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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
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第323話 王都奪還⑪

 ――ドリム城・城門前。

 城から脱出を果たした男女――ドランカドとノエルの姿があった。

 王女を抱きかかえながら爆走する真四角野郎は、歓喜の雄叫びを轟かす。


「ヨッシャ!! 脱出成功だぜ!! ノエル殿下、良かったッスね!」


「はい! これもドランカド殿とゲッソリオ公爵閣下のお陰です――」


 ネコソギアからノエル誘拐の罪を着せられたドランカド。兵士に包囲された挙句、王国軍元帥マークにまで行く手を阻まれたが、城内本部長『モーダメ・ゲッソリオ』公爵の助太刀により、ようやく城外へ脱出することに成功。だが、ノエルには心配事があった。


「――ゲッソリオ公爵閣下、お一人で大丈夫でしょうか……」


 表情を曇らす王女。一方のドランカドは少し間を置いた後に言葉を返す。


「――今はゲッソリオ閣下を信じましょう。俺たちは閣下が作ってくれたチャンスを無駄にしちゃいけません。全力で奴らから逃げ切りましょう!」


「はい……それでドランカド殿。私たちはこれからどちらに?」


「はい、これからクボウ様のお屋敷に向かおうと思います。きっとあそこなら安全ですし、運が良ければ仲間たちと合流できる筈っス――」


 二人がそんな会話を交わしていた時だ。突然その肌に強風と雨粒を感じる。


「あれ? 雨みたいですね……それに風も吹き始めてきたみたいです……」


「そうッスね……」


 ノエルの言葉にドランカドは相槌を打つだけ。何故ならこの風雨の原因を知っているからだ。王女に余計な心配をさせない為の、彼なりの配慮である。


(――どうやら頑固ジジイが戦闘を始めたようだな。あまり派手に暴れるんじゃねえぞ――)


 真四角野郎は心の中でそう呟きながら王都の街を一気に駆け抜けた。




 ――その頃、王都保安局本部・庁舎前。

 保安局トップの長官『ルドラ・シュリーヴ』と、保安局ナンバー2の副長官『ゴードン』が熾烈な戦いを繰り広げていた。

 魔人『ジン』化したルドラは空中に浮遊しながら地上のゴードンを見下ろす。鍛え抜かれた上半身を曝け出し、下半身に漆黒の渦雲を纏わせながら、絶叫を轟かせる。


「食らうがいい! 雨の矢を!」


 その刹那。頑固親父を旋回する黒雲から、ゴードン目掛けて降り注ぐそれは、轟音と青白い光を発する無数の矢――雨の矢だ。その矢の威力は凄まじく、地上に到達すると、庁舎前に敷かれた石畳を木っ端微塵に粉砕した。生身の人間が受けたら命は無いだろう。

 その矢を迎え撃つ老年侯爵の男は白髪。濃紺の制服の上には黒羽織、頭部には漆黒の陣笠という奇抜な服装だ。右手には十手を握り、迫りくる無数の雨矢を睨む。


「見切ったわい!」


 ゴードンはそう叫ぶと、十手を高速で振り回す。そしてその雨の矢一つ一つを弾き返していく。そして副長官は不快そうに顔を歪める。


「納得いかん! 侯爵のワシが副長官で、何故青二才伯爵の貴様が長官なのだ?! ああ実に腹立たしい!」


「それは陛下が俺を選んだからだ」


「ははん?! 国王派というだけで優遇されて良い身分だな! だが……貴様の時代も今宵で終わりだ。これからはワシの時代が訪れるのだよ! 鼻垂れ小僧はとっとと失せるんだな!」


 ゴードンは大袈裟に腕を広げながらルドラを怒鳴り散らす。一方の頑固親父も怒りを滲ませながら反論。


「フン! 権力を振りかざし、威張り腐って有能な部下を潰すような老いぼれジジイの方こそ、とっとと隠居したらどうだ? 貴様の存在はこの保安局にとって害悪だ。貴様が勝手な行動を起こさなければ……『ウィルダネスの悲劇』は起こらなかったのだ!」


