1ー2ー2 夏の大会前に、最後の輝きを
交流試合。
「プレイボール!」
「ワアアアアアアア!」
「頑張れー!」
しっかりと審判も雇って、臥城学園との特別交流試合が始まる。父兄の方々も一斉にメガホンを叩き出した。三塁側の上のスタンドにいる。反対側では阿久津たちもメガホンを叩いて声を出している。
先攻は我らが帝王学園。ウチの学校は超強力打線がウリで、相手の臥城学園はバランスが良いというか、総合力の高いチームをいつも作ってくるのだとか。千紗姉情報。
名門となると大体伝統とかでチームカラーが定まってるんだよな。監督の指導も大きいんだろうけど。
俺も投手だからか、注目するのはやっぱり投手だった。相手の投手はサウスポーのオーバハンド。随分ゆったりとしたフォームから快速球を投げ込んでくる。
だが、打撃がウリのウチの三年生たちは、快速球くらいは簡単に打ち返していた。安打が繋がって二点を先取。これには打った三年生の親が大歓喜。
帝王の二軍にいたということは、他県ではかなりの上位に組み込めるほどの実力はある。他県の上位校と何度も練習試合をして勝ってきた事実、そして直前まで一軍にいた人も居るんだから実力は高校の中でもかなり高い。
それは臥城学園も同じだろうけど、特にウチの打撃は群を抜いていると思う。普通の投手じゃ太刀打ちできないくらいに。
それは二軍で結構一緒だった俺が保証する。ここ二週間の練習でも結構打たれたし。
「やっぱ先輩たち凄いな」
「その先輩たちから背番号を獲ったんだから、宮下くんも三間くんも活躍しないと怒られるよ?」
「そういうのを自覚させるための応援でもあるんだろうからな」
千駄ヶ谷の言葉に俺と三間は頷く。
この試合は三年生の勇姿を見せるためという目的はもっともだが、ベンチに入った下級生に想いを背負ってもらうための儀式でもあり、他の下級生には最後のこの一試合ではなく夏の大会に選ばれてほしいという発破掛けでもあるんだろう。
こういう場を用意してもらえるだけで特別だ。こんな試合も組んでもらえずにそのまま引退が数多くの部活の当たり前。それだけで恵まれているんだろうけど、やっぱり最後は公式戦で終わらせたい。
ベンチ入りはたったの二十人だ。甲子園に行けば更に減る。
最後は我欲の強い人が残ると思う。そういう意識を持って欲しくてこの試合を見せている。
それがチームのモチベーションの維持に繋がると信じて。
監督とコーチの心情はそんなところだろうか。
「オレがホームランを打つ。智紀が抑える。それで甲子園や」
「俺も打つぞ。投手で起用してもらえない時もあるだろうし」
「ピッチャーは投げてなんぼやろ!」
「投手が打っちゃいけないってルールがあるわけでもないだろ」
実際外野との併用になりそうだしな。この二週間でも結構外野守備やってきたし。投手じゃなくて野手として出るなら一つでも得点に絡めるように打つだけだ。
初回から一進一退の攻防が続く。投手陣の乱れやエラーからの失点もあったが、シーソーゲームになりつつ中盤からはウチが一気に引き離していた。
誰かがミスをすれば周りがフォローをして、ベンチにいる出場していない三年生が大声を張り上げて。
ヒットを打ったり三振を奪ったりファインプレイがあれば拍手喝采を送る。
三年間一緒に戦ってきた戦友を褒め称えるように。今戦っている人は自分たちの夢を託すように。
グラウンドにいる誰もが、一瞬一瞬を必死にプレイしていた。
選手としての最後の輝きを魅せ付けているようだった。
あのバトンは渡す側ではなく、渡される側で居たい。そう思えた。
戦っている三年生たちはどちらのチームも試合を楽しんでいた。このチームにいられて良かったと心の底から思っているかのように全力で野球をしていた。
これから先、大学や社会人になっても野球を続ける人もいるだろう。逆に野球は高校までと決めていて、進学しても野球をやらなかったり他のスポーツをする人だっているはずだ。
