7話 負け続けたその先へ
黒い壁に紫の模様、闇に包まれた様な暗い部屋。
このオシャレなバーの様な空間は国裏政権協会の第三カウンターだ。
「着いたよ皇くん。ここが協会の入り口だよ。そこのカウンターで登録してきてね」
「おう」
「そう言えば皇くんって今日登録なのに、やけに詳しいよね。何で?」
「前に何度か来たことはあんだよ。じゃあな」
俺は白鳥に背を向け、右手の甲で別れを示す。
そしてカウンターにいる黒いスーツを着た男の前に立つ。
「新規会員登録いいか?基本的な能力の説明はしょってくれて構わない」
俺は予め中学の時にジイさんから話を聞いていたので説明は無用だ。時間の短縮になる。
「かしこまりました。それではこちらの端末を」
男は俺に黒色のスマホの様な物を渡してきた。男が端末を起動させると複数の記入欄が画面に浮かび上がる。
「では、こちらに沿って記入をお願いします」
俺は言われた通り実行する。端末を手に取り画面に目を落とす。記入内容は名前や生年月日など最低限登録に必要な個人情報で、特殊なところと言えば呪能や感能の内容記入欄ぐらいだ。
『呪能・・・生物の瞬間治療
感能・・・百合姫(女武将)薙刀を武装し。他、遠隔操作が可能な盾を所持
求能・・・求められた人のもとへの瞬間移動 』
俺はできるだけ簡潔に且つ隠蔽的に記入した。
全ての欄に記入した俺は端末の文末に書かれた『完了』ボタンを押しす。
「皇様、登録が完了されました。続きまして端末の説明に移らせていただきます。そちらの端末は協会に登録されている会員同士がコミュニケーションを取るための端末でございます。協会の最新情報や能力者関連の事件が確認できる掲示板や、登録した能力者の皆様と連絡が取れるチャット機能、そしてこの国裏政権協会へ一瞬で移動ができる機能も搭載されております」
男の声は聞き取りやすく有難い。
「他にも色々と便利なツールがございますので、ご自分でお試しください」
正直スマホを二つ持ち歩かなくてはならないのと同じことなので邪魔でしかない。まあ、協会の支援登録もコイツ一台でどこでもできるから便利っちゃ便利だが。
「次にレトロタウンについて説明させていただきます。まずレトロタウンは裏の街という意味です。レトロタウンの入口であるこのカウンターは七つ存在し、ここは第三カウンターでございます。更にカウンターと繋がる試験場も七つ置かれております。カウンターを出ますとそこには会員の皆様が生活するための大きな街、レトロタウンがあります。レトロタウンで生活をし命を絶つ人も多く存在します。生活に必要な施設は勿論、娯楽施設、交通経路も充実しており、その全てをレトロタウンで生活する会員の皆さんが運営しております。レトロタウンは表の世界での生活に苦しむ人の救済処置です。レトロタウンの中心には協会本部の巨大ビルが建てられております。ですが、本部には役員の人間しか入ることはできんません。この様にこちら側の世界でも十分暮らせる環境が整われております」
こんな一日中、夜みたいな世界で暮らしていける訳ない。幾ら環境が整っていようが表世界の方がまだましだ。
「最後にもう一つ。協会の役員試験の説明をさせていただきます。我々、協会の役員になるためには三段階の試験を受けていただく必要がございます」
「役員試験?」
「はい。今回はその第一試験の説明だけさせていただきます。第一試験は単純に会員の皆様にフィールドに立って戦っていただきます。自分の持つ体力が最新の技術で数値化されその体力数値が0になった方の負けという簡単なルールです。体力数値の減り方はこちら側で厳正に採点し調節させていただきます。皇様のような回復系の力を使用した場合もこちら側で体力数値の調節を行わせていただきます。この試験には二パターンの試合形式があり、一対一のシングル戦、二対二のダブルス戦の二つです。どちらで試験に挑んでも難易度に変わりはありません。対戦相手は基本こちら側でマッチングさせる仕組みですが、お互いの理が一致し、こちら側の審査を通過した場合にのみ対戦相手を自由に設定することが出来ます。この試合を50勝すると第一試験クリアとなります。」
