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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第六部 明暗の夜 (イタプレス王国編)
303/406

第293話 分離

 石の壁に囲まれた通路。

 照明は灯されているが周囲は薄暗く、足元まで光が届いていない。

 その通路の奥から聞こえてくるのは――足音。暗闇の奥に見える人影も足音が近付いてくるにつれ鮮明になる。

 やがて見えてきた人影は三人の男女。

 一人は二メートルを優に超える身長を持つ銀髪の美青年――ゲネシス皇帝「オズウェル・グレート・ゲネシス」である。

 もう一人、オズウェルの後方に続く彼より一回り身体大きい青髪の中年男は――ゲネシス軍将軍「モールス」だ。

 そして、オズウェルに肩を抱かれる金髪の女性は――ヨネシゲの愛妻「ソフィア・クラフト」。彼女は怯えた様子で両手を胸元に添える。その傍ら、オズウェルとモールスが不穏な会話を交わす。


「――モールスよ、先程話した通りだ。ネビュラと王子たちはそのまま城の中へお通ししろ。そして、ケニーの馬車と護衛兵たちは()()に誘導するのだ。この作戦の一番の目的は、ケニーからウィンターを引き離すことだ。奴に居られては弟の奪還が難しくなるからな」


「承知です! トロイメライの護衛兵たちを根絶やしにしてやりますよ!」


 気合いが入った様子で絶叫を轟かすモールスにオズウェルが忠告。


「おっと、命までは取るなよ。護衛兵の中には彼女の夫も居る筈だからな――」


 オズウェルはそう言うと、不安げな表情でこちらを見上げるソフィアに視線を移す。


「案ずるな。護衛兵たちには少し眠ってもらうだけだ。お前の夫を傷付けるような真似はしない」


「信じても……宜しいのですか……?」


「ああ、約束しよう」


 皇帝の返事を聞いても尚、ソフィアは表情を曇らせる。すると皇帝が予想外の言葉を口にする。


「もし、お前の夫たちがモールスを退ける事ができれば――お前を解放してやろう。但し、ケニーの身柄と引き換えだ」


 だがソフィアの表情は強張ったまま。その隣ではモールスが感嘆の声を漏らす。


「流石、オズウェル様! 勝っても負けてもケニー殿下の奪還は揺るぎないということですな! まあ、私が負けることはありませんがね」


「モールスよ、油断は厳禁だぞ。聞くところによると、彼女の夫はあの『黒髪の炎使い(ダミアン)』を退けたそうだからな」


「ご安心ください。全力で暴れてやりますよ!」


 ここでソフィアがある疑問をオズウェルに投げ掛ける。


「皇帝陛下……」


「なんだ?」


「もし……もし、トロイメライ側が――夫が敗れるような結果になったら……私はどうなってしまうのでしょうか……?」


 そう。ソフィアはまだ聞かされていない。トロイメライ側が敗れた際の自分の扱いを。

 皇帝がゆっくりと口を開く。


「そうだな……命を取るのは流石に不憫だ。お前には第二の人生を用意してやろう」


「第二の人生……?」


 恐る恐る訊くソフィアにオズウェルがニヤリと歯を見せる。


「トロイメライ側が敗れた場合、お前には――モールスの側室になってもらおう」


「!!」


 驚愕の表情を見せるソフィア。その隣ではモールスが興奮。


「オズウェル様。この女、私が貰っても宜しいのですか?」


「ああ、戦利品だ。好きにするが良い」


「ウヘヘ、燃えてきたぜ!」


 モールスは鼻息を荒くしながらソフィアの顔を覗き込む。


「ソフィアちゃん、待っててくれよな。俺が必ず娶ってやるからさ」


「ひっ……」


 不気味に微笑みながら舌なめずりするモールス。ソフィアは顔を青くさせた。


 薄暗い通路を進む皇帝たち。程なくするとその視界が開ける。目の前に広がる光景にソフィアは瞳を見開く。


「――こ、ここは……!?」


「フフッ。我々はここで高みの見物だ」


 オズウェルが不敵に口角を上げた。




 ――イタプレス王国・国境関所前。

 トロイメライ王都から国境関所を経由し、イタプレス王国の地に足を踏み入れたトロイメライ一行。正面に布陣するゲネシス軍に神経を尖らせていた。

 ヨネシゲの頬を冷や汗が伝う。


(――奴ら、隙あれば俺たちのこと襲ってきそうだぜ……)


