①①③
シスターが子どもたちを抱えて馬車に乗せていく間に御者に状況を説明していく。
自警団を呼んでもらい、余裕があれば王宮から騎士たちを呼ぶように指示を出す。
「すぐに動いてちょうだい!」
「は、はい! わかりました」
子どもたちを馬車に乗せている途中、シスターが持っていた短剣がコトリと地面に落ちる。
だけど彼女は子どもたちに夢中で気がついていないようだ。
全員乗り終わったことを確認して、シスターも乗り込むように背を押すがもう馬車はパンパンだった。
「早く出してちょうだい!」
「で、ですが……っ!」
「いけませんわ! 皇女様、わたしが降りますから」
「あなたがいなければ、街までの道がわからないじゃない。それに御者が人攫いだと勘違いされたら大変だもの」
「……!」
「説明している時間はないはずよ。急いで助けを呼んできて! なるべくたくさん」
キャンディスの言葉に動揺している御者はさすがに納得できないようだ。
馬車は走る出す気配はない。
「わたくしは残った子どもたちを連れてこの辺りに隠れているわ」
「……そんなっ」
「必ずわたくしを迎えにきなさい。いいわね?」
馬車の中では状況がわからない子どもたちが泣き出してしまいひどいあり様だった。
アルチュールもキャンディスと離れることが不安なのか、泣いている。
御者は「すぐに戻りますから隠れていてくださいね!」と言い残して、馬車を出発する。
キャンディスはホッと息を吐き出した。
(今はこれが最善なはず……! 街まではそう遠くないはずよ)
馬車が見えなくなった瞬間、キャンディスはシスターが落とした短剣を手に取った。
今のキャンディスなら、何があっても自分の身くらいは守れるはずだ。
久しぶりに感じる重みと金属の匂い。鞘を抜くと尖った刃が見える。
ハンドルは柄が擦れており、細身で握りやすい。
(かなり使い込まれているわね。なかなかいいダガーね)
ダガーは主に突き刺すために設計された刃の短い刺突武器だ。
つまりレイピアを使う前にキャンディスが使っていた武器である。
尖った刃が特徴的で騎士が接近戦における補助武器として使用するものだ。
けれど十歳でこちらを持っていたキャンディスだが、六歳のキャンディスには重すぎる。
(片手で持つには重たいけれど、なんとか大丈夫かしら……)
キャンディスはダガーを持ってから孤児院へと戻ろうとするものの、ワンピースのスカートが邪魔でうまく走れない。
(物を大切にした方がいいってエヴァとローズは言っていたけど、今は緊急事態だから……フンッ!)
キャンディスはワンピースの裾をダガーを使って思いきり引き千切る。
これで少しは動きやすくなったはずだ。
(まずは子どもたちを逃すのが先……! このわたくしが誰も死なせないんだから)
以前は鼻で笑っていただけだろうが、キャンディス自身がこの子どもたちを助けたいと思った。
だけどこの体で何ができるのだろうか。
レイピアを極めた体ではない。今は知識があるだけだ。
孤児院から聞こえる野太い笑い声にギュッと唇を結ぶ。
(上に立つ者として、下々の者たちを守るのは義務よ! そうよね、キャンディス)
自分の気持ちを奮い立たせてから動き出す。
(わたくしにできることをする。いい皇女ならそうするわ……! 本のレティーだってそうだった。彼女はそうやって愛されていったんだから)
彼らは両親もおらず、食事も満足にできないまま過ごしている。
愛も知らずに身を寄せ合って助け合いながら生きているのだ。
何も持っていなくたって彼らはキラキラ輝いて見えた。
それなのにこのまま命を落としてしまうなんてあんまりではないか。
キャンディスは無意識に子どもたちを自分と重ねてしまう。
味方もおらず、誰にも味方もされることなく、たった一人で死んでいったキャンディス。
キャンディスは悪いことばかりしていた。
だけどこの子たちは何も悪いことはしていない。
ただただ幸せになって欲しいと思った。
キャンディスは先ほど丘を越えて大きな木のそばを通り過ぎて全力で走っていく。
途中で隠れて泣いている子どもたちはキャンディスが約束した丘の上、大きな木にシスターたちが助けがくることを伝えていく。
マクソンスと同じくらいの男の子がアルチュールと同じくらいの子を抱えて走っていく。
(あと八人……!)
キャンディスは声のする方へと向かう。
テーブルの下にいる子どもたちにも同じように声を掛ける。
今度は泣いていてキャンディスの声が届かない。
苛立ちと焦りを感じながら、キャンディスはあることを思いつく。
「神父様とマクソンスお兄様が悪者をやっつけているの。あなたたちは助けを呼ぶ係よ。そうしたらわたくしを助けにきてちょうだい!」
「わ、わかった!」
アルチュールに言い聞かせるように言うと、鼻水と涙を拭って動いてくれたようだ。
これで子どもたちはミュリエルを含めてあと六人となる。




