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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
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第326話 王手

 ――ドリム城から延びる水路。

 その水面から顔を覗かすのは……マロウータンだ。彼は周囲の様子を確認すると、水中に身を潜ましている娘と王子、同輩たちに合図を出す。


「ほよ? 敵は居らんのう――ヒュバート王子、今がチャンスです。水路からお上がりください。シオン、バンナイ、アーロン、ダンカン。王子をお守りするのじゃ」


 白塗り顔が合図を出すと、シオンたちがヒュバートを護衛しながら、水中から姿を現す。水路から出てきた彼女彼らだが、『潜水の空想術』の効果で髪や衣類などは全く濡れていない。王子は初めて体験する感覚に感嘆の声を漏らす。


「お〜、これは凄いね。水中を呼吸しながら移動できて、おまけに服まで濡れないなんて驚いたよ」


 だがシオンはあっさりと言葉を返す。


「ヒュバート王子。お気持ちはわかりますが、今は感心している時間はございません。一刻も早くここから離れましょう!」


「うん、そうだね。早速屋敷(クボウ邸)まで案内を頼むよ!」


「お任せください!」


 と、シオンが自信満々の笑みで胸を叩いた刹那、背後から大きな衝撃音が轟く。一同振り返ると、ドリム城内から激しい閃光が幾度となく漏れ出していた。

 マロウータンが険しい表情を見せる。


「――どうやら、城内で激しい戦闘が行われているようじゃな……」


「戦闘?! 一体誰と誰が?!」


 王子が困惑した様子で尋ねると、バンナイが白塗りに代わって答える。


「恐らく、ゲッソリオ閣下と王妃派の猛者――マーク元帥辺りが激突しているのでしょう……」


「ゲッソリオ閣下とマーク元帥が……」


 不安げな表情で城を見つめるヒュバートの手をシオンが引く。


「ヒュバート王子。ここはゲッソリオ閣下を信じて、私たちは屋敷へ急ぎましょう」


「わかった」


 令嬢の言葉を聞いた王子は力強く頷くと、爆音轟く城を背に、クボウ邸へと急いだ。




 ――そのドリム城内。

 二人の中年男が激しいバトルを繰り広げていた。


「――ゲッソリオ奥義『恐怖の抜き打ち監査』! 不正は絶対に許しませ〜ん! アタタタタタタタタタターっ!」


 ゲッソリオは絶叫を轟かせると、両掌から衝撃波を連続で放つ。


「ゼェ……ゼェ……ジジイが舐めるなよっ! 喰らえっ!」


 対するマークは電流を纏わせた衝撃波『雷撃波』を繰り出して応戦。二つの衝撃波が激突すると爆音と爆風が発生。戦いの様子を見守っていた兵士たちが吹き飛ばされていく。

 一方で衝撃波の影響を受けずに、バルコニーから激闘を静観する男女の姿があった。


「――母上。私の結界も何処まで持ち堪えられるかわかりません。そろそろ退避を……」


 そう母親に訴え掛ける青年は――第二王子ロルフだ。今は彼が発生させた結界が爆風を防いでおり、状況を見守る事を可能としている。しかしその結界もそろそろ限界を迎えているようだ。

 息子の言葉を聞いた母親――王妃レナがゆっくりと頷く。


「ええ、わかっております。そろそろ避難しましょうか――」


 彼女はそう言いながら唇を噛む。


(――マーク元帥、何を攻めあぐねているのですか?! 何としてもゲッソリオ閣下を食い止めなさい。ドリム城を国王派に奪われてしまってはお終いですよ!)


