1ー2ー1 夏の大会前に、最後の輝きを
三年生の引退試合の前に。
そこから早いもので二週間。六月も中旬になって三年生の実質引退試合が臥城学園と行われることになった。
場所は帝王学園から程近い区民球場。ここを毎年借りて試合を行っているとか。
俺たち帝王野球部は歩いて現地集合。今日は練習はなしで、この試合の観戦のみが部活動だ。そうは言うものの朝にはいつもの時間に集まって三年生相手に最後の調整としてバッピを務めた。
調整を終えてから昼食を食べて、団体で移動。午後の一時半から試合が始まる。三年生は全員ベンチに行って、下級生はスタンドで応援だ。ベンチに入れるのはマネージャーも含めて三年生だけと徹底している。
俺たちは春大会のようにメガホンを持って応援。三年生の親御さんも招待されて同じスタンドにいる。
メガホンなどの荷物を持ってスタンドに入ろうとしたら、紺色の文字とアンダーシャツが目立つユニフォームを着た一人の中肉中背の同級生がこちらに走ってきた。
「あー!やっぱりいやがった、宮下!お前、ベンチメンバーになれたのかよ!」
「うるさい、阿久津」
臥城学園のユニフォームに身を包んだ、U-15で一緒だった阿久津光輝。どうやら一人でこっちにやってきたようだ。団体行動から抜けていいんだろうか。
阿久津を知っている帝王の部員は、阿久津のことをマジマジと見ていた。
U-15左右のエース揃い踏み、とかそんなことを言われた。どっちがエースでも良いけど。あんなドリームチームで誰がエースかなんて些細なことだった。
選ばれたからには優勝する。そんな統一された意志があっただけだ。
「オレはベンチメンバーに選ばれたもんね!なに?選ばれなかったから拗ねてんの?ねえねえ、オレだけ夏の大会に選ばれちゃったって、今どんな気持ち?どんな気持ち?」
相変わらずウザイな。俺はうるさいとしか言ってないのに勝手に推測して憶測で話しやがって。この話を聞かないお山の大将気質、高校に上がっても変わらなかったか。
というか、これでイキッちゃうのはどうだろう。涼介なんて春からスタメンで大活躍していたのに。阿久津は春大会に選ばれなかったのは知っている。春の決勝戦でベンチにいなかったからな。
「俺もベンチメンバーに選ばれたが、早合点して違うことを叫んだお前はどんな気持ちだ?」
「はぁ⁉︎お前も選ばれたのかよー!ま、オレのライバルだから選ばれるのが当然だったな!」
「いつからライバルになった……」
シニアでも何回も戦ったけど、ライバル、なんだろうか。俺と阿久津じゃ投球スタイルが違いすぎて張り合う相手って感じじゃないんだよな。
右と左で、そこからして違うわけで。阿久津は俺にできないことがたくさんできるせいでライバル感がない。
「オレが臥城に入った限りは、これから東東京で甲子園に行くのは三年連続臥城だ」
「投手一人で結果が変わってたまるか。たとえそうなったとしてもお前だけの要因じゃないだろ」
「相変わらずつれないなー。張り合いなくて困っちゃうぜ」
何もかも真逆だから、張り合うもクソもないんだと思う。阿久津は投げてる時にマウンドでも、ベンチでもこうして野球外でも表情を表に出すが、俺はそこまで表情に出ない。
その無表情っぷりに母さんや喜沙姉に心配されて頬をムニムニされることもしばしば。表情筋を柔らかくするために必要なことと言われて甘んじて受けてるけど。
家族関係には結構表情に出てると思うんだけどな。
しかし大きく出たなあ。自分が入ったから予選では絶対負けることはないだなんて。その宣言で自信を持って、それがモチベーションに繋がってるなら良いんだろうけど。
問題はその大物発言に反応する奴がこっちにもいるということだ。三間がズカズカと音を立てて前に出てくる。
阿久津の身長が百七十ギリギリくらいだから、三間がすっごい見下ろしてるな。
「おうおう。黙って聞いとったらえらいけったいなこと抜かしおって。甲子園に行くのは自分らだぁ?オレも抑える気かいな」
「お、三間じゃん。東京に出てきてたんだ」
「あ?オレのこと知ってんのかいな」
「最後の全国大会出てる奴なら、皆知ってるって。高身長、ガタイの良い見るからにスラッガーで、実際にホームランも打ってた。それだけ目立ってたら覚えてるっつーの」
「ほう?生意気なガキかと思っとったらわかっとるやん。ま、勝つのはウチや」
