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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
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第294話 闘技場

 ――目の前には石造りの立派な闘技場が聳え立っていた。

 ヨネシゲ一行はゲネシス軍大佐「キース」の案内で待機場所となる闘技場前に到着する。


 聞くところによると、プレッシャー城に隣接するこの闘技場は、空想格闘技や競獣が趣味だった先代のイタプレス王が作らせたものらしい。現在でも毎日のように様々な競技で使用されているそうだ。


 ゲネシス側がこの闘技場をトロイメライ側の待機場所に指定した理由――キースの説明ではプレッシャー城周辺の広場は既にゲネシス軍の待機場所として使用されており、手頃な広場を用意できなかったそうだ。


 そして闘技場は百名ほどの護衛兵を待機させるのにちょうど良い大きさらしい。それに加え周囲を石壁に囲まれた闘技場内は外部と隔離することができ、トロイメライ兵とゲネシス兵の衝突を避けることができるとキースは話す。


「――私の案内はここまでです。皆様、中で待機願います」


「わかりました。案内、ありがとうございます」


「いえ、とんでもない。さあ、中へお入りください」


 キースの案内は入口前で終了。

 彼はニッコリと微笑みを浮かべながら、ヨネシゲたちを闘技場内部へ誘導。

 角刈りは、後方に控えるケニーが乗車する馬車と、護衛兵たちに合図を出すと、闘技場内へと馬を進める。その際、ヨネシゲとノアはキースから忠告を受ける。


「ヨネシゲ殿、ノア殿。くれぐれもケニー殿下に乱暴な真似はしないでくださいよ?」


「もちろんですよ。但し、人質解放の交渉が成立するまでは、ケニー殿下をお返しすることはできませんがね」


 毅然とした態度で答えるヨネシゲ。一方のキースはスマイルを崩さずに言葉を続ける。


「その事は従順承知しております。そして我々も交渉が成立するまでは、人質の解放に応じることはできません。ですが――我が主は良い方向に舵を切ってくれる筈。きっと()()()()()()()が待っていることでしょう!」


「ゲネシス皇帝陛下の英断を期待しております」


 会話を終えた角刈りはキースに一礼。馬車と護衛兵たちを引き連れ、闘技場の奥へと姿を消した。


 一行の後ろ姿を見届けたキース――その口角が不敵に上がる。




 ――やがてヨネシゲたちが辿り着いた先は、眩しいくらいの照明に照らされるバトルグラウンドだ。その四方を囲むのは階段のように何段にも続く客席。闘技場外部には月光に照らされるプレッシャー城が聳え立っていた。

 ヨネシゲは闘技場内を静かに見渡す。


(石造りの闘技場か……カルム学院の空想術練習場を思い出すぜ……)


 そこへノアが歩み寄ってくる。


「ヨネシゲ殿、どうしたんですか?」


「あ、いえ……息子が通っているカルム学院の空想術練習場を思い出しちゃいましてね」


「なるほど。確かにカルム学院の練習場が立派だという噂はよく耳にしますよ」


 流石、王国屈指の名門校カルム学院。遠く離れた他領のノアも、カルム学院にまつわる話題を耳にする機会は多いそうだ。その学院に息子を通わす親として鼻が高い。ところが角刈りは表情を曇らせる。


「ですが――改革戦士団の襲撃で学院は跡形もなく破壊されてしまいました……」


「そうでしたか……」


 ヨネシゲの言葉にノアも顔を俯かせる。だが感傷に浸っている暇はない。


「――それよりもノアさん。なんか怪しいと思いませんか? 待機場所が無いにしても、闘技場(こんなところ)を待機場所に指定するとは――何か裏がありそうでなりません」


「同感です。俺たちの考え過ぎかもしれませんが、こんな少人数の兵士を、それもケニー殿下と一緒にわざわざ隔離するとは……」


 角刈りの顔が強張る。


「――不測の事態に備えて最大級の警戒をしておきましょう!」


「はい!」


 力強く頷くヨネシゲとノア。

 彼らが護衛兵に指示を飛ばそうとした時だった――


「な、なんだ……あれは……!?」


 角刈りたちの瞳に映り込んだもの――それは上空から墜落してくる閃光を纏った物体だった。




 ――プレッシャー城・応接室。

 トロイメライ王国、ゲネシス帝国、イタプレス王国の王族たちが集結。


 トロイメライ側

 国王「ネビュラ・ジェフ・ロバーツ」

 第一王子「エリック・ジェフ・ロバーツ」

 第二王子「ロルフ・ジェフ・ロバーツ」


 ゲネシス側

 皇妹「エスタ・グレート・ゲネシス」


 イタプレス側

 国王「ケンジー・カタミセマン・イタプレス」


 ――が、ソファーに腰掛けながらローテーブルを囲む。

 そして、応接室の出入り口付近には、今回トロイメライ側の護衛を務める公爵「ウィンター・サンディ」が控えていた。


 三カ国の王族は挨拶をそこそこに済ませると、ケンジーがトロイメライ側に今後の予定を説明。

 

