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もう一つの物語  作者: 佐伯さん
後日談
52/52

いざ出発

 もう一つの物語、明日発売です。

 活動報告に書影や店舗特典SS、サイン本(初めてなのでどきどきです)の情報公開してありますのでよろしければご覧下さい!

「じゃあ行ってらっしゃい。夫婦水入らずで楽しんでおいで」

「仕事で行くんですからね、父上」

「兄さん、義姉さんが変な事しないように見張っておいて下さいね」

「私の信頼が窺えますね……」


 出立の日、イヴァン様とシリル君はお見送りに玄関に出てくれましたが、私シリル君にどう思われているのかよーく分かりましたよ。おかしいですね、結婚してからは比較的大人しくなったと思うのですけど。

 セシル君はセシルでそれに頷いてるので「もう」とぺしぺし叩くのですけど、全然意に介した様子はありません。全く、二人して私を何だと思っているのでしょうか。


「まあ、二人でゆっくりしてきて下さい。俺としても、いちゃついているのを見かけて当てられずに済みます」

「可愛げないなお前」

「ま、まあまあ。シリル君も楽しんできてねって意味で言ってくれてますから」


 シリル君は相変わらずのツンがありますけど、ちょっと素直じゃないだけで基本的には私達の羽休めには賛成して下さっています。でなければ行くなとはっきり言うでしょうし。


 セシル君とシリル君の仲は、ルビィとみたいに凄い良いとは言えませんが、良好です。ゆっくり距離を縮めていくみたいなので、このくらいのやり取りが出来るようになったというのは喜ばしい限りなのですよ。


 旦那様はちょっぴり苦笑して、それから私の頭を撫でます。


「まあ、厚意に甘えて少し休んでくるよ。父上が余計な事をしないように見張っておいてくれ」

「重々承知しております」

「君ら私にも信頼ないね」

「「あると思いますか」」


 声をハモらせている二人に吹き出すと、ちょっと拗ねたようなイヴァン様。

 ……いえ、私も否定出来ませんから庇えませんよ。悪どい事はしないでしょうが、面白そうだからと何か厄介事を持ち込まないとは言い切れません。


「……まあ、何もしないよ。多分」

「父上」

「冗談だよ。帰って来て早々怒られたくはないからね」


 ひらり、と手を振って笑うイヴァン様に、セシル君とシリル君の溜め息が重なります。

 こういう所は息が揃ってて仲良しなんだけどな、と思いましたが、原因が原因なので二人は喜ばないだろうし指摘は止めておきました。




「非常に心配なんだが」

「まあまあ、イヴァン様も弁えてますから変な事はしないでしょう。シリル君も居ますし」


 馬車の中でお見送りを思い出しては渋い顔をするセシル君に、私は宥めるように声をかけて隣のセシル君にもたれます。

 向かい合わせで座った方が広いのですが、側に居たくてついつい隣を選んでしまいました。


 ちょっともたれただけだというのにセシル君は直ぐに私が一肌恋しいのだと気付いて手を握ってくれるのです。……ちょっと照れ臭そうなのも、なんというか乙なものですよね。


「ま、家の事はシリルに任せるさ。俺らは仕事の事を考えようか」

「領地の視察……ですよね、何か代官が送る報告書に問題はありましたか?」

「見た限りではないと思う。……あいつ、本気で羽を伸ばしてこいって言っているらしいぞ」


 どうやら気遣ってくれたらしいイヴァン様に怒れば良いのか呆れればいいのかセシル君は複雑そうなのですが、視察自体は嫌がっていないのです。

 どうせ将来治める事になる場所なのだから実際にきっちり見に行った方がいい、との事で。


 ……魔導院に預けられっぱなしだったセシル君は、領地に行った事がないそうです。だから、楽しみなのかもしれませんね。


「シュタインベルト領って、何か美味しいものありましたかね」

「食べる事優先なんだなお前は。……まあ広いから色々あるが、魔石の産地として有名だな。食べ物で言うと、果物は結構うまい」

「果物! 是非視察にいって秘訣を教えてもらわなくては……!」


 おうちの庭(という名の畑)に植えてる果物の木ですが、やはり有名な産地に比べれば味は劣るのですよね。

 『グリーンサム』を使えばすぐに成長させられるのですが、あれ実は手当たり次第に土地から栄養を吸収してるので乱発は出来ないのですよ。


 やはり肥料や管理体制や日照条件とかその辺りが重要なのですよね。ある程度魔術でカバーしていますが、専門家の知識が欲しいところです。


「……そこで魔石欲しいと言わないお前って」

「セシル君の指輪があるだけで充分ですよ」


 きらきらしたものは好きには好きですが、私はそこに想いがこもっていなければただの綺麗な石だと思うし、装飾品なんてそんな拘りません。シュタインベルトの恥にならない程度に着飾ればそれでいいのです。

 宝石が欲しい訳ではありません。


 でも、この指に光る指輪だけは特別。セシル君からの贈り物。……これさえあれば、私はもう他には欲しいと思いませんから。


 ふふ、と眺めてうっとりしていたらセシル君は「欲のないやつめ」と呆れたように呟くものの、その瞳は和んで口許も緩んでいます。

 照れているのが丸分かりなのでひっそりと笑って、セシル君の腕に頬をすり寄せます。


「……セシル君、領地についたらいろんな所行きましょうね。私達が将来治める、大切な領地ですから」

「そうだな」


 言葉は短かったけれど、確かに頷いて、もう一度二人で掌を握り合いました。

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