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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
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第305話 蒼白のネビュラ

 ――プレッシャー城・大広間。

 ヨネシゲたちが晩餐の会場に案内されてから30分以上の時間が経過しているだろうか。

 一向に姿を見せないゲネシス皇帝とその弟妹に、角刈り、ネビュラ、エリックが苛立ちを募らせる。ソフィアとノアも不安げな表情で会場を見渡す。彼らだけではない。会場に居るイタプレスやゲネシスの貴族たちからもどよめきが沸き起こっていた。

 空腹のヨネシゲはさぞ不機嫌そうに眉を顰めながら小言を漏らす。


「まったく……ゲネシス皇帝はいつまで客人を待たすつもりだ? 一国の皇帝のくせしやがって、VIPを(もてな)すこともできねえのか? 俺はもう腹ペコなんだ。とっとと来やがれってんだい……」

 

 横柄ヨネさん。透かさずソフィアが注意。


「あなた、口が悪いわよ。ゲネシスの貴族様に聞かれたら怒られますよ?」


「すまんすまん。腹が減り過ぎてまた『鬼』になるところだったぜ。ナッハッハッ!」


「もう……あなたは……」


 ソフィアは笑い飛ばす夫を呆れた表情で見つめるのであった。


 そしてこちらにも不機嫌親子の姿。

 腕を組み、足を揺するネビュラとエリックは、心底不愉快そうに顔を歪めながら、文句を口にする。


「――オズウェルめっ、またしても俺たちを待たすつもりか? トロイメライに歩み寄ってきた姿勢は認めるが、奴らの無礼な態度は気に食わん!」


「まったくです。マウントをとっているつもりなんでしょうが、あの態度を改めなければ、和平を結んだとて、奴らに歩み寄ることなどできません!」


 ここでケンジーがネビュラたちを宥める。


「まあまあ、トロイメライ国王陛下、エリック王子。オズウェル殿も間もなくお見えになることでしょう。怒りをお鎮めください」


「うむ……」


 イタプレス王の言葉にネビュラとエリックの表情が和らぐ。とはいえ納得いかない様子で大きく溜め息を漏らす。一方のケンジーも姿を見せない皇帝たちに不安を抱く。


(――オズウェル殿、一体何をしておられる? 流石にトロイメライ国王陛下を待たせ過ぎですぞ……)


 額に汗を滲ませるケンジー。


 ――その時。

 大広間の扉が開かれた。

 一同、静まり返ると一斉に扉へと視線を向ける。そこに居たのは――オズウェルとケニーだった。


(やっと来やがったか!)


 皇帝たちの姿を見たヨネシゲはご立腹の様子で鼻息を漏らす。

 そしてネビュラとエリックは不愉快そうにゲネシス兄弟を睨み、ケンジーは驚いた様子で席から立ち上がる。


「オズウェル殿! ケニー殿下!」


「待たせたな」


 オズウェルはイタプレス王にそう告げながら最奥の円卓――ネビュラの元へ一直線に歩みを進める。威圧のオーラを放つ魔王を見つめながらネビュラとエリックは顔を強張らせた。角刈りたちも不足の事態に備えて身構える。


 やがてネビュラの前に辿り着いたオズウェル。眉間にシワを寄せながらロバーツ親子を見下ろす。その背後では憎悪の表情を見せるケニーが控える。

 ネビュラが歯を剥き出しながら皇帝に訊く。


「随分と待たせてくれたな? 悪い目付きで人を見下ろす前に、先ず言うことがあるだろう?」


 トロイメライ王の言葉に魔王は不敵に顔を歪める。


「フッ。何か言わなければならないことでもあったか? 何も俺は待ってくれなど頼んでいない。腹が減っているなら先に晩餐を始めてもらっても構わなかった。それに国王陛下は女ども相手に鼻の下を伸ばしていたそうではないか。有意義な時間を過ごせたであろう?」


「無礼な……!」


 礼を欠いた言葉の数々にネビュラの怒りも限界を迎えようとしていた。

 ところがオズウェルの次の言葉にトロイメライ王の顔が一気に強張る。


「――まあ冗談はこれくらいにして、トロイメライ国王陛下には重大な事実を知らせねばならぬ。どうか落ち着いて聞いてほしい」


「重大な……事実だと……?」


 とても冗談とは思えないオズウェルの真剣な眼差しに、ネビュラは息を呑んだ。

 『重大な事実』とは一体何か? オズウェルやエリックだけではなく、会場に居る者全員が皇帝の次なる言葉を待つ。

 そしてオズウェルの口がゆっくりと開かれる。


「――トロイメライ国王陛下には、お伝えせねばならない重大な事実が三つある。何から話して良いものか悩むところだが……先ずはウィンターの件からお話しよう」


「ウィンターの件だと?」

 

 三つの重大な事実――そのうちの一つはウィンターに関するものらしい。

 突然皇帝が口にした主君の名前――サンディ家臣ノアは困惑した様子で席から立ち上がる。その様子を横目にしながらオズウェルが説明を始める。


「――申し上げにくいが、我が妹エスタがウィンターを連れて行方を晦ました」


「な、なんだと!?」


 予想外の言葉にネビュラたちは驚愕の表情を見せる。トロイメライの絶対的守護神が攫われるなど常識的に考えてあり得ない。ヨネシゲ、ソフィア、ノアも動揺を隠しきれない様子だ。


(――あのウィンター様が攫われてしまうとは何かの間違いじゃ?! いや、今ならそれが可能だろう……)


