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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
虹が好きでも、雨が降らないと虹はでないんだよね。
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第二話

「私が看護師で、ずっと忙しくしていたから、この子、一人でなんでもできるようになってたんだよね。母が生きていた時はよく来てもらってたけど、ずっと一緒にいてくれるわけでもなかったし、そのうちに竜介もここで暮らすことになって、光司も必要に駆られて竜介の面倒を見ていた。ご飯もよく作ってたね」

 孝江がそう説明してくれた。

 

 きっと兄弟なら近すぎるから、喧嘩になったりするのだろうが、三歳違いの従兄だったから、この光司だから竜介のわがままも聞き、大らかにしていられたのだろう。

「従兄同士でも兄弟のように育ったんですね」

というと、孝江がうんうん、とうなづいていた。


 私はこの三人の表情が自信に満ちていると思った。輝いているようにも見える。

 孝江は看護師としてバリバリ働いている。その仕事に生きがいを感じているのがわかる。

 光司は料理にその才能を見いだしていた。竜介は剣道を得意としている。体を動かすのが好きでしょうがないといった印象も受ける。彼の部屋にはトロフィーや盾がたくさん置いてあった。


 どんなことでもいいから、これなら人に負けないというものがあると、自分への自信につながるとよく祖母が言っていた。他のことではうまくいかなくてへこんでもこれならと思えることあると、自分を見失わないんだという。それがコツらしい。

 そして、それはたぶん好きなことだから、人一倍努力もするだろう。それを認めてもらえる嬉しさは、その人の内面から輝かせるのかもしれない。

 ふと、自分にはそういうものがあるのだろうかと思った。これなら寝る間も惜しんでやりたい、やれるということ。人よりもちょっと上手で、自信が持てることだ。

 そう簡単には思いつかなかった。私はずっとまんべんなく人と同じように平均的にやってきた。勉強もスポーツも普通だ。

 きっとこのままなんとなく学校へ行き、入れる大学へ行って、なんとなく楽しく過ごして、それとなく就職をし、そこの目の前の人と結婚するのだろうと思った。

 それがいい事なのか、悪い事なのか判断できないが、波乱万丈の人生もつらいと思う。平坦な道をただ行くだけの道もどうなのか。


 祖母は、私に保育士のような資格を取り、何か一つのことを一生できるような職業についてもらいたいと言った。

 祖父は、大学で思い切り好きなことをやれと言った。仕事を始めたら、自分の時間ややれることが制限されるかもしれない。だから、学生のうちにできることをたくさん体験しろとも言った。

 しかし、好きな事と言われても戸惑ってしまった。自分の好きな事、やりたいことって一体何なのかよくわからなかった。

 今までずっと誰かの言うことを聞いていればよかった。そうすれば、叱られることもなく、波風立たずに平和な日々が過ごせた。その相手は先生だったり、保護者の祖父母だったりした。

 それなのに、今度は好きにしていいと言われても・・・・。

 今度は自分が道を選んでいかなくてはならない。それが本当にいいのかわからなくても、間違っているかもしれなくても自分で選ばなければならない。そういうことに少し不安を覚える。

 竜介も光司も自分というものをよく知っているのだろう。うらやましいと思った。


 ちらりと絵のことが頭をかすめた。美術部とか漫画研究会などに入ったことはないが、メモや伝言を書くとき、余白にちょっとしたイラストを入れたりする。すると周りがかわいいと喜んでくれた。

 中学の頃、学園祭で、恋の詩とかわいいイラストを描いた色紙を売った。あっという間に完売して、もっと描いてほしいといわれるくらい好評だったことを思い出した。

 絵を勉強してみようかなという考えが浮かんだ。


 そんなことをボーとして考えていた時、孝江が好奇心丸出しの表情で言った。

「ねっ、由紀乃ちゃん。竜介ともう長くつきあってるんでしょ。竜介のどこが好き? どこで知り合った? どこまでいってる?」

「え?」

 連発される質問を反芻はんすうして、赤くなった。

 やだ、孝江さん、完全に勘違いしている。竜介とつきあっていると思っている。全然、そんなんじゃないのに。


 助けを求めるように、竜介を見た。

 竜介も面をくらっていたが、コホンと喉の調子を整えると、孝江に言った。

「叔母さん、由紀乃とオレはさ、つきあってなんかないよ。夕べ初めて会ったんだ。知明のクラスメイト。それに由紀乃には他に彼氏がいる」

 その言葉に、孝江も光司も目を丸くして驚いていた。

 その驚きの中に、初めて会ったばかりなのに、もうその人のところへ泊りこんだ軽い女の子というイメージがあるのではないかと私は恥ずかしく思った。女の子としては確かに軽率だったかもしれない。

