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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
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第316話 王都奪還④【挿絵あり】

 ――ドリム城内。

 王妃私邸から姿を現した男二人は、大臣ネコソギアと王国軍元帥マークだ。


「では元帥閣下。王妃殿下とロルフ王子に従うよう、ヒュバート王子たちを説き伏せるのだ。少々乱暴に扱っても構わん」


「承知。だが、それでも聞かない場合は?」

 

「クックックッ。腕の一本でも切り落としてやれ。王妃殿下から許可は下りている」


「わかった」


 薄ら笑いを浮かべながら指示を出す大臣に、元帥は表情一つも変えずに頷いた。


 直後、ネコソギアがあるものを目撃する。


「な、なんだあれは!?」


「ん?」


 ネコソギアが指差す先――電流と黒雲を纏う魔人がドリム城から飛び去っていくのが見えた。

 

「あ、あれは……想獣か!?」


 顔を強張らせながら言うネコソギア。だがマークは否定。


「違うな。あの魔人はルドラが変身した姿だ」


「シュ、シュリーヴ伯爵が!?」


「ああ。ノエル殿下の捜索に夢中になってたようだが……流石にあの馬鹿も王都の異変に気が付いたようだな。魔人化して保安局を奪還、あわよくばこのクーデターを鎮圧しようと考えているのだろう」


「そ、それは、まずくないか?!」


 慌てた様子のネコソギアにマークが不敵に強面を歪める。


「安心しろ。奴一人が動いたところで作戦が覆ることはない。仮に保安局が奪還されたとしても、既に全保安官は我々王国軍の指揮下にある。奴に味方する者はいない――」


 マークは言葉を終えると歩みを進める。


「元帥閣下?」


「早速、生意気な王子たちの荒治療を行う」


「クックックッ。よろしく頼むよ」


 不気味な笑みを浮かべるネコソギアとマーク――だが二人は知らない。多くの者たちがクーデターの阻止、王都奪還に乗り出していることを。


 ――そして、不気味な風貌をした伝書想獣がドリム城から飛び去っていったことを。


『イソグゾ、マロウータンノモトヘ! イソグゾ、マロウータンノモトヘ!』




 王都中心部へと急行する集団は――クラフト夫妻と、王国軍兵士や保安隊の隊員たちだ。

 ヨネシゲたちは国王ネビュラからの命令を受けて、王都領主『ウィリアム・サイラス』の救援へと向かっていた。例外なく彼の屋敷も王妃派の軍勢に包囲されているためだ。

 クラフト夫妻は国王の命令を思い出しながら言葉を交わす。


「――俺とソフィアは王都領主の助太刀に向かい、ノアさんとジョーソンさんも国王派貴族の救援。そしてカエデちゃんとグレース先生は港の海軍施設に監禁されている将校たちの家族を救出か。これらを成し遂げれば王都奪還に大きく近付く……何としても成功させねば!」


「大丈夫よ! 皆で力を合わせれば、きっとクーデターを阻止できる!」


「ああ。絶対に食い止めてやろうな! 陛下の玉座は俺たちが守り切る!」


 ガッツポーズするヨネシゲを見つめながら、ソフィアが笑いを漏らす。


「フフフ。それにしても不思議ね……」


「ん? 何が不思議なんだ?」


 首を傾げる角刈りに愛妻がしみじみと語る。


「まさか……私たちに酷い仕打ちを行ったあの陛下を、今全力で守ろうとしているのよ。とても不思議だと思いませんか? 人生何が起こるかわからないものだわ」


「ガッハッハッ! 違いねえ。最初の頃は陛下の顔を見る度にぶん殴りたくなったが――今は違う。今は全力でお支えしたいと思う人物の一人だ。この短期間で陛下は本当に変わられた。俺はそんな陛下が王道を歩むところをこれからずっと見守っていくつもりだ」


「ええ、私もよ――」


 暴君と呼ばれていたネビュラ。初対面のクラフト夫妻を暴力と暴言で出迎えるなど最悪の男だったが――彼は変わった。弟や臣下の説得、改革戦士団の王都襲撃に直面したことが彼を改心へと導いたようだ。

