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3ー1ー3 大垣高校戦

追撃。

 二回の裏の攻撃は大久保先輩がレフトフライで倒れたことで終了。俺は残塁で終わったけど、投手でもないから残塁でも気にせず戻る。

 ベンチの前で大久保先輩と一緒にヘルメットとグラブを交換していた。俺は筒井先輩から、大久保先輩は辻先輩から受け取る。


「悪い、宮下。せっかく三塁まで行ったのに」


「二アウトじゃなければ犠牲フライですよ。責めるなら初球から打ちにいってアウトになった三間です」


「お前、同い年に辛辣だな……」


「いーや、宮下は間違ってないな。あいつは六番を任されてるんだ。クリーンナップの次だぞ?俺たちの分も打ってもらわねえと困る。大久保もあいつのせいにしとけ」


「意気揚々と打ちにいって凡打とかダサかったからな。点を取る役目があれじゃ困るだろ。得点圏だったし」


「先輩方も厳しい……」


 大久保先輩が謝るものの、俺も含めて筒井先輩と辻先輩もとりあえず三間のせいにしておけという風潮を押し付けたことで苦笑する。

 それだけ帝王のレギュラーという立場に求められるもののハードルが高いということだろう。特にまだ相手が強いということもないので、打って当たり前みたいな空気がある。

 無用心に打ちにいった結果がアレなら、そりゃあ怒られるだろう。ベンチに戻ってから東條監督に怒られていた。


「ま、大久保は投手だから打撃は気にすんな。真淵も小林も大して打てねえし」


「監督もチームバッティングが最低限できなかったら怒るけど、二アウトじゃうるさく言わないもんな。特に投手は投げるの優先で基本怒られない」


「なら良かった」


「一軍でも、公式戦でもそんな感じなんですね。俺も今日は良い結果出せていますけど、投手の時は気負わなくて良さそうです」


 筒井先輩と辻先輩の話を聞いて、俺は先にライトへ向かう。大久保先輩は水分補給をしてからだ。真夏ということもあって気温は三十度を超えている。熱中症で運ばれる人も出てくる暑さだ。

 野球は投手が投げないと始まらない。だから投げている投手は特に大事にされる。

 投球練習をして三回の守備が始まる。ここまで大久保先輩は四球もなく凡退で終わらせている。先頭打者の七番もショートフライに打ち取っていた。


 続く八番打者へ投げた二球目。コツンと当てた打球はフラフラっと上がって俺の前に落ちる。ダッシュしても間に合わなかった。下位打線だから前進守備をしてたんだけど、ちょうど野手の間に落ちた。

 捕ってすぐ返球をすると、一塁側ベンチが凄く盛り上がっていた。


「うおおおおおお!佐藤、マジかよ!」


「打ちやがった!帝王の三番手からヒットを打ちやがった!」


「続け、大島ー!」


「このまま一点取るぞ!」


 まるで逆転したかのような騒ぎ。いくら俺たちでもヒットは打たれるんだけどな。練習試合がそれを証明しているんだけど、このレベルの相手とは新設校だから招待して試合をしないと二軍でも鉢合わないレベルだから知らないのか。

 偵察は禁止されてるから練習や他校との練習試合の結果なんて知らないんだろう。でも、やる気があることは良いことだ。コールドになる点差がついているのに諦めない様子は、どこぞの新設校みたいに意気消沈していないので敬意を称せる。


 続く九番バッターは送りバントを成功。基礎がしっかりしているから大久保先輩のストレートもしっかり転がせるんだろう。

 二アウトながら得点圏にランナーが進んだことで一塁側アルプスも盛り上がっていた。ヒット一本で得点が入る可能性のあるケース。俺たち外野は失点を防ぐために一番が相手でも前進守備を敢行した。