どんな理由があっても、高校野球は最後。あと残っているのは部内による三年生と下級生の、本当の意味での引退試合だけ。それもオフシーズンになる直前にやる。
これは本当の意味で三年間の集大成を見せる試合だ。ここまで支えてくれた家族や同級生、下級生に見せられる最後の本気の姿。
それを。
俺たちはしっかりと目に焼き付けた。
鋭い打球に頭から飛び込んで掴む勇敢な守備も。
次の塁を積極的に狙う走塁の意思の現れを。
たとえバットにボールが当たらなくても全力でバットを振り抜く姿勢を。
例え打たれても果敢に攻め込んでいく投球の度胸も。
全部を、俺たちは忘れない。
最後のアウトの宣言まで、誰もが汗を流してボールの行方に集中する。
響く金属音。上がる打球。
それをグラブに納めて、宣告されるゲームセットの声。
勝っても負けても、泥だらけになった選手たちは全員泣いていた。勝った嬉しさ、負けた悔しさではなく、きっと高校野球が終わったことに対しての涙。
整列して、試合終了後の挨拶なんて「ありがとうございました」とはロクに聞こえず、ただ大声で叫んでいるようにしか聞こえなかった。
でもそれこそがあの人たちの魂の叫びで。
それはとても重たい物だったが、だからこそ背中を押された。
改めてあの人たちに恥じない活躍をしてみせるという、決意をもう一度固めさせてくれた。
誰もが立ち上がって、健闘を見せてくれた両校の選手に拍手を贈る。
三年間お疲れ様という慰労の意味も込めて。
あの人たちが夏の大会では応援してくれるのだと思うと、自然と叩く手の音も大きくなっていった。
十三対八という乱打戦という結果を見せたこの試合は。時間にして二時間半を余裕で超えていたが。
それでもあまりにも短い、刹那の時だと感じていた。
「智紀。学校帰ったら真剣勝負させろや」
「ああ。高宮、付き合ってくれ」
「はいよ」
撤収作業をして、三年生はそのまま球場で父兄にお礼を言っていたが俺たち下級生は邪魔になるといけないからとさっさと学校に帰っていた。
今日は試合が終わった時点で部活動としては解散だったが、ベンチメンバーに選ばれた下級生が中心になってBグラウンドでガチンコ勝負を始めていた。
俺と大久保先輩が投げて、他の野手陣が打者として打つという自主練。宇都美コーチが見守る中、俺たちは本気でやりあっていた。他の人たちも守備を手伝ってくれた。
三間にホームランを打たれたのは癪だったが、これまでも結構投げてるんだからそろそろ俺のボールくらい打ってもらわないと困る。三間なんてその一発を期待されてるんだから。
結局練習と投げた後のダウンを熱心にやっていたら帰る時間はいつも通り八時になって千紗姉に呆れられた。
「感化されたのはわかるけど、折角の身体を休めるチャンスに酷使してどうすんの?大会中はこんな無茶やめなよ?」
「わかってる。でも今日はしょうがないだろ?」
「去年もこんな感じだったからあたしは驚かないけど。アンタも大概胸の内は熱いわよね。普段の表情からはそんな風には見られてないだろうけど」
「いひゃい」
俺の動かない表情筋を揶揄して、千紗姉がほっぺを抓る。こうもボディタッチが多い姉弟って本当に仲が良いよなって思う。他の姉弟とか聞いてもここまで仲が良いのは珍しいらしい。
「千紗姉たちは俺の表情見て、感情わかるわけ?」
「当たり前でしょ。何年家族やってると思ってるの?」
「まあ、家族なら当たり前か……」
「アンタは結構前からエースとして色んなもの背負ってきたから今回のことで潰れないってわかってるけど、オーバーペースだけはしないでよ」
「わかってる」
こうやって俺のことを理解してくれて、その上で釘を刺してくれる千紗姉には頭が上がらない。
風呂入ってご飯を食べたらしっかりと柔軟をしておこう。
次も三日後に投稿します。
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