第344話 素顔【挿絵あり】
包囲網を突破したヨネシゲたちは大広間に到着。その場に留まることなく下階の出口を目指す。
「みんな! このまま出口目指して駆け抜けるぞ!」
『おーっ!!』
角刈りの掛け声に一同力強い声で応える。
ところが一行が下階へ通ずる階段前に到着した際のことだ。何者かが階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。
「誰か来る?! 気を付けろ!」
角刈りの声を聞いた一同が一斉に身構える。額に汗を滲ませながら階段から現れる者を待った。
そして、ヨネシゲたちの前に姿を見せたのは意外な人物たちだった。
真っ先に声を上げたのはクボウ父娘とシュリーヴ親子である。
「コ、コウメよ!? それに爺よ! 無事じゃったか!」
「お母様! クラーク! ご無事で安心しました!」
「お、お袋っ?!」
「プリモも無事だったか。しかし……何故ここへ?」
その人物たちの正体は、マロウータンの妻にしてシオンの母『コウメ・クボウ』と、白塗り顔の専属執事『クラーク』、そしてドランカドの母『プリモ・シュリーヴ』だった。
プリモは息子の姿を見るなり、その身体に抱きつく。
「ドランカド……おかえりなさい……お元気そうで母は安心しましたよ……」
「お袋……」
――三年ぶりの再会。
ルドラに勘当され王都を去った愛息子は、王国内を放浪の末、カルム領に落ち着いたと聞き及んでいた。ところがそのカルム領には南都の動乱を鎮めるため徴兵令が発布され、更には改革戦士団の襲撃で焼け野原の運命を辿る――音信不通の愛息子の無事を祈る毎日が続いていた。だが今は自身の肌で息子の温もりを確かめる。
プリモは愛息子の胸板で嬉し涙を流す。一方のドランカドは何処か気まずそうに、そして気恥ずかしそうに頬を掻く。
何でもなければ微笑ましい光景であるが、今は再会を喜んでいる余裕はない。
コウメがマロウータンに救いを求める。
「ダーリン。私たちがここへ来た理由は他でもないわ。――助けてちょうだい」
愛妻の言葉を聞いた白塗り顔は眉を顰める。
「察するに……周りは洗脳されてしまった者ばかり。逃げ場はここしか無かったということじゃな?」
「ええ……」
コウメたちは白塗り顔の忠告のお陰でアンディの催眠術を回避。しかし彼女たちの周りには催眠状態に陥った群衆で埋め尽くされており、その場からの離脱は極めて困難だった。仕方無しに砦内部へと避難した訳だが――それは一時的なものに過ぎない。
案の定、下階から群衆たちの咆哮が轟いてきた。一同に緊張が走る。
「マロウータン様! 民たちには申し訳ありませんが、こうなったら多少手荒な方法を使ってでもこの砦から脱出しましょう! ここは能力を頼る他ありません!」
「背に腹は代えられぬか……あいわかった! 皆の者! 力技で押し切るぞ!」
罪無き民を傷付けることは不本意だ。とはいえ相手は話し合いが通用しない、催眠状態にある敵方の手先――強硬手段を選ばざるを得ない状況だ。
一同互いに顔を見合わせると力強く頷いて覚悟を決める。
「ヨッシャ! 行くぞっ!」
ヨネシゲが力強く雄叫びを上げた直後、あの人物が待ったをかける。
「お待ちくだされ」
「ドーナツ屋?」
その人物は色黒スキンヘッドの中年男、ドーナツ屋『ボブ』だった。
意外な男の制止に首を傾げる一同。ボブが秘策を口にする。
「皆さん! 私に名案があります!」
「名案だと?」
「ええ。誰も傷付かずにこの砦から抜け出すことができる素晴らしい方法があるんですよ!」
「ど、どうやって?!」
