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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
カルム閑話【カルムの若き星たち】
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第365話 束の間の休息③(クボウ南都伯家)

 客間の一角で談笑を交わす集団は――クボウ家の面々。マロウータン、コウメ、シオン、そして執事のクラークが座卓を囲む。


 白塗り顔は専属執事が淹れた茶を啜りながら、あられを口の中に放り込む。


「――それにしても……アッパレとリキヤは働きものじゃの。早速、フィーニス領軍の大将のところへ挨拶に向かっているそうじゃ」


 再びあられに手を伸ばそうとする夫にコウメが尋ねる。


「ダーリンは行かなくて良かったの?」


「勿論、儂も後で挨拶へ向かう。フィーニス領軍には、ここに来るまで色々と世話になったからのう――」


 白塗りは手にしたあられを口に含み咀嚼すると、それを緑茶で流し込む。


「アッパレには今のうちから色々と経験を積ませておきたい。故にクボウの顔となって動き回らせておる。いずれは儂に代わってクボウを背負って立つ男じゃからのう――」


 マロウータンが湯呑みの茶を飲み干すと、透かさずクラークが急須を差し出す。


「旦那様、おかわりはいかがでしょうか?」


「うむ、いただこう――」


 主従のやり取りを見つめながらコウメが訊く。


「随分と気が早いのね? もう隠居のことを考えているの?」


「戯言を申すな。儂は生涯現役ぞ――」


 白塗り顔は注がれたばかりの熱々の緑茶を優雅にひと啜り。そして何かを思い出したかのように手を叩くと、向かい側に座る娘に声を掛ける。


「――そうじゃった……シオンよ」


「はい、お父様」


「少々急じゃが……今夜、ヒュバート王子と正式に婚姻を結んでもらうぞよ。これは陛下のご命令じゃ」


「……え? ええええええええっ?!」


 突然の婚姻命令。絶叫を轟かせるシオンに一同一斉に視線を向けた。そんな彼女を両親と執事が微笑ましく見つめる。


「ウッホッハッハッハッ! 何もそんなに驚くことはなかろう? 既にそなたとヒュバート王子は婚約者同士。婚姻が成立するまでは時間の問題じゃったのだから」


「おーほほっ! 良かったわね、シオンちゃん!」


「お嬢様、おめでとうございます! 祝福の紙吹雪ですぞ……そ〜れ!」


 一方の彼女は困惑した様子で父に尋ねる。


「し、しかし……どうしてまた……このタイミングなのですか?」


 娘の疑問にマロウータンが答える。


「うむ。知っての通りトロイメライはこの有り様じゃ。この先、改革戦士団を排除し、王国を立て直す為には、王族と貴族の連携が必要不可欠じゃ。

 そこでじゃ。王族とクボウの関係をより強固なものにする為、陛下がそなたとヒュバート王子の婚姻を急いでおられるのじゃ。昨晩、陛下と食事をしている際にその旨を告げられてのう。

 もし……そなたがヒュバート王子と上手くいっていなかったら断るつもりじゃったが……そういうわけではなかろう?」


「え、ええ……ヒュバート王子とは親密な関係が築けていると自負しております……」


「ならば婚姻は問題ないのう」


「確かに……そうですが……」


 恥ずかしそうにもじもじしながら頬を赤らめる娘に父が言う。


「当面の間はヒュバート王子とこの屋敷――ひとつ屋根の下で過ごす事になる。そうなると婚姻を結んでおいた方がお互い行き来しやすいじゃろう? これは陛下のご配慮でもある」


「お父様……それはどういう意味でしょうか……?」


 首を傾げるシオンにマロウータンが言葉を濁しながら説明する。


「ほよ? ああ……王族というのは順番にとても厳しいからのう。婚姻を結ぶ前にヒュバート王子と()()()があってはならんのじゃよ」


「そ、それって……つまり……」


「ウホッ。今夜から心置きなくヒュバート王子の部屋に行けるぞよ」


 その刹那――


「かああああああああっ!! プシュー!!」


 シオンは全身から蒸気を噴射。


(ヒュバート王子と……初夜……)


 シオンは顔を真赤にし、目を回しながら茹でダコの如く座卓に張り付く。


 その様子を見つめながらコウメが高笑いを上げる。


「おーほほっ! シオンちゃんを見ていたら、なんだか私もドキドキしてきちゃったわ!」


「ほよ? ウホホ……ハニー、今宵は頑張ってみるかの?」


「おーほほっ! 頑張っちゃいましょうか?」


 そんな夫妻の様子をヨネシゲが呆れた表情で見つめる。


(――『今宵は頑張ってみるかの?』じゃねえよ……見ているこっちが恥ずかしいから、場所を(わきま)えてくれ……)


 そんな角刈りの腕にグレースが抱き付く。


「ヨ〜ネさん!」


「グ、グレース先生?!」


「ウフフ♡ 私たちも頑張っちゃいましょうか?」


「ふ・ざ・け・る・な」


「痛っ」


 角刈りは妖艶美女の頭に手刀をお見舞い。彼女は頭を押さえながらテヘペロしてみせる。


「も〜う……冗談ですよ……」


「グレース先生のは冗談に聞こえねえよ……」





「――フフフ……あなた……正しい対応だったよ……」


 そんな二人の様子をソフィアが満面の笑みで見守っていたのは言うまでもない。



つづく……

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