第385話 風呂上がり
――サンディ家屋敷・男湯側脱衣所。
その広い部屋の一角では、男たちがパンツ一丁姿 (一名だけ褌一丁姿) で瓶に入った乳飲料を一気飲みしていた。
キンキンに冷えたそれは温泉で火照った身体を程よい具合にクールダウンしてくれる。
「――くぅ〜っ! やっぱり風呂上がりはコーヒー牛乳に限るぜ!」
ご満悦の笑みを見せるヨネシゲの隣では、瓶の中身を飲み干したドランカドが唸る。
「う〜むっ! 格別ッスねっ!」
「だな! お前は何を飲んでたんだ?」
「俺ッスか? 俺は普通の牛乳ッス。コイツが一番サッパリしてて余計な甘さもなくゴクゴクいけるッスよ!」
「……そうか。ドランカドは牛乳派か。それもありだな」
コーヒー牛乳ゴリ押しの角刈りであるが、キンキンに冷えたサッパリ牛乳も捨てがたい。
角刈りが周囲に目をやると、皆が手に持つ瓶のラベルは自分と異なるものだった。
ヨネシゲと同じくコーヒー牛乳をチョイスした者は――ジョーソンのみ。
牛乳は――ドランカドとドーナツ屋。
フルーツ牛乳は――ヒュバートとノア。
そして――
「陛下は何を飲まれているのですか?」
「……俺か? ――イ、イチゴ牛乳……だ……」
どこか恥ずかしそうに頬を赤らめるネビュラの隣では、白色の褌一丁で仁王立ちしながら、瓶の中身を飲み干す白塗り顔の姿。
「マロウータン様は何を選んだのですか?」
角刈りが問い掛けると、マロウータンは持っていた瓶を見せつける。
「ウホッ。勿論……バナナ牛乳じゃ☆」
キンキンに冷えた乳飲料を堪能したヨネシゲたち。気付くと火照っていた身体からは汗が引いていた。
「ヨッシャ。汗も引いたしそろそろ服でも着るか」
「そうッスね」
一同、棚まで移動すると、カゴに入った着替え――『浴衣』を手に取る。これはサンディ家の厚意で贈呈された代物だ。
(浴衣を着るのは、五年くらい前に行った社員旅行以来だな……)
早速、角刈りは久しぶりの浴衣に袖を通す。
「おお、軽くて着心地抜群だぜ!」
「おっ! ヨネさん、浴衣似合ってますね〜」
「ヘヘッ、そうか? そういうドランカドも似合ってるぜ」
男性陣に贈呈された浴衣は薄青、薄緑、薄灰、黄金の四色。雪の結晶をあしらった柄がアクセントとなっている。
ヨネシゲは薄灰色、ドランカドは薄緑の浴衣を着こなし、お互い新鮮な姿を見せ合いっこしていた。
ちなみに――
ジョーソンは薄灰色。
ヒュバートが薄青色。
マロウータン、ネビュラ、ドーナツ屋ボブは黄金色の浴衣を身に纏っていた。
(ジョーソンさんとヒュバート王子の浴衣姿も新鮮だな! それにしても……流石に黄金色は派手だな……つか、黄金色の比率高くねえか?)
角刈りは黄金色の浴衣を見つめながら苦笑を浮かべるのであった。
尚、サンディ家臣ノアはこの屋敷が自宅となるため、自室から持ってきた部屋着――ジーンズと黒のタンクトップに着替えていた。
(サンディ家臣の人たちの服装は和服が多かったけど……ノアさんは意外と普通の格好だな)
角刈りはそんなことを考えながら脱衣所を後にした。
ヨネシゲたちが脱衣所を出た直後だった。廊下で女性陣と鉢合わせになる。――男性陣は顔を強張らせた。
(気不味いじゃんか……さっきのアレがあるからな……)
アレとは先程発生したアクシデントのこと。
竹柵が倒れ、男女共に裸体を晒してしまうという……何とも気不味い事案が発生してしまった。
女性たちの顔をまともに見ることができない――角刈りは額に汗を滲ませながら視線を落とした。
ところがその気不味さが一瞬で吹き飛ぶ発見をする。
(ピンクに黄色に紫に黒の浴衣? こ、これは……もしや……!?)
角刈りが咄嗟に顔を上げる。彼の瞳に映し出されたものは――薄紅、薄黄、薄紫、漆黒……四色の着物を身に纏った女性陣の姿だった。
「いい……ソフィア……似合ってるぞ……!」
「ウフフ、ありがとう。あなたの浴衣姿も凄く似合っているわよ!」
「ガッハッハッ! あたぼうよっ!」
ソフィアに浴衣姿を褒められたヨネシゲは、嬉しそうに高笑いを上げながら頭を掻く。
一方、優しく微笑むソフィアは薄紅色の浴衣に身を包んでいた。
「ソフィアはピンク色の浴衣だったんだな」
「うん。特に希望したわけじゃないけど、好きな色で良かったわ。あと……この雪だるまの模様が可愛らしくて凄く気に入っているの」
「へへっ。そいつは良かった」
尚、ソフィアと同じ薄紅色の浴衣を着る者はノエルのみ。薄黄色はカエデとテレサ、薄紫はコウメとシオンが着こなしていた。
漆黒の浴衣はグレースとエスタの手に渡っており、胸の谷間と美脚を露出させるように着崩していた。
「ハニーもシオンも……似合ってるぞよ……」
「ノエル殿下……可愛いッス……」
「当たり前だ! ノエルは俺の自慢の愛娘なのだからな!」
「シオン……可憐だ……」
「おっ……カエデの浴衣姿も可愛いじゃんか。それにしても……エスタ様やテレサさん、グレースさんはホントに美人だなあ……」
「確かに……こうして見ると……グレースもいい女だ……」
普段見慣れない女性陣の浴衣姿に男性陣の目は釘付けのようだ。
「――それでは皆様。宴の準備が整っていますので、会場までご案内しましょう!」
「ノアさん、お願いします!」
一同、ノアの案内で屋敷内の宴会場を目指した。
――やがて宴会場となる大広間前に到着すると、薄青の甚平に身を包んだウィンターの姿があった。
銀髪少年はヨネシゲたちの到着を待っていたようで、出迎えの言葉を掛ける。
「皆様、お待ちしておりました。宴の準備は整ってございます。どうぞ、中へお入りください……」
「ありがとうございます! ウィンター様の甚平姿も似合ってますね!」
「ふふ……ありがとうございます……」
角刈りに褒められると、ウィンターは微かに口角を上げる。見慣れた彼の反応だったが――
(ウィンター様……なんか元気ないな……)
角刈りはそんな疑問を抱きつつも、会場の中へと足を踏み入れた。
「――ウィンター♡」
「ん?!」
全員が会場の中に入ったタイミングでエスタがウィンターに抱きつく。
「ウフフ……ウィンターの甚平姿、とってもお似合いですよ」
「ありがとう……ございます……エスタさまの浴衣姿も……凄く似合っています……」
「ウフッ……ありがと。――それじゃ私たちも中に入りましょうか――」
エスタはそう伝えると、ウィンターから身体を離そうとする――が、彼が離れようとせず。
「……ウィンター?」
「エスタさま……お願いです……もう少し……もう少しだけ……このままでいさせてください……」
「……うん。いいよ。好きなだけ甘えて――」
エスタは、ウィンターが初めて見せる姿に困惑しつつも、理由は聞かずに、その身体を再び抱きしめるのであった。
つづく……




