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2ー2ー1 開幕・夏の予選

ラジオの翌日。

 開会式が終わって、俺たちは五日ほどインターバルをもらっていた。Aシードの特権だ。だから俺たちは普段通りに練習をしていた。他校の偵察はコーチに任せて大会中とか関係ないかのように練習に励む。

 大会中である前に学生だ。学校を休んでまで試合を見に行けない。次の対戦相手についてはコーチが連絡をくれるまでわからない。

 練習も調整が多く、実戦形式の練習は少なくなっていた。やるのは基本的な練習ばかりで、フリー打撃やノックなどだ。


 大会前にハードな練習をして怪我をしたら元も子もないために、大会期間は余程のことがなければ実戦形式の練習はしないだろう。

 俺たちがいつものように昼休みに寮の食堂に向かっていると、寮ではなく学校の方から宇都美コーチが走って来るのが見えた。どうやら慌てているらしいけど何かあったんだろうか。


「宮下、すまんがこっちに来てくれ!」


「え?はい!」


 俺に用事があったようだ。一緒に歩いていた千駄ヶ谷に断りを入れて校舎に逆戻り。

 そのまま校内に入っていって、宇都美コーチについていった先は談話室という生徒指導室の別名だ。この部屋の前に案内された時点で嫌な予感しかしない。

 ここ最近のことを思い出しても、何かやらかした覚えはない。いや、開会式で千紗姉を探して前を向いていなかったことか?開会式はTV局が撮影していたはずだ。それがバレて学校の品位が落ちたとかそういうことだろうか。


 私立高校はちょっとした評判を凄く気にする。そういった評価が回り回って受験生と入学者に影響を出して廃校に追い込まれると聞いたことがある。

 俺のその程度のことで廃校まではいかないだろうけど、怒られるとしたらこのことだろう。

 マウンドに上がったり打席に立つより緊張してきた。

 宇都美コーチがノックをして、名乗る。中から入れという声が聞こえたので一緒になって入室する。


「失礼します」


「失礼します!」


 思わず大きな声を出して入室してしまった。そこまで大きな部屋ではないが、部屋の中心には四角い大きな机と、それに平行する形で革でできたソファが二つあった。

 片方に座っているのは学園長先生と、生徒指導部の主任の先生。もう片方には福圓さんが座っていた。

 福圓さんも関係があるのか。そうしたら一体どういう案件だろう。一気に話がわからなくなった。


 俺の後から東條監督と千紗姉もやってくる。なにやら凄い大事のようだ。

 東條監督に言われて福圓さんが座っていた側のソファに座る。福圓さんが真ん中で、俺たちはその両隣に座る。

 机の上にはノートパソコンもあった。本当に、この三人でとなるとどんな話だろう。千紗姉も見当がついていないようだった。

 生徒指導部の先生が、集めた用件を切り出す。


「率直に言おう。宮下智紀君。君がネットの掲示板で名前を晒されて顔写真や動画も出回っていて、いわゆる炎上をしている」


「や、やっぱり開会式でのことですか……?」


「開会式?……ああ、野球の。それとは全くの別件だ。むしろ開会式で何かやらかしてしまったのか?」


「……いえ。直近の出来事だと、それしか思い当たらなかったので。そうなると俺には心当たりがありません」


「だろうなぁ。君からしても我々からしても全くの想定外なのだから」


 先生はそう言ってくれる。ということは喜沙姉関係でもなさそうだ。それに福圓さんがここにいる理由にならない。

 うん、全く身に覚えがないな。でも実名や写真、動画まで出回っているということは本当に大事だ。動画は開会式や、U-15だろうけど。写真は雑誌か?

