第338話 勝利宣言【挿絵あり】
「ガアアアアアアッ!!」
「パアオオオオオッ!!」
「麻呂・蹴鞠大会『エースの一撃』っ!! ありゃあああああっ!!」
「これでお終いだ! 正義の十手、受けてみやがれ! おらあああああっ!!」
咆哮轟かせながら襲い掛かってくるのは、赤色電流纏った二体のスケルトン想獣――ライオン型とゾウ型だ。二体は槍のように尖った骨をこちらに向けながら突進。
対するマロウータンは白光放つ蹴鞠を蹴り飛ばし、ドランカドは緑のオーラを宿した十手を渾身の力で振り抜く。
白塗りと真四角野郎の猛攻を直に受けた二体のスケルトンは木っ端微塵に粉砕され、消滅。――全てのスケルトン想獣の退治に成功した。
「ウホッ。これにてスケルトンの猛獣軍団は駆逐完了じゃの」
「ええ。なかなか手強い想獣でした」
マロウータンは優雅に扇を仰ぎ、ドランカドは腕で額の汗を拭いながら、スケルトン想獣の残骸が光の粒――想素に還って天に昇っていく様子を見届けていた。
そして『ヒーロー女神』――ソフィアも両手を組みながら窓外の朝空を見上げる。術者を選べないスケルトン想獣たちの安らかな眠りを祈った。
「――次に生まれてくる時は、どうか、良き術者に恵まれますように……」
祈りを終えたソフィアは白塗りと真四角に両手を翳すと、空想術で彼らの傷付いた身体を治癒する。
「ソフィア殿、礼を言うぞよ」
「へへっ。ソフィアさん、ありがとうございます! お陰で身体が楽になりましたよ!」
「マロウータン様もドランカド君も大きな怪我が無くて良かったです!」
女神の微笑みを見せるソフィアに白塗り顔と真四角野郎は頬を赤く染めた。
そこへシオンや王都のヒーロー、王族の面々が集まってきた。
「お父様。ヒュバート王子たちの治癒が完了しました。皆様無事に回復しましたわ」
「うむ。シオンもソフィア殿もでかしたぞよ。よう頑張ってくれた!」
「勿体ないお言葉であります」
マロウータンはシオンとソフィアの活躍を称えると、王族たちに向き直り膝を折る。
「メテオ様、エリック王子、ノエル殿下、それにヒュバート王子。大事に至らず安心しましたぞ!」
白塗り顔の言葉に王族たちの口元が緩む。そしてメテオが嬉しそうに言う。
「これも、黄色の想獣たちが電流の縄を解いてくれて、シオンとソフィアが懸命に治癒してくれたお陰だ。いや、ここに居る者全員が駆け付けてくれたお陰で私たちは命拾いしたのだ。感謝してもしきれない」
王弟に続き、ヒュバート、ノエル、エリックも――
「叔父上の言う通りだよ。皆がここに駆け付けてくれなかったら、僕たちは今頃力尽きて命を落としていたことだろう。助けてくれて本当にありがとう」
「私は改めて思いました。良い臣下、良い民たちに恵まれたと。皆さんは私たちの命の恩人です。助けていただいたこの命、皆さんの為に使っていきます!」
「俺も……父上と同じでお前たちには酷い仕打ちをしてきた。だけど、お前たちは俺たちを選んでくれて、そして助けてくれた。こんなに嬉しい思いをしたのは初めてだ……ありがとな……」
それぞれの思いと謝意を伝える王族の面々。彼らの言葉を聞いていた臣下たちからは自然と笑みが溢れる。一部の興奮した者たちが大声で王族たちの気持ちに応える。
「ノエル殿下っ! 全身全霊でお支えします! この命、ノエル殿下に捧げるッスよ!」
「ヒュバート王子! 私もこの先ずっとお支えしますからね! 共に明るいトロイメライを築いていきましょう!」
白塗り顔はそんな真四角と娘を苦笑しながら見つめていた。
喜びに包まれるリアリティ砦の大広間。そこに凛々しい女性の声が響き渡る。
「――皆、水を差すようで申し訳ないが、まだ陛下の無事が確認できていない」
