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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 八王亭楽太郎
第八部【チャヅケ川の戦い】
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第423話 決戦、チャヅケ川の戦い 〜制裁〜

「失せろっ! この化物がっ!」


「俺たちだって総帥様から力を授かったんだ! 貴様ごときに負ける筈がない!」


 改革戦士団の戦闘長たちはそう言いながら、突撃してくる青鬼(ヨネシゲ)の行く手を阻む。


 戦闘長たちの基礎能力は、かつてヨネシゲたちが戦ったグレースやチェイス、ロイドたちに匹敵、若しくはそれ以上だ。


 そんな彼らにマスターは『強化の空想術』を用いて身体能力・空想術能力を桁違いに増幅させた。

 その力は、素の状態のダミアンや四天王たちを凌駕するほどだ。

 

 今日までマスターは、幹部以外の者に『強化の空想術』を用いることはしてこなかった。それは烏合の衆と呼べる集団に強大な力を授けるのは危険だと判断した為である。


 改革戦士団は一枚岩ではない――マスターはそのことを最も理解している人物であった。


 しかし、今回のチャヅケ川決戦は、改革戦士団にとっても決して負けられない戦い。マスターはリスクを承知で下級団員にも力を与えた。それだけ彼が今回の戦いに全力を注いでいる証拠である。




 そして、マスターの期待を背負った戦闘長たちが強大な力で青鬼に攻撃開始。


 ──振り下ろされる一撃必殺の戦斧。


 ──連射された殺人光弾。


 ──地をも溶かす灼熱火炎。


 例え歴戦の猛者であっても、これらの攻撃を受けたら無傷で帰ることは叶わないだろう。いや、絶命は必至だろう。


 しかし。

 青鬼にとって彼らの攻撃は肩叩き、豆鉄砲、生ぬるい温泉程度にしか感じられない。


 猛攻を浴びても歩みを止めない青鬼。その姿に戦闘長たちが恐れ慄く。


「だ、だめだ……奴は……本物の化物だ……!」


「な、何ビビってやがる!? 攻撃の手を緩めるな!」


 尚も戦闘長たちの攻撃が続くが――


「悪いが……俺の邪魔をする者は消えてもらう!」


 青鬼はそう告げると両腕を大きく広げた。そして――


 パン! と、両手を勢いよく叩いた。


 次の瞬間。

 戦闘長たちの左右両方向から強烈な風圧。空気の壁と壁に挟まれた彼らは一瞬で圧死。まるで叩き潰された蚊のようだ。


 難を逃れた戦闘長たちが怯えた様子で後退り。そんな彼らに青鬼が言い放つ。


「俺の前に立ちはだかる者は何人(なんぴと)たりとも容赦はしねえ! 命が惜しければ直ちに大人しく投降しろ! それがお前たちの唯一助かる道だと思え!」


 すると青鬼の言葉に揺らいだ一部の戦闘長、戦闘員たちが両手を上げ、両膝を地に着けて、降参の意思を示す。


「お、大人しくするから……命だけは取らないでくれ……」


「ど、どんな刑でも受け入れる! だから手荒な真似はしないでくれ!」


 紛れもない彼らの本心だろう。だまし討ちをする訳でも無さそうだ。

 そう判断した青鬼は、兵士たちに戦闘長たちの捕縛を命じようとした――その時である。


「「「「「ぎゃあああああっ!!」」」」」


「!!」


 突然、投降した改革戦士団員たちが赤色火炎に包まれる。

 瞬く間に彼らの身体は焼かれ、灰と化してしまった。


(この炎は……!)