「ええい! 黙らんかっ! 貴様がへっぴり腰だから、ワシが代わりに討伐保安隊を動かしてやったんだろうが!」


「ふざけるな! 貴様のせいで多くの罪なき民たちが命を失い、多くの隊員が心に深い傷を負ったのだ!――俺の息子もその内の一人だ……」


「貴様のバカ息子の事など知らんわい! 今頃になってノコノコと王都に戻ってきたようだが、一体何処をほっつき歩いていたのだか。――さぞ、お気楽なんだなぁ?! お宅のバカ息子はっ!」


「これ以上、俺の息子を――愚弄するな……!」


 怒鳴り合っていた二人だったが、息子を馬鹿にされたルドラの堪忍袋の緒が切れる。


「老いぼれジジイがっ! 病院送りにしてやるよ!」


 頑固親父はゴードンに罵声を浴びせると、黒雲から雷撃を放った。一瞬で副長官を直撃――した筈の雷撃は彼の十手によって弾き返されてしまった。


「雑魚がっ! その程度の雷撃ではワシを仕留めることはできんぞっ!」


 ゴードンが十手を構える。その先端は頭上のルドラに向けられていた。


「貴様は昔から隙があり過ぎなんだよ!」


「!!」


 次の瞬間、十手の先端から発射されたのは白色の光線だった。咄嗟に避けようとするルドラだったが間に合わず、その左腕を撃ち抜かれる。


「ぐぬっ!」


「ハーハッハッハッハッ! 痛いか?! 痛いだろ?! だが安心しろ! 今楽にしてやるからよ!」


 再び十手を構えるゴードン。一方の頑固親父は額に汗を滲ませながら唇を噛む。


(――悔しいが、さすが討伐保安隊の隊長だっただけのことはある。俺も全力で大暴れしたいところだが……それをやってしまったら王都は瓦礫の山と化してしまう。このまま長期戦に持ち込まれては、圧倒的に不利だ……)


 ルドラの暴風雨を操る能力――その力をフルに発揮しようとすると、周囲に甚大な被害を及ぼしかねない。市街地戦は力をセーブする必要があり、彼が苦手とするところだ。

 悔しそうにするルドラを見つめながら、ゴードンが嘲笑を浮かべる。


「どうした? 俺を倒したかったら本気で掛かってきな! まあそんな事したら王都の街は吹き飛んじまうか。そのような結果を招けば保安局長官失格だな! ハーハッハッハッ!」


 副長官が握る十手が白色に発光する。


「――これで終わりにしてやるよ!」


 ニヤリと口角を上げるゴードン。しかしこれで諦めるルドラではない。


「竜巻シールドっ!!」


 ルドラは自分を中心に空気を旋回させ、旋風の壁『竜巻シールド』を発動。ゴードンの光線に備えた。


「旋風の壁か……無駄な事を……!」


 副長官は不敵に顔を歪めたと同時に光線を発射しようとした。


 ――その時。

 ゴードンに向かって高速の物体――白色のブロックが接近する。


「くっ……」


 副長官は咄嗟に十手を振り抜き、白色ブロックを粉砕。その破片が彼の顔を掠めると頬には一筋の傷。血液が滲み出る。

 ゴードンは白色ブロックが飛んできた方向を睨む。


「この白色ブロックは――『二丁豆腐のトウフカド』かっ?!」


 彼の視線の先――アフロヘアーを持つ角張った顔の青年『トウフカド・シュリーヴ』が白色ブロックを握った両手を構えていた。


「父上っ! 加勢します!」


「待っておったぞ! トウフカド!」


 ルドラは応援に駆け付けた次男坊の姿を目にして口元を緩めた。


「形勢逆転だな、ゴードンよ」


「一対二とは……ずるいではないか……!」


 悔しそうに顔を歪めるゴードンにルドラが言う。


「保安局は貴様の私利私欲を満たす道具ではない。保安局長官の座は絶対に譲らぬぞ!」


「いいだろう! 親子まとめて蜂の巣にしてやるわい!」


 王都保安局の明暗を分ける戦いは最終局面に突入した。




 ――王妃軍に包囲された国王派貴族の屋敷を救援する男女はヨネシゲ、ソフィア、そして王都領主ウィリアムだ。角刈りたちは『魅了の煙霧玉』で王妃軍の将兵たちを掌握。着々と王妃側の戦力を削いでいた。

