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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
捌章 平安時代 中期 ~藤原氏の隆盛と、地方の大乱~

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下総の沿岸部にて、平将門と藤原秀郷、双方の軍が激突した

連日の遅刻ですが、更新です。

【平将門】


官軍が引き返したという報せを聞いた時、俺は複雑な心境を抱かずにはいられなかった。


「官軍が、引き返した……?」

「はい。西国で藤原純友が難波を占拠したため、都が直接の脅威にさらされているとのこと」


使者の報告に、俺は思わず顔を顰める。


(朝廷め。相変わらず、腰が定まらぬな)


坂東の新皇よりも、目の前の海賊を優先する。

それは、理解できる。だが、同時に軽蔑も覚えた。

遠い坂東など、所詮は二の次なのだ。都の安全が第一。それが、朝廷の本音だ。


(俺を、下に見ているのだろう)


都で蔑まれた日々が蘇る。

東国の田舎者。滝口の武士。

その扱いを、思い出したがゆえに、渋面となってしまったのだ。


(結局、乱を起こそうが、朝廷は何も変わらぬのだな)


俺が新皇を名乗ろうと、朝廷にとっては所詮その程度の脅威でしかないのか。

だが、同時に思う。


(秀郷殿は……どうする?)


秀郷は、官軍を待っていた。その官軍が、来ない。

ならば、秀郷との約定は、果たされないのか?


(まさか……そんなことは……)


俺は、不安を覚えた。

秀郷との戦い。武人として、全力でぶつかり合う。それを、俺は心待ちにしていた。

それが果たされないとなれば……。


(いや、秀郷殿はそのような男ではない)


俺は、頭を振った。

秀郷は、約定を違える男ではない。必ずや、俺の前に現れる。

だが、その確信は、日に日に揺らいでいった。

数日が過ぎ、一週間が過ぎても、秀郷からの動きはなかったのだ。


(やはり……官軍なしでは、動けぬのか)


俺は、失望を覚え始めていた。

そんな時だ。西国の乱の首謀者の名を聞いたのは。

藤原純友。

その名を聞いた時、俺は一つの顔を思い出した。


(あの時の、公卿……)


かつて、魔穴で接触してきた男。名を明かさず、俺を誘った男。

もしや、あれが藤原純友だったのではないか?


(そうか……だから、瀬戸内の海賊退治に誘ったのか)


その時俺の中で、全てが繋がったのだ。

純友は、俺を仲間に引き込もうとしていた。

そして、俺が断った後も、独自に動いていたのだ。


(皮肉なものだ)


俺と純友。

二人とも、朝廷に反旗を翻した。

だが、俺たちは協力することはなかった。

それぞれが、別の道を行った。


(だというのに、結果として……純友が、俺の援護をしている形になっているな)


官軍を引き戻した純友の行動は、俺にとって有利に働いている。

意図したわけではないだろうが、奇妙な縁だ。

そんなことを考えていた時の事。


「将門様! 秀郷が、動きました!」


息を切らせ、部下が秀郷の動きを報せたのだ。


「何……ついにか!?」


俺は、飛び上がった。


「秀郷が、軍を率いて、こちらに向かっているとのこと!」

「官軍と、合流したのか!?」

「いえ、坂東の武者たちだけです。数は、さほど多くありません」


使者の言葉に、俺は息を呑んだ。


(官軍なしで、動いてくれたのか)


秀郷は、朝廷に頼らなかった。

自らの力だけで、俺と戦おうとしている。

その事実に、俺は感動すら覚えた。


(流石だ、秀郷殿)


朝廷に見捨てられても、官軍が来なくても、秀郷は動いた。

約定を果たすために。

まさしく勇猛なる坂東武者の鑑であろう。


(だが……数が少ない)


既に俺は坂東で多くの武者を打倒して来た。

残る武者は多く無い筈。故にこそ、秀郷は官軍を待っていた筈だ。


それは、警戒すべき点でもある。

数が少ないのに動くということは、何か策があるということだ。

さらに、既に秀郷も金属像のことを知っている筈。

それに対する対抗策を、必ず用意していなければ、軍を動かさぬだろう。


(面白い……実に面白い)