 青鬼は上空を睨む。


「ウッヒッヒッ! ヨ〜ネさん、ウチの雑魚共が失礼したな」


「相変わらずやることが腐ってやがるな……ダミアン!」


 そこには仇敵――ダミアン・フェアレスの姿があった。




 ――同じ頃。

 サンディ・クボウ連合軍に突っ込んでいく邪悪なる二人がいた。


 一人は、リーゼント頭の全身刺青男は――改革戦士団四天王『チャールズ』。元海賊の首領として世界各地で残虐非道を働いてきた大悪党である。


 もう一人、金色長髪のサングラス男は――改革戦士団四天王『アンディ』。人を欺き、操り、世界各国を荒らしてきた詐欺王だ。


 マスターにスカウトされ、組織の四天王に抜擢された彼らの実力は折り紙付き。

 更には、マスターが師匠と呼んで崇拝する大空想神『サミュエル』から神話級の力を授かった。


 ――今のチャールズとアンディは無敵と言っても過言ではない。


 故に、一般兵が勇敢に挑んだところで結果は知れている。


「覚悟しろっ! 貴様らの侵攻は我々が食い止めるっ!」


「雑魚がっ! やれるもんならやってみやがれっ!」


 全身に寒色のオーラを纏った兵士たちが武器を構えて突進。一方のチャールズは不敵に顔を歪めると、振り上げた湾曲した剣(カットラス)を地に向かって振り下ろした。


 刹那。

 青の閃光が稲妻の如く一直線に地を走る。進路上にいた兵士たちは一瞬で血飛沫へと姿を変えた。

 やがてチャールズの遥か前方、青の閃光が行き着いた先で、空間全体を揺らす凄まじい爆発が発生。

 もしそこに街があったら……攻撃を逃れた兵士たちが顔面蒼白で棒立ちしていた。――その彼らにも悪意が襲い掛かる。


「ほ〜ら。そんなところで突っ立てないで、早く逃げないと死んじゃうよ〜?」


「「「「「!!」」」」」


 兵士たちが振り向くと、ペンデュラムを振るアンディの姿が目に飛び込む。そして――


「君たちは……段々と……飛散したくな〜る――」


 アンディが振るペンデュラムを一瞬でも見てしまったら最後。彼の言葉通りに身体が従ってしまう。


「ぐうっ! か、身体が……」


「ふ、膨らんでいく……」


「は、破裂っ……しぢまゔーっ!!」


 直後。

 アンディの言葉通り彼らの身体は飛散――破裂して肉の破片となった。


 一斉に逃げ出す兵士たちの後ろ姿を眺めながら、チャールズとアンディが愉快そうに笑う。


「ヒャッハーッ! なんてスゲェ力なんだ! まだ半分も力出してねえのによっ!」


「クックックッ。ホントだねえ〜。人を殺るのがこんなに楽になるとは、この先苦労することはもう無さそうだ」


「だな。けどよ、張り合いがねえのもつまらねぇな……」


 チャールズが退屈そうに欠伸をした時だ。青年の勇ましい声が響き渡る。


「これ以上、貴様らの好きにはさせんぞ!」


「何だぁ? オメェは?」


 チャールズとアンディが視線を向けた先。そこには声の主である青髪の青年――『アモール』の姿があった。つい先日までカルムタウンの復興に携わっていたサンディ家臣である。


 そしてもう一人。アモールの隣には中年の大男。サンディ家臣の一人『ラッセル』が居た。『人かきラッセル』の異名を持つ、アモールやノアと肩を並べる猛者だ。


 チャールズから正体を尋ねられたアモールとラッセルであったが、答えることもなく。四天王への攻撃を開始する。


「答える必要はない!」


「おうよっ! お前らはここで成敗されるのだからなっ!」


 地面を蹴ったアモールとラッセル。


 アモールは得意とする『雪の空想術』で足場を雪のフィールドに変える。


「うわっ! 冷たっ! 寒いじゃんかっ!」


「足が雪に埋もれちゃったよ〜」


 チャールズとアンディの文句などには耳を傾けず。アモールは更に空想術を駆使して雪の巨人を何体も形成。雪巨人たちは雪の大剣を振り上げてチャールズとアンディに斬りかかった。


