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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
捌章 平安時代 中期 ~藤原氏の隆盛と、地方の大乱~

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都から故郷に戻った平将門は、父の遺領を巡って伯父・平国香と対立した

ちょっとフライング気味に投下。

【平将門】


都での日々は、変わらなかった。

下級の武士として、雑用をこなし、警備に立つ。

そして合間を縫って、魔穴に潜る。


(変わらぬ日々だ)


俺は、ただ淡々と己を磨き続けていた。

いつか認められる日が来ると、まだ信じていたのだ。



その様な変わらぬ生活を送っていた、ある日のこと。

京の都を、大きな地揺れが襲った。


「地揺れだ!」

「建物から離れろ!」


人々が慌てふためく中、俺は冷静に揺れをやり過ごした。

さほど大きな揺れではない。すぐに収まるだろう。


(富士が火を吹いた訳でもないのだからな)


一族の者がかつて語ってくれた、富士の噴火。

その凄まじさに比べれば、多少の揺れなど大したことではない。

そして、予想通り揺れは収まった。


だが、その夜の事だ。

俺がいつものように魔穴に潜ると、奇妙なものを目にする。


「……これは?」


魔穴の壁に、見慣れぬ裂け目があった。

人一人が通れるほどの、細い亀裂。


(昼の地揺れで、できたのか?)


興味を持った俺は、その裂け目に近づいた。

中を覗くと、暗闇が広がっている。

その奥は光を飲み込むほどに暗く、更なる深みに続いているようだった。

だが、どこか奥から微かな気配が感じられる。


(……行ってみるか)


俺は、裂け目の中へと進んだ。

狭い道が続き、時折岩が崩れかけている箇所もあったが、俺は慎重に進む。


(このような洞窟があったとは……)


裂け目は、恐らく天然のものらしき洞窟に繋がっていた。

昇る道と、下る道。

俺は、まずは降る道を選んだ。

これまでよりも歩きやすい洞窟を、勘を頼りに進んでいき……そして、俺はそこにたどり着いた。


「なん……だと……」


俺は、目の前の光景に言葉を失った。

そこは、途轍もなく巨大な空洞だった。

天井は遥か高く、見上げても暗闇に消えている。

そして、その空洞を支えているのは、何本もの巨大な柱。


(こんなものが……京の地下に……)


柱は、どれも人の手では作れないほど太く、そして規則正しく並んでいた。

まるで、神々が建てたかのようだ。


だが、俺を圧倒したのは、その光景だけではなかった。


(この、力は……)


空洞の中には、濃密な魔力が満ちていた。

呼吸をするだけで、身体に力が流れ込んでくる。魔穴の奥深くよりも、遥かに濃厚な魔力だ。


(ここは……何なんだ)


俺は、暫く呆然と立ち尽くしていた。

だが、やがて一つの考えが浮かぶ。


(ここで、鍛えれば……)


この濃密な魔力の中で修練を積めば、俺はさらに強くなれる。

その確信があった。


その日から、俺は度々この地下空洞を訪れるようになった。



地下空洞での修練は、驚くべき効果をもたらした。


「はあっ!」


刀を振るう。

その一撃が、魔穴の獣を一刀のもとに両断する。

以前なら、何度も刀を叩き込まねば倒せなかった獣が、今や一撃で葬れる。


「将門殿、恐ろしいほどの成長ですな」

「まだだ。これでも、まだ足りん」


以前より魔穴へ共に潜る陰陽師が、驚嘆の声を上げるが、俺は、更なる高みを目指していた。

地下空洞で得た力は、確かに強大だ。

だが、それでも都では認められていないのだから。


(……力だけでは、駄目だというのか)


武力では、俺は滝口の武士の中でも群を抜いていた。

だが、出世には繋がらない。

恐らく、俺にかなう武士は、最早いないであろうというのに。


「また山城出身の奴が昇進したってよ」

「畿内の連中ばかりだな……」


同僚たちの嘆きが、耳に入る。

都では、武力よりも政治的な力が重んじられる。

そして、政治的な力とは、出身地や血縁によって決まる。

俺は、桓武平氏の血を引いているが、東国出身だ。

その時点で、出世の道は閉ざされている。

……それは、分かっているのだ。


(……だが、武士である以上、他に選びうる道などない)