「――ゲネシス皇帝陛下が戻り次第、和平交渉を行う予定です。無事、和平が合意に至れば、そのまま調印式に移らさせていただきます。その後は、両国の親睦を深めるため晩餐会にご出席いただければと思います」


 一通りの説明を聞き終えたネビュラが不満そうに言葉を漏らす。


「皇帝陛下が不在とはどういうことだ? 我々を急がせておきながら、出迎えもせずに待たすとは――皇帝陛下は随分と無礼なお方だな」


 透かさずエスタが兄の無礼を詫びる。


「兄が無礼を働いてしまい申し訳ありません。どうしても外せない用事ができてしまいまして――直ぐに戻りますので、今しばらくお待ちを……」


「フン。和平交渉よりも重要な用事だというのか?」


「ええ。とても重要な用事ですよ」


 エスタは微かに口角を上げながら答えた。

 納得いかない様子のネビュラだったが、ここで()()()()を切り出す。


「――まあいい。それよりもエスタ殿下、弟君(おとうとぎみ)を早く返してほしいだろう?」


 ネビュラは不敵に顔を歪める。

 ある話題――それはトロイメライ側が拘束しているゲネシス皇弟「ケニー・グレート・ゲネシス」についてだ。

 そしてネビュラは皇妹に人質の交換を持ち掛ける。


「我々はすぐにでもケニー殿下を解放する準備ができている。但し、解放には条件がある」


「条件ですか?」


 態とらしく首を傾げるエスタに、ネビュラがケニー解放の条件を提示する。


「ああ。貴国が拘束している我が国の男爵夫人――『ソフィア・クラフト』の解放を求める。彼女の引き渡しに応じてくれるのであれば、即刻ケニー殿下を解放しよう。どうだ? 悪くない条件だろう?」


 ドヤ顔で言葉を終えるネビュラ。一方のエスタは紅茶をひと啜り。落ち着いた様子で返答する。


「決して悪くない条件だと思います。寧ろ、たったそれだけの条件で弟を解放してもらえるなら安いものです」


「ならば――」


「ですが、私の一存で答えを出すことはできません。全ては兄の判断ですから。兄が戻るまでお待ち下さい」


「――わかった」


 ネビュラは悔しそうに顔を歪めながらソファーにもたれ掛かる。


(クソッ! ソフィアの解放に応じぬつもりか? こちらはケニーという最高峰の交渉カードを提示しているのだぞ……)


 そんな彼を宥めるようにケンジーが言う。


「――ト、トロイメライ国王陛下。交渉はこれからですぞ。和平も、クラフト夫人の解放も、良い結果が得られるように、私も取り計らいますゆえ――」


「気を使わせたな、イタプレス国王陛下」


 ケンジーの気遣いを受けたネビュラは表情を緩めた。


 ――その時だ。

 プレッシャー城に轟音と振動が響き渡ったのは。


「な、何事だっ!?」


「て、敵襲かっ!?」


 慌てふためくネビュラとエリック。予想外の出来事にロルフも顔を強張らせる。するとエスタが落ち着いた口調で状況を説明する。


「トロイメライ国王陛下、ご安心ください。今の衝撃は、隣接する闘技場で行われているバトルによるものです」


「バトル?」


「ええ。我々ゲネシス軍の英雄たちが、()()()()()たち相手に腕試しをしているのです。そうですよね? イタプレス国王陛下」


「へあっ?! は、はい! エスタ殿下の仰る通りでございますよ!」


 ――きな臭い。ネビュラは眉を顰める。

 何故? これから和平交渉が行われる城の目と鼻の先で、激しい腕試しバトルが行われているのか? 常識的に考えてあり得ない。

 不審に思ったネビュラがウィンターに偵察を命じる。


「ウィンター、様子を探ってこい」


「………………」


「ウィンター!」


「……あ、はい」


「どうした!? 今すぐ闘技場の様子を探ってくるのだ!」


「承知しました――」


 ネビュラに偵察を命じられたウィンターは、早速応接室から出ようとする。


 ――だが、この時の彼は意識を朦朧とさせていた。

 その異変をいち早く察知したのはエスタだ。彼女がウィンターの元へ駆け寄っていく。直後、彼の身体がふらつき――


「危ない!」


 倒れ始めるウィンターの身体をエスタが受け止める。


「ウ、ウィンター!」


 ネビュラたちも慌てた様子で彼の元へ駆け寄る。


「あらあら、凄い熱! 直ぐに治療しないと――」


 皇妹に抱きかかえられる守護神。意識を失う彼の身体からは高温の熱が発せられていた。



つづく……

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