王国首都郊外の農場(敷地内1)
共和国の意向を受けた男たちが帯びていたのは偵察任務のみであり、戦時でもないから威力偵察である必要もなく、つまりは探りを入れるだけのはずだったのだ。
しかし、彼らは王国空軍で重要人物と目されるルトギエル・ヴァルシュタット中佐が〈農場〉を訪れるところを目撃してしまった。
そこから、彼らの運命の歯車が狂いはじめた。
折悪しく〈農場〉はこのとき、王国郊外の農場跡地を王国空軍が買い上げ急遽設営中だった。
そのため、外部からの襲撃に対してお世辞にも備えているとはいえない状況にあった。
それを見て取った共和国の現地工作員たちは、持参した装備の威力を確かめたいという誘惑に抗うことができなかった。
完全なる勇み足だったが、責任の所在が曖昧になりがちな共和国体制の弊害が思わぬところで発現したのかもしれなかった。
『奴が出て来たところを狙います』
小型通信機で報告を受けた腹の出た男は、浮かない顔を傍らの若い男に向けた。
この若い男、すっかり王国市民っぽい洒脱な服装が身についているが、実はオウルである。
オウルは〈杜〉を出てからはクロウと名乗り、水を得た魚のように王国と共和国の狭間で暗躍していた。
「下見のはずじゃあなかったか。時期尚早では?」
「私も止めたさ。だが、我が国は良くも悪くも多数決が多くてね。まあ、王国の計画が頓挫するなら同じことだろ……」
クロウことオウルは、そりゃあ、責任の所在が曖昧になるし、勘違いする者も出てくるワケだと心の中で思いながら肩をすくめた。
それを見た男は、だから現地の指揮権はすべて私に寄越せといったのだ……という、軍上層部に対する批判とも取られかねない発言と、若いがイヤに落ち着き払ったこの男に対する苛立ちをかろうじて飲み込んだ。
二人の現在位置は、〈農場〉から離れてはいるが丘になっていて、母屋、納屋、今は拡張された農薬散布用の小型機が使用していた滑走路を見渡すことができた。
日は落ちかけていたが、まだ双眼鏡で人間の識別が可能だった。
もう少しヴァルシュタット中佐が訪れる時間帯が遅ければ、辺りは薄闇に包まれ、あるいはこのような事態には陥らなかったのかもしれない。
偵察要員を乗せたなんの変哲もない自家用自動車……四人乗りがゆっくり〈農場に近づき、一台目から三名、次の一台からも三名と、計六名の男たちが降車する。
平時、他国で隠密行動の偵察部隊にしてはずいぶんな多勢だった。
当初の計画では後日、実際に襲撃する必要が出てきた際に齟齬なきよう、なるべく現場を踏ませる……という、作戦立案者の企図があったらしい。
男たちはいかにも王国の労働者風の服装はしていたが、右手には短機関銃があり、上着の脇の下の膨らみには自動拳銃を忍ばせていた。
彼らの足取りは落ち着いており、身のこなしにも無駄がなく、歩行中でもあまり銃が揺れていない。
それは、なんらかしらかの軍事的な訓練を受けたことがある者である証だった。
彼らに油断はなかったが、心のどこかに王国の軍隊は古臭く、装備も共和国に比べ旧式だという侮りがなかったといえば嘘になるだろう。
それに加えて、これから出現する戦闘にはつきものの想定外な要素が、彼らの運命を決定づけてしまうことになる。
仮に襲撃者の中に短機関銃よりも射程距離の長い、小銃で武装した者が混じっていれば、戦闘の推移はある程度は変わったのかもしれない。
だが、強襲ではなく偵察任務だったため、主武装には現地調達した自家用車でも取り回しのよい、短機関銃を選択していた。
そのため、戦闘は比較的、近距離ではじまることとなった。
母屋の扉が開き、駐車された公用車へとルトギエル・ヴァルシュタット中佐が歩き出したとき、薄暮の中、接近する見知らぬ男たちとその手の短機関銃を見た。
その銃口が自分へ向きかけたとき、ルトギエルは反射的に身を伏せた。
元来、ヴァルシュタット家の人間は目が良いとの定評があるが、元戦闘機乗りの彼は反射神経も悪くない。
しかし、ルトギエルは公用車の陰に転がり込み、腰のホルスターから軍用拳銃を抜いて応射しようとしたものの、そこで身動きが取れなくなってしまった。
襲撃者側も標的に予想以上に早く発見されたことと、その後の素早い身のこなしも予想外、予想以上だったので、あっけにとられていた。
だが、この時点で襲撃者たちは、主導権は自分たちが握っており、後は包囲の輪を縮めるだけだということを疑ってはいなかった。
その証拠に……反撃は拳銃によるものだけであり、標的は釘付けで動けないではないか。