「ビューティーさん……」
一同、女声が聞こえた方向へ視線を移すと、そこには王都のヒーロー『ビューティー』ことグレースの姿があった。不安げに見つめるカエデを横目にしながら女騎士が続ける。
「ヨネシゲ・クラフトが陛下を保護していることを願っているが、相手はあのマーク元帥……油断はできない」
「どうするんだ?」
鉄腕ジョーソンが尋ねるとグレースは薄紅色の光剣を構える。
「無論、これより屋上に向かい、ヨネシゲ・クラフトの援護、そして陛下を保護する――」
女騎士が雄叫びを轟かす。
「全軍っ! 私に続けっ!」
「「「「「はいっ! 姐さんっ!」」」」」
直後、全力疾走で階段を駆け上がっていくビューティー。その後ろを彼女に魅了されたままの兵士や保安官たちが続いていく。空想少女と鉄腕も互いに顔を見合わせて頷くと彼女たちの後を追った。
「よしっ! 儂らも行くぞよ!」
「「「はいっ!」」」
マロウータンの掛け声にソフィア、ドランカド、シオンが力強く返事。
彼らがビューティー達の後を追おうとした時だ。
「待ってくれ、マロウータン」
「メテオ様?」
白塗り顔を呼び止めたのはメテオだった。王弟は臣下の元まで歩み寄ると、同行を願い出る。
「マロウータン、頼みがある。私たちも一緒に連れて行ってくれ」
「なっ?! いけません! 危険過ぎます! マーク元帥に気付かれたら格好の標的となってしまいますぞ! メテオ様たちはこちらでお待ちくださいませ!」
案の定マロウータンが制止するも、メテオは引かず。
「ああ、それは重々承知している。助けてもらったばかりだというのに、自ら危険の中に飛び込むなど馬鹿げた話だと思う。だが――」
メテオが真っ直ぐとした瞳で白塗り顔を見る。
「王族の者として立ち会わなければならない――審判の時を……」
「メテオ様……」
するとヒュバートたちも説得に加わる。
「クボウ閣下、僕からもお願いだ。トロイメライの明暗を分ける場に立ち会わせてほしい」
「私からもお願いします!」
「俺からもだ。まあ……既にヨネシゲがマークの野郎を下しているかもしれんがな」
そしてあの男たちが口添え。
「クボウ閣下よ。メテオ様たちは私たちが全力でお守りする」
「ええ。メテオ様たちには指一本触れさせませんぞ!」
「ゲッソリオ閣下、シュリーヴ卿……」
『モーダメ・ゲッソリオ公爵』と『シュリーヴ伯爵』の説得もあり、マロウータンがとうとう折れる。
「仕方ありませんね。同行を許可いたしましょう」
「恩に着る」
「ですが、あまりにも危険な状況だった場合は屋内へ退避していただきますぞ。メテオ様たちだけのお命ではないのですから」
「ああ。承知している」
主従たちは互いの顔を見合わせた後、屋上への階段を駆け上がった。
――その頃。
リアリティ砦屋上には、地上を見下ろすヨネシゲと、ヒーロー『キング』ことネビュラの姿があった。
彼らの視線の先には――群衆たちの前で大の字になって倒れるマーク元帥の姿があった。
地上で待機していた兵士たちは、気絶している元帥に『空想錠』を装着し拘束。彼の驚異的な空想術を無力化した。
「これで……元帥の驚異は去りましたね」
「うむ。これも全てお前のお陰だ。大儀であった」
「ははっ! 勿体ないお言葉!」
ネビュラは深々と角刈り頭を下げるヨネシゲを横目にしながら呟く。
「――あとは……王都人の審判を待つのみだな……」
国王は瞳を閉じてその時を待つ――が。直後、彼の耳に届いてきたのは群衆たちの歓声だった。ネビュラは瞳を開くと、眼下の群衆たちに視線を移す。
笑顔の彼ら彼女らは『陛下! 陛下!』とコールし、マーク戦の勝利を称える。
感激のあまり言葉を失うネビュラに角刈りが言う。