三間、全国でそんなに目立ってたのか。俺はU-15の準備で忙しくて見ていない。阿久津は俺と戦って勝ったから最後の全国を知ってる。全国が終わってからU-15に参加してたからな。
というか三間。自分を評価してくれる奴にチョロいな。態度変わってるし。
「ま、三間が加わったって、こっちは楽勝だし?こっちにもすっごい奴いっぱい入ってきたもんね」
「そのすごい奴らって、あれか?こっちに凄い勢いで駆け寄ってくるが」
人数にして三人。ドタドタドタッ!と音を立てながら阿久津を見付けたのか大声で叫びながら阿久津を指差している。
「い、いたー!」
「てめえこら阿久津!勝手に出歩きやがって!荷物運びサボってんじゃねえ!」
「背番号貰ったからって調子乗ってない?背番号が全てじゃないんだけど?」
三人は阿久津に詰め寄ると、各々説教していく。団体競技の野球で、いくらお山の大将気質だからってやって良いことと悪いことがあるよな。今回の単独行動は悪いことだ。
この三人の中で見覚えがあるのは二人だけ。二人は東京のシニア出身だ。
「宮下に挨拶したかったんだって!」
「んなの、試合終わった後で良かっただろ!終わってからなら誰かに一言かけて来れば問題なかったのにヨォ!」
「宮下、久しぶり」
「久しぶり、灘。臥城に行ってたのか。それに村雨も」
挨拶を交わしてくれた大人しいというか、毒舌な小柄な選手が灘。小柄ながらパワーヒッターのセカンド。その身体のどこにホームランを打つ力があるのか俺は聞いてみたいけど教えてくれなかった。
長身が嫌いなようで、背が高い奴には教えられないとすげなく断られた。
村雨は逆に背が高くて手足が長いことが特徴のファーストだ。今も口悪く阿久津を取り押さえている。手足を活かした好守備をよく見ていた。後アウトコースを打つのが凄く上手い。
二人とも阿久津とは別のシニアだったが、臥城学園に進んだようだ。
もう一人は知らない。東京出身じゃないか、シニアじゃなかったか。でも雰囲気的に一年生だ。
「灘、村雨。引き取ってくれ」
「あ、宮下はこいつ知らないだろ!東北のミスター器用貧乏!園田健斗!」
「俺をその名で呼ぶな!器用貧乏じゃなくて、ユーティリティプレイヤー!」
「えー、横文字ダサい」
「器用貧乏の方がダサいわ!」
園田と紹介された男が、阿久津とコントをやっている。
東北出身。知らないわけだ。日本代表にも選ばれてなかったし、高宮みたいな優良株ってところか。
何で俺はこんな紹介を聞いているんだろうか。こんなの今日の本題じゃないはずなのに。
阿久津は捕まっていたのをどうにか抜け出したようで、俺たち一年の顔ぶれを確認し始めた。
「え、高宮って帝王入ったの⁉︎えー、オレの女房役やってほしかったあ!」
「悪いな。前から帝王に入るって決めてたんだ」
「平もいるじゃん!へー、戦る時楽しそうだぜ」
阿久津が確認したのは、高宮と平のみ。平は左投げの投手として阿久津がライバル視していたらしい。
こいつ、いつまでいるんだ。
「そろそろ俺らが怒られる。阿久津、帰ってくれ」
「えー、もう少し話そうぜ!」
「この場合宮下の方が正しい!今日は先輩らの舞台なんだから戻るぞ!」
「村雨、引っぱんなって!宮下、決勝で投げ合おうぜ!」
村雨に右腕を引っ張られながら帰っていく阿久津。他の二人も一緒になって帰っていた。その前に一度頭を下げたり手で悪いとジェスチャーをして。
お山の大将がいるとチームメイトは大変そうだ。
「俺とあいつが決勝戦で投げてるかなんてわかんないだろ」
「だよな。春大会の結果からお互いAシードだろうし、戦うとしたら決勝なのは合ってるんだが。可能性はあるから頑張れよ」
「オレがあのガキからホームラン打ってやるわ!」
「その時は期待してる」
高宮から励まされ、三間が豪語して。
よくわからない邂逅は終わりを迎えた。さっさとスタンドに行って先輩たちの応援の準備をしないと。正直阿久津たちよりも身内の先輩たちの方が優先だ。
これから三年間、戦い合う宿命なんだろうけど、何度も顔を合わせることになる相手よりもお世話になった三年生だ。
スタンドに行くと二年生はもう準備万端で遅いと怒られてしまった。阿久津のせいだ、チクショウ。
次も月曜日に投稿します。
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