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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
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第336話 決戦! リアリティ砦(前編)

 リアリティ砦の突入に成功したヨネシゲとその仲間たち。角刈りを先頭に約二百人もの集団が階段を一気に駆け上がる。

 砦の四階に到達したところでマロウータンが角刈りに伝える。


「途中階にメテオ様たちのお姿は見受けられなかった。恐らく次の五階にある筈の大広間に居られるのじゃろう」


「はい。メテオ様たちも発見次第保護ですね」


 その隣ではドランカドが不安そうに言葉を漏らす。


「ノエル殿下……どうかご無事で……マーク元帥に感電死させられて丸焦げなんて俺は絶対に嫌だッスよっ!」


「コラッ! ドランカド! 縁起でもねえこと言うんじゃねえ!」


 とはいえ、ノエルやメテオたちが無事だという確証はない。一刻も早い保護が急がれる。ところがここでソフィアが不穏な言葉を口にする。


「ねえ、あなた……何か声が聞こえない?」


「声?」


「ええ、叫び声のような……」


 愛妻に促されて耳を澄ますも、自分たちの足音に掻き消されて何も聞こえない。だが、階段の終点を迎える付近でヨネシゲの耳にも届いてきた――男女たちの悲痛な叫び声が。


「まさかっ?!」


「ノ、ノエル殿下……!」


「い、急ぐぞよっ!」


 その悲鳴の主はすぐに察しがついた。メテオたち王族のものであると。

 角刈りたちは階段を登り切ると、悲鳴が聞こえる方向へ全力疾走。大広間へ突入した。


「なっ?! メテオ様っ! ヒュバート王子っ! ノエル殿下っ! エリック王子っ!」


 角刈りは四人の名を叫ぶ。

 一同の目に飛び込んできた光景とは、赤色電流の縄――『雷縛(らいばく)』によって縛られる王族たちの姿だ。常時感電させられている彼らは苦悶の表情で悲痛な声を漏らしていた。

 すると居ても立っても居られなくなった者たちが地面を蹴る。

 

「ノエル殿下っ!! 今助けるッスよっ!!」


「ヒュバート王子っ! 今その縄を引きちぎって上げますからっ!」


「「「メテオ様っ!! 只今お助けしますぞっ!!」」」


「こ、これっ! シオンっ! ドランカドっ! バンナイたちも待たぬかっ!!」


 マロウータンの制止など聞く耳持たず。

 ドランカド、シオン、そしてバンナイ、アーロン、ダンカンが主君の元へと駆け寄っていく。そして、いち早くノエルの前に到着した真四角野郎。彼女を雷縛らいばくから解放するため、縄と化した赤色電流に手を伸ばした刹那――


「ぐわあああああっ!!」


 案の定、ドランカドは感電。右手を押さえながらその場に蹲る。それを見たシオンとバンナイたちは、主君に伸ばしかけていた手を引っ込めた。


「だから待てと言ったのじゃ!!」


「おい! ドランカド、大丈夫かっ!?」


 ここでヨネシゲたちに声を掛けられた真四角野郎が突然号泣。


「酷い……酷すぎるっ!! ノエル殿下たちはずっとこの苦痛を味わってるというのかっ?!! あまりにも酷い仕打ちじゃねえかっ!! 頼む! 誰でもいいっ!! ノエル殿下たちを早く助けてくれっ!!」


「ドランカド……」


 その赤色電流の苦痛を一瞬だけ味わったドランカド。愛おしい人がこの痛みに長時間耐えていると思うと泣き叫ばずにはいられなかった。同じくシオンも両手で顔を覆いながら泣きじゃくり、バンナイたちも悔しそうに歯を食いしばった。


