1ー3ー1 夏の大会前に、最後の輝きを
試験勉強。
三年生の交流試合が終わったことで、練習は一軍がメインとなってすることになる。他の部員はランナーをしたり投手を務めたり守備をしたり、サポートに当たって俺たちの練習が最大効率になるように手伝ってくれた。
そうして練習だけしていられたら良かったんだが、俺たち学生には避けて通れないものがある。
テスト。期末試験だ。
数々の部活動が夏の大会に集中できるようにと、期末試験ながら試験日程は六月末。七月は主だった学校行事はない。
凄い配慮だよな。私立高校ならではだ。
まず二週間近くは練習に集中して、サインプレーや連携、様々なケースを想定した何万試合に一回あるかないかのプレーの確認などした。
特に驚いたのが、審判の誤審をも想定した際の対処法を確認したこと。アウトコールがないままのプレイ続行によるアウトカウントの確認など。
何かあったらプレイを止めて検証してもらうしかないのだが、それでもどういう時に誤審が起こりやすいかの講義のようなことも行なった。
実際プレイしてみてどういう時に誤審が起こりやすいのかという想定訓練をした。プロや甲子園の試合でもあった誤審や特殊な状況の場面を映像で見て、本当に出くわしたらどう対処すべきかという解説付き授業のような感じだった。
これは主に雨の日に、映像確認をした。
そんな日々を過ごしていくとあっという間に試験が近付いてきた。それもそのはず。梅雨の時期だから雨の日が続いて、その間に組み合わせ抽選などもあって着々と試験と大会がやってくるのを感じ取れたからだ。
月末の月曜日から木曜日まで四日間試験。その間はもちろんのこと、その前の金曜日から日曜日にかけても部活動禁止期間だ。いくらスポーツに力を入れている学校だからといって、学生の本分は勉学ということでしっかりと勉強させる期間は確保していた。
というか、この期間をとって勉強させないと各部活動の有力選手が練習で疲れすぎてぶっつけ本番で試験に挑むことになりかねないので、休ませる意味でもこの期間は部活動が禁止になるようだ。
この三日間があることで試合に出たい選手たちは短期集中詰め込みだとしても赤点回避をするので、部活動側も推奨しているらしい。しっかり休んでテストもちゃんと点を取って後顧の憂いなしな状態で大会に望んで欲しいのだろう。
そういうわけで早いものでもう金曜日。部活動禁止期間だ。
それでも授業が終わった放課後には寮に向かっていたが。
「オレ東東京のガッコ詳しくないんやけど、組み合わせどうやったん?順当?」
「まあ、順当だな。三回戦まではどこも中堅校。四回戦でようやくCシードとかダークホースが上がってきて、五回戦がもう準決勝。六回戦が決勝でこれはほぼ確実に臥城学園。しかもウチはAシードだから五回勝てば優勝だ」
三間の質問に高宮が答える。
東京は東西に別れてるからまだマシだよな。千葉やら神奈川やら大阪なんて激選区で出場校が二百を超えて七回戦まである。場合によっては八回戦もある。
今回の出場校は百四十ちょっとだから俺たちは最大五試合で収まった。こういうところはAシードの特権だよな。Cシードなんてシードって言いつつ六試合あるんだから。
春大会で優勝してくれた先輩方に感謝だ。
俺もざっと組み合わせを見たけど、見事に強豪校は東西の山に別れていた。一部の強豪校がCシードも取れずに普通枠にいたりもしたけど、春大会は大会の仕様上東西の東京の高校が合同でぶつかるから運が悪く自分の所属していない区の強豪校に負けてシードが取れなかったなんて話はザラだ。
シード枠をかけた春大会という意味では他の府県の方が順当に取れるが、その代わり本番に試合数が多いという大変さもある。
東京と他の激選区、どっちもどっちだろうな。だから東京で有名だった奴も甲子園に行く確率を上げるために学校数の少ない島根の高校に進学したりする。夏の予選の過酷さを表している良い例だろう。
「三間くんは組み合わせの心配の前に赤点を取らないようにしないとね」
「ああ、そのためにこうやって皆で勉強しようって言ってるんだからな」
千駄ヶ谷と仲島が釘を刺す。
一人で勉強していたら絶対寝るという三間のために有志が三間の赤点対策で勉強を教えるという話になった。
特に白羽の矢が立ったのは仲島。仲島は二年生になったら理系に進むようで数学と化学なら任せろと言っていた。
野球部の面々は数学がダメな奴が多いので、仲島に教えてもらおうという話になった。平も理系だそうで、文系の一年が泣きついていた。
俺も数学はダメだけど。
寮の食堂には他にも勉強している先輩方がいた。ここなら野球部以外に邪魔をされないので勉強にはうってつけだろう。
一人で勉強したい人は自室に引きこもるらしい。学校の他の場所だと集中できないので寮生はどこの部活でも寮に籠るのだとか。
この学校は、女子がアレなせいで校内じゃまともに勉強できないからな。先生に質問をしに行くだけで命懸けだ。
そんな理由でわざわざ学外で勉強しに行くのも時間の無駄なので寮で勉強しようと向かっていると制服のまま寮に向かっている木下さんと福圓さんがいた。女子マネージャーは寮とは離れた場所に更衣室が別個であるので、寮の近くで制服姿で見るのは珍しい。
「あ、智紀くん。皆さんも。ちょうど良かったです。勉強を一緒にしませんか?」
「良いんじゃないか?勉強も華があった方がいい」
