31 バトルロワイヤル
二次選抜は、そのものずばりバトルロワイヤル。
挑戦者同士で戦い合って数を絞れと。
主催者側にとってはもっとも手間がない、ある意味、投遣りな方法だった。
「それで何人まで絞るおつもりですか?」
「十人までじゃ。これをもって最終選抜とする」
益々投遣り感が増した。
これで規定人数の十人まで絞るのかぁ……。
一次選抜でもかなりの数減らして三百人が……。
「……何人だっけ?」
「六十五人だ」
おお、ありがとう。
……誰?
まあいいや。
とにかくその六十五を一気に十まで減らそうってことだ。
さすれば既に採用枠にいるグレイリュウガ、ワータイガを加え十二人の『帝国守護獣十二使徒』が完成する。
「奮って争い合え」
皇帝が言った。
「既に凶悪な魔獣どもともみくちゃにされ、その上で生き残ったお前たちは、いずれも屈強の実力者であろう。これ以上外からの比較で実力を測っても無意味なこと。お前たちの中での最強を導き出せ」
そのあとを引き継ぎ、声を張り上げるグレイリュウガ。
帝国最強の男。
「戦え! 左右にいる者どもと殺し合え! 昨日の友をも食い殺す獣心の持ち主こそ十二使徒に相応しい!」
皇帝が静かに深く。
帝国最強が鋭く烈しく。
この声の調子の二段構えで下々の受ける衝撃は一層激しくなる。
「脱落基準は変わらぬ! 死ぬなどして行動不能になるか、選抜会場となる広場から出ること! 戦い方は各自の自由! 個人戦だろうと集団戦でも好きにやるがいい!」
益々自由だなー、と思った。
でも一点、説明に紛れてさらっと凄いこと言ったな。
二次選抜でも挑戦者の生死を問わんのかと。
ここまで絞り込んだ強者を、それでも無駄死に厭わんとする、まさに悪の帝国の真骨頂。
かくして乱闘は始まった。
隣同士でにらみ合ってから身がまえる者たち。
はたまた背後からいきなり斬りかかる者。
やりようは様々だが皆、やる気充分だということは伝わった。
すべては十二使徒になるために。
「お兄ちゃん……」
妹セレンが話しかけてきた。
口調が、とても悲しげだった。
「お兄ちゃんとも戦わなきゃダメなの?」
「セレン……」
俺も妹も、今は共に皇帝の選別を受ける挑戦者。
ライバル同士。
二次選抜の内容からすれば、俺たちは親友肉親同士でも殺し合わなきゃいけないんだろうが。
「大丈夫だ、そんなことにはならない」
「お兄ちゃん!」
「俺とお前、どちらか一人だけしか生き残れないとしたら、喜んで俺が死のう。妹のためなら、この命、捧げても本望だ」
「そんなのやだー! お兄ちゃん!」
妹が飛びついてきたのでヒシッと抱き合う。
周囲から『死ねえええッ!』だの『タマとったらあああッ!』だの剣呑な叫び声が聞こえてくる。
「……まあ、その前に周囲の連中を虐殺することから始めようか」
「そだねー」
合格の枠数は十名。
俺とセレンが同時に合格する望みは充分にあるんだし、今から悲観しても無意味なことだ。
「じゃあお兄ちゃん、アタシこっちから戦うねー」
「では俺はあっちから行くか」
と逆方向へ歩き出す。
二人一緒に生き抜くには、それぞれ別の場所で戦った方がかち合わなくてよさそうだから。
だが、セレンと寸劇やってて気づかなかったが、それが終わるとすぐ気づけた。
「なんか戦いの様相がおかしいな……?」
皇帝からはルール無用のバトルロワイヤル的なお達しを受けていたが、いざ戦いが始まると現場は、思ったより乱戦の様相を呈していない。
「陣営が整っている……?」
勢力が綺麗に二つぐらいに分かれて、その二団体同士で戦い合っている。
これじゃ乱戦じゃなくて合戦じゃないか?
