54話・ナーリック医師も意外に過保護です
「まあ、七色モモンガね?」
「そうよ。モモちゃんと、キミドリちゃんよ」
それから三日後。ジネベラはお隣に住むナーリック医師のもとをキャトリンヌと一緒に訪れていた。以前からキャトリンヌはナーリック医師と懇意にしていて、バリアン男爵家に帰ってくると、ナーリック医師にもお土産を持参していた。
今回も伺うと、バーノがピンク色のフクロモモンガと、黄緑色のフクロモモンガを連れてきていた。二匹には色から取ったそれぞれ「モモ」と、「キミドリ」の名前が付いていると、ジネベラはキャトリンヌに教えた。
「キミドリちゃん。良かった。元気になったのね?」
ナーリック医師に通された応接間で、モモはジネベラの膝の上にちょこんと収まり円らな瞳で、ジネベラの隣に並んで三人掛けのソファーに腰掛ける、キャトリンヌを見上げていた。
キミドリは、ジネベラ達と向かい側の椅子に座っているバーノの肩の上にいて、興味深く皆を観察でもしているようだった。
「キャトリンヌ。三年ぶりじゃな。元気にしておったか?」
「ええ。変わりなく。そちらも元気そうで」
「今回は騒がしくしておるわい」
ナーリック医師と、キャトリンヌの目がバーノへと向く。二人はキミドリを見たのかも知れないが、バーノは恐縮していた。
「すみません」
「謝らないで。あなたがナーリック医師の孫のバーノくんでしょう? ベラからも話を聞いているわ。この子と仲良くしてくれてありがとう」
「僕もキャトリンヌさまのことは祖父や、アンジェから聞いていました。お会い出来て光栄です」
「そう言えば3年前にこちらに伺った時は、あなたは不在だったわね?」
「息子の家にお邪魔していた。嫁が倒れて寝付いたものだからそれに付ききりになっておったな」
「そうだったの。それでお嫁さんは?」
「残念ながら……」
「そう……」
ナーリックは首を横に振った。キャトリンヌはその先を聞かなかった。
「嫁は体力がなくて、子供の頃から病弱で寝付きやすかった。それだからユベールも過保護になりがちで……」
ジネベラはナーリック医師の口から出た「ユベール」と、言う名前で納得した。その名前を初めて聞いた気がしないと思ったのは、キャトリンヌとナーリック医師の話にちょくちょく登場する人物の名前だったからだ。
幼い頃からよく登場していたが、大人の話で子供が聞いても良く分からなかった。でも、二人の話に登場していたユベールは、あまり印象の良くない感じがしていた。
きっとキャトリンヌは、薬師長との間に何かあったのかも知れなかった。
「その愛娘の残した一粒種がこいつだ。薬草学科を志してあいつも喜んでおる」
「あなたも、でしょう?」
「まあな」
キャトリンヌは、ナーリックと顔を見合わせて笑った。世間の海千山千に揉まれてきた二人に注目されて、居心地が悪く感じられたのか、バーノは椅子から立ちあがった。
「モモとキミドリが室内だと窮屈そうだから、僕達は外に出てくるよ。行こう、ベラ」
「バーノ。あまり遠くに行くなよ」
「分かっている」
ナーリック医師は、ユベールが過保護だと言っていたが、バーノにかけた言葉からして、彼自身もそうではないかとジネベラは思った。