 その時。

 兵士が慌てた様子でロルフの前に現れる。


「ロルフ王子! 大変です!」


「何事だ!?」


 第二王子が尋ねると、兵士の口から衝撃的な事実を告げられる。


「地下監獄に幽閉していたメテオ殿下とヒュバート王子、それにスタン閣下が脱獄しました!」


「な、何だとっ?!」


「どうやらバンナイ閣下の仕業みたいです」


 切り札とも呼べる人質たちの脱獄――レナとロルフの顔が青ざめた。そしてボニーが襲撃されたことも知らされ、第二王子は動揺を隠しきれない様子だ。

 追い打ちを掛けるかのように新たな情報が舞い込んでくる。伝令の兵士が血相を変えながら、バルコニーに姿を見せる。


「申し上げます! 王都内の拠点、半数以上が国王派によって奪還されてしまいました!」


「な、なんですって!? 一体、何をやってるのですか!? 数多の兵士を配置していた筈ですよ!?」


「そ、それが……兵士たちが次々と国王派に寝返っておりまして……我々の戦力が大幅に削がれている状況でございます……」


 報告を聞き終えたレナが頭を抱える。


「――やってくれましたね……ネビュラ……」


「母上……いかがしましょう?」


 王子から尋ねられた王妃が声を震わせながら答える。


「決まっているでしょう……大将首を……ネビュラの首を取るのです!」


 王妃は怒気を宿した眼差しで天を見上げた。




 ゲッソリオとマークの激突で、城内の至る箇所が損害を受けている。それは地下監獄も例外ではない。

 先程、ヒュバートたちが幽閉されていた監獄よりも更に奥のエリア――大罪人専用の監獄がある。その重厚な鉄扉は度重なる振動でズレてしまい、外れてしまったようだ。――そして一人の大罪人が鉄扉が無くなった出入口から脱走を図る。


「これは処刑を免れるまたとないチャンスだ。何としてもこの城から抜け出してやる!」


 その大罪人は中年男。兵士達の目を掻い潜り地下監獄から脱出。やがて辿り着いた場所は城内の船着き場だった。この水路を進めばトロイメライ西海に出られる。


「――トロイメライに俺の居場所はない。国外へ逃亡するぞ……」


 中年男は船着き場に留め置かれていた小舟に乗り込む。


(妻子に関しては、ウィンターが面倒を見てくれると約束してくれた。奴に任せておけば心配はいらないだろう……)


 そして中年男は小舟の想素機関(エンジン)を作動させる。


「さらばだ! トロイメライ王国!」


 小舟はゆっくりと、ゆっくりと、大海原を目指す。


 この大罪人の正体――改革戦士団と結託し、南都の大動乱の引き金となったあの男『エドガー・ブライアン』だった。――エドガーの新たな人生が始まる。




 ――同じ頃。

 王都の各所では、国王派の猛者たちが大いなる活躍を見せていた。


 王都民たちの避難誘導に尽力する大男は、クボウ家臣『リキヤ』。


「――皆、落ち着いて移動するのだ! お前たちの背中は、このクボウ家臣リキヤが死守してみせるぞ!」


「なんと頼もしい……」


「流石、クボウ様の家臣様だ!」


 リキヤの雄叫びに王都民たちは勇気づけられたようだ。

 

 ――王都保安局前。

 ジン化した保安局長官『ルドラ』とその息子『トウフカド』が保安局副長官『ゴードン』を撃破する。


「これでトドメだ! 」


「豆腐の角に頭ぶつけて跪いてくださいね!」


 シュリーヴ親子から繰り出された雨の矢と白色ブロックの嵐がゴードンを襲う。


「ぐはっ!!」


 絶叫を轟かせながら大の字で倒れる副長官。その姿を見下ろしながら頑固親父がニヤリと口角を上げる。


「勝負あったようだな。保安局は返してもらうぞ――」


 ルドラはそう言うと右腕を高らかに掲げた。




 鉄腕『ジョーソン』とサンディ家臣『ノア』は、王妃軍から国王派貴族を次々に救出。


 空想少女『カエデちゃん』と女騎士ビューティーこと『グレース』は、救出した人質たちを安全な場所まで誘導。


 ノエルを保護したドランカドはクボウ邸を目指していた。


 ヨネシゲ、ソフィア、ウィリアムはクボウ邸に帰還したところだった。

 角刈りがネビュラが待機する部屋に入る。


「陛下! 只今戻りました! サイラス閣下も一緒です」


「ご苦労。ゆっくり休んでくれ……と言いたいところだが、邪魔が入らないよう屋敷の警備を頼む」


「了解しました! いよいよですな」


「うむ……」


 ヨネシゲの言葉にネビュラはゆっくりと頷いた。そして国王がコウメに命じる。


「コウメよ。早速始めてくれ!」


「かしこまりました。――それじゃあドーナツ屋、マサル君。始めてちょうだい!」


「「おうっ!」」


 ボブとマサルは雄叫びを上げると、相棒たちに指示を出す。


「頼むぞ、閣下!」


「ゆけっ! テカポン! お前の電力、見せつけてやれ!」


 一方の珍獣と狸型想獣が咆哮を轟かせる。


「ぬおおおおおおおっ!!」


「テカアアアアアアっ!!」


 その様子を見つめながらネビュラが口角を上げた。


「――さあ、王都に居る全ての者たちよ。俺の話に耳を傾けるのだ」


 トロイメライの明暗を分ける演説が始まろうとしていた。



つづく……

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