①①⑤
キャンディスは血を払ってからダガーを持って静かに移動する。
そして後ろから二人の足を素早く突き刺していく。
両手だとスピードが落ちてしまうが、死角からの攻撃にたまらず膝を折る男たち。
その隙にキャンディスは子どもたちの手を取り走り出す。
「こっちよ……丘の上にみんないるわ! 早く走ってっ」
「キャンディス……!?」
マクソンスが驚くようにキャンディスの名前を呼んだ。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で男の子たちはキャンディスに誘導されるがまま駆け出していく。
「テメェら、何やってんだ!」
「この……クソガキィ!」
腕を刺された男が反対側の手でキャンディスに襲いかかってくるが、軽々とかわして足の甲を刺す。
力が入るにはこうするしかないと無意識に体が動く。
「ぐわっ……!」
「クソがあぁあっ」
苦悶する三人の男たちを見て、キャンディスは鼻で笑いながら血に濡れたダガーを払って鞘にしまった。
背に隠しながら何事もなかったように姿を現す。一気に形成逆転である。
「神父様、マクソンスお兄様! 人質はいなくなりましたわ」
神父とマクソンスは目の前にあった剣を拾ってから男たちを斬りつけた。
しかしリーダー格の男たちはキャンディスが倒した下っ端とはまったく違う。
一筋縄ではいかないのだろう。
マクソンスも震える腕で相手に斬りかかるが、怒りからか隙ができているようだ。
あっという間にマクソンスは押されていく。
「……ぐっ!?」
「マクソンスお兄様……っ!」
「妹か? 高く売れそうだな」
ゴロツキは舌舐めずりをしている。
寒気を感じたキャンディスは一歩後ろに下がる。
マクソンスが尻もちをついた瞬間、ギーグ神父の「ミュリエル……ッ」と叫ぶ声が聞こえた。
キャンディスがギーグ神父の視線の先を見ると、ミュリエルがナイフを持っている。
吐く息は荒く、目は血走っているではないか。
まっすぐにリーダー格の男を見つめていた。
キャンディスはこの表情をよく知っている。
憎しみを込めながらキャンディスを見ていた者たちがたくさんいたではないか。
ミュリエルはナイフを向けてゴロツキたちに走っていくのが見えた。
しかし防具に阻まれてしまいミュリエルは尻もちをつく。
それでも何度もリーダー格のゴロツキに向かってナイフを振り上げるがあっさりと返り討ちに合ってしまう。
「この髪色……ハハッ、よく覚えているぞ! あの母親の子どもだなぁ?」
「……っ」
「こりゃあいい、コイツも高値で売れるぜ!」
舌なめずりをした男はミュリエルの髪を掴んで引き上げる。
足をばたつかせるミュリエルになす術はない。
(もしかして……ミュリエルの母親を殺したゴロツキってコイツなの!?)
そう考えれば、ミュリエルが刃物を持ち出した理由もわかる。
ギーグ神父がミュリエルを助けようと向かっていくのだが、ミュリエルを前に出されて怯んでしまう。
その隙に違う男に肩から胸を斬られてしまう。
膝をついた神父を見てマクソンスが叫ぶ。
「──師匠!」
「……マクソンス、殿下……っ、剣をっ」
そんな声も掻き消されるようにして殴られてしまう。
「殿下、だとよ! こんなところに皇子がいるわけねぇだろうがっ」
「ギャハハ、もう少しマシな嘘をつけよ!」
マクソンスは彼らに胸元を踏み潰されている。
形成逆転かと思いきや、あっという間に追い詰められてしまった。
「あっ、兄貴……このガキ、なんかおかしいんですっ」
斬られた男たちは何かに勘付いているのだろう。
キャンディスを指差して訴えかけている。
「あ゛? そんなわけねぇだろ、こんなクソガキッ」
「ハハッ、売っぱらって終わりだ」
リーダー格の男は笑いながらキャンディスを見ている。
どうやらキャンディスがダガーを使って攻撃したとは思ってないらしい。
気づいているのはキャンディスに刺された下っ端三人だけだ。
(油断してくれたのはいいけれど……ミュリエルをどう救いましょう)
キャンディスはダガーは背で持ちながら一歩、また一歩と後ろに下がる。
先ほどキャンディスが刺した音たちも足を引きずりながらこちらに向かってくるではないか。
さすがにこの体で男たちに勝てる自信はないが、助けがくるまでは持たないだろう。
「逃げ、ろ……キャンディ……スッ」
「逃げて……ぐっ!」
余計なことを言うなと言わんばかりにマクソンスは足で踏みつけにされてギーグ神父は思いきり殴られてしまう。
「こんな目に遭いたくはないだろう? 大人しくしていれば悪い思いはしないぜぇ?」
「……っ」
「さぁ……こっちに来い!」
キャンディスは怯えたふりをしつつ、小さく首を横に振る。
「おいっ! このエセ神父とガキをぶっ殺してさっさと帰るぞ」
「後悔するぞっ! この方たちは……っ」
リーダー格の男が神父を蹴り飛ばし、キャンディスに背を向けた時だった。
「──アニキ、危ないっ!」
キャンディスにゴロツキが刺された男たちが声を上げる。
彼は振り向いてキャンディスに視線を戻す。
だが、キャンディスはもうそこにはいない。
ダガーの鞘を捨てて、キャンディスは素早く男の背後へと潜り込む。
そして容赦なく股下を突き刺していく。