公卿ではない俺には、宮中の働きによる出世など見込めぬ。

わかっているのだ。

だからこそ、鬱屈が、日に日に蓄積されていく。

力は増しているのに、それが認められない。

その矛盾が、俺の心を蝕んでいった。



そんな中、あの公卿は久々に俺の前に姿を現した。


「久しぶりだな、将門殿」

「……何の用だ」


俺は、警戒しながら問うた。

この男からの誘いは、以前断ったはずだ。

だが、男は初め語り掛けた時と同じく、微笑んでいる。


「相変わらず、出世の機会に恵まれていないようだな」

「……それが、どうした」

「出世を望むなら、武功を積むのが良い。そう思わぬか?」


男は、そう前置きし、語り出した。


「瀬戸内では、海賊が横行している。それを討伐すれば、武功として認められる。君の力なら、容易いはずだ」

「……俺を、利用する気か」

「利用? 違う。協力だ。君は武功を得られ、我々は海賊という障害を取り除ける。互いに利益がある」


俺は、黙っていた。

確かに、魅力的な話だ。武功を積めば、出世の道が開けるかもしれない。

かの征夷大将軍。軍神とまでなった坂上田村麻呂も、その威名は武勲によってなされたもの。

瀬戸内は西国との交通の要だ。

これを平定することは、都でくすぶっているよりも、余程功績となるだろう。


(だが……)


同時に思う。この男の背後には、藤原氏の内部抗争がある。

俺が武功を立てれば、それは忠平への当て付けになるか……もしくは、配下の力を見抜けた己の眼力の誇示をするつもりか。


「……考えさせてくれ」

「無論だ。だが、あまり長くは待てない。機会は、逃げていくものだからな」


男は、そう言って去っていった。

その後も、男は何度か現れ、その度に海賊討伐を勧めてきた。


「将門殿、君の才を腐らせるのは惜しい」

「武功を立てれば、忠平殿も君を無視できなくなる」

「このままでは、君は一生下級武士のままだぞ」


その言葉が、俺の心を揺さぶった。

確かに、このままでは何も変わらない。武功を立てるしかないのかもしれない。

そのまま、何も無ければ、恐らく俺は、あの男──藤原純友と共に西国に向かっていただろう。


しかし、そうはならなかった。



あの男の誘いに思い悩む中、急報が入ったのだ。


「将門殿、故郷からの知らせです」


使者が、一通の書状を持ってきた。

俺はそれを開き、その内容に目を通した瞬間、息を呑む。

父、平良将が亡くなったのだと。


「父上が……」


俺は、書状を握りしめた。

父は、俺を都に送り出してくれた方であり、俺の誇りを理解し支えてくれた人だ。


その父が、死んだ。


書状にはさらに続きがあり、父の遺領を巡って一族が争おうとしている、と。


(……やはりか)


俺は、歯噛みした。父が生きている間は、一族をまとめていた。

だが、父が死ねば、遺領を巡って争いが起きる。

それは、予想していたことだ。


「将門殿、どうされますか?」


使者が尋ねた。


「……帰る。すぐに、帰国する」


俺は、そう答えた。

同時に、決定的な事実が心をよぎる。


(都で、何も成せなかった)


藤原忠平に仕え、滝口の武士として働いた。

だが、認められることはなかった。出世の道も、開けなかった。


(結局、俺は何のために、ここにいたのだ)


都へと送り出してくれた父の墓前へ、何も成果を報告出来ぬ事実。

その悔しさが、胸を焼いた。


そして、もう一つ。公卿たちへの不満が、心に深く刻まれた。


(あいつらは、俺を見下し続けた)


血筋も、実力も、何も見ようとしなかった。

ただ、出身地だけで判断した。


(忘れん。この屈辱は、忘れんぞ)


