第2話 違和感の正体
それからしばらく凛堂は俺に撫でられながら泣いていた。
その間凛堂を慰めながらも俺は自分なりに考えをまとめていた。
「ありがと、ケー君。グスッ……少し落ち着いた。」
ちょうど凛堂も泣き止んだみたいだ。
「お、そうか?でもあんまり無理するなよ。」
「優しいね、ケー君は。でもほんとに大丈夫。」
「……………そっか。ならいいんだけど………」
それから俺たちは俺が最初にいた部屋に移った。
さすがに辺りにガラス容器が散乱している部屋じゃ落ち着いて話し合うこともできないからな。
凜堂がさっきの部屋の明かりをつけてくれたので、改めて部屋の中を見ることができた。
部屋は真ん中に魔法陣があるだけで、他には部屋のすみに机と椅子が1つずつあるだけだった。その机の上には何冊かの分厚い本とメモ用紙のようなものがあった。
たぶん俺を召喚するのに必要なものだったのだろう。その証拠に本の表紙やメモ用紙に部屋の魔法陣と同じような記号が書いてあった。
とりあえず凜堂は椅子に腰掛け、俺はちょっと失礼だが机に座らせてもらった。
「じゃあ、凛堂、そろそろ俺に教えてくれないか?この状況のことを。」
意を決して俺は凛堂に尋ねる。
「俺は異世界召喚されたってことでいいのか?」
「うん、そうだよ。ケー君は地球からこの世界、レイズに召喚されたの。」
やっぱり…………予想はしてたことだけど…………………。この世界はレイズって言うのか。でも、一つだけ腑に落ちないことがある。
「じゃあ、どうしてここに召喚されたんだ?そもそも俺は誰に召喚されたんだ?」
「あ、それ私だよ。」
「へ?」
「だから、私がケー君を地球からこっちに召喚したの。魔法でね。」
そっか、凛堂が召喚したのか。なるほどなるほど、だから目の前に凛堂がいたのか。そうだよな!!うんうん、当然の結果だよな!!はははは、納得納得………………って違う!
「お、おまえいつの間にそんなすごいことできるようになったんだよ?」
「だ、だって……それは……は、はやくケー君に、会いたかったから///」
凜堂は顔を赤く染めてもじもじしながら答える。
あ、なんかかわいい、じゃなくて!!な、なに小っ恥ずかしいことを言ってるんだ///
「ち、違う!そうじゃなくて、なんで召喚なんて魔法をできるようになったかってことだよ。」
俺は向こうで、つまり地球にいた時にライトノベルを趣味として読んでいたから推測できるのだが、人為的に人を異世界に召喚する魔法なんてものはどの作品でもかなりの高等技術だったはずだ。それを目の前にいるこいつはやってのけたってのか?
「そりゃできるよ。四年もあったんだから。」
ん?なんか今聞き捨てならない単語が出てきたような気がする。
「おい、凛堂。四年って言ったか?四年って何のことだ?」
「え?私が召喚されてからの四年ってことに決まってるじゃん。」
ん?んん?んんんんんんん?
召喚されてからの四年??
どゆこと?俺にとっちゃ、ついさっきこっちに来たばっかなんだけど。
ここで俺に一つの仮説がよぎる。
いや、いやいやいや、まさか、そんなまさか、
「なぁ、一つ確認なんだがおまえが召喚されたのは新部長を集めたあの集会の日だよな?あの光に包まれてこの世界に召喚されたんだよな?」
「うん。そうだけど……どうしたの急に?」
「凛堂は、その日からこっちの世界で四年過ごしたってことか?」
「そうだよ?それが何?」
マジか!マジでか!マジなのか!!
「俺もそうなんだけど……」
「え、それって……」
「俺も召喚された日が集会のあった日なんだけど………」
つまりこういうことだ。
凛堂にとっては生徒会の集会があったのが今から四年前、その日からこちらで過ごしているらしい。
一方、俺にとっては集会の日から体内時間的にはまだ一日も経ってないのだ。
つまり、俺と凛堂は同じ日に地球から消え、別々の日にこっちに現れたということだ。地球では俺と同い年だった凛堂が数分後には四歳年上になっていたのだ。
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「ってことはおまえもう二十i「女子に年齢のこと聞くなんてサイテーだよ。」
そんな怒るような年じゃないだろ。ませやがって。
まぁ、それはおいといて。
あの後、色々確認したが俺と凛堂のタイムラグを証明するようなものばかりだった。
俺は高校の制服のまま召喚されたし。俺と一緒に学校鞄も召喚されたのだが、その中には集会の資料があったし。つけていた腕時計も集会の日付で止まっている。
でも、あり得るのか、そんなことが。
いや、あり得なくもないか。
あの日、二種類の異世界召喚の魔法が使われたんだ。
1つは凜堂を召喚した魔法。
もう1つは俺を召喚した魔法。これは凜堂がやったらしいのだが。
そう考えると辻褄が合う。
「でもこれでいくつか謎が解けた。」
その謎とは俺が凛堂に感じていた違和感のことだ。
この違和感の正体はこの四年における体の成長だったのだ。さっき頭撫でているときは俺の胸に顔を埋めるような姿勢だったため気づかなかったが、よくよく見ると背も伸びている。他にも髪のことや胸のこともそれで説明がつく。
しかし、あいつの胸は今が成長期だったのか。見違えるぐらい成長したなぁ。
「ケー君、今失礼なこと考えなかった?」
「べ、別に何も考えてねーし!」
えぇ~、なにその超感覚。
かくいう凛堂も召喚されるのが四年後の俺だと思っていたらしい。
「でもどうしてなんだろうね。なんで時間がずれちゃったのかな?あっちの世界とこっちの世界じゃ時間の流れる速さが違うとかかな?」
「それはわからない。でも、今の所何の異常もないから大丈夫なんじゃないか?」
ここまで俺は凜堂との時間差を知ることがなく普通に過ごしていたのだが、特に俺の体に異変は何もなかったのだ。
「それもそっか。」
「てゆうか、凛堂は四年後の俺が召喚されると思ってたんだよな?だったら、俺は制服着たまんまだったしすぐ気づかなかったのか?」
「いやぁ、そういう趣味だと」
「おい。」
なんだよ。そういう趣味って。どんな趣味だよ。
「あははは、ごめんごめん。」
そうやって幼く笑う凛堂。
四年前の彼女を知っている俺から見るとやはり複雑な気分になった。彼女の一番の変化はやはりその性格だろう。今の彼女からは昔の雰囲気は微塵も感じられない。
どうしてこうなってしまったのか?
俺の知らない四年間で彼女に何があったのか?
本音を言えば今すぐ凛堂に問いただしたかった。でも、できなかった。さっきの彼女の様子を見れば一目瞭然だ。
きっと彼女はかなり不安定な状態にある。いつ壊れてしまってもおかしくないほどに。そして、壊れないように俺に依存しているのだろう。
ここで俺が凛堂のトラウマをほじくり返して何になる?
凛堂を余計に苦しめるだけなんじゃないのか?
そんなことするくらいなら………
「ん?どうしたの?」
「………いや、どうもしないよ。」
そう言って俺も凛堂に笑いかける。
「?そう?ならいいんだけど。」
凛堂も笑う。
そうだ。俺は、いや俺のすべきことは凛堂を笑顔にさせてその笑顔を守ることだ。
きっと俺はそのためにこの世界に呼ばれたんだ。
だから今はそれだけで、それだけわかればいいんだ。
読んでくださりありがとうございます。
次話の投稿は8月18日以降の予定です。