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連れ戻す者、残る者

それは、

外れない指輪から始まった。

「……これ、まじで抜けない」


ソードは装甲車の後部座席で、何度目かも分からないほど指輪を引いた。

外そうとするたび、金属が肌に食い込む感覚だけが強まっていく。


「力、入れすぎじゃない?」ミルルが言った。


「いや……違う。これ、外れないんじゃない。

 “外れないようにされてる”」


その一言に、車内の空気が、わずかに沈んだ。


「おかしいですね……」


運転席のグリーナが眉をひそめる。

ハンドルは確かに南を向いている。

窓の外を流れていく地形は、代わり映えのしない低い岩山。

地図を見た。

居場所を示すポイントが、明らかに“戻っている”。


「このままだと、メア・フェール航空基地に戻ってしまいますね」


「……進んでるのに、戻ってる?」


ユウナギは地図を閉じ、空を見上げた。


惑星アストレアは、もう見えない。

代わりに――グランディアの光だけが、やけに近く感じられた。

(……歓迎されてないな)


グリーナは、装甲車を停止させた。


「えー、どういうこと!?

そんなの、タシト隊長といつまでたっても合流できないじゃない!」

ミルルは地図を覗き込み、声を上げる。

「ほんとだ!私たちのポイントが基地に向かってるじゃん」


「とりあえず、元に戻るか……

ここでテントを張って、一泊過ごすかですね」


「元に戻るのだけは、やめとこうぜ」

バーチが即座に言った。

「ミラが何を言うか、想像がつく」


理由は分からない。

だが、この場所が“通してくれない”ことだけは、確かだった。


「とりあえず飯だな」

バーチが短く言う。

「腹を満たさないと、判断を誤る」


逃げられない場所では、

不思議と、腹が減る。


装甲車のエンジンが切られ、静寂が戻った。


風は弱い。 だが、音がないわけではなかった。

遠くで、何かが低く唸っているような――街の奥から伝わる、脈動のような音。


装甲車を岩の影に寄せ、ユウナギたちはテントを張る。


ミルルは、タシトに通信していた。

「タシト隊長聞こえますか?」


《……》


返事はない。


ソードは、指に残り続ける圧迫感に、説明のつかない不安を募らせていた。


「……なぁ、その指輪。あの女に無理やりはめられたんだろ?」

バーチが焚き火の枝を整えながら言った。


「そうだ!汚ねぇ商売しやがって」

ソードは短く答える。

「金、払わないなら指を置いてきなだと」

ソードは指輪を見下ろし、鼻で笑った。

「払うかってんだ」


「この街さ。動いてる……」

ユウナギが空を見上げ、ぽつりと言った。


「……動いてる?」

ミルルが聞き返す。


惑星グランディアは、昼よりもはっきりと輪郭を持って輝いている。その先の空に輝く星が反対側の方向にあった。


そのとき、ソードの指輪が、かすかに光った。


バーチがソードを見る。

「……今の、何?」


ソードはゆっくりと立ち上がり、街の方向を見た。


暗闇の向こうで、建物の影が歪んで見える。


彼は、確信に近い口調で言った。

「あそこで――誰かが、数を数えてやがる」


「は?」とバーチ。


「怖いこと言わないでよ」ミルルは肩をすぼめた。

他の生徒も身をかがめた。


夜風が吹き、焚き火の火が揺れた。


誰もが言葉を失う中で、

遠く、街の中心部から――


ゴゥン……ゴゥン……


重たい鼓動のような振動が、地面を伝ってきた。


まるで、巨大な心臓が眠りながら呼吸しているかのように。


ユウナギは、無意識に呟いた。

「……ここは、生きてる」


ソードは、その言葉にだけ、何も反応しなかった。

ただ、夜の街を見つめたまま――


……

バーチは、携帯用ラーメンをすすった。

「メンマ入ってねえな」


夜、皆が寝静まったころ――

テントの外で、かすかな擦過音がした。


ガサ……ゴソ……


見張り役のユウナギは、すぐに顔を上げる。


(風……じゃない)


月明かりの下、

ひとつの影が、ゆっくりとテントから離れていくのが見えた。


「……ソード?」


返事はない。

足取りが、妙だった。

音もなく、真っ直ぐ――街の方向へ向かっている。


その指には、

白いリングが、脈打つように光っていた。


「ソード、トイレか?」


声をかけても、反応はない。


ユウナギは、すぐ隣のテントを叩く。

「バーチ、起きろ」


同時に、反対側の見張りをしていたミルルも異変に気づく。

「……ソード?」


「……またかよ」目をこすりながらテントから出てきたバーチは歯を噛みしめた。

「ソード!どこ行くんだ!」


前回、ひとりで街に飛び出した時も、

こんなふうに、呼びかけに応えなかった。


バーチが、迷いなく踏み込んだ。


「――いい加減にしろ!」

鈍い音。

拳がソードの頬を捉えた。


だが――

ソードは、倒れなかった。


首だけが、ゆっくりと戻る。


感情のない目。


次の瞬間、ソードが両腕を上げた。

頭上で、シャインスフィアが異常な形成を見せている。


「おい!血迷ったのか!?」


そして、バーチめがけて振り下ろした。


ドカァン――!!