「わーい!大歓迎だよ、福圓さん、木下さん!」
高宮と千駄ヶ谷、勝手に了承するなよ。寮で女子マネージャーと一緒に勉強って他の奴らに知られたらマズイんじゃないだろうか。
男女関係にすっごい機敏だもんなぁ、高校生って。
それと高宮は女子とそんな感じで接していたら背中を刺されると思う。
「か、加奈子ちゃん。本当に寮で勉強して大丈夫かな?」
「いいんじゃないですか?高宮くんたちが良いって言っていますから。それにほら、君津先輩も先輩方に教えているようですし」
福圓さんが食堂で他の三年生に勉強を教えていると思われる君津先輩を指差して自分たちの正当性を訴える。木下さんは学校の女子の実態を知っているからか躊躇していたが、福圓さんは知らないのだろうか。
まあ、教え合うと効率が良いって話だし、マネージャーの二人なら一緒でも大丈夫だろうけど。
ちなみに千紗姉はさっさと帰った。学校や寮では勉強に集中できないらしい。教え合うのも苦手だとか。
適当に大きな机を陣取って、教え合う。教科は数学と英語。まずは数学をやっていくが一応最近やった公式などは覚えていたので数Ⅰは大丈夫だった。
「今回の数学はAがないから大丈夫だろ。こっちは公式を覚えてひたすら解く。問題文は頑張れとしか言えない」
「だよなぁ」
仲島のアドバイスとも言えないアドバイスのもと、教科の先生にやっておけと言われたプリントを解いていく。
全員がそのプリントを終わらせたら英語のワークブックを解いていったが。
「ファイア、エグ……?なんやこれ」
「消火器だろ。そこの文は『消火器で窓ガラスを割って、避難しました』になる」
「智紀ぃ!ちょっと英単語知ってるからって調子乗んなや!」
「ふざけんな。俺はU-15に出てから英語は得意教科だ」
「ナニィ⁉︎」
三間がわからないところを教えてやったらキレられた。なので密かな自慢を言ったら驚かれた。周りの全員が驚いたような顔をしている。
そんなに意外だったか。いや、勉強は全般的に苦手なのは事実だけど、英語と国語はマシなんだ。
「色んな国の選手と話せなかったことを終わってから後悔して、英語は勉強するようにしたんだよ。英語なら大体どこの国でも通じるし」
「お、おまっ!まさかメジャー目指してるんか⁉︎」
「まずは日本のプロだ。その先はその時になってからだろ」
メジャーに挑戦できる日本人選手がどれだけいることか。メジャーなんて日本でプロになってから考える。今はまだあまりそんな先のことは考えられない。
それでもU-18に選ばれる時には話せるくらいにはなっておきたいので勉強は続けておこうと思うが。U-15に選ばれた奴はU-18に選ばれることが多いらしいと当時の監督が言っていた。
海外の選手に再会した時に野球の話くらいはしておきたい。
「福圓さん。そこの文章にどこにもベーブ・ルースは出てないぞ」
「あ、やっぱりですか……?野球の単語が全然出てこないなとは思ってたんですよ」
「その文章は飛行機のパイロットの話だな。メジャーの選手を乗せたこともあるって書いてあるだけで、本筋は飛行機のパイロットのスケジュールについて書いてある」
「あ、はい」
「加奈子ちゃんってもしかして勉強できない……?」
「恥ずかしながら」
頭を捻っていた福圓さんが気になったのでチラッと覗いてみたら、何故か答えのところに世界のホームランバッター、ベーブ・ルースの偉業について書いていた。なので最初からズレていることを教えた。
木下さんが言うには数学もダメダメだったらしい。ウチの学校そこまで偏差値高くないんだけどな。
「この学校に入るにも、すっごく勉強したんですよ……。中学校の先生にも無謀って言われて」
「へえ。部活を見ている限りそんな風には見えないけどな。要領も良さそうだけど」
「それが野球限定で……。高宮くんの言う通りスコアブックの書き方とかだったら一晩で覚えられたんですけど」
「興味があることとないことの差かなー?」
ある意味俺たち選手と変わらない野球バカなのでは?ということを思ったが口には出さなかった。面と向かってバカって言うのは悪口だからな。たとえ野球バカという単語でも。
でも今やってる英文も入試の時の問題とそこまで難易度は変わってないと思うんだが。本当にギリギリで受かったんだろうなぁ。
千駄ヶ谷の言うように興味あることだとすんなり頭に入ってくる。英語も外国の選手と話したいと思ったらみるみる上達していったし。
それから誰かが嗅ぎ付けたのか、一年生のマネージャーが二人ともいると聞いて部屋で勉強していた一年生がたくさんやってきて勉強にならなかった。
六時過ぎに解散して、俺と仲島が通い組ということで木下さんと福圓さんを最寄り駅まで送っていくことになった。何かと理由をつけてついてこようとする奴もいたが、一応試験前ということで女子二人に説得させて寮に留まらせた。
もう夕食の時間なので、二人を送っていたらご飯を食いっ逸れるという理由もあったが。
木下さんは電車通学で、福圓さんは駅のすぐ近くに家があるらしい。
試験のことやなんてことのない雑談をしてお互い試験を頑張ろうと励まし合った。土日は勉強に集中しないと。今日は途中から身にならなかったからな。
次も月曜日に投稿します。
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