もし、民たちとの戦闘を避けれる方法があるならば是非聞きたいものだ。角刈りたちは藁にも縋る思いでドーナツ屋に詰め寄った。
するとドーナツ屋が自慢げな表情でエプロンのポケットから取り出したのは、虹色に着色された一個のドーナツ。
目を点にさせるヨネシゲたちだったが、間もなくその瞳が大きく見開かれることになる。
ドーナツ屋はドーナツを角刈りに預けた後、両手を合わせて身体をクネクネとさせながら、胡散臭い呪文を唱え始める。
「ちちんぷいぷい! 魔法の大きなドーナツになりたまえ!」
刹那。角刈りが持っていた虹色ドーナツが巨大化。人の背丈程ある直径のドーナツに変貌を遂げる。
角刈りが身体で支える巨大な虹色ドーナツ。その穴の部分からまばゆい光が漏れ出すと、透かさずドーナツ屋が説明。
「説明しよう! 七つの味を持つ甘くて美味しい虹色ドーナツは、なんと魔法のゲートに早変わり! このドーナツの穴に飛び込めば、半径一キロメートル以内の任意の場所に移動できるのだ!」
なんとこの虹色ドーナツは、ワープすることができる秘密アイテム。彼の機動力の理由がここにあった。
誇らしげに語るボブ。すると角刈りが怒りの声を上げる。
「おい! ドーナツ屋! そんな便利な物があるならもっと早く出しやがれ!」
「ちっちっちっ……甘いですぜ、旦那。切り札は最後まで取っておくものですよ」
ヨネシゲは納得いかなそうに歯を食いしばる。だが、このドーナツがあれば民たちとの戦闘を避けてリアリティ砦から脱出することができるだろう。
角刈りが主君に指示を仰ぐ。
「マロウータン様! 早速このドーナツで砦から脱出しましょう!」
「うむ。そうじゃな!――ドーナツ屋、半径一キロ以内の任意の場所に移動できると言ったな?」
「ええ」
「ならば……限りなく王都の境まで飛ばしてくれ。王都から脱出する!」
「承知! では一番近い東部関所付近へワープしましょう!」
「あいわかった! 頼むぞよ!」
続けて白塗り顔が国王に同意を求める。
「――陛下、それで宜しいでしょうか?」
「ああ。それがよかろう。一旦王都を出て体勢を立て直すぞ。協力者も必要だからな……」
するとノアがネビュラに提言。
「ならば、陛下。フィーニスへお越しください。我々サンディが陛下たちをお支えします! きっと……我が主もそうする筈です」
「わかった。頼りにしておるぞ!」
「はっ!」
行先は決まった。
一同、早速ドーナツに向き直る。
――その時!
ヨネシゲたちは背後から殺気を感じ取る。
「――なっ?! サイラス閣下っ!!」
角刈りは思わず絶叫。
一同の視線の先で仁王立ちしていた人物は赤髪の青年――王都領主『ウィリアム・サイラス』だった。彼も例外なく催眠状態である。
「もう屋上から下りてきやがったか!」
「あ、あなた! 注意してっ!」
ソフィアが血相を変えながら夫に訴える。何故ならウィリアムの右腕が水色に発光しているのだから――
「マズい! みんな急いでドーナツに飛び込めっ!」
ヨネシゲの声を合図に一同は虹色ドーナツ向かってダッシュ。マロウータンとボブの先導の下、王族たちから順番にドーナツの穴に飛び込んでいく。
――しかし。
「逃さんぞ……!」
ウィリアムが今まさに水の衝撃波を解き放とうとしていた。まだ全員の退避は完了していない。
「ここは俺が時間を稼ぐ! ソフィアたちは先に砦から脱出してくれ!」
「あ、あなた!?」
角刈りは地面を蹴ると鉄拳を構えながらウィリアム目掛けて突撃。
「うおおおおおおおおっ!!」
「角刈り野郎が……消え失せろっ!」
その刹那。ウィリアムの右掌から水の衝撃派が放たれた。
青く光る水の壁が、石床をえぐり取りながら迫る、迫る。迫る!
