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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
307/408

第297話 青光の鉄拳VS赤光の拳骨(後編)

 モールスの瞳は観客席のソフィアにロックオン。


「オッフォッ! オッフォッ! オッフォッ!」


 ヨネシゲに背を向けた青髪ゴリラ。鼻息を荒くしながら四肢で地面を蹴り、観客席向かって一直線。バトルグラウンドと観客席を仕切る壁は飛翔して飛び越え、ソフィアが居る最上段へと駆け上がっていく。


「ソ、ソフィアっ!!」


 愛妻に迫る危険。その様子を目撃したヨネシゲは渾身の絶叫。全身に走る激痛の中、角刈りは己を奮い立たせて立ち上がろうとするも――


「畜生……! 身体が動かねえ……!」


 モールスから受けた一撃。そのダメージは想像以上に大きく、角刈りの動きを制限していた。そうこうしている間にソフィアと青髪ゴリラの間合いは瞬く間に縮まっていく。


 その傍ら、互角の激闘を繰り広げるノアとキース。

 全身に青炎を纏った豹人間は自慢の瞬発力を活かしてキースに突撃。目にも止まらぬ速さで回し蹴りを繰り出す。一方の大佐は電流を纏わせた鞭を弾丸の如く放ち、ノアの蹴り技をいなす。

