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第4話 はじめてのたたかい



俺の無様な姿を晒してからさらに一月、さすがにもう立ち直っていた。

というか、もう次の日には完全復活していた。


だって、自分の好きな人に「あなたはニートでいいよ。」なんて言われたら、嫌でもやる気を出すしかない。何というか、プライドの問題と言うか。


というわけで俺はこの一ヶ月間様々な訓練をしていた。

大雑把に言うと走り込みや筋トレなのだが、その中でも剣術の特訓にはかなり力を入れている。剣は元々我が家にあった真剣を使っている。剣術は向こうの世界でも全くの素人であったため、凛堂に直接指導を受けている。凛堂も4年間の剣術の知識を惜しみなく教えてくれた。


そして、最近になってようやく様になってきた、まだまだ凛堂には遠く及ばないが。


今日は実践経験をかねて魔獣を狩りに行くことになった。


「でも、ほんとに大丈夫?緊張してない?」


凛堂が森の中を歩きながら俺を気遣う。おやおや、凛堂は俺のことが心配のようだ。


「な、ななななな、なににに、ぜぜぜぜぜ、ぜん、ぜんじぇん緊張し、しししてな、いじょ。」


あれ、変だな。言葉をうまく発音できない。それに、さっきから足の震えが止まらないな。おかしいな。


「なら、いいんだけど…………。あ!隠れて!」


「ふげ」


いきなり凛堂が俺の頭を抱えてしゃがみ込む。変な声出ちゃった。


「見て。あれがトライデントブルだよ。」


この世界には魔獣、もしくは単に魔物というモンスターがいる。


魔獣というのは、俺らの世界の動物と似て非なるものである。完全に動物のような扱いの魔獣もいるが、戦士が数十人がかりでも手に負えない魔獣もいる。

しかし、リスクがあるがリターンもある。危険度が低い魔獣は食用にも利用されているが、危険度が高くレアな魔獣はその骨や体の一部が高級品として市場に出回っている。故に、魔獣を狩ってお金を儲けている人もいるらしい。

俺が教わった知識はそんな感じだった。


今、俺たちが見つけた魔獣は牛に3本角が生えたような外見のトライデントブルである。

外見は牛そのものだが、色は赤黒い感じだ。大きさも肩の高さが俺の身長と同じぐらいでやや牛より大きい。

ただ、地球の牛と決定的に違うところはその角だ。2本は闘牛のように大きな角が耳の上から生えているが、1本は鼻の頭からちょうどサイのように生えている。

この魔獣は普段は温厚な性格だが、怒ると突進をしてくるという習性がある。ただ、強さはそうでもないため、よく初心者が最初に狩る魔獣の一種である。ちなみに、その肉はなかなかおいしい。


今トライデントブルは一匹でのんきに草を食べている。普段は数匹でまとまって行動するらしいが、群れからはぐれたのだろう。


「あいつにするか。」


「うん、危なくなったら手伝うから。」


「おう。」


今回の目的は俺の剣の技術がどこまでいったか試すことである。だから、今回の狩りは基本俺一人である。


「ふぅ~~~…………、よし!」


「あ、ちょっと待って!」


「ん?」


不意に凛堂が俺の両手をつかみ、自分の顔に近づける。まるで祈りを捧げるように目を閉じる。


「はい、いってらっしゃい。」


「あぁ、行ってきます。」


なんか体が軽くなったな。それに俄然やる気も出てきた。

俺は剣を抜き獲物に向かって駆け出す。


「!?ブルルルルルルル………」


どうやらあいつも俺に気づいたみたいだ。うなり声を上げて威嚇している。自分より大きくパワーが強い相手に正面から突っ込むなんて愚策だ。だから…………


「せい!」


バシィ!

俺はそいつの顔面に石をぶつけてやった。


「ブモオオオォォォォォォォォオ!!!」


やっぱり怒ったか。鼻息を荒くし、トライデントブルはこちらをギロリとにらみ突進してきた。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!


その巨体が動く様はまるで戦車のようだった。


「う!」


その迫力に思わずたじろいでしまう。


「落ち着け…………落ち着け…………落ち着け…………」


必死に凛堂との修行を思い出す。


『力任せの突進はそんなに怖くないよ。だって…………』


横に躱せばいい!それに、凛堂の方がもっと速かった!

