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61 運命の輪の寓意術

 手に取った車輪を怪物たちのほうへ放り投げる。

 怪物の1体がガラクタでできた尻尾でそれをはたきおとす。


「こんな攻撃は無駄、じきに捻りつぶして我らの材料にしてくれよう」


 これは攻撃ではなく寓意術のための準備だ。

 床に落ちている車輪は一切警戒していないようだ。


「パラス、少しアルファルドを借りるよ」


「……分かった。好きにして」


 消えかけのアルファルドの7つあるうちの6つの首を引っ込めさせて、車輪にとりつかせる。

 これで寓意術の発動条件は整った。

 車輪、有翼の異形、合成獣、蛇から寓意をとる。


「形に囚われるお前たちに相応しい役割を与える。輪廻転生の理を受け入れ、尊き生の在り方を見届けよ。運命の輪の寓意術、発動」


 像から盗った頭部を持つ獣の怪物が、浮遊する車輪より少し上方に離れた宙に固定される。

 アルファルドが張り付いた車輪が反時計回りに回転し始める。


「これは……魔法か、魔法なのか?!」


「なぜ動けぬ」


 その回転する車輪に怪物たちが吸い寄せられていく。

 車輪から力づくで離れようとする個体もいるが、その背部に取り込まれ感覚共有器官とされている魚網から伸びた網紐が他の怪物の網と絡んで結びつこうとしているために車輪に無理矢理引き寄せられていく。

 徐々に抵抗する様子が見られなくなっているところを見ると、すでに運命の輪の支配を強く受けている他の怪物たちの影響をモロに受けてしまっているようだ。

 しかし、完全に動きは止まっていない。

 攻撃を封じているものの、怪儡アバンダンとしての機能はいまだ保たれているようだ。


「……どうするのこれ? 応援を呼んで順番に壊していく?」


「うーん、討伐するだけならそれが確実だと思うけれど、何かやり残している気がするんだよな。なんだろう」


 そうだ、異形が手に持っているとされる本がまだない。

 バーリャにはあとで謝るとして、アスファルテが作った粘土素材の簡易魔石版を代わりに充てがおう。


 動けない怪物を尻目に出口へ向かう。

 怪物たちの動きが止まっていることを確認しつつ足元の魔石板から降り、地上への扉を開けて魔石版に粘土板を取りに行かせた。

 魔石板は大量の粘土板を伴ってすぐに戻ってきた。

 魚網の翼をもち地面に伏している怪物たちの手元に粘土板をやると、怪物特有の魔力の気配が消失した。

 怪儡アバンダンの活動は完全に停止し、地下室には寓意の力で回転する車輪を中心に据えた巨大で異様な雰囲気のオブジェが残された。

 

「ただいまー! ソロモン、パラス、ゴミは片付いた?――ってなにこれ滅茶苦茶汚いし、それにすごく埃臭い」


 ようやくイシュー様が戻ってきた。

 タイミングがいいのか悪いのか、ちょうど怪物を退治したところだった。


「ええ、まあ、いろいろありましたけど、ようやく片付けられたところです」


「何言ってるのよ、むしろ前より散らかってない? この趣味の悪い置物を作るためにゴミを集めてたの?」


「いえ、これはただの飾り物なんかじゃなくて、寓意術とコラボレーションさせた特別な占いをしてくれるゴーレムなんですよ! 寓意術は俺の得意分野ですから、変わったゴーレムでイシュー様を驚かせたいと思って作ったんです!」


「え、そうなの? これがゴーレム?」


 ゴーレムの話になると少し表情が和らぎ、興味がありそうな顔になった。


「はい、しかも魔力はほとんど使わないので知恵の塔にも負担をかけません」


「なるほど、確かに魔力に依存しないゴーレムも開発する必要はあったね。でもそれなら少しくらい私にも相談してほしかったわ。もう少しこの子の見た目をマシにしてあげられたのに、ソロモンはセンスがないんだから」


 とっさに考えた嘘だったが、イシュー様を騙せてしまった。

 ゴミを集めて怪物を作っちゃいました、なんてバレたら大目玉だろうな。

 そのことを察したのかパラスが耳打ちしてくる。


「ソロモン、内緒にしてほしかったらセーレとキマリスちょうだい」


 こいつ、自分が怪物化の原因にじゃなかいからって俺の肩を持たないどころか弱みを握ってくるのか。

 思っていたよりもずっと図々しい奴だ。


「むむ……仕方ないな」


 まあいいや。

 どうせパラスには寓意術に必要な物品の管理をさせるんだ。

 2体のゴーレムには、パラスが自分から仕事をするように仕向けさせることにしよう。





 数日後、作ってしまったオブジェを1つずつ運び出して、噴水広場に配置しなおした。

 もう1度運命の輪の寓意術を唱えると、オブジェ化した怪物たち――異形のゴーレムの配置からアレゴリー魔力が引き出され、新たに魔石板をはめ込んだスフィンクス似のゴーレムが喋りだした。

 この占いゴーレムにディルエット住民がその日あったことを話すと、翌日の朝にその者の運命を予測するらしい。

 スフィンクスゴーレムに話された内容は周囲の異形のゴーレムが簡易魔石版に記録し、その量が多ければ多いほど占いの精度が上がるらしい。

 といってもそれは、この狭いディルエットという街の中で住民がどのような行動をするかという情報が統合されることによって出力された結果に過ぎない。

 不足している情報があれば当然占いは外れる。

 だが、住民は単に目新しい占いに興味を持って利用しているだけで、占いが当たったかどうかは深く気にしていないようだ。

 このラッキーアイテムを持っていれば今日は幸せなことが起きる、とゴーレムに言われればそれを信じて楽観的にその日の仕事を始める。

 信じる者は救われるというが、まさにその通りだろう。

 悲観的な気持ちで1日を過ごして何も問題がなかったからホッとする、という生活よりはずっと気が楽だ。


 怪物化した原因は分からないが、当分の間はゴミだけでなく人間が持っていたものを集めておくのはやめておこう。

 ディルエット住民の勘は当たっていた。

 魔物の魔力を利用して人間が思念を送ると怪物ができるそうだが、順序を逆にして人間の思念が宿るものに魔物の魔力が混ざっても怪物化が促進されるのだろうか。

 怪物が持つ魔力は魔物の魔力とは異なる雰囲気と性質を持っていた。

 とりあえず怪物の魔力を区別するために業魔力(ごうまりょく)と呼ぶことにする。

 怪物の詳しい特質については、防衛線で捕獲した怪魚エヴィデンスの研究結果をおとなしく待っていよう。

 魔法が効かない厄介な敵の相手はコリゴリだ。

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