俺は、笑みを浮かべた。

秀郷との戦い。それが、遂に実現する。


「全軍に告げよ。秀郷を迎え撃つ準備をせよ」


俺の命令に、配下の者たちが動き出した。



そして、遂にその日が来た。

秀郷が兵を率い、下総国へ入ったとの報せが入ったのだ。


「遂に、か」


俺は、その報せを聞いて立ち上がった。

待ち望んでいた時が、遂に来たのだと。


「全軍、出陣する。秀郷を迎え撃つ」


俺の命令に、配下の者たちが動き出す。

決戦の地は、下総の海岸沿いの平地だ。

広大な平原が広がり、騎馬での戦いに適している。


「道元、金属像の準備は整っているか」

「はい、将門様。既に、多数の像を用意しております」


道元が、得意げに答える。

その背後には、俺の姿をした金属像が、ずらりと並んでいた。

金属像は、貞盛の軍を圧倒した。

秀郷の軍も、同じように圧倒できるはず……などという甘い考えなど、既に無い。

道元の得意げなこの顔も、どうなる事か。


(秀郷は、対策を考えているはずだ)


あの男は、ただの武人ではない。

知恵も回る。

金属像に対する策を、何か用意しているだろう。


(それでも、俺は負けん)


俺は馬に乗り、軍を率いて進軍した。



下総の地にたどり着くと、秀郷の軍が見えてきた。

数百の兵。騎馬武者が中心である。

その中には、貞盛達今まで取り逃がした者の顔も見える。

そして、その中央に秀郷がいた。


「将門!」


秀郷が、叫んだ。

その声には、戦意が満ちている。


「秀郷殿! 遂に、この時が来たな!」


俺も、叫び返した。

そして、俺は金属像の部隊に命じた。


「行け! 秀郷の軍を蹂躙しろ!」


金属像たちが、一斉に走り出した。

数十体の俺が、秀郷の軍に向かって突撃する。

だが、秀郷の軍に動揺はなかった。


通常、この光景を見れば、兵たちは恐怖する。

無数の将門が押し寄せてくるのだ。

だが、秀郷の兵たちは、冷だった。まるで、この光景を予想していたかのように。


(やはり、何か策があるのか)


俺が疑問に思った、その時だ。

秀郷が、前に進み出ると、その手に抱えた何かをかざしたのだ。


「……鍋?」


俺は、目を疑った。秀郷が抱えているのは、大きな鍋だった。

戦場で、鍋を持つ? 何のために?

だが、次の瞬間、秀郷が、何かを唱え始めた。


「龍神よ。かつての約定に従い、力を貸したまえ! 山海の幸を呼ぶ鍋にて、この地に溢れんばかりの塩を!!」


その声は、戦場に響き渡った。

そして、鍋から何かが溢れ始めた。

だが、その量が尋常ではなかった。鍋から、莫大な量の塩が溢れ出す。

まるで滝の如くに溢れた白い奔流。

塩が、津波のように押し寄せてきたのだ。


「なっ……!?」


俺は、驚愕した。

塩の波が、金属像の部隊に向かって押し寄せる。

そのあまりの早さに、金属像たちがなすすべもなく飲み込まれていく。

次の瞬間、俺の傍でも異常が起きた。


「ぐっ……!」


隣にいた道元が、苦しそうに声を上げたのだ。


「どうした!?」

「術が……像が……像が動かぬ……!」


道元が、震える声で言った。


「何!?」

「あの塩……龍神の気が、色濃く含まれております……その気が、拙僧の術を……かき消して……!」


道元の言葉に、俺は愕然とした。


(龍神の気……そうか、秀郷は龍神から宝を授かっていた!)


秀郷の偉業として語られる、大百足退治の折、龍神から褒美を受けたという話が脳裏に浮かぶ。

あの鍋が、その宝の一つなのか。

だが、何という力だ。あれ程莫大な量の塩を溢れさせるとは!

