32 親衛隊狩り
……と、思うじゃん?
しかしそう世の中上手くいきませんとエリートにこそ味わってほしい。
「ぎゃわーッ!?」
いきなり轟音が巻き起こり、敵陣が吹っ飛ばされた。
敵陣ってのは俺たちから見た、親衛隊さんたちのことな。
どうやら側面から突撃を食らい、大きく陣営を乱されたようだ。
「ぎえーッ!?」
「ぐわぁああーーーッ!?」
砕かれた陣営の破片として、人が宙を飛んでいる。
あれも一騎当千の親衛隊員さんだろうか、しかし見事に吹っ飛ばされているさまは、単なるザコのやられ役としか見えない。
……で、誰だ?
強力なはずの親衛隊員さんを木っ端のごとく弾き飛ばしているのは?
「お兄ちゃんを虐めちゃダメだ~~ッ!!」
ウチの妹だった。
セレンが持ち込みの巨大鉄棒をぶん回して遠慮会釈なしに親衛隊員さんたちを殴り飛ばしている!?
「な!? なんだ!? 側面から敵襲!?」
「バカな!? 皇帝陛下を直近でお守りする我ら親衛隊がなすすべなく!?」
「何なんだ、あのガキんちょは!?」
強者の余裕が一瞬にして崩れる。
あと誰だセレンのこと『ガキんちょ』って言ったヤツは殺すぞ?
しかし俺が手を下すまでもなく、セレンみずから巨大鉄棒を右へ左へぶん回し、そのたびに親衛隊員さんたちが一人か二人ずつ吹き飛ばされていく。
「んぎゃあああああッ!?」
「効かない!? 皇帝陛下より賜った獣魔気ガードが通用しない!? 吹っ飛ばされる!?」
「我ら親衛隊に付加される獣魔気は、帝国内で最高量だぞ!? なのに!?」
「あの小娘も獣魔気を帯びているようだが何者だ!?」
ウチの自慢の妹ですが。
「いや待て! ……見覚えがある。精鋭候補生のセレンじゃないか!?」
「いずれは親衛隊入り確実とされる壊滅ロリッ子か!?」
「待て、そういうことなら我々は同類じゃないか! まず一緒に部外者を排除し、それから改めて……、うぎゃああああッ!?」
また一人、セレンによってホームランされた。
「もんどーむよー!」
ビシッと決める我が妹。
強い上に容赦がない。
「なんであんなに強いんだウチの妹は……!?」
今もって謎だ。
精鋭候補生としてある程度の獣魔気は与えられているらしいが、それでも正規の親衛隊に及ぶ量じゃあるまい。
付加された獣魔気量で劣っているのに親衛隊を圧倒できているのは、明らかにセレン当人の実力によってだろう。
可愛い妹のどこからそんな猛凶になる根拠が……!?
「けんてきひっさーつ!」
「待て待て! まさか非親衛隊の中にこんな伏兵が混じっていたとは!? ぐわあああああッ!?」
また一人場外ホームラン。
これセレン一人で親衛隊壊滅させられそうな勢いだな?
皇帝を直接守るのも役割なはずの親衛隊が、そんなに脆くていいのか。
しかし親衛隊の晒す醜態は、これだけにはとどまらない。
「んぎゃあああーーーーーーーッ!?」
また別のところで悲鳴が上がった。
親衛隊側の陣営から。
セレンがいるところとはまったくの逆方向。
ってことは妹とは別で、親衛隊に痛撃を食らわせている誰かがいる?
「フォルテ!? サラカ!? 何故お前たちが!?」
有象無象の親衛隊員さんによる言葉でわかった。
フォルテとサラカのお色気コンビまで親衛隊に攻撃を加えているのか。
……あれ?
でもそれ、なんかおかしくない。
「お前たちとて親衛隊の一員ではないか!? それなのに何故、同隊の仲間に危害を加える!? 共に協力して十二使徒になるべきではないのか!? なあ!?」
『今からでも遅くないから仲よくしようぜ』というばかりの媚びた口調。
そう、フォルテもサラカも、今は親衛隊に所属しているって何度も聞いた。
帝国に支配された異民族。その姫たちが、人質という形で帝都に連れてこられて……。
その惨めな立場を変えるために必死に努力して強くなり、最精鋭である親衛隊に入るまでになった。
つまり彼女たちは今、同僚に攻撃してるってことになる?