対する角刈りは鉄拳を青白に発光。その右拳を覆う光が次第に膨張。球体状になった巨大なそれは、水の壁を受け止めるのに十分な大きさだ。
「角刈りだけど、丸い鉄球受けてみなっ!」
ヨネシゲはそう叫びながら、巨大な青色光球纏う右拳で、迫りくる水壁に一撃。
「おりゃあああああああっ!!」
次の瞬間。
水の衝撃波は角刈りの拳撃によって破壊。水飛沫となって飛散する。
「おのれ……!」
ウィリアムは悔しそうに歯を食いしばると、再び右腕を水色に光らせて想素を充填。次なる攻撃の準備を始める。
一方の角刈りは背後に視線を移す。そこにはちょうど、ドーナツに飛び込むドランカドの姿が目に入る。――ヨネシゲを除いて彼が脱出組最後の一人だった。
(ヨッシャ、全員脱出完了だな。あとは俺だけだ――)
するとヨネシゲは、想素充填中のウィリアムの隙を突いて脱出を図る。
ドーナツ目掛けて全力疾走の角刈り。当然ウィリアムが見逃す筈もなく――
「待てっ! 逃がすか!」
ウィリアムが瞬時に水の砲弾を放つ。
水弾は空気を歪ませながら角刈りとの距離を破竹の勢いで詰める。
「急げ〜っ!!」
ヨネシゲは自身に言い聞かすように叫びながら、まばゆい光漏れ出す虹色ドーナツの穴に飛び込んだ。
間一髪。
虹色ドーナツはヨネシゲの退避と同時に水の砲弾で消滅した。
「――痛っ……」
気付くと角刈りは地面の上で尻もち。お気に入りの黒縁眼鏡を掛け直しながら周囲を見渡すと、心配そうにこちらを見つめるソフィアたちと、見慣れない景色が映り込んだ。
「どうやら……砦から脱出できたようだな……」
「ええ。そうみたいね……」
ヨネシゲが愛妻の手を借りながら立ち上がると、すぐに白塗り顔の声が飛んでくる。
「急ぐぞよヨネシゲ! 王都から脱出じゃ!」
「了解です!」
一同、東の方角へ身体を向けると、東部関所までの一直線を全力で駆け始めた。
――間もなくして前方に見えてきたのは、東部関所の石造りゲート。
「よし! ひとまず関所を抜ければ――」
決して気を抜いている訳ではないが、強張っていたヨネシゲたちの表情が自然と緩む。
――だが。
現実は無情のようだ。
突然、前方に発生する青い閃光。閃光が収まったと同時に凄まじい速度でこちらに迫るものは――地面を切り裂きながら走る青炎。その姿は水面からヒレを覗かせて猛進する巨大ザメの如く――
「ここは儂がっ!」
「「「援護するぞ! マロウータン!」」」
マロウータン、バンナイ、アーロン、ダンカンが空想術を使用して迫りくる青炎を受け止めるも――
「「「「ぬはっ!」」」」
その勢い凄まじく。四人は吹き飛ばされてしまった。だが彼らが青炎を受け止めてくれたお陰で、他の者に被害が及ぶことはなかった。
「一体……何が起きた……」
「ヨネさん! 誰か来ます!」
突然の出来事に動揺を隠しきれない角刈り。すると真四角野郎が前方を指差す。そこにはこちらへ向かって歩みを進める男の姿が見えた。
その長身リーゼント男は、自慢の腹筋を曝け出した濃青を基調とした奇抜な服装。右手で握る湾曲した剣を担ぎながら、不敵に顔を歪めていた。
リーゼント男の姿を目にしたグレースが顔を青くさせながら大声で伝える。
「みんな! 気をつけて! あの男は改革戦士団四天王『チャールズ』よっ!」
「何?! あの男も四天王だと……!」
リーゼントの正体は、先程仲間たちを催眠術で籠絡したアンディと肩を並べる男――改革戦士団四天王の一角『チャールズ』だった。
リーゼントが高笑いを上げながら角刈りたちに宣告する。
「ヒャーハッハッハッ! ここがお前らの墓場だ。逃がしゃしねえよ!」
「くっ……!」
途轍もない威圧感と青いオーラを放ちながら近付いてくるチャールズ。戦闘に長けた者なら彼が強者であることは語らなくても理解できる。
だが彼ら彼女らに臆している暇はない。すぐそこまで新たな脅威が迫っていた。
ヨネシゲたちは足元から殺気を感じ取る。
「みんな! 飛翔だ! 飛翔!」
角刈りの掛け声を合図に、実力者たちは王族たちや夫人、令嬢、執事を抱きかかえながら地上高くへ飛翔。