「くっ! どうすれば……」


 ヨネシゲが焦りを滲ませていると、あの二体の黄色い珍獣が王族たちの元へと駆け寄ってきた。


「ここは私たちに任せるのだ!」


「ポオオオオオオオンッ!!」


「イエローラビット閣下! テカポン!」


 その珍獣とはイエローラビット閣下とマッスルテカポンだった。そして二体のパートナーである二人のおっさん――ドーナツ屋ボブと想獣使いマサルが珍獣に指令を飛ばす。


「よし! イエローラビット閣下! 殿下たちの雷縛を吸収するのだっ!」


「ゆけっ! テカポン! お前の剛腕であの電流の縄を引き千切れ!」


 早速マッスルテカポンがノエルの雷縛に掴み掛かる。


「ポオオオオオオオンッ!!」


 筋肉狸は咆哮を轟かせながら赤色電流の縄を引き千切った――が。


「テッテカ! ホイッ!」


「うわっ?! ぐわあああああっ!!」


 マッスルテカポンは引き千切った電流の縄を投げ捨てる。それは真後ろに居たドランカドに直撃、感電した。筋肉狸はテヘペロで誤魔化すと、続けてヒュバートの救出を始める。


「お……おのれ……覚えていろッスよ……」


 真四角野郎が怒りの眼差しで、その後ろ姿を睨んでいたのは言うまでもない。


 一方のイエローラビット閣下もやってくれた。

 珍獣はヨネシゲとマロウータンに近寄ると突拍子もないことを口にする。


「すまぬが既に満充電状態だ。少し放電させてくれ」


「「へ?」」


 そう言うと閣下は角刈りと白塗りの手を握り――放電。


「「ぎゃあああああああっ!!」」


「説明しよう! イエローラビット閣下の充電状況は既に98パーセント。そして殿下たちに纏わりつく電流を閣下の体内に取り込むには、最低でも半分以上の空き容量が必要なのだ。よって余裕を持って80パーセントを放電しよう――」


 ドーナツ屋の説明など聞いている余裕はない。

 ヨネシゲたちの全身を走る電流からは激しい閃光。幾度か彼らの骨格が見えた気がする。

 珍獣の放電が終わると角刈りと白塗りはその場に倒れ伏す。


「あの野郎……後で覚えておけよ……」


「ぬうう……何も儂らを感電させる必要はないじゃろうが……」


 言うまでもなくヨネシゲたちは鬼の形相でイエローラビット閣下をロックオンしていた。

 その珍獣はメテオとエリックを縛る電流に触れると充電モードに切り替え。雷縛を一気に体内へと吸収した。

 ようやく雷縛から解放された王族たちだが、酷く衰弱した様子で意識を朦朧とさせていた。透かさすヨネシゲがソフィアに指示。


「ソフィア! メテオ様たちの治癒を!」


「わかったわ!」


 そしてシオンやバンナイ、治癒術の心得がある者たちが王族たちの治癒を行う。


「よし、ヨネシゲよ。この場はシオンたちに任せて、儂らは陛下の救出に向かうぞよ!」


「了解しました!」


 角刈りと白塗りが互いに力強く頷いた刹那、ジョーソンが驚いた様子で声を上げる。


「ゲゲッ?! 何じゃありゃあああああっ?!」


「「!!」」


 一同、鉄腕の方へ視線を向けると、屋上へ通ずる階段から不気味な集団が駆け下りてきた。


「何だあれは!? 想獣か!?」


「じゃとしたら、随分と趣味が悪いのう……」


 ――それは想獣の群れ。

 赤色電流を纏う想獣たちは、ライオンやゾウ、キリン、サイ、バッファローなどなど……サバンナを駆け抜ける動物たちの姿を象っていた。しかしその想獣たちは毛皮や肉などを有していない。要するに骨だけの状態――スケルトンアニマルだった。


 ヨネシゲたちと対峙するように、前方を埋め尽くす赤色電流纏うスケルトンアニマルの群れ。その異様な光景に角刈りたちが顔を強張らせていると、後方から頑固オヤジの声が聞こえてきた。


「――あれは噂に聞くマーク元帥の特技、スケルトンサバンナ『雷群(らいぐん)』だろう」


「シュリーヴ閣下!」


 ヨネシゲが振り返ると『魔人ジン』化したドランカドの実父『ルドラ・シュリーヴ』の姿があった。透かさず息子の真四角野郎が尋ねる。


「あぁ?『雷群(らいぐん)』だと?」


「ああ。一言で言えばあれは単なる想獣の群れだ。だが……脅威なのは全身に纏う高圧電流と、武器のように尖った骨格だ。直に攻撃するのは困難な上に、完全に破壊しなければ奴らの動きは止まらない。雷群(らいぐん)の餌食になった敵兵(ゲネシス兵)は多かったことだろう……」


 目の前で今にも襲い掛かってきそうな勢いの殺人スケルトンアニマル集団は、マーク元帥が召喚した想獣の群れ――スケルトンサバンナ『雷群(らいぐん)』だった。

 説明を聞き終えた角刈りたちが再び雷群(らいぐん)に向き直る。


「いずれにせよ、あのスケルトン共を破壊しないと陛下の元へ辿り着けなそうだな」


「へい。こんなところで時間を食っている場合じゃないんですけどね」


「ヨネシゲ、ドランカドよ……来るぞよ……」


「「!!」」

 