 ノアは一旦キースとの間合いを取ると、観客席を駆け上がる青髪ゴリラに視線を移す。


「――このままではまずい!」


 一刻を争う状況に豹人間は顔を強張らせる。

 モールスに妨害を加えてソフィアを救わねば――ノアは強力なバネのような脚で地を蹴り上げて、空中へ大きく躍り出た――が、キースが彼の進撃を許さず。

 ノアの側方を風切り音が通過。その刹那、彼の全身は大佐の鞭によって締め上げられる。


「くっ!」


「フッフッフッ。余所見(よそみ)はいけませんよ? ノア殿――」


 キースは不敵に微笑むとノアを縛り上げる鞭に激しい電流を送り込む。


「ぐあああああっ!」


「フハハハハハッ! さあ、調教の時間ですよ!」


 キースは空中のノアを縛り上げた鞭を地上に向かって振り落とす。緊縛と電流による痺れで身動きの取れないノアは為す術もなく、バトルグラウンドに叩きつけられてしまった。


 ――その間に青髪ゴリラはソフィアの元に到着。鼻の下を伸ばしながら彼女に声を掛ける。


「――グッハッハッ。ソフィアちゃん、お迎えに来ましたよ」


「ひっ……」


 怯えるソフィア。思わずオズウェルの体に身を寄せる。彼女の様子を横目にしながら皇帝が臣下に言う。


「モールスよ。まだ決着はついていないぞ? バトルグラウンドに戻れ」


 一方のモールスは自信に満ち溢れた様子で主君に言葉を返す。


「オズウェル様。誰が見ても勝敗は明白です。私の勝利は揺るぎないでしょう!」


「ほう? だが、ヨネシゲはまだ戦う意思を見せているぞ?」


「え?」


 モールスが背後のバトルグラウンドに視線を移すと、ふらつきながらもファイティングポーズを見せる角刈りの姿があった。


「ちっ。往生際が悪い奴め……」


 モールスは不機嫌そうに舌打ち。ヨネシゲを睨む。

 オズウェルに再びバトルグラウンドに戻るよう促される青髪ゴリラだったが、ある願いを主君に申し出る。


「承知しました! 奴を完膚なきまでに叩き潰してきます! そこでオズウェル様。少しソフィアちゃんをお借りしたいのですが――」


「どうするつもりだ?」


 皇帝に問われたモールスは親指を立てながら満面のゴリラスマイルを見せる。


「あの角刈り頭にも屈辱を味わってもらうのです。ケニー殿下が味わった分――いや、何倍もの屈辱を!」


 臣下の言葉にオズウェルはニヤリと歯を見せる。


「良かろう。我が弟の仇――取ってくれ」


「御意!」


 青髪ゴリラは、皇帝の腕から解放されたソフィアを極太剛腕で抱きかかえる。


「ソフィアちゃん。ちょっとジャンプするからしっかりと掴まっててくれよな」


「え?――きゃっ!」


 刹那。モールスはソフィアを抱えたまま飛翔。バトルグラウンドへと戻る。




「――ソ、ソフィア……!」


 ヨネシゲの目の前には青髪ゴリラと、その腕に囚われた愛妻ソフィアの姿。角刈りは怒りを露わにしながらモールスに怒声を上げる。


「お前っ! 今すぐソフィアから離れろっ!」


 青髪ゴリラは嘲笑。


「はん?! 離れろだあ?! 笑わせるんじゃねえ。離れてほしければ、力尽くで引き離してみせるんだな」


 モールスの言葉を皮切りにヨネシゲは絶叫を轟かせながら突っ走っていく。


「ゴリラ野郎っ! ソフィアを返せっ!」


「口の利き方には気を付けろよ」


 「ゴリラ野郎」が癇に障ったのか、モールスは眉間にシワを寄せながら、迫りくる角刈りを睨む。


「覚悟しやがれっ!」


 角刈りは渾身の鉄拳を放ったが――


「な、何っ!?」


「これが力の差だ」


 角刈りの拳は青髪ゴリラの大きな右掌によって掴まれてしまった。モールスは渾身の握力でヨネシゲの拳を握り潰そうとする。


「があああああっ!」


「あ、あなたっ! お、お願いです! これ以上夫を痛み付けるのは止めてください!」


 苦悶の表情で悲鳴を上げるヨネシゲ。一方のソフィアは青髪ゴリラに攻撃を止めるよう懇願。モールスの腕の中で藻掻く。

 力ない夫婦の姿にモールスが高笑いを上げる。


「グワッハッハッハッ! ヨネシゲよ、情けねえな。妻の前でみっともねえ姿を晒してよ。まあ仕方ねえ……力も無い野郎が俺に勝負を挑んだ代償がこれだ!」


 モールスはそう言うと、ヨネシゲの拳を掴み上げていた腕を振り上げる。同時に角刈りの身体は力無い人形の如く持ち上げられた。そして青髪ゴリラは間髪入れずに勢いよく腕を振り下ろすと、頭上のヨネシゲを地面に叩きつけた。


「ぐはっ!」


「あなたっ!」


 大の字で倒れる角刈り。

 ソフィアの悲痛な叫びが響き渡る。


「グハハ……どうやら勝負あったようだな……」


 青髪ゴリラはヨネシゲを見下ろしながらニヤリと笑う。


「さて、愛妻が俺色に染まるところをその目に焼き付けておくんだな」


「……な……何を……するつもりだ……!?」


 ヨネシゲは力を振り絞りながら青髪ゴリラを見上げて尋ねる。モールスは嘲笑を浮かべると、ソフィアの顎を右手で掴む。


「――グハハっ。泣き顔も可愛いな、おい。今その涙を拭ってやるよ」


「……え?」


 青髪ゴリラは鼻息を荒くしながらソフィアの美貌にゴリラ面を近付けていく。


「や、やめてください!」


「……おいこら……やめろっ!」


 制止を求める夫婦。だが、ゴリラの動きは止まらず――


「いやっ!」


 青髪ゴリラは唾液が滴り落ちる大きな舌を口から出すと、ソフィアの頬を伝う涙を舐め取り始める。その光景に角刈りは絶望の表情。一方のソフィアは瞳を閉じ、顔を背けて抵抗する。だがそれが却って青髪ゴリラの興奮を掻き立てる。