爆風が、夜を引き裂いた。


「――っ!?」


テントの中で、次々と人影が跳ね起きる。

理解が追いつく前に、衝撃波が地面を揺らす。


ユウナギが膝を上げた瞬間、悲鳴と足音が重なった。

バーチが自らをシールドで覆い直撃を免れる。

ミルルのシールドは、ぎりぎりで展開され飛び起きた仲間を守った。


「な、何ですか!?」グリーナも装甲車から顔を出した。


「危険です、中にいてください!」

ユウナギが叫んだ瞬間、 白い光が再び弾ける。


ソードの放ったシャインスフィアが地面を(えぐ)り、 土砂と火花が舞い上がった。


「っ、何なの……あの技……!」

ミルルが後ずさる。

見慣れたはずの特殊能力の形が、どこか歪んでいた。

癖のある、強い歪みだった。

そして、闇を帯びる光。


まるで――何かに操られているかのようだ。


「ソード!目ぇ覚ませ!!」 バーチが叫ぶものの近づけない。「……俺が攻撃側なら、ぶっ飛ばしてたのによ」歯がゆい。


だが、次の瞬間――

突然ソードは、仰向けに倒れた。


「え……」

バーチは、ソードに近づき顔を覗き込んだ。

眠ったように、静かな時間が流れた。

「なんなんだよ、もう」


油断した隙だった、ソードの両腕がバーチの首を締める。

「ぐっ――!!」

バーチは、もがく。


「やめろ、ソード!」

ユウナギはソードの腕をつかみ、

細く突き刺さるような衝撃波を叩き込んだ。


「邪魔をするな」ユウナギを突飛ばし睨み付け、ソードは何事もなかったかのように踵を返し、一直線に——街へ走っていった。


指輪だけが、夜の中で生き物のように脈打っていた。


「どこ行くんだ!」 ユウナギが叫ぶ。


「もう、ほっとけよ!」 バーチが座ったまま黙った。

「頭がいかれてんだよ、最初から」首をさするバーチ。

ユウナギは、感じていた。

このまま行かせたら、二度と戻らない。

そんな予感だけが、はっきりと胸にあった。


「追うぞ」

「……」バーチは舌打ちし、そして立ち上がった。「くそっ!」

三人は、街へ向かって走った。


荒れた地面。 歪んだ建物の影。 近づくほどに、地面の鼓動がはっきりと伝わってくる。


ゴゥン……ゴゥン……


露店の中を抜ける。テントは、壊されたままだった。人気もまばらになり、三人の走る姿を様々な視線が追う。再び、街の中へと踏み込んだ。


そのとき――

街の突き当たりに行きあたった。そびえ立つ岩山の下には、

——地下へ続く階段がありソードが立っていた。


街の下へ、引きずり込むような闇。

ソードは、ためらいなくその中へ降りて行った。


「ソード!!」


声は、闇に吸い込まれて消える。


バーチは、地下へ続く階段の前で足を止めた。


「……俺は、ここで待つ!」 バーチが低く呟く。


「本当に?」ミルルが唾を飲み込む。


「隊長、隊長、応答願います~!」

ミルルは、前髪をくるりと指で巻きながらタシトに連絡を入れる。


依然として繋がる気配がなかった。「隊長!なんでこんな時に」


ユウナギは、感じていた。

このまま行かせたら、二度と戻らない。

——それでも、行かない理由にはならなかった。

「連れ戻すんだ」


ミルルは、ユウナギひとりを行かせる訳にはいかなかった。

「あーもう、ソードのバカ!」

覚悟を決めるように頷き、

地下へ続く階段に、足を一歩踏み入れた。


「戻るのが遅くなったら……。グリーナさんに連絡して」ミルルは、バーチにそう伝え唇を噛んだ。


そして二人は、闇の中に消えて行った。




(第十八章・了)


地上には、まだ夜が残っている。

だが、彼らが踏み込んだのは、

夜よりも深い場所だった。

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