 白塗りが警告した直後。

 群れの先頭にいたライオンと思われるスケルトン想獣が咆哮を轟かせた。


「ガアアアアアアアアッ!!」


 その咆哮は合図。

 スケルトンの群れが一斉に角刈りたち目掛けて襲いかかってきた。


「やるしかねえ! 一頭も残らずに粉砕してやるよ!!」


「「「「「おおおおおおっ!!」」」」」


 ヨネシゲの絶叫と同時に猛者たちが雄叫び。床を蹴ってスケルトンの群れに立ち向かっていく。

 その様子を治癒しながら見つめるソフィアに角刈りが言う。


「ここは俺たちに任せて、君はシオン様たちと協力してメテオ様たちの治癒に専念してくれ!」


「うん、わかったわ! あなた、気を付けてね!」


「ああ!」


 角刈りはニヤリと笑みを見せると、迫りくるスケルトンの群れ目掛けて突撃。


「おらああああっ!! これ以上好き勝手はさせねえ!!」


 高圧電流など物ともせず。青光纏う角刈りの鉄拳が、サイ型スケルトンの頭部を捉えた。その拳を起点にスケルトンの頭部から臀部へと衝撃が走る。破竹の勢いでスケルトンの全身に広がった無数の亀裂が木っ端微塵の運命へと導いた。

 サイ型スケルトンを一瞬で撃破したヨネシゲは次なるスケルトンを破壊すべく再び拳を振り上げた。


 そして角刈りと同じく奮闘する猛者たち――


 マロウータンが巨大化した扇を振り抜く。


「麻呂扇奥義『鶴の翼』! ありゃあああああっ!!」


 疾風の勢いで十手をブーメランの如く投げ飛ばすドランカド。


「これ以上、ノエル殿下たちに危害を加える真似は許さないッスよ!!」


 空想少女カエデ、鉄腕ジョーソン、女騎士ビューティー((グレース))ら王都のヒーローも渾身の一撃を繰り出し――


「受けてみなさい! 愛の衝撃波『プリティーキス』!」


「オラオラオラっ! 俺の熱い『鉄腕ラリアット』を食らってみやがれっ!」


「スケルトンなど敵ではない。粉々に砕いてくれるわ! はあああああああっ!」


 彼ら彼女らはバリアを身に纏うなどして感電を回避。その攻撃はいずれも襲い掛かってくるスケルトンたちを一撃で破壊する。

 他にもノア、ゲッソリオ、ルドラ、トウフカド、ウィリアムら猛者たち、珍獣やドーナツ屋に想獣使い、兵士や保安官たちも猛攻を以てしてスケルトンを制していく。

 

(ヨッシャ、だいぶ数が減ってきたな。流石王都の戦士たちは強いぜ……)


 奮闘する仲間たちを横目にしながら、僅かに口角を上げるヨネシゲ。襲い掛かってくるバッファロー型スケルトンに向かって拳を構えた。

 ところがバッファロー型はヨネシゲの拳よりも先に、側方から襲い掛かってきた水の衝撃波によって破壊されてしまった。

 ヨネシゲが衝撃波の発生源へ視線を移すと、そこには赤髪の青年貴族の姿があった。


「何をしている? ヨネシゲ・クラフト!」


「サ、サイラス閣下!」


 その赤髪青年の貴族は、王都領主の重職を担う公爵『ウィリアム・サイラス』だった。彼は周囲のスケルトンを水の衝撃波で破壊しながら、角刈りに言う。


「ヨネシゲ・クラフト! いつまでここに居るつもりだ?!」


「え? いや、このスケルトンの群れを――」


「馬鹿野郎! お前が向かうべき場所は屋上だろう!?」


「!!」


「悔しいが……陛下はお前に絶大な信頼を寄せておられる。きっと、陛下はお前が助けにくることを待っておられる筈だ――」


 そしてウィリアムは微かに口角を上げる。


「ここは俺たちに任せろ。陛下のことを頼んだぞ!」


「サイラス閣下……承知しましたっ!」


 ウィリアムに深々と頭を下げた角刈りは、屋上へ続く階段を駆け上がる。ネビュラの元へと急行した。



つづく……

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