 魅了された兵士たちが、角刈りと女神の前で跪く。


「「「「「兄貴っ! 俺たちどこまでも付いていきますぜ!」」」」」


「「「「「ああ、女神様。我々を導いてください!」」」」」


 その様子をウィリアムが顔を引き攣らせながら見つめる。


「ず、随分と強烈な『魅了の煙霧』だな。決して食らいたくないものだ……」


「へへっ。名前は伏せておきますが……これはとある美人さん直伝の煙霧なんですよ」

 

 ヨネシゲの言葉を聞いたウィリアムが眉を顰める。


「――大方検討がついたぞ。その美人さんとやらは、ウィンターが引き取った改革戦士団の女幹部のことだな? お前たちはそんな下衆な者の力を頼っているのか?」


 不快感を露わにする王都領主に角刈りが落ち着いた口調で返答。


「サイラス閣下、彼女は足を洗いました。確かに下衆と呼ばれても仕方ありませんが……そう呼ぶ前に、先ずは彼女の働きをご覧ください。グレース先――いえ、グレース・スタージェスは変わりました」


「フン! お前もあの女に魅了されたか? 鼻の下を伸ばしているお前の顔が安易に想像できる」


「私の事を何と言おうと構いません。ですが――これは陛下がお決めになったことです。陛下も彼女の力を頼っております。その事をお忘れなく」


「くっ……偉そうな口を利いてくれる……」


「サイラス閣下が私を毛嫌いしていることは理解しております。ですが今は互いに手を取り合って、王都を奪還し、そして陛下の玉座を――」


「ヒャッハー! ヨネシゲ・クラフト! その首もらったあ!」


「!!」


 角刈りの顔が強張る。

 なんと、魅了の魘夢を免れた将官が角刈りを背後から急襲。だが――


「遅い!」


「ぐはっ!!」


 ウィリアムの水弾が将官を直撃。敢え無く戦闘不能となった。倒れた将官を横目に王都領主が角刈りに言う。


「――だからこうして共闘しているのだ! 俺に説教など百年早いわっ!」

 

「サイラス閣下、ありがとうございます」


 角刈りが微笑みながら礼の言葉を述べると、ウィリアムはそっぽを向く。


「フン! 礼など無用だ。それよりもまだ王妃軍によって行動を制限されている同志たちが数多いる。彼らの解放を急ぐぞ!」


 彼はそう言うと、兵士を引き連れ次なる目的地へと向かう。


「――ガハハ。王都領主様も素直じゃねえな……」


「ウフフ、そうですね」


「さて、俺たちも閣下の後を追うぞ」


「はい!」


 微笑みのクラフト夫妻は力強く頷くと、ウィリアムの後を追うのであった。





 ――その頃、クボウ邸。

 ドーナツ屋ボブがコウメの目の前で水晶玉を振り翳す。


「おーほほっ! ドーナツ屋、早速見せてちょうだい!」


「へい、只今――いでよっ! マサル! テカポン!」


 ボブが叫ぶと水晶玉からまばゆい光が漏れ出す。と同時に二体の生命体――人型とたぬき型が水晶玉の中から飛び出してきた。

 生命体が咆哮を轟かせる。


「マアアアアアアサルッ!!」


「テカポーンッ!!」


 ところが人型の生命体がハッとした様子でドーナツ屋に詰め寄る。


「――ってか?! 違うっ!! 貴様っ! 俺たちを攫って一体何をするつもりだっ!?」


「まあ落ち着け。ドーナツやるから」


「ふざけるなっ! これが落ち着いてられるかよっ!!」


 ボブが宥めるも、人型生命体はご立腹のご様子だ。そんな彼の背後から――ある男の声が響き渡る。


「――想獣使いのマサルだな?」


「あぁ?――って?! あ、貴方様は……!!」


 人型生命体――マサルは背後の人物を目にした途端腰を抜かす。何故ならトロイメライの頂点が握手を求めているのだから。


「ネビュラ・ジェフ・ロバーツだ。この俺に力を貸してほしい。トロイメライの安寧と繁栄のために――」



つづく……

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