 普段の私なら、初めて会った男の子とこんなふうに話したりしないし、ついていったりしない。

 竜介だからだ。知明の弟ということも含めて、竜介とは初めて会った異性という気がしなかった。


 竜介は、孝江たちの驚きを押さえてくれた。真剣な眼差しになり、声の調子を変えた。

「由紀乃はさ、オレの命の恩人なんだ」

 何を言い出すのかと思ったら、竜介はかなり大げさにそんな事を言った。

「ちょっと言い過ぎ」

 孝江と光司が疑問の念を向けた。


「由紀乃はさ、あいつとオレ、間違えたんだ」

「ちゃんとお兄さんとか、知明くんとかいいなさいよっ」 

 私はすかさずたしなめた。

 竜介は照れたり、意識するときちんと相手の名前を呼ばない癖があると気づいていた。私なんてお前の連発だった。

 孝江や光司とはこんなに和気あいあいとしているのに、実の兄をあいつ呼ばわりするなんて、と思う。


「ゆうべ、オレ、あっちの家を飛び出して、ずっと歩いてたんだ。頭を冷やそうとして、一時間くらいかな」

「うん、それは知明から電話があって、飛び出したことは聞いてる。それから帰ってこないから心配していたんだ。竜介、携帯の電源、ずっと切ってたろう」

と、光司がため息まじりにいう。

「オレさ、ボーとしてたみたいで、トラックが曲がってくることに気が付かなかった。そのまま交差点を渡ろうとしてた。そしたら、由紀乃が危ないって叫んでくれてさ。オレの目の前をでっかいトラックが走ってった」


 竜介がそう言って、孝江たちを見た。孝江と光司からは、笑みが消えていた。孝江は一際大きなため息をついた。

「やめてよね。救急車で運ばれてくる若い男の子を見るといつもドキッとする。光司か竜介か、それとも知明かって。そんなこと、あるわけないって思ってもいつもそうなの。別人だってわかると今度はその人の家族のことを考えると、胸が詰まる」

 孝江は疲れた表情を見せた。

「だから母さんは、体がきつくても救急にいるんだよね。夜中の救急で人手がほしいって電話がかかってくると、さっき帰ってきたばかりでも飛び出していくし。病院のすぐ近くにこの家を借りたのもそういう理由。すぐに駆けつけられるからって」

 ああ、そういえばすぐ目の前に大きな病院があった。そう思って改めて孝江を見た。

 孝江も真っ直ぐ由紀乃を見つめていた。

「由紀乃ちゃん、どうもありがとう。竜介を、どうもありがとう」

 孝江はそう言って、丁寧に頭を下げた。

 そんな大げさなことをしてもらったら、どうしていいかわからない。

「あ、いえ。あれは本当に偶然だったし」

「オレ、感謝の気持ちをこめて、ファミレスでケーキ、おごったぞ」

 光司が笑った。

「ケーキ?安易だな。まあ竜介らしいけど」


 孝江が竜介と由紀乃をじっと見ていた。まるで二人のいる空間全体を見るようにして。

「命の恩人か。なるほどね。だからなのかな」

 孝江が意味ありげで、意味不明なことをつぶやく。

「今朝、すんなりと起きられたのも、由紀乃ちゃんがここにきてたからかもしれない」

「はい?私が・・・・なんで?」

 孝江が、私の困惑に気づいたようだった。

「ごめん、変なこと言って。でも、今はちょっと早いかな。次に来た時に話す」

 光司も竜介も、なんだとばかりに肩の力を抜く。何かを期待していたような、明らかに何かを言われると構えていたようだった。

「次って、次がないかもしれねぇぞ。それでも今、言わないのかよ」

 竜介は少し苛立っている様子だった。


 孝江のなにか含む言い方に、それを今言わないことの意味、不可解だった。

「由紀乃ちゃんはね、またここへ来る。由紀乃ちゃんは、竜介だけじゃなくて、私たちにも深く関係してるからね。だから、来るなって言っても来ることになるよ」

「母さん、もういいよ」

 光司が母親をたしなめる。説明をしないのだったら、もうこれ以上言うなという口ぶりだった。

「本当にごめん。今はこれだけしか言えない。本当に私も混乱してる。ものすごいエネルギーが取り巻いている感じで」

 そう孝江に言われた。

 エネルギーと言った。それがもしかすると、私が感じている、どこか懐かしいこの空間なのかもしれないとなんとなく思った。


 光司がその場の雰囲気を変えるかのように、立ち上がった。

「ね、由紀乃ちゃん。よかったら昼ご飯食べてって。僕がなんか作る。嫌いなもの、あったら言って」

 泊めてもらったうえに、昼食までご馳走になって、こんなに甘えていいのかと思う。

「光司くん、プロだからさ、食べていけよ」

 竜介が、私の戸惑いを感じてくれた。竜介も割と敏感に私の心を読み取ってくれる。

「はい、じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になります。私、特に食べられないものはないんです。あったとしても、うちのルールは作ってくれた人に感謝して、出されたものは何でも食べるってことなんです。それって祖母が決めたルールですけど」

 みんなが黙って私の顔を見た。

 えっ私、なんか変なこと、言った?

 祖父母に育てられているから、友人たちにも時々言うことが古いとか堅苦しいと言われることがあった。

 光司が嬉しそうに言った。

「うちもだよ。そういう主義っていうか、僕がみんなの健康と栄養バランスを考えているから、好き嫌いとか文句は絶対に言わせないんだけどね」


 へ~えと思う。意外だった。この温和そうな光司にそんな一面があるとは思ってもみなかった。あれが嫌いって言えば、そのわがままを簡単に許してくれるイメージがあったから。



孝江の不思議な能力。竜介と由紀乃の空間を見つめています。

たぶん、運命を共にする人との出会いにはなにかがあると思います。

ちなみに私はその瞬間、オーラ(白い光)が見えました。普段はそういうものが見える体質ではないのに。

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