 過ちは誰にでもある。だが心を入れ替えて真っ当な道を歩もうとしているならば、見守ってあげるというのがヨネシゲの考えなのだ。


「ヨッシャ! 気合い入れていくぞ!」


「ええ、頑張りましょう!」


「あ、だけど無理だけはするなよ!」


「わかっていますよ。なので、今回は()()に頼らせてもらいます――」


 そう言ってソフィアがポシェットから取り出したのは、薄紅色に光る、手のひらサイズのガラス玉だった。角刈りはそれを目にした途端、苦笑を見せる。


「ナッハッハッ……そいつは奥様とグレース先生のコラボアイテム『魅了の煙霧玉』か。()()()()しかしないぜ……」


「そんな事はありませんよ。これを兵士さん達に投げつければ、先程と同じように魅了することができるんですもの。コレを超える秘密兵器は他にないわ!」


 何故か『魅了の煙霧玉』をゴリ押しするソフィア。

 これはグレースの空想術『魅了の煙霧』をコウメが開発した特殊なガラス玉に仕込んだものだ。魅了したい相手に向かって投げ付けて使用する訳だが――


「ソフィア。そいつを投げる役目は君に託すよ」


「どうしてですか?」


「決まっているだろ? 俺が投げたら――兵士たちは俺に魅了されちまうからな。何百もの兵士たちに『はい! 兄貴!』なんて言われながら付き纏われるのはごめんだぞ……」


「いいじゃない、減るものじゃないんだから……」


「良くない!」


 ――だがしかし。ヨネシゲの嫌な予感は現実となってしまう。




 兵士や保安隊を引き連れて、歓楽街を疾走する二人の女性はカエデとグレースだ。彼女たちは王都最西部のメルヘン港にある海軍施設を目指していた。


「――元帥に勘付かれる前に人質を救出しないといけないわ! 貴方たち、急ぐわよ!」


「「「「「はい! 姐さん!」」」」」


 グレースに魅了された兵士たちは元気よく返事。

 一方のカエデはグレースに手を引かれながら疲れた様子だ。


「グ、グ、グレースさん! は、は、早いですよ! あ、足が追い付きません!」


「馬鹿おっしゃい! 人命が掛かっているのよ? ゆっくりもしてられないわ。貴女それでも王都のヒーローですか!?」


「た、た、確かにそうですけど……」


 グレースに説教され、たじたじのカエデ。

 グレースとペアで行動する事が決まったカエデだったが、直後彼女に腕を掴まれ、変身する間もなくメルヘン港へと移動することになった。しかしグレースの歩幅、足の速さはカエデを遥かに上回っており、追い付くのがやっとの状態だ。


(……空想少女に変身できていれば、苦労せずに走れるのに……いや、今からでも遅くないわ。グレースさんに断って変身させてもらおう!)


 もっと早くにこうするべきだった。

 カエデは後悔しながらもグレースに声を掛ける。


「あ、あ、あの……グレースさん――」


 その刹那。

 前方から王国軍の軍勢が迫ってきた。


「止まれ! 貴様ら! 王妃殿下とロルフ王子を裏切るつもりか?!」


 怒号を上げる敵兵にグレースが妖艶に微笑む。


「ウフフ、裏切るですって? そもそも私たちは貴方たちに味方したつもりはないわよ!」


 グレースは薄紅色の煙霧――『魅了の煙霧』に身を包みながら敵兵たちに突っ込む。その後ろを魅了された味方兵が続いていく。


(今のうちだ!)


 グレースたちが敵兵と交戦している隙にカエデが路地に身を潜める。


「よ、よし……誰も居ないみたいね……」


 黒髪少女は独り言を漏らしながらポケットからリップクリームを取り出す。


「変身よ!」


 カエデが雄叫びを上げながらリップクリームを唇に向けたその時だった。背後から何者かによって抱きしめられる。


「何が変身なのかな?」


「グ、グ、グレースさん?!」


 そう。カエデを背後から抱きしめる女性はグレースだった。彼女は艶っぽい声で黒髪少女に尋ねる。


「こそこそと路地裏に逃げ込むから、何事かと思って後を追ってみたら――変身って隠れないとできないわけ?」


「い、いえ、その……こ、これは……お、お約束ってやつでして……」


「何がお約束なのかしら?」


 グレースはそう言いながらカエデの手元に視線を下ろす。


「へぇ~。そのリップクリームが変身アイテムって訳ね?」


「そ、そうですけど……」


 すると妖艶美女が思い掛けないことをカエデに要求する。


「ウフフ。そのリップクリーム、私に貸してちょうだい」


「え?! ダ、ダメですよ!」


「どうして? 私も使えば変身できるんでしょ?」


「で、できますけど、お、奥様の許可が必要です!」


「別にいいじゃない。この先どんな強敵が現れるかわからないんだから、私も変身してパワーアップしておいた方がいいでしょ?」


「そ、そうかもしれませんけど……ダメなものはダメです!」


 頑なに拒むカエデ。するとグレースが甘い吐息を彼女の耳に吹き付ける。


「ふぅ~」


「ひうっ?!」


「ウフフ、可愛らしい反応じゃない――」


 グレースは黒髪少女の反応を楽しむように再び吐息を吹きかける。一方のカエデは、白い肌を真っ赤に染めながら混乱した様子だ。そして妖艶美女が甘い声で囁く。


「ウフフ……私ね、旦那様のような可愛い男の子は勿論だけど、カエデちゃんのような可愛い女の子も大好物なのよ――このまま食べちゃおうかしら――」


「なっ?!」







    挿絵(By みてみん)







 直後、グレースはカエデの耳を甘噛み。


「うぅ……やめっ……」


「カエデちゃん、私の虜になってみない?」


「え?」


「魅了の煙霧を使ってこのまま落としてあげるわ」


「ダ、ダメです……そ、そんなの……」


 グレースの脅しに涙目のカエデ。

 ここで妖艶美女が再び黒髪少女に要求。


「では取引よ。そのリップクリーム、私にも使わせなさい」


「あ、悪用しないって……や、約束してくれますか?」


「勿論よ。私は王都を救うために貴女の力を借りたいの」


 先程までとは打って変わって真剣な眼差しを向けるグレース。カエデは少し迷った後、彼女にリップクリームを手渡した。


「はい……どうぞ……」


「ありがと。早速使わせてもらうわ!」


 間髪入れず、グレースは自身の唇にリップクリームを塗り始めた。


 ――刹那。妖艶美女に異変が起こる。


「うっふ〜ん♡ きたわ! きたきたきたー!」


 グレースは喜悦の声を漏らしながら身体を白色に発光させる。その様子を呆然と見つめるカエデ。

 すると、どこからともなくドーナツ屋が出現。


「説明しよう! カエデのリップクリームを使ったグレース。生まれ持った妖艶なオーラが新たな王都ヒーローを生み出そうとしているぞ! ちなみに彼女の変身シーンは大人の事情でこれ以上お見せすることができない! 申し訳ないが、私の輝くスマイルで勘弁していただきたい。ニコッ☆」


 程なくすると変身を終えたグレース――四人目の王都ヒーローが姿を現した。


「――王都のヒーロー『ビューティー』見参!」


 そこに居たのは凛々しい表情を見せる女騎士だった。



つづく……

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