「一緒にするな、貴様らのような軟弱者と」
フォルテが厳しく言い放った。
「自分が親衛隊であることなど、この十二使徒選抜会に臨んだ時から忘れた。私は己の実力のみで十二使徒になることを誓ったのだ」
「そんな……!?」
「それに対して貴様らは示しを合わせ徒党を組み、弱者から狙って蹴落としていこうなど卑小千万。偉大なる皇帝陛下の御心に沿うためにも、貴様らのような軟弱者こそ真っ先に脱落させねば」
フォルテの体から、特濃の獣魔気が吹き上がる。
親衛隊員として充分以上の量付加された獣魔気を、彼女は完全に使いこなしていた。
同じ量の獣魔気を与えられていても、他の親衛隊とは器が違う。
「へッ、オレはありだと思うがよ。集団戦で弱いヤツから狙っていく。当然じゃねえか」
そういうのは並び立つサラカだった。
やや筋肉質な女体の、服の端々から覗き見える腋や胸元が色っぽい。
「だ、だったら何故我々と敵対するんだサラカ!? キミだって親衛隊の仲間だろう!?」
「バカかテメエ、理由なら今言ったばかりじゃねえか。弱いヤツから狙うんだよ」
「へ……!?」
「皇帝様から必要以上に力を与えられておいて、それなのに群れて弱い者苛めなんて狡い戦いしかできない軟弱野郎をよ。まずはぶちのめすってことさあ!」
「ひええええええッ!?」
またしても蹂躙が始まった。
フォルテもサラカも、親衛隊に所属しつつその中でも抜きんでた存在らしい。
彼女らに襲い掛かられる親衛隊員の表情が恐怖に引きつっていた。
「何が軟弱だ? それこそお前のためにあるような言葉ではないか?」
戦いつつもフォルテとサラカは互いを罵り合っている。
「たった今も、勝つために弱い者から倒すと言っていたではないか。それなら自分自身を『軟弱』と言っているようなもの。これだからハヌマ族の山猿は……!
「ああッ!? 勝つためなら何でもやるってことを言いたいんだろうがよ! そんなこともわからねえのかロボス族の犬っコロは!?」
「その行為にプライドがないと言っているのだ」
「何がプライドだあ!? そんなのに拘ってるからロボス族は間抜けなんだよ!」
やっぱり仲悪いなあの二人。
しかし罵り合いながらも攻撃は、同僚たる親衛隊たちを蹴散らして戦場に君臨している。
二人の殺戮女王が並び立っていた。
逆の端からはセレンが暴れまくっているし、もはや親衛隊の陣営は壊滅状態と言っていい。
「ぎゃああああッ!? ダメだ! 支えきれない!」
「分散しろ! 分散しないとヤツらに潰されてしまううううッ!?」
ここで親衛隊たちの方々は一挙殲滅を免れるために散開し、集団としての機能を失った。
「チャンスだ! 一人ずつ潰せ!」
「獣魔気の有無で劣勢でも、各個を囲み殺せば我々にも勝機はあるはずだ!」
「弱きが強きを倒すためなら、多勢で袋叩きするのも許されるんすよ!」
ガシ、レイ、セキの同期組が、親衛隊のばらけた今が好機と攻め上る。
彼らの判断は正しい。
新兵である彼らは、獣魔気の濃淡どころか与えられること自体まだだけど、その分不利な状況をギリギリ凌ぐ経験は積み上がってきているはずだ。
セレン、フォルテ、サラカに圧倒されて腰砕けになった親衛隊ぐらいに今更遅れはとるまい。
「よっしゃー! 早速一人倒したぞ!」
「次だ! レイ、背中から斬りかかれ! そう!」
「足ひっかけろ!」
「目だ! 目を狙え!」
「砂をかけてやるううううッッ!!」
そして実際スムーズに次々撃破していった。
広場はいよいよ乱戦の様相を呈し、最初に想定した通りの賑やかさになってきた。
最初は陣営として固まっていた親衛隊もセレンたちに粉砕されて散り散り。
もはや自分自身の合格に拘った方が得策と、親衛隊同士で殴り合いすら起きていた。
…………。
さて俺はどうしようか?
できれば一次選抜同様に、上手いこと隠れて何事もなく過ごしたいのだけれど。
そういうわけにはいかないようだ。
智聖術<気配遮断>は、味方と目される相手には効果を発揮しないようだ。
面識はなくても一応同じ帝国軍の仲間ってこと?
敵意はありありなのに。
「……おい、コイツ弱そうだな?」
「終了時に撃破数ゼロだと格好がつかんし、コイツだけでも……!」
俺に向けて這い寄ってくる狩人たちの影。
複数。




