3ー2ー3 大垣高校戦後
決着。
それからもずっと、ペースは足立南にあった。
順調に得点を重ねて、コールドペースになってきた。投手の根岸さんは一点を失うものの、そこから崩れることなく四回をしっかりと抑えていた。打線も繋がって十点を取っていた。次の相手は確実に決まったので、もう足立南の選手しか見ていない。
五回の表に移行する前に、東條監督が立ち上がる。どうしたのだろうかと見ていたら全員の顔を見渡しながら紙を片手に話し始める。
「次の試合のオーダーを発表する。他の観客もいるので返事はなくていいぞ」
東條監督も次の相手を決めたからオーダーを発表するのだろう。ここから凄いどんでん返しがない限り、足立南が上がってくるのは確実。
全員が球場ではなく監督を見て静聴する。
「一番セカンド間宮。二番レフト三石。三番ショート葉山。四番サード倉敷。五番ライト新堂。六番センター霧島。七番キャッチャー町田。八番ファースト綾部。九番ピッチャー宮下。このメンバーで行く。四日後に合わせて調整をするように」
やった。先発だ。やっぱり本職を任せてもらえると嬉しい。
俺の隣で三間がスタメンじゃなかったことに肩を落としていた。一年生なんだから毎試合先発とは限らないのに。
俺は二試合とも選ばれてしまったから、そんなこと口にしないけど。
流石にその次の試合は強豪校も上がってくるだろうし、先発は真淵さんか小林先輩がするだろう。外野でもレギュラーの先輩方がいるから、次からはベンチスタートだと思う。
三間は打撃を買われてるから、代打とかで出番はあると思う。それに今日の試合では六番で使ってもらえて、レギュラーの綾部先輩は背番号二桁が混ざっていながらも八番だ。打撃は三間の方が評価されていると言って間違いない。
シニアの先輩達相手に公式戦で投げるのか。シニアではそういうことがなかったから感慨深い。二人ともクリーンナップとして打ってるから、全く気が引けない。
「足立南は随分手堅いチームだが、それでもお前達の敵じゃない。いつも通りやって、勝つぞ」
「「「はい」」」
監督の話が終わる頃、試合が再開される。足立南の攻撃の前に上中里は投手をファーストの左投げに代えていた。投球練習の時間があったために監督が話していても試合を見逃すことはなかった。
コントロールといい、あの左投げがエースをやった方がチームが纏まると思うんだけどな。他の二人は四球が多すぎて守備のリズムが作りづらいと思う。
速度がなくても、四球がなくてボールが飛んでくる方が守りやすいとはよく聞く。自分たちが動いていないのにランナーが溜まるのは中々にストレスになるのだとか。特に内野。いつの間にかピンチになっていて、間を抜かれたりエラーをしたら点を取られるというのは嫌だろう。
四球はやりたくてやっているわけじゃないけど、一イニングに何個もやるつもりはない。というかそんなに四球を続けていたら、そいつはノーコンか調子が悪いかのどちらか。早めに見切りをつけるのも監督にとっては必要だろう。
監督の試合中の仕事で一番大変だと言われるのが継投のタイミングの見極め。試合を決定付けてしまうことが多いため、どのタイミングで代えるか悩む人も多いとか。だから高校野球の場合絶対的なエースを一人育ててそのエースと心中する監督もいる。
上中里の監督は投手を見る目がないと思う。切実に。
足立南の攻撃は一番から。上位打線だし一点くらい取ってコールド勝ちしそうだ。
先頭打者は打ち取ったものの、二番打者にセンター前ヒットを打たれた。コールド成立のランナーが出てクリーンナップ。決まったかな。
コールドのランナーが出たことで上中里が三回目の、最後の守備のタイムを取ってマウンドに集まっていた。伝令もマウンドに向かう。
まだ勝ちを諦めていないのか、それともただ足掻こうとしているのか。どちらにせよそこそこ長い時間話し合って解散する。ここを0で抑えてこの裏で点を取れれば可能性はあるだろうけど、それでも七回コールドになりそう。
「智紀、最上さんってシニアん時どんなんだったんや?」
「守備はすごく上手かったぞ。ただあまり打つ印象はなかったな。大体六番打ってたと思う」
「ほーん?それで二年生ながら三番って大出世やん」
「かもな」
三間へ最上さんについて答えていた三球目。
レフトへ白球が高く舞い上がる。
「あ」
「行ったやろ」
三間の確信する声の通り。
レフトは必死に下がるものの身体がフェンスに当たり。ボールはその上を越えていった。
試合を決定付けるツーランホームランだ。
最上さんがガッツポーズをしながらダイヤモンドを巡っている。12-1だ。十点差が五回でついたから、この裏に二点以上取られなければコールドが成立する。
左投げはこの後もランナーを出すものの、どうにか失点はせずに切り抜けた。やっぱりあの左投げがエースをすべきだと思う。
その裏の守備で根岸さんがしっかりと締めてゲームセット。次の対戦相手が正式決定した。
咽び泣く上中里の面々。あれだけ舐め腐っていた態度をしていても、負けたら悔しいのか。いや、ウチとの練習試合の後に意識改革があったんだろうか。そうだとしたら俺がとやかく言えることじゃないな。
試合も終わったので俺たちも帰る準備をする。他の試合は偵察部隊の人たちにお任せだ。
「宮下。足立南に挨拶していかなくていいのか?」
「次戦うのでスポーツマンシップに則り、精一杯戦いましょうって言いに行くんですか?流石にそんな挨拶はしに行きませんよ、葉山キャプテン。するとしたら俺たちの試合の後です」
「そうか。変なことを言った」
「いえ」
昔のシニアの先輩たちがいるからって、何も宣戦布告に行かなくていいだろう。そんな悪目立ちをしたくない。
この後歩いて学校に戻り、千紗姉から美沙をしっかり家に送り届けたと聞いた後はバッティングピッチャーを買って出て、レギュラー陣に投げた。ストレートオンリーで。
打たれたけど、むしろストレートだけじゃ通用しないと再認識できて良かったと思う。今日は試合だったということもあって居残り練習はしないで六時過ぎには家に帰った。
福圓梨沙子さんからの手紙を確認して、やっぱり謝罪の文章と、メールアドレスが書かれていただけの内容だったので三間に謝罪文だったとメールを打つ。
ついでに記載されているメールアドレスを登録して今日の試合の応援について感謝のメールを送るとすぐに返事が来た。その返事も簡素なものだったが、珍しい交流関係ができたことに俺は満足して風呂と夕飯を楽しむ。
その日の梨沙子さんのラジオで、また話題になったらしい。直前に名前を出さない形で話していいかと聞かれたので許可を出したけど、今度は炎上しなかったっぽい。
良かった良かった。
「いや、良かったで済ませちゃダメでしょ。智紀どうすんの?あんたの名前、ネット検索で出てくるようになっちゃったけど……」
「喜沙姉の弟ってバレるよりはダメージが少ないから大丈夫」
「それも時間の問題な気がするのよね……。炎上しなかったから良し、でいいのかな?」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。一応ママに連絡したけど、ママもラジオ番組聞いてたみたいでどうとでもなるって」
「母さんもそう言ってるなら大丈夫だろ」
そう、ネットは大丈夫だったけど。
その日から帝王の女子たちがその話題で突っかかってくることが増えた。学校が後二日で終わるとはいえ、さっさと夏休みにならないかなと本気で思った。それほどまでに女子たちの熱量がうざったい。
夏よりも暑苦しいものがあるなんて知りたくもなかった。
次も三日後に投稿します。
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