私が王宮を抜け出したあの日、父上は男爵から子爵となっている。ついでに私自身も、ナントカ魔法爵とかいう爵位を頂戴した。今となってはもう、どうでもいい話だが。


「ただの人間の、貴族の娘だと?」


「はい。ただその、五歳になって魔力を調べるために魔力封じの腕輪を外して以来、困ったことが続いているんです……」


「今日は、腕輪をしていませんね」


「今は、この特別な指輪で魔力を封じているのですが……」

 私は指輪を外して、里長に渡す。


「なるほど。これは立派なものだ。普通のエルフなら、ほぼ何の魔法も使えなくなるほどの強力で貴重な業物です」


「それが、全然効果がないのです」

「そんな馬鹿な。まさか、それを身に着けたままで結界が無効化されたと……」


 里長ヘルゼの整った顔が、突然驚愕に歪む。先ずは一度目の絶句状態である。

 この後私は何度この顔を見ることになるのか。私と関わる者の通過儀礼として諦めて貰うしかない。


「里の結界は強力ですが、それを超越する巨大な魔力に干渉されれば抵抗はできません。しかし里を千年以上守って来た二重の結界を同時に超える魔力となると……」


「あ、でも私は何もしていませんよ。ただそのまま素通りしただけ」


「……アリソン殿は、いったい何者か?」


「だから、ここへ来ればそれが分かるかなと思ったんです!」



「アリソン様は、私に会いに来たんでしょ!」

 頭の中で、聞きなれた声がする。この里に入ってからはおとなしい、ルーナである。


「ルーナ?」

「それが、違うの。私は太陽の精霊アンナ」


「いやいや、いつもの陽気な時のルーナでしょ」


「世に光あれば、影あり。栄光に隠れた月あらば世に陽光のあるは自明。太陽と月はまさに世の表と裏であり、ついに我ら陽光と影は千年ぶりに交わり光と闇の精霊ルアンナへと戻る時が来たのだ!」