協会の役員、ジイさんに聞いた話だが、どうやらかなり良い職らしい。役員になるだけで一般人の給料を軽く超え、幹部連中は大金持ちだとか。
俺は興味ないが、どうしても役員になりたいという奴は多くいるだろう。
「協会の説明は以上です。何かご質問はありませんか?」
「質問はないが、一ついいか?」
満を持して俺はもう一つの要件を済ますべく行動に移る。
「はい。構いませんが」
「役員の桐谷って奴に会いたいんだが、会えるか」
男の顔色に変化が起こる。会員登録に来た俺がその名前を出すのか、といった反応だろうか。ジイさんがどんな立ち位置にいるかは知らないが、態々会いに行けと言うからには桐谷という奴は偉い人間なのだろう。
「申し訳ございませんが、それは致しかねます。桐谷様は役員でも数人の者しかお会いできない御方でございます故」
「そこをどうにかならないのか?」
「申し訳ございません」
男は俺に頭を下げる。
役員になってもこの人の様な仕事には付きたくない。
仕方ない、面倒だが役員試験とやらに参加するだけしてみよう。どうせ金もないし、就きたい職もないし、他でもない恩人の頼みだ。
「そうか、しつこく悪かったな」
「ねぇ皇くん、終わった?」
肩に置かれた手に俺は少し跳ね上がり驚きを露にしてしまう。
背後からいきなり白鳥が俺の顔の横に顔を出してきた。別れてからもうどこかに行ったと思っていたがずっと後ろにいたのか。気持ち悪い。
「皇くんはさ、役員試験受けるの?」
俺は無視してカウンターの隅にあるソファーに腰を下ろす。
「ねぇってばぁ、聞いてるの?皇くん。何で無視するのぉ~」
白鳥は俺の両肩を掴み体を揺らしてきたり、俺の肩を秒刻みに叩いてきたり、とにかくウザい。が、数年間培ってきた俺のスルースキルも伊達じゃない。協会の端末に目を落とし、沈黙を突き通す。
桐谷には会えなかったが、生活支援は貰える。俺は端末を通支し生活支援の登録を始めた。
「私、今ダブルスの方で試験受けてるんだけど、相方がいなくなっちゃったんだよね」
成程、それで俺に組めと言いたいのだろう。絶対に嫌だ。単純の試合なら一人の方が絶対に効率がいい。人と組むなんて足枷を付けるのと同じだ。まずダブルスなんてものは戦闘向きじゃない能力者の救済所処置だろう。態々俺がそんな奴らの為に力を貸す必要は無い。
「お!見てみろよ。白鳥がいるぞ」
「うわ!スゲェー白鳥だ!」
カウンターの転送口から出て来た男二人が白鳥を見たとたん顔を見合わせて笑い出した。
「おい!お前また懲りずに戦いに来たのか?」
「またパートナーに捨てられたんだってな。もう辞めとけって次負けたら何連敗目だ?」
男たちは白鳥の前に立ち煽る様に声をかける。
「うるさいよ!別に何回負けても最後に50回勝てば関係ないもん」
白鳥は怒り気味に大きな声で反抗した。
「フッ、そっちの男は新しいパートナーか?次で何人目だ?よくこんな奴に協力しよう思ったな」
「人間関係を築く力だけはあるなお前」
男たちの目線の先が俺に当たり始めた。辞めてほしい。
「どうしてこんなに恥を晒してまで役員になろうとするんだよ」
「あれらしいぞ。夫に捨てられて金の無い母親の為に金が必要なんだとよ」
「クソみたいな家族持つと大変だな~」
「お母さんは関係ないもん!」
俺は横目に白鳥の顔を眺める。
歯を食いしばり必死な表情で反抗する白鳥。白鳥の目が少し充血している。
「じゃぁ、クソ親父か?何度もパートナーに負けを覚えさせてきたお前もクソだがな!白鳥」
「お前もそう思うよなぁ。さっきから何もしゃべらねぇ気弱な根暗男よぉ」
男の一人が俺の隣に座り腕を肩にまわしてきた。
俺はその腕を右手で掴んで跳ね除ける。
「いくら親がクソだろうが、その子供は関係ねぇはずだ。白鳥がどんな戦い方してきたかしらねえが負けたのはパートナーが弱かったからだろ」
「あぁ?」
もう一人の男が俺の胸倉を掴み俺を立ち上がらせた。
