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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
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第306話 ロルフを追え!(前編)

 プレッシャー城・バルコニー。

 慌ただしく城を去っていく一行を見下ろすのはゲネシス皇帝オズウェルと皇弟ケニーだ。


「――見ろ。ネビュラたちが血相を変えて帰っていくぞ」


 兄の言葉を聞いたケニーが嘲笑を浮かべる。


「フフッ、忙しない連中ですね。精々絶望を味わうんだな」


「ロルフがこの城を出てから三十分も経っていない――ネビュラたちが背後から猛追してきたらさぞ驚くことだろう――」


 オズウェルが不敵に顔を歪める。


「まあ、王妃レナが企てた穴だらけの作戦だからな。遅かれ早かれロルフとネビュラは衝突する運命だ。さて……最後に笑うのは新国王(ロルフ)か? それとも現国王(ネビュラ)か? こいつは目が離せないぞ――」


 ゲネシス最高峰の兄弟は悪意に満ちた笑みを浮かべるのであった。




 ――帰路を疾走するトロイメライ一行。

 馬に跨るヨネシゲとノア、女神の姿で飛行するソフィアは、国王たちが乗る金塗り馬車を高速で先導する。

 角刈りと金髪青年は馬を並走させながら言葉を交わす。


「畜生! なんてことになっちまった! まさかロルフ王子が謀反を企てていたとは――いや、王子は所謂王妃派だ。謀反に踏み切ったとしても決して不思議ではない……」


 推測するヨネシゲにノアが勇ましい声で伝える。


「まだ決まった訳ではありませんが、このような噂が流れている以上、帰国を急がねばなりません!」


 そんな彼に角刈りが気遣うようにして言葉を返す。


「――ノアさん。本当だったらウィンター様の捜索に加わりたかったことでしょうに……俺たちと一緒に付いてきてくれてありがとうございます」


「ヨネシゲ殿、お気になさらず。私の任務は旦那様の捜索ではなく、陛下の護衛です。旦那様が居ないからこそ俺がその役目を果たさなければなりません。それに捜索に加わっていたら旦那様に怒られちゃいますからね」


「ノアさん……」


 ノアは笑顔でそう伝えるが、その表情にはどこか悲しみを宿していた。


 角刈りたちが先導する馬車内には二人の親子――トロイメライ王ネビュラと第一王子エリックの姿があった。焦燥感に駆られる親子は険しい表情を見せる。


「ロルフの野郎っ! ついにやりやがったな! お前が今の地位に居られるのは父上のお陰なんだぞ?! 父上から受けてきた御恩を仇で返すつもりか?! 許せねえ!」


 怒鳴り声を上げる息子の向かいで、ネビュラが顎に手を添えながら思考を巡らす。


「オズウェルの言葉を全て信用するつもりはない。だが――ロルフはレナの息が掛かっている。この俺を玉座から蹴落とそうとしていても不思議ではない――」


 オズウェルから三つの重大事実――『ロルフの謀反』『ノエルの失踪』『ウィンターの拉致』を知らされたネビュラ。皇帝の言葉は信憑性に欠けるが、心当たりがあるのも事実。

 ロルフとの関係は険悪。ネビュラと対立する王妃レナの息も掛かっており、彼が謀反を企てても決して不思議ではない。

 また、ノエルは暴君と呼ばれてきた自分の愛娘。暴政に苦しめられてきた者たちが報復のため、彼女に危害を加えることは十分に考えられる。

 高熱で倒れてしまったウィンターの看病を行っていたのはエスタだ。彼女にどんな思惑があるかは不明だが、無防備な彼を連れ去ってしまうことくらい容易いだろう。

 悩ましい表情を見せる父にエリックが尋ねる。


「父上。仮にオズウェルの言うことが本当だったとして……ロルフが謀反を実行するタイミングでノエルが失踪、ウィンターが皇妹に攫われてしまうなんて、出来すぎた話だと思いませんか?」


「ああ……俺もそう思う……」


 そしてネビュラが憶測を口にする。


「確たる証拠はないが……恐らくレナが裏で糸を引いていたのだろう」


「母上が……」


 額に汗を滲ませるエリックに父が言葉を続ける。


「ああ。此度の謀反の黒幕はレナだ。奴がノエルを監禁し、ウィンターの拉致を皇妹に依頼したのだろう……」


「ということは――母上はゲネシスと繋がっている?!」


 ネビュラはゆっくりと頷く。


「その可能性が高い。ひょっとしたら、此度の和平交渉も俺を誘き寄せる為の罠だったのかもな。だとしたらまんまと嵌められた……」


 国王は自嘲気味に口角を上げる。


「まあ、先ずはロルフを捕まえて真相を確かめる必要がある――」


 するとネビュラは馬車の窓から身を乗り出し、先導する角刈りたちに告げる。


「この先にロルフは居る! 追え! ロルフを追って取っ捕まえろ!」


「御意!」


 ヨネシゲは背後の国王に視線を向けると、力強く頷いて応えた。


 ――それから程なくして。

 角刈りたちの上方を飛行していたヒーロー女神――ソフィアが前方の()()を捉える。


「あなた! あれっ! 前に居るのって、もしかして!?」


「あれはっ!?」


 ヨネシゲは目を凝らしながら前方を凝視する。

 角刈りの瞳には、騎士たちに護衛される一台の金塗り馬車の後部が映る。


「ロルフ王子の馬車だっ!」


 それは第二王子が乗車する馬車と、王室第三騎士団の姿だった。

 角刈りの背後からはネビュラの絶叫が轟く。


「ヨネシゲっ! ロルフを捕らえろっ!」


「承知っ!」


 国王の命令に力強い声で応えるヨネシゲ。


「ノアさん、行きましょう!」


「了解です!」


「ソフィアは万が一に備えて兵士たちと一緒に陛下の護衛を!」


「わかったわ! 任せてっ!」


 ヨネシゲとノアは馬のスピードを上げながら、ロルフの馬車との間合いを詰める。ソフィアと兵士たちは協力しながら、ネビュラが乗る馬車を囲んで防御の体制に入った。




「――ロルフ王子、大変です! 後方から陛下のご一行が!」


「何だと?!」


 ロルフは並走する騎士から報告を受けると、馬車の窓から後方を確認する。そこには咆哮を轟かせながらこちらに迫る角刈り頭と金色短髪の姿があった。


「あれはっ!? ヨネシゲとノア!?」


 二人の姿を確認した王子の顔が強張る。そして角刈りたちの後方にある、王族専用の金塗り馬車もロルフの瞳に映る。


「くっ……勘付いたか!? こんなに早く気付かれるとは予想外だ――」


 大きな誤算。

 これほど早くネビュラたちに追放作戦を気付かれてしまうとはロルフの予想外だった。

 第二王子は慌てた様子で騎士たちに命じる。


「飛ばせっ! 速度を上げろっ! 何としても奴らを振り切って関所を通過しなければならん!」


「「「「「ははっ!」」」」」


 ロルフの乗る馬車が速度を上げる。


「ちっ! 逃がしませんよ、ロルフ王子!」


 角刈りたちは逃げるロルフの背中を追う。



つづく……

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