「嫌がる顔も堪らねえな。よし……もっといい顔にしてやるよ――」


「――んっ!?」


 モールスはそのまま彼女の頬に舌を這わして――唇を奪った。


 ――その瞬間。ヨネシゲの頭の中で何かが弾け飛んだ。



「さあ、大人しくしろ。お前が襲われるところを角刈り野郎に見せ付けてやらねえとな!」


「い、嫌だ! やめてください!」


 青髪ゴリラは、嫌がるソフィアの豊満な膨らみを鷲掴み。もう片方の手で彼女のドレスを剥ごうとした――その時だった。


「やめろ……」


「あぁ?」


 突然モールスの耳に届くドスのきいた声。

 青髪ゴリラが視線を落とすと、血走った瞳でこちらを睨む角刈りの顔が目に入った。


「生意気なっ!」


 モールスは透かさず角刈りの身体を蹴り飛ばす。

 地面を数回転したヨネシゲだったが、ムクッと上半身を起こすと静かに立ち上がった。先程までとは雰囲気が違う角刈りを見て青髪ゴリラの顔が強張る。


「どうした? さっきとは様子が違うぜ……」


 その隣ではソフィアが心配そうに夫を見つめていた。


 ヨネシゲは立ち上がるも上半身を脱力させた状態。その場から動こうとはせず。ただ怒気を宿した眼差しだけは確かにモールスを捉えていた。

 青髪ゴリラは額に汗を滲ませながら大声を上げる。


「何だ?! 不気味な野郎だな! 突っ立ってないで掛かって来たらどうだ?! 来ないならこっちから行くぞ!」


 モールスはソフィアを突き飛ばすと、全身を赤色に発光させて自慢の拳骨を構えた。


「ソフィア……!」


 ヨネシゲは地面に倒れたソフィアを見て――雄叫びを轟かせる。


「うおおおおおおおおっ!!」


「!!」


 突然闘技場を襲う激しい揺れ。同時に天から降り注ぐ()()()()()()()()()。それを浴びた角刈りの身体は青色に発光させながら膨張。着ていた衣類は弾け飛び、青髪ゴリラを上回る巨体へ変貌を遂げた。その姿は想人(ひと)ではない筋肉質の身体と青い肌。更に角刈り頭の頭部には二本の尖った角。口からは鋭い牙を覗かせる。そして角刈りの手元に一筋の光が走った刹那、想人ひとの身長程ある極太の金棒が出現した。それを手にした角刈りの怪物が咆哮を轟かせる。


「ガアアアアアアッ!!」


 その恐ろしい容姿をした怪物に、観客席で応援歌を歌っていたゲネシス兵たちが一斉に顔を強張らせる。彼らだけではない。ソフィア、ノア、モールス、キース、ケニー……闘技場内に居る者全員が困惑の表情を見せる。ただ一人だけ――オズウェルだけは顎に手を添えながら興味深そうに角刈りを見つめる。


「――あの姿は……トロイメライ神話に伝わる『怒神(どしん)オーガ』か? そして天から舞い降りてきたあの光は――もしや『神格想素』? だとしたら……神を味方に付けるあの男、只者ではないぞ……」

 

 オズウェルは推測する。

 この世界に存在する「神」という概念――角刈りはその力を借りて「怒神(どしん)オーガ」の化身となったのだ。ただ一つ問題があった。


「――果たして、あの男に神の力を受けるだけの器があるだろうか? 無ければ理性を失い暴走するだけだ……」


 オズウェルは愉快そうに歯をむき出す。


「お手並み拝見といこうではないか」


 皇帝は高みの見物――静観する選択肢を選んだ。




 ――青く光る鋭い眼差しを向けながら、怒神は重厚感ある足音を響かせて、後退りする青髪ゴリラとの間合いを詰める。


(――畜生! この俺が怖気付いているというのか?! 冗談じゃねえぞ!)


 モールスは足を止めると、怒神を指差しながら虚勢を張る。


「おうおう! 角刈りの青鬼さんよっ! 図体だけデカくしたってこの俺には勝てねえぞ!? お前の力は見切った! どんな姿に変身しようとも、お前じゃ俺の力を超えられねえ!」