「おい、お前俺らに喧嘩売ってんの?」
「それはこっちのセリフだ。来たとたんに白鳥に罵声浴びせやがって、クソだと思ってんなら関わらなきゃいいだろうが」
「チッ、お前、俺らに喧嘩売ったこと後悔させてやるからな。俺らはもう30勝以上もしてんだぞ」
二人の男は俺を囲み、威圧するかのように鋭い目つきを向けてくる。
「付け上るなよクソガキども、上には上がいるって言葉の意味をお前らに身体で教えてやるよ」
「受けて立ってやる根暗男、対戦登録しといてやる。名前は?」
「皇終夜だ」
男たちは俺から離れて試験場の方へ向かっていった。
「いいの?皇くん」
「何がだ?」
泣きそうな表情で俺を見上げる白鳥が弱弱しい声で聞いてくる。
「私の為に戦ってくれるの?」
「調子乗んなよ」
「え⁉」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔を白鳥が見せる。
「俺がムカついたからあいつ等をぶっ飛ばす」
「も、もぉ皇くんは素直じゃないんだからぁ~。そんなこと言っても助けてくれるクセに~」
俺は涙目ながらもニヤ付いた白鳥の顔を右手で掴み圧力をかける。
「イタイ、イタイ、イタイ。痛いよ皇くん~」
白鳥は俺に掴まれた両頬を揉み上げる。
「ほら行くぞバカ鳥」
俺は試験場の方へと足を向かわせた。
「白鳥だよぉ!」
試験場はカウンターから始まり、奥に第一、第二、第三と入り口が続いている。
各入口の先には、フィールド、控え室、観客席の入り口が更に並んでいて、俺は控え室の前で戸に書かれた俺と白鳥の名前のプレートを確認し中へと入って行く。
控室は複数あり俺たちが指定された部屋は一番奥だ。
「白鳥、まずお前の力量を測っておきたい。能力を教えてくれ」
「うん、わかったよ。えっとねぇ。ツグミは羽を矢の様に放つことが出来るよ。刺さるか刺さらないか程度の力で殆ど相手のダメージにならないけどね。あと、人三人くらいならギリギリ乗せることが出来るよ」
「ほう、じゃあ呪能は?」
「ある特定の一人に、これから起こる危険を予知する能力だよ。予知の範囲は発動してから一時間の間で次の発動までには発動してから一時間のインターバルが必要になるんだ」
「成程、んじゃ求能」
「え~とね、まだ発現してないの」
烏滸がましそうに手をもじもじさせながら言う白鳥。
元より白鳥には期待していないが呪能の内容だけでも十分使える。想定以上だ。
「あっそ。感能力者か」
「何なのさ、偉そうに。そう言う皇くんはどうなのさ」
「求能力者だ」
俺は控室のドアを開け中へと入って行く。
「何なのそのやる気のない声、自慢するんだったらもっと誇らしげに言ったらどうなの」
別に自慢している訳ではない。
白鳥はグチグチ小言を言いながら俺の後に部屋へと入る。
「で、皇くんの能力は?」
「言わない」
「え⁉」
白鳥の表情が固まる。
俺はそんな白鳥を無視して椅子に座った。
「何で?私たちもう仲間じゃないの?」
「何言ってんだ?俺がいつお前と仲間になった」
「だって一緒に戦ってくれるって言ってくれたじゃん」
「俺はお前を助けてやるだけであって協力するつもりは無い。どうせ俺が二人相手するんだ、邪魔だけはするなよ」
勘違いされては困る。流石の白鳥もここまで言えば黙るようになるだろう。
「ハぁ~、面倒くさいな~皇くんは。一緒に戦うならもうそれは仲間だよ。だから教えて。ねぇねぇねぇ~ねぇ~ってばぁ~」
正にこれは火に油。なんなんだろうコイツは突き放せば突き放すだけ張り付て来る。まるで起き上がりこぼしの様に。
白鳥が俺の背後に周り、両肩に手を乗せ何度も体重をかける。
重くはないがウザい。
「黙れ!呪能だけ教えてやるから大人しくしといてくれ」
「やったぁ!教えて教えて」
「いいか、一回しか言わねぇからな」
「うんうん」
白鳥は俺の前に座り、身を乗り出して興味を示す。
顔が近い。
俺は少し引き気味に後ろに退いた。
