62.5 襲撃
アレリオン一行はディルエット近くにある魔物によって放棄された薪割り作業場で露宿していた。
この辺りは、以前セレマイアではない別の人間の手によって破壊されてから放置されており、魔物たちも不吉だとして近寄らない場所となっていた。
そのためか周囲には魔物が活動している気配が全くなく、野営にはうってつけとなっていた。
広い森の中でこのような都合のいい場所を見つけられたのは、部隊のリーダーであるアレリオンが従える怪物のおかげであった。
アレリオンが従える青い羽根を持つ鳥型の怪物は、怪鳥アルバトルクの眷族で名前をメルクという。
第2王位継承者であるバシリスクの部下となる者は、怪鳥アルバトルクの業魔力を注入されて怪物化した鳥類を従鳥として与えられて様々な任務を遂行する。
従鳥メルクは遥か上空からディルエット付近を入念に観察し、視界を共有している主人に情報を業魔力によって送る。
その偵察任務の最中、従鳥メルクは知恵の塔を発見する。
そして、知恵の塔が魔物の都市に循環させている膨大な魔力量に興奮気味になり、大気中にも流れている魔力に触れようと降下しはじめる。
が、主人であるアレリオンがその怪物の本能にブレーキをかける。
地表に近づきすぎて魔物に警戒されるわけにはいかない。
第3王子であるアーサーも隊に加わったとなると、ますます失敗は許されない。
少しの判断ミスが後々の大きな失敗につながる。
怪物を制御する能力は生まれつきで個人差があり、特に優秀な者はセレマイア国内で即座にスカウトされる。
怪鳥を従える王族であるバシリスクに推薦されて従鳥を授かるレベルとなると、エリート中のエリートということになる。
アレリオンの優秀さは多くのセレマイア国民が知るところである。
特に従鳥の操作訓練に明け暮れるバシリスク配下の若い兵士たちは彼を尊敬し、せめて才能によらない技術だけでも我が物とするために彼の行動を隈なく見て学んでいた。
彼も自分の一挙手一投足が見られている自覚を忘れずに、常に背中を見せるということを意識していた。
そうしたインフルエンサーとフォロワーたちとの良い関係はバシリスクが従える兵士の強みである。
翌日早朝、静まり返ったディルエットを囲む岩壁に部隊は忍び寄る。
縄梯子を掛けて岩壁を乗り越え、任務に必要な武器と道具を運び入れていく。
「問題はないな。外壁周辺の設備を破壊した後は手筈は分かっているな。ダントゥレの班は南側の城門へ、アドッセの班は大通りへ、クレヌレは西側の居住区へ向かってくれ。俺はアーサー様と共に高い塔のある城へと向かう。撤退の合図はメルクが出す」
「了解です」
「無事に帰ってきましょう」
「ああ、必ず成果を持ち帰るんだ。セレマイアのすべての民とバシリスク様と……俺たちの帰りを待ってくれている家族のために」
◇
アレリオン、アーサー、ニミューは静まり返っている農園に侵入した。
ゴーレムが寄り添う植物を見て驚く。
「これは……サトリグサの農園か。これほど大規模なサトリグサ農園を魔物が作っていたとは」
「ここのサトリグサは、もしかしたらセレマイアにも出回っているかもしれないね」
「アーサーが飲んでたあの薬にも使われてたのかな?」
ニミューは夢の中で訓練する際にアーサーが飲んでいた薬のことを思い出す。
「確証はないけれど、こんなに栽培しているとなると可能性はあるね。こうやって外貨を稼いで軍事力を高めていたのか? それとも何か別の目的でもあるのだろうか?」
「栽培している理由はともかく、いい囮になりそうですな。これだけ重要度の高い施設が襲撃犯に狙われていると知ったら、都市内部の防御は手薄になるでしょう」
「使えそうだね。さて、サトリグサの対処法は心を持たない生物に攻撃させるか、心を読まれない術を使って近づくか、あるいは遠くから火を放ってやるかの3つだ」
「3番目が一番分かりやすい。早速実行しましょう」
「あのサトリグサが絡みついているゴーレムは放置しよう。サトリグサさえ燃やせられればそれでいい」
「おや、なんだこれは」
アロマムシが人間の気配に気づいて逃げようとしている。
「こんな巨大な虫は見たことがない。珍しい魔物だ」
「害はなさそうだが、念のために始末しておこう」
アーサーが剣を突き刺し致命傷を負わせると動きが鈍くなった。
剣を引き抜くとその反動でアロマムシがひっくり返って、その6本の脚を痙攣させている。
「火をおこすのは任せてくれ。準備して色んな魔物を狩っておいてよかったな」
アーサーは手首のブレスレットから赤い鱗のチャームを選んで、チャームと剣に意思を込める。
「チャームチャージ、サラマンダーブレス!!」
剣の先から出た炎の弾が、サトリグサ目掛けて放たれる。
異常を感知したゴーレムがゆっくりと上体を起こすが、非常時での行動を想定して造られてはいないので消火に手間取っている。
アーサーは次にグリフォンの羽から作られたチャームに触れる。
「あのゴーレムは見張りなんかじゃないみたいだな! 続けてチャームチャージ、サイクロン!!」
今度はつむじ風が放たれて、炎と合わさり火災旋風へと変化する。
炎の柱は屋根を貫き、天高くそびえたつ。
農園にも保存されているアロマムシの体液に引火し、煙と異臭が立ち込める。
「よし、どんどん燃やしていくぞ! ディルエットの魔物に煙がよく見えるようにして注意を引き付けるんだ!」
「でしたら我が従鳥メルクの羽をお使いください。きっとアーサー様のお役に立てます」
アレリオンは被っている帽子に付けられていた小さな青い羽飾りをアーサーに差し出す。
「試してみよう。フォロワーの多い君の神使の力だ、きっと人間だけじゃなく、魔物の注目を集めることもできるに違いない!」
アーサーはその羽飾りをブレスレットに付け足し、呪文を唱える。
「業魔力解放! 雄飛囀喚!」
一瞬、情報の波が超高速で伝播した。
周辺に移り住んでいた獣人たちがその衝撃で飛び起きる。
人間に農園が襲撃されている、街中に助けを求めなければ、とパニックに陥りディルエット内を駆け回る。
「さあ、思いきりやってやろう!」
セレマイアに歯向かう魔物の財産を奪うために、アレリオンの隊が侵攻を開始した。