 これは、いつものルーナだぞ。


「何を今更。アンナって、今までもちょいちょい出てきてたでしょっ!」

 私は騙されない。


「天空に月と日が同時に浮かぶとき、アンナはこの結界を離れてルーナの元へ現れることができたのよ。まあ、これからはルアンナとしてずーっと一緒だけどね」


 かなり、嘘くさい。

 でも、このイキった声は、私と里長だけにしか聞こえていないようだ。


「私は面倒だから、ずっと里長以外とは話をしなかったからね」

 アンナが言う。でもそれで、こちらとしてはかなり助かる。



「ということは、アンナ様はこの娘と一緒に里を離れるおつもりか?」

 里長は、突然のことに動揺を隠せない。


「さあ。アリソン様がこの里を気に入れば、しばらくはここにいるんじゃない? それに今の私はアンナじゃなくてルーナと一緒になった、ルアンナだから」


「それにしても、この娘は何者で?」


「え、私ってドワーフなんでしょ? ほら、耳も尖っていないし」


「いえ、エルフの耳も、尖ってなどいませんぞ」

「でも目の前にいるエルフの皆様、耳はみんな尖っているじゃない」


「これは、エルフが里の外の者に会うときにだけ使う儀礼的な変化の魔法です」


 何じゃ、それは。聞いてないぞ。


「エルフが里の外に出る時は、変化の魔法で耳を尖らせます。誇り高きエルフと人間を区別するための古代から続く伝統です。今日は村へ人間が来ると聞きましたので」


「そ、それだっ!」

 私はここへ来た目的を思い出した。


「その変化の魔法を覚えるため、いや変化の魔法の得意な精霊に会うため……っって、それって間違いなくルアンナだよね!」


 私はものすごい徒労感に襲われる。



「もう一つ聞きたいことがあるんだけど……」

 私は里長の目を見る。


「何でもおっしゃってください」


「私はまさか、当分この姿のまま成長しないのでしょうか?」


「肉体の成長速度はエルフでも個体により大きく異なります。しばらくこの里に滞在すれば、自ずと答えは得られることでしょう」



「じゃあ、私はやっぱりエルフだったんだ」

「違います」


 そんなにきっぱりと否定されたら心が折れるじゃないかー。

「やっぱり、私はこのままドワーフになっていくのか……」



 そこへ、ルアンナが割り込む。

「いえいえ、姫様はエルフの王族ハイエルフですって」


 またこの嘘つき精霊が変な事を言い始めた。


「……エルフの王族だって? そんなのがいるの?」

「まあ、極めて稀に生まれる特別なエルフですね」


「普通のエルフと何が違うの?」

「姫様はこの世のエルフを統べる唯一無二の存在、ハイエルフであります」


「いやもう貴族とか王族とかさ、そういうのは一切いらないんだけど……」

 王都から逃げ出してきた私は、もうこりごりである。


「姫様はハイエルフとして、永遠に近い時を過ごすことになりましょう」

「まさか、ずっとこのままの姿じゃないよね」


「百年、二百年はハイエルフにとってはほんの数刻と思しき短き時間。今のうちに楽しんでおくとよろしいかと」


「えっと、このルアンナとの会話は里長と私にしか聞こえていないんだよね?」

「いかにも」


 あ、今のはルーナっぽい。



 私は、すぐ後ろに控える殺気丸出しの二人の殺人鬼を振り返る。

 フランシスもプリスカも、特に何かに気付いた気配はない。


 良かった。


 ただ、あの冷静だった里長が目を丸くして私の前に跪こうとしているので、慌てて駆け寄り止めた。こんなことは通過儀礼じゃない!


「ルアンナ、これは秘密にして!」

「いいんですか?」


「いいから、重要機密で。私は昔の賢者様みたいな変人のエルフだってことにしておいてよぅ」


「では普通に大賢者様では、いかがでしょうか?」

「それはもっとダメっ!」



 だが、一歩遅かった。


「アリソン様はエルフの王族、ハイエルフにあらせられる。今後は敬意を持って大賢者様とお呼びするがよい」


 里長が厳かに、集まった上品なエルフとうちのガサツな用心棒たちに伝えた。


「おおおっ!」

「大賢者様!」

 コントみたいなリアクションはやめろ。


「ルアンナは姫様の守護精霊だから、これからもよろしくね」

 ぐっ、たちの悪いのがもう一人分増えた!



「だから、結局私はどうすればいいんだ?」

 急に大賢者様とか言われても、私は五歳児だぞ。


「まあ、気の済むまで里で遊んで行ってよ」

 ルアンナがそう言うのだから、とりあえず飽きるまでここに厄介になろう。


「師匠とプリスカ。しばらくこの里でのんびりしてから、この後のことは考えましょう」


「「ははっ」」

 二人が膝をついて首を垂れる。


「それはヤメロ。馬鹿にされているようにしか見えんぞ」


「滅相もございません」

「そんなつもりは、決してございませんので!」


「今まで通りでいいんだからね」


「ほう、では姫様。明日から早速、魔法の修行を再開いたしましょう」

「姫様。同じく剣術の稽古も始めます」


「何日かゆっくりと休んでからね!」

 本当に極端な奴らだ。


 気を許すと、すぐにマウントを取りに来やがる。

 まあ、基本的に私へのリスペクトが足りないのだから、こんなものか。



「里には書物はあるの?」

「貴重な歴史書や魔術書は、結界に守られた書物庫に保管して御座います」


「では、それを読ませていただけますか?」


「もちろん。何百年かかっても読み切れぬほどの本が眠っておりますので、いかようにもお使いください」


「ありがとう!」

 これは楽しみだ。


 だが、フランシスの目つきが怪しい。


「姫様。一つ言わせていただきたい」

「なんだ?」


「姫様がドワーフであろうがハイエルフであろうが、このフランシスには関わりなき事。男爵様より姫様の修行を承った以上、責任をもって遂行することこそ我が勤め」


「はいはい」


「今の姫様は、魔力が大きいだけの未熟者。書庫への引きこもりなど絶対に許しませぬ!」


 師匠は、相変わらず暑苦しい。

 フランシスは、どこまでもフランシスだった。



 終



 


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