 そしてラッセルは自慢の剛腕と脚力で地面の雪を押しながら四天王に突撃。ラッセルによって押された雪は次第と高さを増し、雪の壁となってチャールズとアンディに迫っていく。


 だが、四天王の表情は余裕だった。


 チャールズが迫りくる雪巨人と雪壁を見つめながら、ため息を漏らす。


「ハァ……ザコ過ぎて話にならねえよ……」


 その隣でアンディが薄ら笑いを浮かべる。


「フフッ。派手にやっちゃってよ、チャールズ」


「任せとけ」


 チャールズはニヤリと歯を剥き出すと、湾曲した剣(カットラス)を軽く一振り。


 次の瞬間。

 湾曲した剣(カットラス)から放たれた青の斬撃が雪巨人、雪壁を瞬時に破壊した。


「「!!」」


 斬撃はそのままアモールとラッセルに襲い掛かった。


 舞い上がる血飛沫。


 気付くと、サンディ家臣の二人がうめき声を漏らしながら倒れ伏していた。

 まだ息があるのは、彼らが咄嗟にバリアを発動して、斬撃の威力を半減できたからである。

 もし、チャールズが本気の斬撃を放っていたら……二人は今頃絶命していたことだろう。


 いずれにせよ、アモールとラッセルはたった一撃で戦闘不能。自力で立ち上がれる状態ではない。


 悔しそうに顔を歪めながら睨むサンディ家臣に、チャールズが嘲笑を見せる。


「所詮、貴様らはザコってことさ。俺はザコに本気を出すことはねえ」


「畜生……」


「ま、ザコとはいえ、俺の攻撃に耐えたことは誇ってもいいぞ?」


 チャールズはそう言いがらカットラスを振り上げる。


「そんなオメェらを称えて、俺が直々に処刑してやろう」


「くっ……くそっ……」


「もはや……ここまでか……」


「俺に歯向かったこと、地獄で後悔するんだな――」


 己の死を悟ったアモールとラッセル。無情にもチャールズのカットラスが振り落とされる。その背後ではアンディが愉快そうに顔を歪めていた。


「あばよっ!」


「ぎゃああああああっ!!」






「!?」


 その悲鳴はチャールズの背後からだった。

 振り返ると、地面から突き出るいくつもの氷柱がアンディの身体を貫いていた。


「あがっ……あ……あががが……」


「アンディ!?」


 アンディは口鼻から血を流し、苦悶の唸りを轟かせながら――力尽きた。


 突然の出来事に呆然とするチャールズ。すると透き通るような少年の声が耳に届く。


「――これ以上、私の可愛い家臣たちを傷付けるような真似は許しませんよ」


「貴様は……守護神っ!」


 チャールズが頭上に視線を移す。

 そこには冷たい眼差しでこちらを見下ろす、猫耳を生やした銀髪少年――ウィンター・サンディの姿があった。


 トロイメライの守護神は、倒れた家臣たちを守るようにして降臨する。


「「旦那様……!」」


「ここは私に任せてください――」


 ウィンターは一言そう告げると、救護班に家臣たちを託した。


 その様子を凝視するチャールズが、引き攣った顔で笑いを漏らす。


「ヘヘッ……探す手間が省けたぜ。オメェ自ら俺の前に現れてくれるんだからよぉ」


「そうでしたか。それで? 私に何の用ですか?」


 無表情で尋ねる守護神にチャールズが声を荒らげる。


「とぼけるなっ! 貴様を殺るために決まってるだろうがよっ!」


「そうですか。ならば……本気で掛かってきなさい」


「舐めやがって……!」


 ウィンターは挑発するように口角を上げる。一方のチャールズは激昂。

 全身から濃青の炎を放ちながら、守護神目掛けて突撃。


 大きく振り上げたカットラスをウィンターの脳天に振り落とす。


「オラッ! 死ねっ!」


 一刀両断。

 ウィンターの身体に青の閃光が走る。同時に地面には亀裂が生まれ、カットラスを起点に爆発が発生。その衝撃は凄まじく、斬撃を繰り出したチャールズ自身も吹き飛ばされてしまった。


