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婚約者

車からユウナギが降りてきた。近くにはシャドが立っている。


門の入り口まで歩いてきたカナタは、二人を発見して、歩み寄った。

そして、小さく尋ねた。

「ケティオスさんと知り合いなの?」


シャドは肩をすくめる。

「ちょっとね」


ユウナギは心配そうにカナタの前に立つ。

「何か困ったことがあったら、すぐ連絡していいからね」


「……ありがとう」


カナタは違和感を覚えつつも、その優しさを静かに噛み締めた。

そして、車に乗り込む。


カナタが車に乗るのを見届けた後、シャドが口を開いた。


「何の話をしてたの?

……あんな兄さんの表情みたことないからさ」


「あ、いや。カナタのこととかだよ」ユウナギは、何かに触れた――そう感じていた。


ケティオスは、明らかに動揺していた。


「兄さんは、カナタさんを守るのが仕事だからね」


「そうだな」


ユウナギは、カナタの身を案じた。


あの「一年間」とは、一体何なのか。


まさか――一年後に、戻ってくるのか。


タシト隊長から?


――婚約者なのに。



車内では。

いつもの沈黙が続いていた。


カナタにとって、ユウナギは――帰る場所のようだった。

気づけば、いつも守られていた。


もし自分にもっと力があれば、

隣で、同じように笑えていたのだろうか――

そんなことを、ふと思った。


「カナタさん、ユウナギくんはあなたにとってどんな存在ですか?」


ケティオスの声に、カナタは思わずドキリとする。

いつもと少しだけ違う響きに、心がざわつく。


カナタは息を整え、静かに答えた。


「幼なじみです。母や父の代わりのように、いつも側にいてくれた……温かい存在です」


――そう考えれば、大切な存在だ。

けれど、その言葉だけが、どこか馴染まなかった。


ケティオスは短く頷き、言葉を添える。


「……彼は、そうやって君を守ってきた人だ」


カナタは胸の奥で、ほんのわずかに痛みを覚える。


「……分かって、います」


ケティオスはそれ以上、踏み込まなかった。ただ、軽く付け加える。


「……その立場は、忘れないでください」



「タシト隊長……」


「何だ、ゼスカ」


「衛星メア・フェールの状態が不安定です。今日の出航は延期した方が……」


かつてミラ班に同行していたパイロットのゼスカが口を開いた。


基地で、同行する科学者たちの視線もわずかに揺れた。タシト隊長の直轄任務。余計な緊張は許されない。


飛行船には、タシト、ケティオス、ゼスカ、そして科学者2名だけが乗り込む。

他の乗組員はゼロ。極秘行動のため、人数は最小限だ。


「……」

飛行船に足を掛けたタシトは、言葉なくゼスカを見下ろす。


操縦席からケティオスが顔を出した。

「間もなく日が沈みます。二週間の夜が始まれば、視界はさらに遮られます。行くなら今です」


ケティオスの声は淡々としていた。


「お前は黙っていろ!」ゼスカの声が荒くなる。

「夜でも飛べます。問題ありません!」


「ゼスカ、早く乗れ」


タシトは冷静に促す。その声は短い。


――逆らえなかった。


小さな飛行船の機内。狭い空間に、極秘任務の重さがひそやかに漂う。


誰も余計な言葉を発さなかった。

ただそれぞれの呼吸だけが、冷えた空気の中に白く溶けていく。


その飛行船が向かう先で、

何が待っているのか――

まだ誰も知らなかった。


ただ一人を除いて。



(第五十章・了)


帰る場所があるということは、

戻れない場所があるということでもある。


――その境界は、すでに引かれている。

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