 できたら無失点のまま試合を終わらせたい。大久保先輩は攻略できる投手だと、今年の帝王は守備が良くないというイメージを偵察部隊に持ち帰らせないためだ。

 大久保先輩はストレートでストライクを二つ取る。追い込んでから投げたボールは大久保先輩の代名詞であるフォーク。


 これが綺麗に低めに落ちて空振り三振。ここぞという時に三振を奪えるウイニングショットがある投手は大成するって話もある。大久保先輩は自力でピンチを脱していた。

 大垣サイドからは「あぁ〜」という悲鳴が聞こえたが、相手の監督が叱咤激励したことでナインは元気よく返事をして出てくる。


 うん、野球だ。高校野球だ。夏の大会だ。

 そう認識できる試合で、嬉しかった。

 三回の攻撃は一番からなので八番の俺はベンチの奥で汗を拭いたり水分補給をしてからベンチの前側へ行く。


「智紀、なんやお前。本当に打ちおって」


「打率が良くて文句を言われるなんて心外だな。情けない凡打を晒した三間くん」


「うるせ。次こそは大きいの打ってやる」


 三間と話していると先頭の早坂先輩が右中間を破る二塁打。シングルヒットなら仕方がないとでも言うように深めの守備をしていたために足の速い早坂先輩でも三塁へ行けなかった。

 今度は逆に一点を与えないように定位置よりほんの少しだけ前に来る大垣高校の外野陣。五回コールドを避けるために相手の監督が指示をしていた。


 今日東條監督はほとんどサインを出していない。バントのサインなどは選手が出して実行している。打席に入った村瀬先輩は何もサインを出さなかったので今回は普通に打つんだろう。

 その予想は当たってライト前ヒットを放った。当たりが強すぎて早坂先輩は三塁ストップ。ノーアウト一・三塁になった。


 続く三番葉山キャプテンには、緊張でフォームが崩れたのか全くストライクが入らないまま四球。プロ注目のドラフト候補生ということで萎縮したんだろう。

 残念ながら続くのもドラフト候補生の我らが帝王の誇るスラッガーだが。

 ノーアウト満塁になって四番の倉敷先輩が打席に入るところで相手がタイムを取って伝令を送る。さっき降板したエースが伝令としてマウンドに向かう。内野陣もマウンドに集合していた。


 場面的に勝負しかないけど、入り方に気を付けろとかそんなところだろうか。三回しか使えない守備のタイムを相手は消費してしまったが、この試合は長引かないだろうから使う場面としては間違っていないだろう。

 二分ほど話し合っていただろうか。徐々にメンバーに笑顔が戻り、最後には大きな声で「応っ!」と声出しをしていた。

 タイムが終わって試合が再開される。


「三間。お前ならこの場面どの球種を狙う?」


「四球で満塁で、しかもタイムの後やろ?相手のウイニングショット、オレが打ち損じた小さく曲がるスライダーや」


「コースは?」


「引っ掛けさせたいんやから、インローか?」


 スラッガーとしての意見を聞いていて。

 投げられた初球。コースまではベンチからではわからなかったが、ボールは高かった。速度もストレートにしてはちょっと遅かった。

 それを。


「わあああああああ!」


「行った!」


「ちょ、待っ⁉︎倉敷先輩、それはアカン!オレの見せ場がぁ!」


 凄く綺麗な金属音が鳴り響き、スタンドは即座にその意味を察する。俺や三間もベンチから身を乗り出して白球の行方を追う。三間はまるで行って欲しくないかのように嘆願するが、俺からすれば珍しいものが見れたと喜んでるのに。

 その白球は楽々とレフトのフェンスを越えていき、あまり広くなかった外野席も飛び越えていった。


 グランドスラム。場外満塁ホームランだ。

 打った本人は笑顔でブンブンとスタンドや俺たちベンチへ手を振り。ホームインと同時にランナーの全員がもみくちゃにしていた。

 打たれた側はがっくりとマウンドで項垂れていた。その様子を見て緊張の糸が切れたと判断したのか、相手の監督はタイムをかけて三人目の投手をブルペンから呼び寄せた。


次も月曜日に投稿します。

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