表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
カルム閑話【カルムの若き星たち】
376/399

第361話 世界を司る四大神『ゴッドキングダム』【挿絵あり】

    挿絵(By みてみん)



 ――宗教国家『イメージア』・某所。

 薄暗い山城の玉座の間には、薄ら笑いを浮かべながら、その椅子に腰掛ける老年男の姿があった。


 白色の長い顎髭が印象的。伸ばされた白髪は肩の辺りで纏められており、その部分は淡い赤と青で染められている。

 赤いマントがトレードマーク。老体にもかかわらず、ガッシリした上半身の右半分は赤と青の二色からなる布で覆われており、腰回りは空色の布が巻かれていた。

 

 そして右手に持つ紫色の水晶玉の中では白色の光が激しく明滅していた。――まるで『ここから出せと』主張するように。

 

 白髪老人が愉快そうに言葉を漏らす。


「クックックッ……ついに『創造神』を我が手に収めることができたわい。これでゆっくりと()()を楽しめる……」


「ゆっくりだと? 何を呑気な……今こそ一気に世界を支配する時だ!」


「それが君の意見かね?『大海原神(おおうなばらのかみ)』――」


 苛立った様子で白髪老人に物申す人物は、『大海原神(おおうなばらのかみ)』と呼ばれる長身の青年。

 腰に巻くのは黄金色の布。筋肉質の上半身を曝け出し、肩には青い布が掛けられていた。

 大海原神が白髪老人の元へ歩みを進める。


「恐らく……『創造神』を長期間水晶玉の中に閉じ込めておくことは難しいだろう。できることなら創造神を抹殺したいところだが……まだその時ではない。故に世界の支配を急ぐ必要がある。もし逃げられれば今まで費やしてきた時間の全てが無駄になるぞ?」


「ふむ……一理あるな……」


 一定の理解を示した様子で顎髭を撫でる白髪老人。すると少女の無邪気な笑い声が部屋に響き渡る。


「キャハハハッ! 逃げ出したらまた捕まえればいいじゃん!」


「ククッ……君らしい意見だね? 大森林神(だいしんりんのかみ)


 白髪老人が視線を向けた先。

 カーテンの影から姿を見せたのは少女と思わしき小柄な女性。全方向に大きく盛られた癖のある緑髪。胸周りと腰回りには黄色の布が巻かれており、その綺麗な肌の大半が露出されている状態だ。

 大森林神がケラケラと笑いながら二人の元へ近付いていく。


「キャハハハッ! どうやら想像以上におマヌケな創造神(かみさま)みたいだからね。脱走されてもすぐに連れ戻すことができると思うよ?」


「確かにな……このような簡単な方法で捕縛できてしまうとは……」


 白髪老人はどこか落胆した様子で水晶玉を見つめる。続けて彼はある者に意見を求める。


「――大陸地神(だいりくちのかみ)、君はどう思うかね?」


 白髪老人が部屋の一角に視線を移すと――そこには大陸地神と呼ばれる、力士のような大男が胡座をかき、瞑想する姿があった。

 頭の天辺でお団子のように纏められた黒髪と積乱雲の如く生える同色の顎髭。脂肪に覆われる上半身。肩は薄青、腹回りは薄赤の塗料でペイントされており、下半身には茶色い麻のズボンが履かれていた。

 白髪老人に問われてからもしばらく沈黙を保っていた大陸地神が、静かに口を開く。


「――焦る必要はない。アンタに任せる……『大空想神(だいくうそうのかみ)』」


 大陸地神の答えを聞いた白髪老人――『大空想神(だいくうそうのかみ)』がニヤリと歯を剥き出す。


「ククッ……だそうだ。できれば君たちも、私に任せてくれるとありがたいのだが?」


「異議な〜し! 大空想神に全部任せるわ」


「チッ……まあ、アンタの好きにするといいさ」


「ありがとよ。どうか君たちも、私が描いた物語を楽しんでくれたまえ」


 意見は一致した。

 すると、不敵に口角を上げる彼らの元に、若い女性が姿をみせる。


「――只今、戻りました」


「戻ったか『ルーナ』。待っておったぞ」


 大空想神から『ルーナ』と呼ばれる女性は――ゴシック服を身に纏う、赤い瞳と黒髪の持ち主。その長身もさることながら、着ているゴシック服がはち切れそうなくらい豊かな膨らみが一際目を引く。右手にはお気に入りの日傘が持たれていた。


 玉座の前まで歩みを進めてきたルーナに、大空想神が尋ねる。


「ルーナよ。例の()()は上手くいったかね?」


 一方の彼女は右手で自身の顔を覆うと、その指と指の隙間から覗かす真紅の瞳で白髪老人を見上げる。


「聞きたいですか?」


「ああ、聞かせてくれ」


 するとルーナはニヤリと歯を剥き出しながら実験について報告する。


「では早速……『サミュエル様』の指示通り、『悪魔のカミソリ・頭領』、『具現草中毒者・キラー』、『改革戦士団戦闘長・ロイド』の想素をカルムタウンとブルーム平原で採取しました。

 その後、指示通りルポタウンへと向かい、サミュエル様が創り出した『蘇りの空想術』を仕込んだ水晶玉で三者を復活。本人を上回る戦闘力を発揮し、複数回再生することも可能でした。結論を申し上げると……実験は成功と言えましょう」