「どうしてこんな流れに?」
「おいジラ! ボケっと見てないで戦ってくれーッ!」
我が旧友の一人、大男のガシが叫ぶ。
悲鳴に近い切迫した声音だった。
「敵は強大だ! こちらも一致団結しなければ押し切られるぞ! 一気に!」
「アイツら、魔法の波状攻撃で殲滅してくるっすよーッ! どうかお助けーッ!?」
長身のレイ、小男セキも泣き声っぽく声を上げていた。
見ればなるほど。徒党を組んだ大人数が一方的にこっちを攻めかけてくるような戦況だった。
協力集団vsそれ以外。
と言う感じの二極化。
俺やガシ、セキ、レイなどの新人組は『それ以外』枠のようだった。
「ということは……、あのやたら一致団結している集団は何者?」
「親衛隊っす! 皇帝直属の親衛隊っすよー!」
「ほう」
セキの説明に、思い当たる。
ベヘモット帝国には、皇帝の直下に『帝国守護獣十二使徒』がいて強固な支配体制を敷くんだが。
さらにそのすぐ下にも親衛隊というこれまた選りすぐりの精鋭部隊があったはずだ。
十二使徒がまだ結成されていない今の段階、その親衛隊こそが皇帝直下。
精鋭の中の精鋭部隊というべき立ち位置だろう。
ちなみに『ビーストファンタジー4』のゲーム中では、ラストダンジョンとしての帝城内に入るとザコ敵としてエンカウントするんだよな親衛隊。
「彼らも十二使徒の選抜会に参加してたのか?」
「そりゃそうだろ! 今のところ帝国最強はアイツら親衛隊員ってことになってるんだからな! 『自分たちこそ十二使徒に選ばれるべき』って気負ってるだろうよ!!」
そういうもんか。
「その通り」
そうらしかった。
攻めかけてくる親衛隊員の一人が、こっちの会話を耳聡くとらえて割り込んでくる。
「我々親衛隊こそ従来の帝国最強。その上にさらなる最強部隊を設立する皇帝陛下の御意に不服はない」
「しかし、その超最強部隊の人員は、我ら親衛隊の中から選び出されるべきだ。それがもっとも効率的なことだ」
「しかしながら皇帝陛下は、お戯れにも余計な者にまでチャンスをお与えなされた。今日の選抜会に広く参加者を募り、先日錬兵所を出たばかりのヒヨッコにまで参加を許されたという」
俺たちのことだ。
「皇帝陛下の広い御心には感服するが、しかし無駄と言っていい」
「十二使徒は、我々親衛隊の中から選ばれるべきなのだから!」
「そこで本格的な選抜の前に、ゴミ掃除をしておこうと思ってな」
ゴミ掃除……!?
「親衛隊でない者を、まず優先して叩きのめす。半端者を除き、純粋な強者のみとなった状態で心置きなく十二使徒となるべき者を選び直すのだ」
「つまりお前たちはお呼びでないということだ。類まれなる幸運と、皇帝陛下のお情けによってこの場にいることを許された弱者たち」
「ここは雑兵のお前たちが来ていい場所ではないのだ! 挑戦権を与えられただけでも一生の誉れと思い、満足して去るのだな!」
「その上でオレたちが、真の最強たる親衛隊の中だけで、誰が十二使徒となるべきか決める!」
なるほどなっつ。
今日まで選りすぐりの精鋭として、皇帝に直接仕えてきた親衛隊には、それ相応のプライドがあろう。
そんな彼らにとって、自分たち以外の人間が選抜枠に入れられること自体、自分たちが信頼されていないようで不満なことだろうて。
日頃から、その部外者を下に見ているならなおさら。
「親衛隊って何人ぐらいいるのかね?」
「聞くところによると五十人規模らしいっすよ! 実際目の前にいるのもそれぐらいっぽいっす! ひええええええッッ!?」
悲鳴を上げながらも律義に答えるセキは、情報屋としてのプロ根性を感じた。
こうしたお喋り中にも親衛隊の皆さんはガンガン攻撃魔法したり直接攻撃したりして部外者を排除しようとしているからな。
しかし……。
六十五人まで残った候補者のうちの五十人近くが親衛隊って。
数としても圧倒的じゃないか。
「当然、我ら親衛隊は第一の試練、一人も脱落することなく通過した。これが実力の差というものだ。それを思い知って雑兵ども、潔く敗退しろ!」
単純計算で五十人vs十五人か……。
皇帝直属として、相当量の獣魔気を付加された親衛隊は個々の戦力も相当なもの。
あらゆる点で不利な俺たちは、このまま多数派に押し切られて脱落してしまうのか?