 以前断った雑誌の取材、は関係ないよなあ。多分。


 困った。本当に原因がわからない。

 喜沙姉がいることもあって、俺は学校生活から何から、気を付けて生活をしている。喜沙姉の芸能活動に支障を来さないために。

 答えがわからない俺たちへ、先生がパソコンの画面を見せながら教えてくれる。


「問題となったのは昨日の夜。声優の福圓梨沙子という女子高生が放送番組の途中で智紀君を示唆することを発言したこと。しかも君への好意を滲ませて、だ」


「福圓……?」


「わ、わたしの姉です……」


 福圓さんがおずおずと答える。なるほど、聞き覚えのある苗字だと思ったら福圓さんのお姉さんだったか。そういえばお姉さんが何かのプロだとか前に言ってたな。

 ここに福圓さんがいた理由は解決した。千紗姉は俺の身内枠ってことか。


「ちなみにその福圓梨沙子君と接点は?」


「全くありません。名前も、加奈子さんのお姉さんということも今初めて知りました」


 声優という職業には全く明るくない。だから名前と顔が一致する人なんて皆無。福圓さんからも詳しい話なんて聞いたことないので、本当に何も知らない。

 ノートパソコンを借りて、掲示板を確認する。

 俺の名前や写真が上がっているのは良い。ここまで広がったならどうしようもできない。これを全部隠蔽はできないんだろうし。とりあえずネット怖いなーという感想だった。


 俺が帝王学園に入学していることもバレていて、ベンチメンバーということも開会式の映像から割れている。

 一番の懸念事項だった家族構成はバレていない。俺の家族を知っている野球仲間はこういうところに書き込んだりしていないようで一安心。でも父さんのことを知っている人は多そうだし、そこから母さんと喜沙姉には辿り着きそうだ。


「まあ、こんなもんなら予想の範疇じゃない?というか、この程度小火(ボヤ)でしょ。福圓ちゃんのお姉さんはドンマイとしか言えないけど、自業自得っちゃそれまでだし。声優さんだから普通の炎上に比べれば小規模でしょ。まあ、今頃母さんは頑張ってるでしょうけど。ね、智紀」


「家の場所がバレた様子もないし、姉の言う通り問題ないです。俺たちはもっと凄いモノを想定してたので、これくらいは気にならないかと。学校や野球部には迷惑をかけますが」


 掲示板の進行も他の芸能人のスキャンダルに比べれば全然遅いくらいだ。出回っている情報も大会が始まったらわかるようなことばかり。

 炎上っていうからもっとやばい状態だと思っていた。


「智紀君、千紗君。そのもっと凄いモノ、とは?」


「姉と母の身バレです。神宮寺紗沙と宮下喜沙のことがバレることの方が多分炎上すると思います」


「ああっ⁉︎プロ野球選手の宮下と結婚した伝説のアイドル!だから宮下か!それに入学式に宮下喜沙が父兄席にいたって噂も……!」


「事実です。実際に来てました」


 生徒指導部の先生は母さんと同い年くらいだから知っていてもおかしくはない。母さんの知名度は凄いな。

 東條監督たち野球部の大人は戸川スカウトを通して特待生制度を受ける関係で母さんに会っているから知っている。多分学園長先生も知っているんじゃないだろうか。


「その二人と比べてしまうと、加奈子さんのお姉さんはそこまで知名度があるわけじゃなさそうなので……。問題ないかなと」


「比較対象がおかしいだけのような気もするが……。まあ、君が直接何かをしたわけでもない。ただこういうことがあったから不審者が近寄ってくるかもしれない。これまで以上に注目されるだろう。日常生活を、気を引き締めて送ってくれ」


「今回のことは学校側としてはむしろ名前が売れたと考えているよ。これで君が大会で活躍してくれたら言うことなしだ。期待させてもらうよ?」


「わかりました。出場したら、できる限り活躍してみせます」


 先生と学園長先生に発破をかけられて、俺はそう答えるしかなかった。今回の騒動も含めて使ってくれるかどうかは監督次第。

 その東條監督が口を開く。


「俺は必要だと思った場面でお前を起用していくだけだ。俺も少しは声優について知っているが、今の所凄く狭い界隈だ。一過性のものだと思うぞ」


「そうなんですか?本当に声優については詳しくなくて……」


「宮下喜沙の百分の一くらいの規模だろうな。その分コアなファンも多いが……。まあ大丈夫だろう」


 そういうことで生徒は談話室から退室する。俺がやらかしたわけじゃなくて本当に良かった。

 廊下に出て、すぐさま福圓さんが俺たち二人に頭を思いっきり下げた。


「すみません智紀君、千紗先輩!姉がこんな騒動を起こしてしまって……!」


「頭を上げてよ、福圓さん。福圓さんが何かしたわけじゃないし。今まで通りマネージャーをやってくれたらそれだけで俺は十分だから」


「遅かれ早かれ、喜沙姉がいる時点であたしらはこうなってたのよ。福圓ちゃんが悪いわけでもないし。お姉さんがやったことで妹が頭下げることないでしょ」


「二人とも……」


「それに周りが何を言おうが、俺はグラウンドで自分のできることをやるだけだよ」


(まーた智紀は無自覚に女の子をフォローしちゃって……。福圓ちゃん姉妹も要注意しないとダメかもね)


 思ったよりなんてことなかったことなので、俺は二人と別れて食堂に行った。で、呼び出された理由を部員に説明して謝っておいた。

 遅い昼飯を食べて、また注目されてるのが俺だということで三間が叫んでいた。でも俺は今回スキャンダルなんだよなぁ。


次も三日後に投稿します。

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