3ー1
遠藤さんのバンドである野獣野郎共の解散が決まりました。
遠藤さんが書いたところを読むうちに、バンドメンバーのソロ活動が楽しくなってしまったことにより、野獣野郎共をつづけていくことが難しくなってしまったのだそうで。
そりゃ、誰でも自分が主役になりたい気持ちがあるのはわかります。
ですが、そんなに簡単に解散するだなんて安直すぎませんか?
野獣野郎共の熱狂的なファンの方々が、さみしい思いをするのではないでしょうか?
そして、解散により、遠藤さんの喉の回復はどうでもよくなってしまったようにも感じます。
「遠藤さん、大丈夫ですか?」
その答えは期待できませんが、一旦口から出てしまったことばは、取り返すことができません。
【バンドの解散は時間の問題だった。だから、平気だ。むしろ実花の方が大丈夫なのか? 顔色が悪いぞ?】
大学ノートにそう書かれてしまって、おもわず頬を両手でおさえます。
「わたし、解散って聞いて動揺してしまって。こんなことなら一度くらいはライブに行っておきたかったから」
だけど、解散するからライブに行くというのは不純すぎる動機なわけで。
わたしは、ずるいです。
【そこまで考えてくれてうれしいよ。ありがとう。明日、マネージャーにライブのDVDを持ってきてもらうから、それ観て勘弁して?】
「どうして?」
わたしの声は震えています。
「わたし、わがままを言ったのに、どうしてゆるしてくれるの?」
だって、勘弁してなんて。
そんな風に言われるなんて思ってなかったから。
【俺の初恋は実花なんだ。だから、なんだって実花の望みなら叶えてやりたい。今でも好きだ。ドン引きされてもかまわない。それでも俺は、実花が好き】
ほろほろと涙がこぼれてゆきます。
まさか、わたしが遠藤さんの初恋の人だなんて。
それじゃあ、さっちゃんと呼んでいたあの頃から好きでいてくれたということですか?
そんなに長い間、想ってくれていたなんて。
【ハグしていい?】
遠藤さんの顔は赤くなっています。
「……はい。かまいません」
そしてわたしは、遠藤さんの胸の中で息をしていました。遠藤さんの胸は、あたたかくて、おひさまのにおいがします。
ハグがこんなに特別なものだなんて、知りませんでした。
つづく