「陛下。ご覧の通りほぼ全ての王都人が陛下を支持するためこの砦に集まっています。そしてこの歓声……これが王都人たちの答えです。――陛下は勝ったんですよ!」
「俺が……レナとロルフに……勝った……!?」
角刈りの言葉に呆然とするネビュラ。『勝った』と言われてもまだ実感がない。
その刹那。リアリティ砦の屋上に愛娘の声が響き渡る。
「お父様っ!」
「ノ、ノエル!?」
ノエルは父の元まで駆け寄ってくるとその身体に思いっきり抱きついた。ネビュラもまた、愛娘を優しく抱きしめる。
「お父様……お父様……ご無事で……本当に良かった……です……」
「ノエルよ……お前も無事で良かった……」
愛娘を抱きしめるネビュラの腕に力が入る。
「俺の力が及ばないばかりに……お前をまた守れなかった……無力な父を許してくれ……」
「そんなことはありません。お父様が体を張ってくれたお陰で、私たちは最悪の結末を回避できました。それに……ノエルは……こうしてお父様に抱きしめてもらえて……とても幸せです……」
「ノエル……!」
――抱き合う父娘は互いの鼓動を感じながら無事を喜ぶ。その様子をヨネシゲたち臣下と王族三人が微笑ましく見つめる。
一同の視線に気付いたネビュラが弟と息子に言う。
「お前たちも無事で安心したぞ」
「兄上もご無事で何よりです」
国王の言葉にメテオ、ヒュバート、エリックは笑顔で応えた。
そして王弟がゆっくりとネビュラの元まで歩み寄る。
「どうやら皆、兄上を選んでくれたようですな」
「ああ、そのようだな――」
ここでネビュラが眼下の群衆たちに向かって絶叫を轟かせる。
「諸君! 今日ここに集ってくれたことを改めて感謝する!」
その声を聞いて静まり返った群衆に国王が続ける。
「お前たちは俺の……いや、このトロイメライのかけがえのない宝だ! この国を治める者として、お前たちを全力で守ってみせる! お前たちが俺に寄せてくれた期待は何一つ無駄にはしない! だが……その為にはお前たちの協力が必要不可欠だ! どうか、この先も俺たち王族に力を貸してほしい!」
ネビュラが言葉を終えた直後、群衆たちから雄叫びが沸き起こる。だが国王は手を上げてそれを制する。再び静まり返ったリアリティ砦でネビュラが語り掛ける。
「諸君は、このネビュラ・ジェフ・ロバーツを支持する為、リアリティ砦に集結し、王妃のクーデターを無力化した。――これが諸君が俺に下した審判……そういう認識であるが、異議ある者は居るか?」
国王の問い掛けに群衆たちは首を横に振ったり、『異議なし』の言葉で応えた。その声を聞いたネビュラは力強く頷いた後、今日一番の大声で宣言する。
「――我々は、王妃レナのクーデターを鎮圧し、王都メルヘンを奪還! そして、諸君のお陰でネビュラ・ジェフ・ロバーツの地位も揺るぎないものとなった! そのネビュラが今ここに宣言しよう――此度の動乱は我々の『勝利』である!!」
刹那、群衆たちからは割れんばかりの歓声。王都を揺るがした大動乱の終焉を心の底から喜んだ。
「――兄上。ここからが大変ですぞ」
「わかっている。まだ後始末が残っているからな……」
トロイメライ最高峰の兄弟は、朝日に照らされるドリム城を見つめた。
――同じ頃、ドリム城。
今回のクーデターの首謀者――王妃レナと第二王子ロルフが老年の大臣『アトモス』から報告を受けていた。
「――我々が制圧した王都内の拠点は全てネビュラに奪還されました。更には、民に、兵士に、貴族……王都の者ほぼ全員が、リアリティ砦に集結している状況です。もはや……我々に勝ち目はありません」
「報告……ご苦労さまです……」
報告を聞き終えた親子が暗い表情で顔を俯かせていると、伝令の兵士が血相を変えながら王妃たちの元を訪れる。