「ククッ、でかしたぞ。これも想素学の専門家『ルーナ・ガルシア』を雇ったお陰だよ。改めて礼を言わせてくれ」


「ふんす! 勿体ないお言葉です」


 大空想神――サミュエルに褒められたルーナは誇らしげな表情で鼻を鳴らす。だが、彼女の次の言葉でサミュエルの眉間にシワが寄る。


「それと、ついでに命を落とした市民や兵士にも『蘇りの空想術』を使用しましたわ」


「何だと?」


「どうやら……想素に還った死者に限らず、実体を持つ死者にも有効的な空想術みたいですよ?――って、あら? 私何かやっちゃいましたか?」


 不機嫌そうな表情を見せるサミュエルにルーナが態とらしく尋ねる。すると白髪老人が文句を口にする。


「私が復活させろと言ったのは例の三人だけだ。愚民どもに『蘇りの空想術』を使って良いなどとは一言も言っておらんぞ?」


「フフッ……神様っていうのは随分とケチくさいことを言うんですね?」


「何?」


「宜しいではありませんか? お陰で有益なデータも取れたんですから。それに……可愛そうでしょう? 神様のイタズラで命を奪われる運命なんて――」


 悪びれた様子も見せないルーナ。一方のサミュエルは呆れた様子で息を漏らす。


「流石、曲者としても有名な娘だ。……まあ良い。君の協力無しでは今回の実験は成功に至らなかったからのう」


「いえいえ。これも私の……我が一族の悲願達成の為ですから」


「ククッ……()()()()()()を滅ぼし、『ガルシア帝国』を建国する為……か?」


「ええ。その為には強大な戦力が必要です。ですから私は『蘇りの空想術』を使って(いにしえ)の猛者たちを復活させようとしているのです。そしてご先祖様たちも復活させて『ガルシア帝国』――いえ、『ルーナちゃん帝国』を築き上げるのです!」


 ルーナはサミュエルを指差しながら謎ポーズを決める。一方の白髪老年は薄ら笑いを浮かべたまま言葉を返す。


「ククッ。我々の実験が全て完了次第、この『蘇りの空想術』を君に伝授しよう」


「フフッ、約束は守ってもらいますよ?」


「ああ、勿論だ。神が約束を破ることはない」


 そしてルーナはサミュエルに確認する。


「では次の任務は、古の猛者たちの想素を採取……でしたね?」


「左様。世界各地の墓を掘り起こし、猛者たちの骨から有能な想素を集めてくるのだ」


「承知。早速出発しましょう。それと……行先は私が決めてもよろしいかしら? ちょっと確認しておきたいことがありますから」


「構わん。好きにしなさい」


「ありがとうございます。それでは、猛者たちの想素が集まり次第帰還します」


「あいわかった。――ちなみに行先は?」


「フフッ……フィーニスです……」


 ルーナは妖艶に微笑みながらそう答えると、部屋を後にした。


 その様子を見届けたサミュエルがゆっくりと玉座から腰を上げる。透かさず大森林神が尋ねる。


「あら? 大空想神、どこへ行くの?」


「ククッ……()()()の顔を見てくるよ。少々物語を軌道修正しなければならんからな……」


 続けて大海原神が訊く。


「アーノルドの所へか? 奴がアンタの言うことを大人しく聞くとは思わんが……」


「安心しなさい。彼は私の弟子だ。必ず言うことを聞いてくれる筈だろう」


「聞かなかったら?」


 大陸地神の問にサミュエルが不敵に歯を剥き出す。


「大陸地神、それは愚問というものですよ? 我々、ゴッドキングダムに楯突く者は例え弟子であろうと……クックックッ……」


「「「フッフッフッフッフッ……」」」


 神々の薄ら笑いが共鳴した。




 ――ここは、トロイメライ王都『メルヘン』・南部関所。

 月光に照らされる閉ざされた鉄扉を見つめるのは――金色短髪の人物。大きなカバンを肩からたすき掛けにし、緑色のマントを羽織っている。この世界でよく見られる旅人のスタイルだ。

 一方でその中性的な顔つきと身体だけでは性別を判断することはできない。そして透き通るような中性ボイスで言葉を漏らす。


「こっちも手遅れだったか……ゴッドキングダムに気を取られ過ぎた……そうなると次の狙いは何だ……?」


 旅人は大きく息を漏らした後、関所に背中を向ける。


「ひとまず……フィーニスへ向かおう……」


 旅人はそう呟きながら北国を目指した。




 ――そしてまた朝が来る。

 ここはフィーニス領とウィルダネス領に跨る岩山。間もなく夏を迎えるが、山道の所々に雪が残っている。

 そんな山道を慎重に歩みを進める集団があった。その中の唯一の男性――伸び切った白髪の老年男が一升瓶に入った酒を口に含む。


「プハッ! 身体が冷えたら酒に限るぜ!」


 そんな彼に金髪の女性が注意。


「勇者様、お酒は程々に……」


 続けて赤髪の女性と濃紫髪の少女も――

 

「そうだぜ、勇者様。酔っ払ってこんなところで滑落されたら困っちまうよ」


「お酒なら……下山してから……ゆっくり飲もうよ……」


 だがオヤジは一蹴。


「だらあっ! こんな殺風景で急な山道しかねえ岩山、飲まなきゃやってられんだろうが?!」


 赤髪女性と濃紫髪の少女が呆れた表情を見せる中、金髪女性がオヤジに微笑みかける。


「ふふっ。勇者様、間もなくこの岩山を越えることができますよ? あちらをご覧ください」  


「……ん? おお、あれはっ!?」

 

 老年男の眼科にはフィーニス領都『リッカ』の町並みが広がっていた。



つづく……

第七部スタートです。

ヨネシゲたちの登場は次回からになります。次回の更新は22日以降を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