 現在、イタプレス王国はゲネシス軍に占領されているが――それは表向きのことだ。

 イタプレス占領はネビュラに和平を迫るための圧力であり、ゲネシス皇帝、イタプレス王、トロイメライ王妃の間で事前に計画されていた猿芝居に過ぎない。だがその事情をトロイメライ一行は知らない。全てはネビュラをイタプレスに誘き寄せる為の罠なのだから。

 

 警戒するトロイメライ一行の元に、ゲネシス軍の軍服を身に纏った青年が歩み寄ってきた。透かさず一行の先頭に居たウィンターが応対。


「――トロイメライ王国の皆様、お待ちしておりました。私はゲネシス帝国軍大佐『キース』と申します。プレッシャー城までご案内いたします」


「私はトロイメライ王国公爵、ウィンター・サンディと申します。お出迎えいただきありがとうございます――」


 キースと名乗るゲネシス軍大佐がプレッシャー城までの誘導を務めるそうだ。

 両者、挨拶はそこそこに済ませると、キースの先導でプレッシャー城へと向かった。




 ――やがてプレッシャー城前に到着した一行。城門に向かって歩みを進めていたが、ここでキースが足を止める。


「――サンディ閣下。大変恐縮ではありますが、ここから先はトロイメライ国王陛下と王子のお二人、そして護衛担当のサンディ閣下のみご入城ください。護衛兵の皆様は外で待機をお願いします」


「お待ち下さい。陛下に確認いたします」


 ゲネシス側の要求。早速ウィンターはネビュラが乗る馬車へと向かい、報告。


「――わかった、護衛兵たちは外で待機させろ。それと……ケニー殿下も城内に連れていきたいと伝えてくれ。外は危険だからな……」


「かしこまりました」


 「ケニーも城内に連れて行く」――ウィンターはネビュラの要求をキースに伝えるが――


「――申し訳ありませんがその要求には応じられません。ケニー殿下も城外で待機していただきます。ひょっとしたら、影武者かもしれませんからね」


「そのようなことは……」


「我々はまだ貴方方(あなたがた)のことを信用しておりません。不穏分子の疑いがある者をこれ以上城内に入れる訳にはいかないのです。ケニー殿下は影武者の疑いが晴れるまで城外で待機していただきます」


「わかりました。その旨、陛下にお伝えしましょう」


 結局、プレッシャー城への入城が許されたのはネビュラ、エリック、ロルフ、ウィンターの四名のみだ。


 城門へ向かって移動を始める馬車を見送るヨネシゲ。すると馬車の窓からネビュラが顔を出す。


「ヨネシゲ・クラフト!」


「は、はい!」


「お前の愛妻は俺が取り返してやる。それまでケニー殿下は誰にも渡すなよ!」


「了解しました!」


 敬礼するヨネシゲを見届けたネビュラは満足げに微笑むと顔を引っ込めた。


 その角刈りの元にゲネシスの兵士が一人駆け寄ってきた。


「では、護衛の皆様には別の場所で待機していただきます」


「別の場所?」


 首を傾げるヨネシゲに兵士が説明を続ける。


「はい。これより護衛の皆様には、プレッシャー城に隣接する闘技場に移動していただきます。そこで和平が交わされるまで待機をお願いします!」


 何故、闘技場で待機なのか?

 ヨネシゲとノアは不思議そうにしながら互いに顔を見合わせた。



つづく……

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