塩の波は、金属像たちを押し流していく。

そして、その先には、海があった。

金属像たちが、塩の奔流と共に次々と海へ流されていく。


「「「「おおおおお!」」」」


秀郷の軍から、歓声が上がる中、更なる号令が戦場に響いた。


「今だ! 好機だぞ! 押しかかれ!」


その声は、聞き覚えがあった。

平貞盛。俺が討った、国香の子。

貞盛が、先頭に立ち、武者を率いている。

その瞳には、復讐の炎が燃えていた。


「将門を討て! 父の仇を取るのだ!」


貞盛に率いられ、秀郷配下の騎馬兵たちが、一気に動き出した。

一方、俺の軍は、混乱していた。

頼りにしていた金属像が、一瞬で無力化されたのだ。

その衝撃が、兵たちを動揺させていた。


「落ち着け! 陣を整えろ!」


俺が叫ぶ。だが、間に合わぬ。

秀郷の軍が、俺の軍に突撃しくる。

そして、両軍がぶつかり合った。


だが、この戦いは、通常の戦とは違った。

双方の武者たちが、超人的な力を発揮していたのだ。


「うおおおお!」


秀郷配下の一人の武者が、刀を振るった。

その一撃が、俺の配下の三人を同時に薙ぎ払った。


「くっ……!」


俺の配下も、負けてはいない。

魔穴で鍛えた力を解放し、馬上から槍を繰り出す。

その槍が、敵の武者を貫き、更にその後ろの馬ごと吹き飛ばした。

魔穴で鍛えられた武者同士の戦い。

それは、常人には想像もつかぬ光景だった。

一人の武者が、十人分の働きをする。

刀が岩を断ち、槍が大地を穿つ。


「はあっ!」


秀郷配下の武者が、弓を引いた。

その矢は、普通の矢ではない。魔力を込められた矢だ。

矢は、俺の配下の武者の鎧を貫き、更にその後ろの武者にも突き刺さった。


「ぐああっ!」


だが、俺の配下も倒れない。傷を負いながらも、立ち上がり、再び戦う。

魔穴で鍛えられた者たちの生命力は、常人を遥かに超えていた。

一人一人が、怪物のような力を持っている。

それが、数百人規模でぶつかり合っているのだ。


だが、やはり機先を制された俺の軍が押され、大きな被害を出している。


「くそ……!」


俺は、歯噛みした。

だが、まだ負けたわけではない。


(ならば、俺自身が動く!)


俺は、前線に出ることを決めた。

俺の力があれば、戦の趨勢をひっくり返せる。

馬を駆り、敵陣に向かおうとした、その時。


ヒュッ!


一本の矢が、俺の行く手を遮った。


「!」


俺は、とっさに矢を避けた。そして、射手を探す。


……いた。


一騎の騎馬が、こちらに向かって歩み寄ってくる。

その男は、忘れもしない。


「秀郷殿……!」

「将門殿。約定を、果たしに来た」


秀郷が、静かに言った。その目には、戦意が宿っていた。


(遂に、この時が来たか)


俺は、心が震えるのを感じた。

恐怖ではない。興奮だ。武人としての、魂の高揚だ。


「秀郷殿。俺も、待っていた。そなたと、全力で戦う時を」


俺は、刀を抜いた。

周囲では、他の武者たちがぶつかり合っている。矢が飛び交い、刀がぶつかり合う音が響いている。

だが、俺と秀郷の周囲だけは、違った。

流れ矢が飛んでくる。

だが、俺には当たらない。

俺の肌は、金行の気で覆われている。矢は、一筋の傷もつけられず、弾かれた。

秀郷にも、矢は当たらない。

秀郷が着ている鎧が、矢を逸らしているのだ。


(あれも、龍神の宝か)


俺は、理解した。秀郷は、龍神から複数の宝を授かっていたのだ。


「某の鎧は、あらゆる矢を逸らす。お前の肌は、あらゆる攻撃を弾く。互いに、隙のない防御だな」


秀郷が、そう言って微笑んだ。


「ならば、どちらが勝つか。試してみようではないか」

「ああ。それこそが、俺が望んだ戦いだ」


俺と秀郷は、互いに見つめ合った。

周囲の戦いなど、もはや関係なかった。

俺たちにとって、この一騎打ちこそが全て。


「行くぞ、秀郷殿!」

「来い、将門殿!」


俺は、馬を駆った。秀郷も、同じく馬を駆る。

二頭の馬が、激突した。

刀と刀が、ぶつかり合う。

金属音が、戦場に響き渡った。

衝撃が弾け、周囲の者達が吹き飛んでいく。

だが俺達二人は揺るぎもしない。


((強い……!))


俺は、秀郷の一撃を受けて、その力を実感した。この男は、本物だ。

秀郷も、同じことを思ったのだろう。


「見事だ、将門殿。某の師、阿弖流為殿に匹敵する力だ」

「秀郷殿こそ。その太刀筋、見事だ」


俺たちは、再び刀を交えた。

一撃、二撃、三撃。

互いに譲らず、互いに押し返す。

これが、俺が求めた戦いだ。

武人として、全力でぶつかり合う。魂を燃やす戦いだ。


「ははは! 良い、実に良いぞ、秀郷殿!」

「某も、楽しんでいるぞ、将門殿!」


俺たちは、笑いながら戦った。

これが、武人の戦いだ。

憎しみでも、恐怖でもない。ただ、純粋に力を競い合う。

その喜びが、俺の心を満たしていた。

周囲では、まだ戦いが続いている。貞盛の軍と、俺の軍が、激しくぶつかり合っている。

だが、俺と秀郷の一騎打ちは、その全てを凌駕していた。

この戦いの行方が、乱の結末を決める。

俺たちは、そう理解していた。

だからこそ、全力で戦う。

魂を燃やし、力を尽くし、武人として生きる。

それが、俺たちの戦いだった。

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