その屈辱を胸に刻み、俺は荷をまとめる。

少なからず関わりを持った者達……あの陰陽師や、同僚の武士たちとは別れがたかった。

しかし、俺は滝口の武士である以前に、平氏の男なのだ。

彼らとの別れの後、おれは都を後にした。



故郷に戻った俺を待っていたのは、予想通りの光景だった。

父の遺領を巡って、一族が集まり。

だが、その場には緊張が漂っていた。


「将門か。久しぶりじゃのう」


声をかけてきたのは、伯父の平国香だった。

父の兄であり、一族の中でも力を持つ人物だ。


「伯父上……父の死に際し、お越しいただき、感謝いたしまする」

「うむ。良将は、良い男じゃった。じゃが、死んだもんはしょうがねぇ。さて、遺領の話じゃが」


国香は、悔やむ言葉も僅かに、そう言って俺を見る。

その目には、何か企むような光があった。


「儂が思うにな、遺領はきちんと分けるべきじゃ。特に、儂はお前の父の兄じゃからな。相応の分を貰う権利がある」

「……どれほどの分を、望まれるのです?」

「そうじゃのう。半分……いや、三分の二ほどあれば、妥当じゃろう」


俺は、耳を疑った。


「三分の二……ですと!?」

「うむ。儂は一族の長じゃからな。それくらいは当然じゃろう」


国香の言葉に、俺は怒りが湧き上がるのを感じた。

だが、それ以上に感じたのは、蔑視だった。

国香の目には、俺を見下す色があった。

都に行き、公卿に仕えた俺を、都に降った者として蔑んでいるのだ。

おそらく、俺が都でなにも成せなかった事さえ、知っているのだろう。


(この男も……都の公卿と同じか)


俺は、この男に失望せずにはいられなかった。

都の公卿たちは、俺を東国の田舎者として見下した。

そして、坂東の一族の中には、俺を都に従った者として見下す者が居る。


(どこに行っても、俺は認められんのか)


だが、ここで引くわけにはいかなかった。

父の遺領を、簡単に渡すわけにはいかぬ。


「伯父上、それは道理が通りません。父の遺領は、嫡子である俺が継ぐべきです」

「何を言うとる。お前は都におったじゃろうが。坂東のことなど、何も知らんくせに」

「知らぬとは、どういう意味です」

「都で公卿に媚びへつらっておった奴が、今更坂東の武者面するな」


国香の言葉に、俺は拳を握りしめた。

だが、そこに別の声が割って入った。


「国香殿、それは言い過ぎではないか」


叔父の平良文だった。

父の弟であり、温厚な人物として知られている。


「良文か。お前は黙っておれ」

「いや、黙っておれん。将門殿は良将殿の嫡子だ。遺領を継ぐ権利がある」

「権利じゃと? 儂は兄じゃぞ」

「兄であることと、遺領を奪うことは別だ」


良文は、毅然として言った。

そして、俺に向き直った。


「将門殿、私は此度においては貴方に理があると思う。共に、この問題に当たろうと思うが、如何に?」

「叔父上……」


俺は、良文に感謝した。

少なくとも、この場には俺を理解してくれる者がいる。

だが、国香は納得していなかった。


「ふん。好きにせい。じゃが、儂も引かんぞ。遺領は、儂が相応しい形で分配してもらう」


そう言って、国香は立ち去った。

俺は、その背中を見送りながら、この争いが簡単には終わらないことを悟った。


(一族の争い、か)


都での鬱屈に加え、今度は一族との争いだ。

だが、俺には力がある。地下空洞で得た、強大な力が。


(ならば……)


その力を、ここで示すしかない。

坂東の地で、俺は新たな戦いに身を投じる覚悟を決める。


その決意が何を呼ぶのか?

俺は知らぬまま、広大な坂東の大地を眺めるのだった。

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― 新着の感想 ―
又是裂缝,又是误入,怎么感觉这个剧情出现好多次了,已经有点刻意了啊。 以剧情内的角色而言,避免误入的管理,这么多年都没有改进吗
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