「申し上げます! リアリティ砦を制圧するため出動したマーク元帥……ヨネシゲ・クラフト男爵に敗れ、敵方に拘束されました!」
「くっ……最後の頼みだったが……」
ロルフは悔しそうに顔を歪めながら、向かいのローテーブルに拳を振り落とした。
するとレナがゆっくりとソファーから立ち上がる。
「母上……?」
「集まった者たちにお礼を言わないといけませんね……」
王妃は悲しげに微笑んで答えると退室。透かさずロルフも母の後を追った。
――王妃と王子が向かった先は城門だった。
その城門前には百名前後の群衆――民たちの姿があった。
多くの民がネビュラを支持する中、彼ら彼女らのようにレナを支持するものも存在した。
そして、レナとロルフの姿を目にした王妃派の民たちから歓声が沸き上がる。
しばらくその様子を見つめていた王妃が静かに口を開いた。
「皆さん。私たちの為にこのドリム城に集まっていただき、心から御礼を申し上げます――」
レナは深々と頭を下げたあと、民たちに謝罪する。
「集まっていただいてこのような事を口にするのはとても心苦しいですが――もはや絶望的状況です。私たちに勝ち目はないでしょう。私の力が及ばす、このような結果を招いてしまい、本当に申し訳ありません……」
再び頭を下げる王妃。
彼女の言葉と行動に民たちは落胆した様子で顔を俯かせた。そんな彼ら彼女らにレナが優しく微笑みかける。
「皆さん、これは命令です。直ちにリアリティ砦に向かい、国王ネビュラの民として、新たな毎日を歩み始めてください」
驚きの表情を見せる民たちにレナは続ける。
「安心してください。皆さんに罪はありません。皆さんは……私とロルフに騙されただけなのですから。そんな被害者の皆さんを、今のあの人は無碍にしないでしょう」
そして王妃が民たちにこう言い残す。
「私が……一度でも愛したあの人を……どうか、支えてあげてください――」
「お、王妃殿下っ!?」
「王妃様っ! ロルフ王子っ! お待ちくだされっ!」
レナとロルフは、呼び止める民たちの声を背に受けながら、城内へと姿を消した。
やがてレナとロルフが到着した場所は――玉座の間。王妃が集まった臣下たちに告げる。
「――皆さん。此度のクーデターは失敗……私たちの完敗です。これは私の力不足が及ぼした結果です。――この命をもって責任を取らせてもらいます……」
どよめく臣下たち。王妃が語り続ける。
「――これより城内に火を放ち、私とロルフは……このドリム城を枕にして、一生の眠りに就きます。
無責任で申し訳ありませんが、この後の行動は皆さん自身でお考えください。
私たちと一緒に残るもよし、国内外に逃亡するもよし、若しくはネビュラの臣下として新たな人生をスタートするもよし……今の陛下なら皆さんを受け入れてくれることでしょう……
さあ、ご自身でお決めになってください」
王妃たちの覚悟。
それを聞き終えた臣下たちが自身の進退を決めるため、歩みを進め始める。
臣下たちは王妃と王子に頭を下げると、一人……また一人と、玉座の間を後にする。
玉座の間に残ったのはレナとロルフ、そして老年の大臣『アトモス』だった。
王妃は長年自分を支えてくれたアトモスに微笑みかける。
「アトモス。長い間、お世話になりました。貴方には本当に感謝しております。――ですから、最後は自由に生きてください」
「自由に……ですか?」
「ええ。お好きな所に……行って下さい……」
王妃の言葉を聞き終えたアトモスがニッコリとした笑みを見せる。
「では……この先もずっとお供させてください。私はどこまでも王妃殿下の味方ですぞ」
「アトモス……」
唯一、最後まで自分に忠誠を誓ってくれる臣下の言葉。レナは瞳から涙を零す。
その時だ。