「………………」


 怒神は無言を貫きながら青髪ゴリラに接近。


「グワハハハ……正論過ぎて反論できねえか?」


「………………」


「クソっ! その頭の角へし折ってやるわい!」


 冷静さを欠いたモールスは赤光の拳骨を構えながら、怒神目掛けて突進していく。


「食らって見やがれっ! 俺の本気をっ!」


 青髪ゴリラ全力の一撃が怒神の顔面にめり込む。


「グワッハッハッハッ! ザマァ見やがれっ!」


 モールスは狂ったように笑い声を上げるが――直後、悶絶の表情を見せる。

 青髪ゴリラは視線を落とす。そこには自分の喉元を掴み上げる怒神の左手があった。ゴリラは恐る恐る怒神の顔面から拳骨を離す。やがて見えてきたのは――傷一つも追っていない怒神の鬼面だった。その恐ろしいほど鋭利な眼差しに青髪ゴリラの身体が震え上がる。


「ま、待て……少しふざけただけ――」


 あまりの恐怖で命乞いしようとしたモールスだったが、怒神の耳にその声は届かず。オーガは青髪ゴリラの喉を掴んだまま、左手を頭上高くまで振り上げて――のど輪落とし。その瞬間、モールスが叩き付けられた地面に無数の亀裂が入った。


 悶絶の表情で失神する青髪ゴリラ。

 だが、怒神は攻撃の手を緩めず。右手に握る金棒を振り上げた。


「ガアアアアアアッ!!」


 怒神は咆哮を轟かせながら青髪ゴリラにとどめを刺そうとする――が、金棒に漆黒の線状が絡み付く。


「させませんよ!」


 キースだ。

 彼の鞭が怒神の金棒を停止させるが、それは一時的なものに過ぎなかった。

 怒神が頭上で金棒を振り回すと、それを絡めていた鞭を持つ大佐の身体は宙に浮き、鬼の周りを旋回。その圧倒的パワーに耐えきれず、鞭を手放した彼の身体は遠心力で投げ飛ばされ壁に激突。意識を失い戦闘不能となった。

 怒神は鞭が絡まった金棒が気に召さなかったのかそれを投げ捨てると、青光の鉄拳をモールスに向かって構える。

 そして怒神はこの世の者とは思えない不気味な重低音の声を響かせる。


「……殺してやる……!」


 怒神から漏れ出す殺気。モールスを抹殺するつもりのようだが、ゲネシス兵たちは誰も助けようとしない。何故なら下手な真似をすれば殺られるのは自分たちだからだ。


「モールス……モールス! 目を覚ませっ!」


 馬車から一連の様子を見守っていたケニーが臣下の名を叫ぶ。しかし目覚める気配はない。ケニーは唇を噛む。


「クソッ! 首輪型空想錠(こんなもの)なんか装着されてなければ、俺があの化け物を始末してやるのに!」


 ケニーは観客席の兄を見上げる。


(兄様……何故動かないのですか!?)


 皇弟の視線の先には、ベンチに腰掛け薄ら笑いを浮かべるオズウェルの姿。


(兄様は……この戦いを楽しんでおられる……)


 ケニーは兄の無情な一面を再認識した。



 そして――怒神渾身の鉄拳が青髪ゴリラに向かって放たれた。




 ――しかし、青光の鉄拳がピタリと止まった。

 その拳の目の前、モールスを庇うようにして立つ女性は――ソフィアだ。彼女は号泣しながら夫に訴え掛ける。


「あなた! もうやめて! これ以上やったらダメだよ! 無抵抗な相手を傷付けるなんて……あなたのする事じゃないよ……」


 ソフィアは怒神の身体に抱きつく。


「全部私がいけないの……私があなたの約束を守らずに……無茶しちゃったから……本当に反省しています……ごめんなさい……だから……お願い……いつものあなたに……戻って……」


「……ソフィア……」


 怒神の腕が優しくソフィアを包み込む。

 直後、怒神の全身がまばゆい光に覆われた。と同時にその身体は縮小を始め、頭部の角、口から覗かす牙が消え去る。青かった肌も想人(ひと)のものへと戻り――目の前にはソフィアが良く知る最愛の夫「ヨネシゲ・クラフト」の姿があった。