その刹那、一同が先程まで立っていた地面から無数の木の根――木の槍が突き出てきた。あと数秒気付くのが遅かったら角刈りたちは串刺しになっていたことだろう。
一同、この『木の槍』には覚えがあった。クラークを抱きかかえるサンディ家臣ノアが、先日の交戦を思い出しながら叫ぶ。
「出てこい! ジュエル! 今度こそぶっ飛ばしてやるぜ!」
彼の声を聞いた桃色髪の女――改革戦士団幹部『ジュエル』が、物陰から姿を現す。
「――豹野郎……生きていたんだね。死んだかと思ってたわ」
一同、地上に着地。チャールズ、ジュエルと対峙する。
――ここで新たな脅威。
上空が赤い閃光で支配された直後、赤色の発光体が落雷の如く一直線。ヨネシゲ目掛けて急降下。角刈りは発光体の正体に気が付き瞳を大きく見開く。
「――ダミアン……!」
そう。上空から隕石の如く急降下してくる赤色の正体は、全身を赤に発光させる黒い悪魔――改革戦士団最高幹部『ダミアン・フェアレス』だった。
仇敵は狂気の笑みを浮かべながら魔拳を構える。
「フッフッフッ! ヨネさ〜ん、元気してたかあ?!」
「野郎っ!!」
透かさず角刈りが青白の鉄拳を放つ。
次の瞬間、急降下してきた赤の魔拳と地上の青い鉄拳が激突。両者の右拳を起点に爆風爆音が発生する。
「なんて威力じゃ! 皆、吹き飛ばされぬよう、地面に張り付くのじゃ!」
一同、地面に伏せながら爆風が収まるのを待つ。
一方のヨネシゲ。歯を食いしばりながら、力でグイグイと押してくるダミアンの拳を受け止め続けていた。その身体を支える足元には大きな亀裂が入り、衝突時の威力が窺える。
悪魔がニタァと笑う。
「おいおいヨネさん、どうしたぁ? 俺の拳を受け止めるのに精一杯かぁ? あの時と同じように、もっと俺を喜ばしてくれよ〜」
「黙れっ! この外道がっ!」
直後、ヨネシゲはフリーの左拳をダミアンに向かって解き放った。
だがしかし! 悪魔は角刈りの攻撃を見切る。ダミアンは身を翻しながら宙を舞うと、ジュエルたちの隣に着地する。
対峙する因縁の両者。
鬼の形相で睨むヨネシゲをダミアンは嘲笑うようにニヤリと歯を剥き出した。
「あの野郎……絶対に許さねえ……!」
「あ、あなた、落ち着いて! 怒りに身を任せたら相手の思う壺だよ!」
ソフィアは、怒りで理性を支配されそうになる夫の腕を掴みながら注意。ハッとしたヨネシゲが愛妻に謝意を伝える。
「ありがとう……ソフィア……完全に理性を失いかけていた……」
「あなた……」
深呼吸してクールダウンする夫をソフィアは険しい表情で見つめていた。
その時である。
聞き覚えのある少女の声が上空から響き渡る。
「――相変わらず沸点が低いお子様のようね? ヨネシゲ・クラフト」
「お前は……サラ……!」
角刈りが頭上を見上げると、そこには箒に跨る、三角帽子を被った少女――改革戦士団四天王の紅一点『サラ』が浮遊していた。
彼女はゆっくりと地上へ降り立つと、空想術で箒を収納し、角刈りと女神を睨む。
「フン! おしどり夫婦ってか? 見てて虫唾が走るんだよ。今ここで消してあげるわ――」
「な、何をするつもりだ!?」
サラは懐から空想杖を取り出すと、それをクラフト夫妻に向ける。
――ヨネシゲたちに緊張が走る。
ところが、ドミノマスクを装着した銀髪の青年が、サラの肩に手を添えながら制止する。
「――サラ、落ち着け。お前も十分沸点が低いぞ?」
「ソード……わかっているわよ! 少し脅しただけ……」
サラは銀髪の青年から注意を受けると、空想杖を握った右手を静かに下ろした。
次々と現れる改革戦士団の面々。ついにネビュラが声を荒らげる。
「次から次へと鬱陶しいっ! おい! そこの銀髪! お前も改革戦士団の幹部かっ!?」
国王に問われた銀髪青年が不敵に口角を上げる。
「ご名答。俺の名は『ソード』だ。お察しの通り、改革戦士団四天王の一角を担っている――」
そう。彼はブルーム平原で、サラと共にヨネシゲやマロウータンを窮地に追い込んだ、改革戦士団四天王のリーダー格『ソード』だった。