玉座の間に若い女性の声が響き渡る。
「ロルフ王子っ!」
「ボ、ボニー!?」
そう。姿を見せたのはロルフの婚約者『ボニー・サイラス』だった。
彼女はロルフの元まで駆け寄るとその胸に飛び込んだ。一方の王子はボニーを抱きしめると、悲痛な表情を見せながら、言葉を漏らす。
「ボニーよ……先程兄君の元へ戻れと伝えた筈だぞ……」
彼の言葉を聞いた令嬢が首を横に振る。
「私もロルフ王子と一緒にここに残ります」
「ボニーっ!」
「ロルフ王子はっ!……ロルフ王子は……私に永遠の愛を誓ってくれたお方です。離れるわけにはいきませんわ……」
「すまないが……その誓いは……守れない……」
「良いのです。私は本当に嬉しかったのですよ? こんなワガママな私を受け入れてくれたこと、一人の女として受け入れてくれたことが。――王子と築く幸せな家庭を見てみたかった……」
「ボニー……」
そしてボニーは潤んだ瞳でロルフを見上げる。
「これはボニーのワガママ……切な願いです。どうか最期のその時まで……幸せな夢を見させてください……」
「わかった……」
抱きしめ合うロルフとボニー。
レナは憂いた表情で二人を見つめながら、アトモスに指示を出す。
「アトモス……火を放ちなさい……」
「かしこまりました……」
間髪入れずにアトモスが空想術を発動。刹那、城内の至るところに張り巡らせておいた仕掛けに火炎が走る。玉座の間は勿論、ドリム城は炎に覆われた。
レナが正面の玉座を見つめながら悲しく微笑む。
「目の前の玉座が……こんなに遠いなんて……」
王妃は玉座に向かって手を伸ばし、それを掴み取るようにして拳を握りしめる。
「私はただただ……民が笑顔で……豊かに過ごせる国を作りたかっただけ……ですけど――」
レナは自身を嘲笑するように笑いを漏らす。
「フフッ。私は何処かで道を踏み外してしまったようです。後悔しても後の祭りですね……」
「王妃殿下……」
「きっと……夢は……儚く……燃え落ちるものなのでしょう……」
儚げな表情で天井を見上げるその姿は――燃え盛る野に咲く一輪の花。火の粉を浴びながら、命の花びらを散らし、最期のその時を待った。
――その様子はリアリティ砦でも目撃される。
「みんな! あれを見て!」
「あ、あれは!?」
カエデが指差す先――そこには火の手上がるドリム城が見えた。一同、呆然とその様子を眺める。
「レナよ……愚かな真似を……」
悔しそうに歯を食いしばるネビュラ。
「「母上……」」
「お義母様……」
ヒュバート、エリック、ノエルも険しい表情で居城を見つめた。
そして――不安を隠しきれない愛妻の肩に角刈りが手を添える。
「あなた……」
「光ができれば、影もできる。陛下が光輝くほど、その影も大きくなる。これはクーデターの代償だ。新たな時代を歩んで行く為にも――見届けるんだ、ソフィア」
「はい」
ソフィアにそう伝えるヨネシゲだったが、胸の中ではレナとロルフの行動を嘆いていた。
(王妃殿下……ロルフ王子……本当にこれで良かったんですか? 他に道があったでしょ!?)
角刈りは遣る瀬無い気持ちで身体を震わせた。
――時同じくして、王兄屋敷から燃え盛るドリム城を見つめる――フェイスベールの中年男。
「オッホッホッ! ここで命を捨てるなど勿体ないですよ? 貴女方にはまだまだ抗っていただかないと――」
そこへ、一人の青年が訪れる。
「総帥さんよ、こんな朝っぱらから一体何事だ? せっかく気持ち良く眠ってたのによ」
「来たか、ダミアンよ……」
そう。左目に眼帯を装着した黒髪の青年の正体は――改革戦士団最高幹部『ダミアン・フェアレス』だった。
「朝飯の準備はできてるんだろうな?」
王都に訪れる真の脅威――
つづく……