 地を転がるチャールズだったが、すぐに体制を立て直し、片膝をついた状態で前方を睨む。


「ザマァみやがれ! 俺本気の一撃、思い知ったか!」


 渾身の一撃を食らわせた。

 守護神と呼ばれた少年とはいえ死は免れない。

 チャールズは勝ち誇った様子でニヤリと口角を上げた。


 やがて閃光が収まると――リーゼントの顔が青ざめた。


 地面を四方八方に走る亀裂。その起点には、今もなお冷たい眼差しでチャールズを睨む銀髪少年の姿があった。


「な、なんで……生きているんだよ……」


 狼狽えるチャールズに守護神が言う。


「おや? 今のが本気ですか? ご冗談ですよね?」


「ふ、ふざけるな……こんなことは……あっちゃいけねえっ! あっちゃいけねえんだよおおおおおっ!!」


 絶叫のチャールズがカットラスを構えて疾走。再びウィンターに斬りかかった。しかし――


「ハッ! ハッ! クソッ! なんで斬らねえっ!?」


 チャールズが何度斬りかかっても、カットラスはウィンターの身体をすり抜けてしまう。


「……クッ。これがスペースバリアってやつか……」


 チャールズが問い掛けるように言葉を発するも、ウィンターは答えず。その瞳を青白く光らせる。


 直後、周囲を極寒の冷気が支配する。


「貴方の地獄行きはこの空間……『裁きの領域』に足を踏み入れた時点で確定しています――」


「うわっ!?」


 地面から突き出てきた無数の手――氷の手がチャールズの身体を掴む。


 チャールズが氷の手を振り払おうと暴れる。しかし彼が空気を吸った瞬間、その表情が悶絶したものに変わった。


 守護神はリーゼントの顔を見つめながら冷笑する。


「――言い忘れましたが、この極寒の中で呼吸などしようものなら、瞬時に肺が凍りついてしまいますよ」


 もがき苦しむチャールズにウィンターが氷の剣を構える。


「苦しいですか? ならばこれで終わりにしてあげましょう。これ以上貴方を苦しめてしまったら、人の道に外れてしまいますからね。

 ですが……あなたが今日まで殺めてきた罪なき人々は、もっと苦しい思いをしながら最期を迎えていきました。それだけは理解してください」


「知るかぁ……ボケがぁ……」


「ハァ……救いようがありませんね――」


 声を振り絞り悪態をつくチャールズ。それを見たウィンターはため息を漏らした後、神速をもってチャールズの首を刎ね落とす。


 絶叫の表情のまま地面に落下したリーゼントの頭部は、息絶えても守護神を睨んでいるように見えた。


 その様子を横目にしながら、ふわりと現れた阿修羅──重臣ヒョーガが主君に声を掛ける。


「お見事。私の出番はありませんでしたな」


「ヒョーガ」


「なんでしょう?」


「ボンレス卿があの二体に押されています。至急援護を――」


 ウィンターが視線を向ける先には、サラとソードが召喚した想獣『破壊神オメガ』と『海の魔王アビス』相手に劣勢を強いられたいるダイダラボッチ――ライス領主『マッチャン・ボンレス』の姿があった。


「御意」


 主君の命令を聞いたヒョーガは、透かさずマッチャンの援護へと向かった。


 一方のウィンターは上空を見上げる。そこには先程から向けられる()()()()()が君臨していた。


「只者ではありませんね。一体、どこから入って来たのでしょう……」


 ウィンターは八切猫神の肩に飛び乗り上空へと向かう。


 強大な悪意――『ゴッドキングダム』の元へ。



つづく……

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