Sキャラ崩壊
それは夏休み前、放課後のワック。
「……北野」
「何よ」
「お店のお客様方が驚かれ……いたたたたた! んにすんだよっ!」
「黙れ。腐れ」
僕こと、淀橋千宗は北野吹雪に足で頭を踏みつけられていた。
「こんの、M野郎!」
必死の形相で今まで放って置かれた憎しみをこのコールドアイズに込めて睨みつける。
しかしそれは逆効果だった。
「……うっ。何よ、萩本先輩にデレデレしちゃって」
「いや、してないだろ」
どうやら北野は僕がSを発揮することを口説くことだと捉えているようだ。どんな考え方だよ全く。ま、ヤキモチ? を妬いている北野はちょっとカワイイんだけれど。
「アンタは、私のでしょ」
そう、カワイイから、そんなことを言われたらもっと苛めたくなるのが僕達Sの性なんだ。(僕はまだ初心者なんだけれど)だから、出来るだけ冷たく言い放った。
「……違ぇよ」
「……千宗?」
「僕は北野のオモチャじゃない」
「な、何言ってんのよ!」
焦る北野はなんだか、凄くカワイイ。そして僕はカワイイ北野が見たい。だから益々エスカレートしてしまう。
「だから、早くその足、どけろよ。うっとおしいんだよ」
「なっなによ〜」
北野の目が潤む。済まん北野! これも皆僕をSにした北野のせいだ!
泣いても知らないぜ。
「……ふふ」
泣いても知らな……
「かぁっこい〜い」
「やっぱり!?」
そうなってしまうのが、この話の醍醐味だ。
それはそうと、僕は北野に聞かなければならないことがあった筈だ。
「大体、北野さ。あの男子誰な訳? 僕今まで北野が黙ってアイツに会ってたの知ってたよ」
「淀橋……」
泡沫先輩が僕の名を諭すようによんだ。
でも泡沫先輩達には悪いけど、ここは空気なんて読めるはずもない。
北野を睨みつけたが、意外な反応が返って来た。
「なぁーんだ。槙のこと」
北野によると、槙と呼ばれた男の正体は、槙智樹と言って、北野の手掛けるファッションブランドと、今度コラボレーションを企画しているメンズブランドのデザイナーだった。
「は……え?」
僕は衝撃の余り、固まっていた。北野が言ったことが本当なら、ただの独り善がりだ。僕のキャラじゃない。
北野は少し驚いて見せたが、次の瞬間に、かなり魅力的な笑顔を見せた。僕の頭を蹴り倒したときの表情にそっくりだ。
「つうか、なぁに、オモチャって。アンタはその」
北野は一度言葉を切って、決心したかのように顔を上げた。
「彼氏……とかじやないんだ?」
北野の顔は真っ赤になっていて、僕は自分の頬にも熱が集まるのを感じた。
けど、ああコレは北野のなりに精一杯頑張ったんだな、って考えたら、答えは一つだとわかった。
「北野が望むなら」
僕の顔はと言うと、この時ばかりは緩んでいて、だらしなくて、こんな表情ならば北野に前言撤回されそうだった。




