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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
みんな幸せそうに見えるけど、実は苦労して悩んでいるんです。
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第三話

「今日、ちょっと知明に頼まれたもんとか買って実家へ届けた。だけど、居合わせた母親とやり合っちゃってさ」


 今日は、たまたま安く買ったパンクっぽい黒いティシャツを着ていた。髑髏どくろマークにキラキラしたラメが入っている。テロテロした着心地が良かったから、それほど意識しないで着ていた。

 しばらく、知明と談笑していた。

 最近の様子、テレビの話、本、勉強のことも話した。母も今日は竜介が来るとわかっていたはずだった。

 夕食の買い物を済ませて帰ってきた母は、オレを見るなりそのシャツのことで顔をしかめ、ぐちぐちと文句をつけてきた。

 いつもの事だった。母はオレの顔を見るといつも何か言ってくる。だから最初はあまり気にしなかった。

 けれど、知明がオレをかばうように、

「でも、かっこいい。竜介に似合うのならボクにも似合うね」

と言ったことが、あの人の機嫌を倍以上に損ねた。

「冗談じゃないわ。品行方正の知明がそんな恰好するなんて」

 母はオレをきつい目でにらんだ。そして、吐き捨てるようにぼそっと言った。

「本当に竜介って悪影響しか及ばさないんだからっ」

 むっとしたオレはまた、言い返した。母も絶対に言い返してくる。そこから喧嘩になった。そのくらいならいつもの口喧嘩だった。

 母は決定的なセリフを言った。


「同じ顔でも知ちゃんとあなたとは違うの。あなたは孝江と本当によく似てる。見ているだけで私の神経を逆なでするところがっ」


 このセリフには、いつも黙って争いごとの蚊帳の外という顔をしている父親も顔色を変えた。知明も思わず立ち上がって何かを言おうとしていた。

 オレは既に逆上していたが、そんな父と知明の行動をしっかり見ていた。

 この二人には何も言わせないつもりだった。母の怒りは全てオレが引き受ける。いつもそうだったから。オレはこういう事に慣れている。そういう役割なんだから。


 みんなが母をたしなめるより早く、怒鳴っていた。

「叔母さんのことを悪く言うなっ。オレにとってはあっちが本当の家族なんだ。こんなに顔を見ればガミガミ言われる家よりずっといい。もうこんなとこ、二度と来ない」

 そう言って、オレは実家を飛び出していた。


 母は、叔母と比べられて、評価されることをものすごく嫌っていた。常に自分が上位にたっていないと気が済まなかった。

 年子の母と叔母は、幼いころからいつも比べられていたらしい。明るく朗らかな叔母は、他の大人に注目され、よく褒められた。どちらかというと不器用な母は目立たなかったらしい。そんな日常から、母はそれを全部叔母のせいにしていた。叔母は母よりも早く結婚し、従兄の光司を産んで離婚した。それでも不幸そうな顔を見せたことがなかった。あっけらかんとしているそういうところもすべて、母の気に入らないところなのだろう。


 よく祖母がこぼしていた。

「この姉妹は、とても同じ親から生まれてきたとは思えないほど、正反対な性格だ」と。


 由紀乃は黙って聞いていた。

 オレは、叔母や光司以外に母との争いを語ったのは初めてだった。どうして由紀乃にそんなことを言ったのか、自分でもよくわからなかった。

 あまり明るい話題ではないから、少し沈み気味の表情になった由紀乃は、黙ったままチーズケーキをつついていた。

 そして、隣の席においてあるカバンを見つめて、ポツリと言った。


「実はさ、私も今日、いろいろあったの。家族の顔がまともに見られなくて」

 オレは口に入れたハンバーグを咀嚼そしゃくしながら、由紀乃をみた。その表情の固さに、持っていたナイフとフォークを置いた。


「今日、本当は彼氏と会う約束していたの。でも、またすっぽかされて・・・・・・。家へ帰ったらおじいちゃんとおばあちゃんが私のことを話していたの。あ、私ね、親がいないの。母は結婚しないで私を産んで、その数時間後に亡くなった。父はわからない。祖父母に育てられたの」


 由紀乃は自分の、結構、固唾を飲んで、手に力が入るくらいに不幸なことを淡々と話し始めた。

 彼氏が、由紀乃とのデートに来なかったって?

 世間一般じゃ、そんなことも不幸なうちに入るだろう。由紀乃にそんな思いをさせるなんて、許せない。

 両親がいない。母は亡くなっていて、父親もわからないそうだ。それってかなりのレベルで不幸だろう。

 まあ、オレも実の親と一緒に暮らしていないわけだし、それでもそんなに自分が不幸だとは思っていない・・・・かも。

 親って何だろうって思う。親がなくても子は育つなあ。



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