58話・二人は元夫婦でした
「お祖父さまはわたくしの訪問の付き添いで来たはずなのに……」
「あとでいっぱい、叔母さまとお話しすれば良いわ」
と、慰めるように言ったが、その機会は現れなかった。二人だけで話が盛り上がり、なかなか口を挟める様子ではなかった。そればかりか母までが、
「お二人で庭でもご覧になってきたら如何かしら?」
と、ユベールとキャトリンヌを二人きりにさせたがる。あの玄関先での、花束の影響が大きいらしいようだ。
無情にも時間だけが過ぎ去り、アンジェリーヌはあまりキャトリンヌと話せなかった。ハラハラしてキャトリンヌ達を見ていたジネベラだったが、ユベールが今度は「我が家にでも……」と、お誘いをかけてくれた時に、キャトリンヌが断ったのが意外だった。
それを聞いてがっかりしたようなアンジェリーヌに、キャトリンヌが「またいらっしゃい」と、声をかけ、「今度はお目付役なしでね」と、ユベールがいる前で言ったのが可笑しかった。
二人が帰った後、キャトリンヌは自室に戻ってしまい、応接間には母とジネベラだけが残っていた。
「お母さま。叔母さまと薬師長さまはこの間、初めて顔を合わせたばかりだと思うのに、旧知の仲のように親しかったわ」
「初めての仲ではないわよ」
「えっ? お知り合いだったの?」
道理でキャトリンヌがナーリック医師と会って話すときに、「ユベール」という名前が、ちょくちょく上がったわけだと思った。
それにしては納得がいかないものがある。王都で出会った際に二人は初対面のように挨拶していたのは何故なのだろう?
「でも、この間会った時にお二人は──」
「気まずかったのではないかしら? 一度は夫婦だったお二人だもの」
「……!」
母マーサはさらりと真実を暴露した。キャトリンヌがオロール先代公爵の妻だった?
「えっ? じゃあ、アンジェは……? 二人の孫?」
「残念ながら叔母さまは子供が出来なくて……、3年で離婚させられたの」
マーサにアンジェリーヌとの繋がりを聞けば、首を横に振る。アンジェリーヌが孫ではないと言うことは、ユベールはキャトリンヌと別れた後、他の女性と婚姻したと言うことだ。
「そのことを知っているのは──?」
「この家では旦那さまと私ぐらいよ。親戚でも覚えている人はごく僅かだと思うわ」
あの頃は時代が悪かったのよと、母がため息を漏らす。
「今ではそのようなことはないけど、当時は結婚して3年で子供に恵まれないと、妻は離縁されて当然とされていたしね。叔母さまは16歳で嫁いで3年で出戻ったの」
「低位貴族出身の娘が、公爵家に嫁ぐって周囲の目も厳しかったでしょうね?」
「相手は王族だからね。なかなか当時の両陛下が認めて下さらなくて、婚約時には花嫁修業と称していびられた事もあったみたいだわ」
その母の言葉で、ジネベラは先代オロール公爵の立場を今更ながら思い出した。




