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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
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第301話 和平交渉

 オズウェルが口にした『宣戦布告』という言葉に一同顔を強張らせる。だがネビュラは嘲笑気味に口角を上げながら皇帝に言う。


「ククッ……宣戦布告だと? 血迷ったか? ゲネシス皇帝陛下よ」


「何?」


 眉を顰めるオズウェルにトロイメライ王が続ける。


「今回、我々を和平交渉のテーブルにつかせたのは貴国の方だろう? なのに早々に口にした言葉が『宣戦布告』とは笑わせてくれる」


 不敵に顔を歪めるネビュラ。

 一方のオズウェルは鼻で笑いながら反論。


「フッ。血迷ったのはトロイメライ国王陛下の方ではないか? 和平交渉を前にして、我が(ケニー)を不当に拘束するとは――どう考えても我々と喧嘩をしたいようにしか思えないが?」


「フン! 先に喧嘩を売ったのは皇帝陛下だぞ? 王都(メルヘン)に危害を加えてタダで済むと思ったか?」


 二人の口論は激化。

 オズウェルは全身に濃紫のオーラを纏いながらネビュラを脅すようにして言う。


「あまり俺を怒らすなよ。今ここで国王陛下の命を奪うことは容易いことだ」


 対するトロイメライ王も一歩も引かず。魔王を脅迫する。


「そんなことしてみろ。ゲネシスは終焉を迎えることになるぞ? 具現岩はトロイメライの手中にある事を忘れるなよ」


「おのれ……!」


 オズウェルは怒りを露わにしながらネビュラを睨む。

 ここで第二王子ロルフが強い口調で父を注意。


「父上っ! なんてことを申される!? 和平を結びにきたのですよ!? 私たちは戦争をしに来たのではありません!」


「だそうだ、ゲネシス皇帝陛下」


 ネビュラは悪びれた様子もなく。息子の言葉をそのままオズウェルに返す。

 トロイメライ王の態度に怒りのボルテージを上げるオズウェル。その彼を宥めるのは妹のエスタだ。

 

「お兄様も落ち着いてください。ここで交渉が決裂してしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()が無駄となってしまいますよ?」


 魔王は皇妹の説得に聞く耳持たず。


「決して無駄ではない。今こうしてトロイメライ王都の目と鼻の先に、我らゲネシスの総戦力が集結しているのだ。おまけにトロイメライの絶対的守護神は体調不良で倒れている。トロイメライを落とすには、今が絶好の機会ではないか?」


 兄の言葉にケニーも同調。


「姉様。兄様の言う通りです。奴らに俺たちを怒らすとどうなるか思い知らせてやらねば!」


 睨み合うネビュラとオズウェル。

 和平交渉決裂の危機にあの青年が立ち上がる。


「オズウェルどの〜っ!」


「!!」


 オズウェルの身体に抱きつくのは――イタプレス王ケンジーだ。彼は瞳を潤ませながら上目遣いで想い人(オズウェル)を見つめながら説得を試みる。


「オズウェル殿! 戦争など絶対になりません! |ゲネシスとトロイメライ――両国が衝突すれば、多くの尊い命が失われます。それを避ける為の此度の和平交渉ではありませんか?!」


「ケンジー……」


「確かに両国は長年啀み合っていた仲。双方が一度顔を合わせれば、口論になることくらい安易に想像できます。しかしオズウェル殿とトロイメライ国王陛下は一国の君主。このような場で感情的になってはいけませんぞ!」


「俺は決して感情的になど――」


 否定する魔王の言葉をケンジーが遮る。そしてイタプレス王が予期せぬ言葉を口にする。


「感情的になっております! もし……オズウェル殿の怒りが収まらないのであれば――このケンジーを好きなだけ痛みつけてください!」


「はっ?!」


 突拍子もないケンジーのセリフにオズウェルは呆然。彼だけではない。議場に居た全員が驚きの表情を見せる。だがケンジーは構わず言葉を続ける。


「僕の身一つでオズウェル殿の怒りが収まるというのであれば――このケンジー、人肌脱ぎましょう!」


「待て、ケンジー! 落ち着くのだ!」


 イタプレス王は瞳を輝かせながらそう言い終えると、上着を脱ぎ始めようとする。透かさず魔王が制止。彼は大きく一回深呼吸を終えると、ネビュラに向き直る。


「――まあ良い。此度は親友(ケンジー)に免じて、貴国の行いを許そう」


 魔王の言葉にネビュラは薄ら笑いを浮かべる。


「クックックッ……英断だ、ゲネシス皇帝陛下よ。我々もこれ以上貴国との争いは望んでいない」


 国王と皇帝の態度が軟化したところでケンジーが和平交渉へと誘導する。

 

「それでは、ゲネシス皇帝陛下、トロイメライ国王陛下。両国の安寧と繁栄の為に――和平交渉を始めましょう」


 ゆっくりと頷くネビュラとオズウェル。

 トロイメライとゲネシスの和平交渉がついに始まる。


 


 早速オズウェルが和平の条件を提示する。


「我々ゲネシスがトロイメライに求めることは二つ――」


 その二つの条件――


「一つは今後永久的にゲネシスの領土を侵さないこと――」


 当たり前ではあるが、今後一切ゲネシスの領土に侵攻しないことを求める。


「もう一つは、トロイメライ王都の地下に埋まる具現岩の効果を制限しないこと――」


 『具現岩の効果を制限しないこと』――要するに具現岩から放出される『具現体』の制限を行わないことを要求。具現体の空気中濃度が下がってしまうと、オズウェルら「バーチャル種」は生命を維持できない。ゲネシス人にとって具現岩の制限は非常に恐ろしい事だ。

 一通り条件を伝え終えた魔王がトロイメライ王に問い掛ける。


「――以上が、我々ゲネシスがトロイメライに要求することだ。難しい話ではないであろう?」


 ネビュラは満足げな表情で答える。


「ああ。寧ろ、たったそれだけの条件で貴国と和平を結べるとは安いものだ」


 すると魔王がトロイメライ側に条件を尋ねる。


「――それで? 貴国の要求を聞かせてもらおうか」


 オズウェルに訊かれたネビュラが条件を口にする。


「我々の要求も決して難しいものではない。貴国には、和平を締結するにあたり、追加で条件を求めないことを約束してほしい」


「それだけか?」


 その容易な要求にオズウェルは拍子抜けした様子。ネビュラはニヤリと口角を上げながら言葉を続ける。


「それだけだ。まあ強いて言えば――これからは共に歩み寄り、対話を重ねて、より良い関係を築いていこうではないか」


 トロイメライ王の要求を聞いた魔王が満悦そうに笑う。


「フフッ。貴国の要求、受け入れようではないか」


 どうやら合意に至ったようだ。その様子を確認したケンジーが交渉の場を締める。


「どうやら、話は纏まったようですね。ならば早速、調印式に移らせていただきます」


 その後、滞りなく調印式が執り行われ――トロイメライ王国とゲネシス帝国の和平が締結された。


 ――そして固い握手を交わすネビュラとオズウェル。


 二人が握手を交わす様子を見つめながら、誰よりも安堵の息を漏らすのは――第二王子ロルフだ。


(全て上手くいったぞ。作戦は成功――いや、まだだ。ノエルの件を皇帝陛下にお伝えせねば……)


 ロルフは悩ましそうに人差し指で眼鏡を掛け直した。


 この歴史的和平合意は『イタプレス合意』と呼ばれることになる。



 

 ――その一方で『幻の和平合意』と揶揄されることになるとは、誰も予想していなかっただろう。



つづく……

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