「俺の呪能は簡単に言えば治療だ。だが治療すればするだけ薙刀と盾の耐久力が下がり、最終的には破壊される。破壊された後に呪能を使えば今度は俺の体にダメージが蓄積される。これだけ聞けばサポート専門に思うかもしれないが俺の呪能には、まだ効果が残っている。治療するとその分、俺か百合姫の身体能力を飛躍的に向上させることができる能力だ。まぁ基本的に守り専門の百合姫では俺の呪能で強化させなければ本格的な相手には勝てないな。そうなると俺はサポート向けなのかもしれない。ま、どっちでもいけるっていうことだ」
「成程。諸刃の剣ってヤツだね」
白鳥が無駄に難しい言葉を使い、ドヤ顔を決め込んできた。
殴りたくなる。
『皇様、白鳥様、準備が整いました。第一試験場までお越しください』
控室の中にのみ聞こえる音量でアナウンスが流れた。
予想以上に待ち時間が早かったので、まだ言いたいことが言えてない。遅れてでもこれだけは聞いておく。
「そう言や白鳥、お前母親の為に役員になるって話。あれは本当なのか?」
「どしたの?いつもより暗い顔して」
「真面目に聞いているんだ」
「本当だよ。私の事、最後までお父さんから守ってくれたお母さんの為に私は頑張ってるの」
「そうか。行くぞ白鳥」
控室の出口用扉を開き第一試験場への通路に出る。真直ぐ歩いて行くと、耳に響く高い男の声がマイク越しに聞こえてきた。
「第一チーム、百折不撓のエキセントリック。ダブルスの貧乏神、白鳥小雪がまた新たに相方を変えて挑みに来た。次の相方は今日協会に登録したニューフェイス。いつになったら先に進むのだ!白鳥、皇ペア~」
YFOの様な乗り物にのったド派手な男がビブラートの利いた高い声で言い放った。染めたと思われる黄色い髪の毛が暗い会場でよく目立つ。
「帰れ~!」
「もう諦めろ~!」
「辞めとけつってんだろ、このバカ~!」
「そうだ!女の子と組んでんじゃねぇぞ根暗男!」
フィールドに出た途端、会場の壁を敷き詰める観客が白鳥に向かって一斉に罵声を浴びせる。そしてちゃっかり俺への誹謗中傷まで。
「第二コーナー、今期待のルーキー、数週間で既に30勝以上の成績収める実力派コンビ。小島、南ペア~」
俺たちのネタにしか聞こえない紹介に比べ短い。俺たちが長かったのは白鳥のボキャブラリーのせいか。
「おい、白鳥。なに下向いてやがる」
「だって。流石の私もこれはきついよ」
いつになく弱弱しい。だがこれだけの人に笑いものにされてるんだから仕方ないことか。
「なあ、白鳥、俺もお前みたく悩みがある。俺の一番身近だった奴は目の前の瀕死の人間を見捨てる様な奴だった。だから俺は困ってる人を見たら助けると決めている。過去への反逆行為だ。結局お前と組んだが、正直見捨てようかと考えていた。だが今は別に最後まで組んでやってもいいと思っている」
「皇くん?」
「そう言えばお前は誰かさんと雰囲気がよく似ているよ。いいかよく聞け白鳥、これは俺の善意の無い人助けだ。今からお前を笑っている奴ら全員俺が黙らせてやる」
四人全員がフィールドに出そろった。司会者の声で対戦の狼煙が上げられる。
最初に攻めて来たのは、俺の肩に腕を回してきていた南だった。
「先手必勝だ。一撃で決めてやる!【ストロングドッグ】」
フィールドは広く相手の姿がほんの少しだけ縮小して見える程度だ。遠距離系能力者の為だろう。
南の心移す体。前足にダガーを付けた犬が突如、俺の足元に現れた黒色の円から飛び出してきた。
「出た~南選手の無範囲攻撃~。これは初心者の皇選手、反応できないか~?」
「無範囲攻撃、クソみたいなネーミングセンスだな」
俺は後ろに飛びギリギリの位置で回避する。そして指示していないのに百合姫が勝手出て来てストロングドックを薙ぎ払う。素早い薙刀捌きだが三回攻撃を入れたことが確認できた。
「久しぶりだが行けるか?百合姫」
「任せてください。主様の為に頑張らせていただきます」
長いこと戦闘は行っていなかったがお互い感は鈍っていないようだ。
「吹っ飛んだー!南選手のストロングドッグが皇選手の百合姫ちゃんに天高く打ち上げられましたー!」