 衣類を失った角刈りは全裸の状態で呆然と立ち尽くす。その彼をソフィアが再び抱きしめる。


「あなた……良かった……怖かったよ……」


「ソ、ソフィア……? 俺は……一体……?」


 どうやら角刈りは、怒神になった際の記憶が残っていない様子だ。しかし、今自分の胸板にある妻の温もりを感じながら安堵の笑みを浮かべる。


「ソフィア……怪我はないか?」


「うん……大丈夫だよ……」


「そうか――」


 角刈りもまた、愛妻の身体を優しく抱きしめた。




 ――観客席から青年の声が響き渡る。


「――ヨネシゲ・クラフト! 見事な勝利だ! 良いものを見せてもらったぞ!」


「……皇帝……陛下……!」


 角刈りが視線を向けた先――観客先の最上段で満足げな笑みを浮かべながら仁王立ちする、ゲネシス皇帝オズウェルの姿があった。

 ヨネシゲは眉間にシワを寄せながら皇帝を睨む。


「――私の勝利でいいのですね? なら約束通り、妻はこのまま返してもらいますよ?」


「もちろんだ、そういう約束だったからな。だが……もう一つの約束を忘れたとは言わせぬぞ?」


「わかっています。ケニー殿下は只今をもって解放します――」


 ヨネシゲはケニーの元まで歩み寄ると、彼の首に装着された空想錠を外した。そして角刈りは皇弟に深々と頭を下げる。


「――ケニー殿下。数々の無礼をお許し――」


「死ねえっ!!」


「!!」


 皇弟の怒声。

 拘束から逃れたケニーは、緑色の光を纏った右手を振り翳した。皇弟の報復だ。

 咄嗟に身構えようとする角刈り。だが時既に遅し。ケニーの右手が振り下ろされようとしたその時――


「やめるんだ、ケニー。見苦しいぞ」


「に、兄様……!」


 ケニーの攻撃を止めたのは意外にもオズウェルだった。


「勝敗は決まった。これ以上勝者に手を出すのは無粋である。ここは潔く退こうではないか」


「……はい」


 大人しく兄の言葉に従うケニー。

 彼はゆっくりと腕を下ろすと、唇を噛み締めながら角刈りを睨む。


「覚えておけ。この借りは必ず返す――」


 ケニーはそう言葉を吐き捨てると、ゲネシス兵たちに保護されながらバトルグラウンドを後にした。

 そしてオズウェルが角刈りたちに伝える。


「――城にはイタプレスの治癒士たちを待機させている。怪我した者は治してもらうといい。それと和平が無事に締結され次第、城で晩餐会を行う予定だ。お前たちも晩餐会を楽しんでいってくれ――」


 オズウェルはそう言い残すと観客席から立ち去った。


 クラフト夫妻はバトルグラウンドを見渡す。

 キースと激戦を繰り広げたノアは幸いにも軽傷で済んだ様子。気絶していたトロイメライの護衛兵たちも意識を取り戻し始めた。

 今もなお意識を失っているモールスとキースは、ゲネシス兵たちが用意した担架で運ばれていく。


 険しい表情を見せるヨネシゲに、ソフィアが頬を赤くしながらハンカチを手渡す。


「ソフィア、これは?」


「――その……大事なところ……これで隠しておきなよ……」


「え?」


 刹那。角刈りは自分が全裸だという事実に気が付く。


「ソ、ソフィア! もっと早くに言ってくれ!」


「フフフ。ごめんなさいね」


 赤面するヨネシゲを見つめながらソフィアは笑いを漏らした。




 ――その頃、プレッシャー城内の一室。

 意識を失う銀髪少年を横抱きにする銀髪三つ編みお下げの女性。彼女は彼をベッドの上に寝かせると、その首に首輪を装着。妖艶に微笑む。


「ウフフ。それでは早速食べちゃ――いえ、治癒して差し上げましょう」


 刹那、彼女の身体が赤紫に発光。やがて発光が収まると、そこに居たのは魅惑の魔人――女夢魔(サキュバス)だった。


「さあ、私に全部委ねて――」


 女夢魔(サキュバス)はそう呟くと、ゆっくりとベッドの中に足を踏み入れる。そして銀髪少年の隣で添い寝――その小柄な身体に長い四肢を絡めた。



つづく……

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