 角刈りは察する。高熱で倒れ、無防備な状態である今の彼だったら、常人でも容易く連れ去ることができる筈だろうと。


 ネビュラが怒声を上げる。


「ふざけるなっ! エスタ殿下は何を考えておられる?! ウィンターを攫って一体どうするつもりだ?!」


「わからん。妹の行動には俺も困惑しているところだ。まあ、あの好色女のことだ。自分好みの美少年を前にして悪い虫が騒いだのだろう。今頃守護神は喰われているやもしれんぞ?」


 不敵に歯をむき出すオズウェルにネビュラが抗議する。


「困るぞ! なんとかしろ! ウィンターは俺の大切な臣下なんだ。何としても探し出せっ!」


「今全力で捜索しているところだ。あれ程強大な戦力を失ってしまっては、貴国にとって大きな打撃であろう?」


「ま、まさか……ウィンターを攫ってトロイメライの戦力を欠くことが皇妹殿下の――いや、貴国の企みかっ?!」


 オズウェルは態とらしく苦笑を浮かべる。


「おいおい。俺たちまで犯人扱いされては困るぞ? これはエスタが勝手にしたことだ。妹は捕まえ次第厳しい罰を与える。そしてウィンターは保護したら直ぐに貴国にお返ししよう。ただ……最悪の結末を迎えてしまった時は許してくれ……」


「許せだと? 冗談ではないぞ……!」


 ネビュラは怒りを露わにしながら歯を食いしばる。

 続けて皇帝が二つ目の重大事実について語り始める。


「では……二つ目の重大な事実をお話しよう。トロイメライ国王陛下、どうか冷静さを保ってほしい」


「いいから早く話せ」


 オズウェルは前置きした上で衝撃的な内容をネビュラに伝える。


「――これは先程ロルフ王子から聞いた話だ」


「ロルフから?」


「ああ。聞くところによると、夕刻頃からノエル殿下の行方が不明となっているそうだ」


「は?」


 愛娘が行方不明――ネビュラが思考を停止させる。

 ノエル失踪の報告に会場が騒然となる。

 父に代わって第一王子エリックが皇帝に訊く。


「状況が飲み込めねえぞ!? ノエルの行方不明をロルフが把握していたってことか!? なら何故俺たちに報告しない?! そもそも夕刻って言ったらまだ俺たちは王都(メルヘン)を出発していなかったぞ?! どういうことだっ!?」


「やかましいぞ、エリック王子。そんな馬鹿でかい声で話さなくても聞こえている」


「な、何をっ?!」


 大声で疑問を投げかける第一王子にオズウェルが不快感を露わにする。するとその隣でネビュラが静かに尋ねる。


「皇帝陛下よ……」


「何だ?」


「ロルフが……そう言っていたのか……?」


「ああ。王子がそう申されていた」


 皇帝の返事を聞いた刹那――ネビュラが鬼の形相を見せる。


「ロルフよ……何故……何故……斯様な重大な事実を俺に知らせない?! ノエルが行方不明だって? 冗談ではないぞっ!!」


 国王の怒号が会場に轟く。

 かつて無いほどの剣幕に、息子エリックは勿論、角刈りまでが萎縮する。

 ネビュラが再度オズウェルに問い掛ける。


「皇帝陛下っ! ロルフは何処に居るっ!?」


「ロルフ王子なら先程帰国されたぞ」


「な、何だと?! あの野郎……好き勝手動きやがって!!」


 皇帝から知らされた事実にネビュラは怒り狂う――が、直後絶望の表情で狼狽える。


「ノエル……ノエルよ……父が今探しに行くからな……どうか無事でいてくれよ……」


 トロイメライ王はそう言葉を口にしながら、放心状態で扉へと歩みを進める。透かさずエリックが父親を制止する。


「ち、父上! 落ち着いてくだされ!」


「黙れっ! これが落ち着いていられるかっ!! 今すぐ護衛を招集させろっ! ノエルを探しに行くぞっ!」


 冷静さを欠いたネビュラの元にヨネシゲたちが駆け寄る。そして角刈りが落ち着いた口調で主君に伝える。


「陛下。いつでも帰国できる準備は整っております。早速馬車までご案内いたしましょう!」


「ヨ、ヨネシゲよ……頼む……」


 頼りがいのあるどっしりとしたヨネシゲの声を聞いて、ネビュラは冷静さを取り戻したようだ。


 ヨネシゲ、ソフィア、ノアの三人は国王と王子を守るようにして会場を後にしようとする。

 だが、皇帝がトロイメライ一行を呼び止める。


「国王陛下よ」


「なんだ?!」


「まだ三つ目の重大事実を伝えていないぞ?」


「そんなものどうでもよい! 今はノエルの方が心配だ!」


「この三つ目の事実が最も重大である」


「何?」


 ネビュラはオズウェルに向き直る。

 ノエルの失踪より重大な事実とは何か?

 トロイメライ一行は固唾を呑みながらオズウェルの口が開かれるのを待った。そして――想像を絶する驚愕の事実を知ることになる。


「――率直に申し上げよう。ロルフ王子が――謀反を企てている」


「む……謀反だと?」


「ああ。ロルフ王子はトロイメライ国王陛下とエリック王子を追放し、実権を握るつもりだ」


 『ロルフが謀反』――そのワードに会場は沈黙に支配される。


「ロルフよ……俺から玉座を奪うつもりか……!」


 蒼白のネビュラ。

 知らされた三つ目の重大事実に声を震わせながら立ち尽くす。


(――もし事実なら……偉いことになったぞ……!)


 ヨネシゲもまた顔を青くさせる。



つづく……

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