そして俺はギリギリまで引きつけてから躱す。さながら闘牛士のように。


「ブォォオォォォオ!!!」


トライデントブルが苦しそうな声を上げる。さっき突進を躱すついでに剣で横腹を切りつけたのだが、少し浅かったか…………。血を流しながらも再び俺に向かって突進してくる。


「落ち着け………さっきはうまくいったんだ…………今度も…………」


そうやってまた躱しながらカウンターでダメージを与える。


-----------------------


数十分間だろうか、本当はもっと短かったかもしれない。ようやくトライデントブルは力尽き、ズシンとその場に倒れた。体のあちこちから血を流している。


「ハァ……ハァ……ハァ………ハァ…………」


俺の息も絶え絶えで、終わったと思って気が緩んだのか汗が一気に噴き出してくる。

勝った…。


少し息を整えてから、とどめを刺そうとトライデントブルに近づく。わずかだがまだ息がある。


そして剣を振り上げた瞬間、奴と目が合う。その瞳に映っているのは剣を振り上げている俺。


その瞬間俺は自覚してしまう。俺はこれからこいつを殺すのだと。そして体が固まってしまう。


これが罪悪感というものなのか?何か得体の知れない感情が全身を支配して、心臓の鼓動が速くなることしか感じられなくなる。


こいつを殺す…………誰が?…………俺が?…………何を?…………こいつを?…………何で?…………この剣で?…………どこを狙う?…………首?頭?心臓?…………心臓?…………心臓をどうする?…………止める?とめる?トメル?


そうやってできた俺の隙を奴は見逃さなかった。かすかに力を込め、首をこちらに向ける。

その口が開いた瞬間、牛は炎を吹いた。


「あ」


俺の口から出たのはそんな声だけだった。あとはもう何もわからなくなった。死んだと思う暇もなかった。ただ、至近距離から迫る炎が自分の体を包んでいくのを呆然とみることしかできなかった。


------------------------


「ケー君!!!!」


そんな声と一緒に何かが潰れたような音が聞こえ、視界を覆っていた炎が黒一色に塗り替えられていく。はっと我に返ってあたりを見渡す。

最後の記憶は牛の口から火が出て…………


「ケー君!!」


「うわ!」


いきなり凛堂が抱きついてきた。


「大丈夫!?どこもけがしてない!?まさか変異種だったなんて…………ちゃんと生きてるよね!?死んでないよね!?」


「あ、あぁ、大丈夫だ。ちゃんと生きてる。ちょっと服焦げちゃったけど。」


「よかった…………。本当によかった………。」


一応大丈夫みたいだ。ちゃんと凛堂の抱きついてきた衝撃も感じられてるから、たぶん死んでない。


トライデントブルがいた方を見ると、あいつは頭が吹き飛んでいて絶命してることがすぐわかった。たぶん凛堂が魔法でやってくれたんだろう。トライデントブルの首の部分に黒いオーラが残留している。あれが闇魔法って奴らしい。この世界に来てから初めて見た。


「はぁ………………………………。」


凛堂に抱きつかれながら俺はため息をこぼす。そのため息は安堵感と俺自身への不満が混じったものだった。


----------------------


その後、凛堂にかなり心配されたが、『少し考えたいことがある。』と言って一人になることができた。


ここは湖だ。

服は焦げているが、運がよかったのか俺は無事だった。顔や手についた返り血を水で落としながら考える。


また助けられた、いやそれよりもあのとき体が動かなくなった。

たぶん躊躇った、命を奪うことを………。

情けない………………。

凛堂を助けるなんて言っときながらこのザマだ。

頭ではわかっていたんだ。

これからこの世界で生きて行くにはいつかきっと戦って殺す状況になることは簡単に予想できていた。


でも、甘かった。甘えてた。


「クソ!」


苛ついて水面に八つ当たりする。あのとき凛堂が助けてくれなかったら俺は死んでいた。命を奪うという罪悪感と死の恐怖で頭がごちゃごちゃだ。


一体俺はどうすればいいんだ…………。



読んでくださりありがとうございます。

戦闘シーンの描写が難しいです。

次話の投稿は8月26日以降を予定してます。


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