59話・薬師長さまって最低
先代オロール公爵は現在の王の叔父にあたる。つまり元は王子さまだったのだ。兄王子が王座に就いた際に、臣下に下り公爵家を興した。
高位貴族ですら低位貴族と縁付くのを避けるのに、王族なら尚更、嫌がられたことだろう。キャトリンヌは相当苦労したということだ。
「大変な日々を過ごしておいでだったのね」
事情を知るマーサは、ユベールの態度から何か察したものがあったようだ。
「叔母さまは望まれて婚姻したのだもの。幸せになって欲しいのよ」
母の呟きが静かな室内に満ちた。ジネベラもキャトリンヌには幸せになって欲しいとは思っている。でも、ユベールと復縁することが、望ましいかどうかは分からない所だ。
母はキャトリンヌが望まれて婚姻したと言ったが、叔母を望んで婚姻したはずの相手には現在、息子やその子供達がいる。
つまり離縁後、他の女性と一緒になったということだ。
いくら親に逆らえない時代背景があったとしても、低位貴族の娘であったキャトリンヌを、妻に望んだ時点で周囲の批難は覚悟の上だったのではないか。
中途半端に叔母と婚姻し、都合が悪くなったからと切り捨てたようにしか感じられず、嫌悪の気持ちが湧いてきた。
「薬師長さまって最低。わたしは反対よ」
「ベラの気持ちも分かるけど、叔母さまの気持ちが大事よ」
「叔母さまだってあんな人を好きなはずがない。だから今までこの国になかなか帰って来られなかったんじゃないの?」
薬師長との仲を、応援する気にはなれなかった。例え、お相手が現在独身だったとしても。
「わたしは叔母さまとの仲を認めないわ」
「ベラッ」
「だって今までだって、会おうと思ったら会えたじゃない。それなのにどうして今まで叔母さまを……!」
ジネベラは応接間を飛び出し、自室に飛び込んだ。キャトリンヌはナーリック医師の元を訪れ、きまってユベールのことを話題に出していた。今思えば未練があったのだと思う。
キャトリンヌは、ユベールのことを忘れられなかったに違いない。そう思うと大叔母が不憫に思われてならなかった。