会場のモニターに移る南の体力数値と思われる縦表示のゲージが四分の一くらい下がり緑色からオレンジ色へと変化した。体力数値のゲージの上には100と表示され、南のものだけが75と表示されている。
「こっちのこと忘れてんじゃねぇだろうな!」
小島が、銀色の甲冑に身を全て包み銀色の槍を持った心移す体と共に突撃してきた。俺との距離は僅かだ。
「出るか?小島選手の心移す体【ランス】の高速連続突き」
「百合姫頼む」
勢いよく突撃してくるランスを百合姫が向かい打つ。ランスの突きは確かに早かった。が百合姫は巧みな薙刀使いで流しきる。
防御特化は伊達じゃない。
小島は俺、本体が標的らしい。
超人的に早い正拳突きが俺目掛けて飛んでくる。
「お~っとこれは痛い。小島選手、凄まじい勢いで真っ白な盾に拳をかました~!流血しています」
ランスから離れ百合姫が俺のもとに飛んできた。
「さっきはよくも汚い手で主様の胸倉を掴んでくれましたね」
小島の胸倉を掴み百合姫が投げ飛ばす。
「圧倒的です。百合姫ちゃんマジ、strong&cute!」
小島の残り体力が90となった。
「おい、お前らこんなもんで終わると思うなよ。後悔させてやっるって言ったよな」
悔しそうに二人は俺を見るが目はまだ死んでいなかった。この目を真っ黒に染めてやる。
「おい!お前、俺に何をした⁉俺の右手の流血が」
終わりだ。傷を負った状態で百合姫に触れられた時点で。
俺の目の前の盾が崩れ去った。
百合姫は飛躍的な速度でランスを切り刻む。ランスは手も出せず、されるがままに甲冑を砕かれる。金属同士が触れ合う音が会場に響き渡る。
すかさずストロングドッグが百合姫の背後を取るが、攻撃をする暇もなく薙刀に襲われ、放物線を描きランスと共に払い飛ばされる。その時間僅か数十秒。
「なんてこった~!物凄い速さだ。百合姫ちゃん、常人では目で追えません」
百合姫の次の標的は本体らしい。あれだけの治療量で強化される時間は残り僅か。
「おい!百合姫......殺すなよ」
百合姫は距離の離れた二人を一瞬で掴み取り俺のもとまで持ってきた。
その様はまるで獲物を狩る鷹のようだ。
「震えてんのか?おい?」
小島の拳が俺の顔面をブン殴れるほど近づいてみているが、何もしてこない。完全に目が死んでいる。
「許してほしいか?」
二人は固まった体を必死に動かし無言で頷く。
「ダメだ。俺に喧嘩売ったことが間違いだったんだ」
俺は二人に背を向け歩きだした。
後ろで肉々しい音がそれなりに激しく鳴り響いた。
「フィッ、finish!勝者、白鳥、皇ペア~。物凄く速い試合でした」
のちに、あのうるさかった司会者含め観客全員が静寂に包まれた。
俺は白鳥のもとへ着く。
「終わったぞ」
「だ、黙らせるって言ったって、流石にこれは怖すぎるよ」
涙と鼻水で崩れた顔の白鳥が殆んど聞き取れない声で言ってきた。
「贅沢言うな」
「これからも一緒に戦ってくれるの?」
「ああ、最後まで足に着けといてやるよ」
「ありがとう。やっとだよ。やっと前に進めるよー!皇くんありがとー!」
白鳥が崩れた顔のまま飛びついてこようとしてので横にかわす。
「なんで、よけるのー?、もう仲間でしょ」
地に頬を付けて白鳥が言う。
「誰が仲間だって?お前は俺の足枷だ」
「もう、酷いよ皇くん。絶対に試験合格するまでに仲間って認めさせるからね!」
「残念だったな白鳥、それは無理だ」
「そんの分からないよ、もしかしたら皇くんいっぱいの仲間に囲まれるかもしれないよ」
「ないない、俺に限ってそれはない」
「そんなことないよ。だって皇くん口は辛口だけど優しいもん」
「黙れ白鳥、そのうるさい口を閉じろ」
「いやだねぇ、皇くんが仲間って認めるまで閉じないし、ここから動かな~い」
「あっそ、じゃぁ一生そこにいろ。じゃあな」
「あ!待ってよ皇く~ん」
ということで今、俺と白鳥は一時的に一緒にいる。決してお前が思うような関係でもなければ、近しい仲でもない。次からはいちいち、こんなことで過剰に反応するなよ華希。