名乗り終えたソードがゆっくりとドミノマスクに手を伸ばす――
「――実は……俺は八年前まで貴方に仕えていた貴族だった」
「俺に仕えていた?」
「ああそうだ。貴方には可愛がってもらったので、感謝しているんですよ?」
「はあ?! 俺はお前なんか知らぬぞ!」
「残念だ。できれば……声を聞いただけで気付いてほしかったが――この顔を見れば流石に思い出すでしょう?」
そして――銀髪青年がドミノマスクを外した。
その素顔を見た王族、マロウータン、ノア、ルドラが驚愕の表情を見せる。
「お、お前は!?」
「おわかりいただけたかな?」
「お前は……『ウィル・サンディ』……」
ソードの正体――それは嘗てネビュラに仕えていたフィーニス地方領主『ウィル・サンディ』だった。
暴政を敷き、領民の生命と財産を脅かしていたが、八年前に実弟ウィンターに討ち取られこの世を去った――筈だったが。
「ウィルよ……どうして……どうして生きているのだ!?」
「その呼び方はやめてくれ。今の俺は『ソード』だ。――この腐った世を切り裂く剣として生まれ変わったのだよ」
「生まれ変わっただと?!」
状況が理解できない。
一同、思考を停止させていると、突如、ゆっくりとした拍手と共に不気味な笑い声が響き渡る。
「オッホッホッ! 皆さん、ソードの素顔にさぞ驚いたことでしょう」
笑い声の主。それは黒髪オールバックのフェイスベールを身に着けた中年男――
「マ、マスター……」
一同、顔を青くさせる。
目の前に現れた人物こそ、改革戦士団の頂点・総帥『マスター』だった。
マスターはサラとソードの隣に並ぶとヨネシゲを凝視する。
「――ヨネシゲ・クラフトよ」
「ど、どうして俺の名前を知っている?!」
突然マスターから名前を呼ばれて困惑するヨネシゲ。一方の総帥はドスの利いた低い声で言葉を続ける。
「何故知っているかって? それはお前が――この世界の元凶だからだよ」
角刈りが顔を強張らせる。以前似たようなセリフをサラから言われた。
(そうだ……俺はコイツらにとって……憎悪の対象だったよな……)
ブルーム平原で魔女っ子から告げられた。俺がソフィアの物語を改竄した所為で、自分たちは人生を狂わされたと。
当時の記憶を思い返す角刈り。するとマスターが唐突に衝撃的な事実を語り始める。
「――我が妻『ジャスミン』は、そこに居るソフィアと、娘のサラはルイスと置き換えられてしまった。
そのお陰でジャスミンはこの世から存在を消され、サラは辛うじて存在を残すことができたが――ウィルダネスで性奴隷としての運命を辿ることになった。
ソードは、お前の気分次第で様々なゲストに置き換えられてしまった都合の良い傀儡だった。それでも運命に抗い、『ウィル・サンディ』として新たな居場所を手に入れたが――弟によってその居場所も奪われてしまった。
嗚呼……神は一体誰の味方なのだ? 無慈悲にも程がある――」
静かに総帥の言葉に耳を傾けるヨネシゲたち。自身と家族の実名を出されたソフィアは思考が追い付かず放心状態。
そしてマスターが自身についても言及する。
「――私も居場所を奪われ、人生を狂わされた者の一人だ。それ以前の私は、この世界の主役と呼べる存在だった――」
マスターはフェイスベールに手を伸ばす――
「今は改革戦士団総帥『マスター』を名乗っているが――以前は『アーノルド・マックス』という名前を与えられていた」
「アーノルド……マックス……!?」
唇を震わせるヨネシゲ。
一方のマスターは徐ろにフェイスベールを取り外した。
――その瞬間。
角刈りは自分の瞳を疑った。彼だけではない。その場に居る全員が驚愕の表情を見せる。
ヨネシゲが声を震わせる。
「あれは……俺だ……!」
目の前に居る、自分と瓜二つの顔が言う。
「――忘れたとは言わせぬぞ? アーノルド・マックスと言う名を……貴様が抹消したこの名前をっ!」
マスターは血走った瞳でヨネシゲを睨んだ。
つづく……




