第8話 騒動と奴隷と
ブラス商会会頭のハビエルに連れてこられたのは商会の応接室であった。
商会は商談を行う際に注意する事がある。それは足元を見られない事だ。そのためにこういった応接室には、その商会の財力を表すかのように、調度品の数々が飾られている。
そんな場所に三人はいた。
「それで、レギウスの子なんぞつれて、リゼッタお前何しに来たんだ?」
「ん? ああ、私は魔術で使う触媒を買いに。 貴方の所は信用しているし、品質もいいもの。 今日も良質な魔獣素材を期待しているわよ。 で、この子については社会勉強っていったところかな。 貴方も知っている通り、この子は生まれてから館の外に出たことがなかったから」
「なるほどな。 で、今日はなにを買いに来た? ここに来たってことは、そこいらで手に入らない材料を買いに来たってことだろうが」
ハビエルは知っていた。
リゼッタはエルフだがただのエルフではない。 ちょっとした秘密を抱えているという事を、ついでに言えば、かなりの実力を伴うというのもだ。 そんな人物がそこらの森で手に入るものを欲しがるのに、わざわざ金を払うとは思えない。
ハビエルの目つきが少し厳しくなる。
するとリゼッタは懐から一枚の木板を取り出した。
「これに書かれてあるものをお願いするわ」
それを確認したハビエルは渋い顔をする。
「これはまた面倒なものを要求してきたな。 お前さんに金の心配はないが、いったいこいつを何につかうつもりだ?」
「保険よ。 別に問題なければなんてことはないただの保険」
ハビエルが訝しんで尋ねるも、リゼッタは言葉を濁すだけである。
まあ長年の付き合いだ。
リゼッタなら変な使い方をしないだろう……いや、しないんじゃないかな、しないといいなぁ等と思いつつ準備に数日かかると告げる。それにリゼッタは解ったと了承して、ハビエルから出された紅茶に口をつけると、思い出したと言葉を切り出した。
「そういえばさっき居た子爵の息子だっけ? あれ何しに来たの? 貴方があんなに怒るのも珍しい話なんだけど」
それはジークも気になっていた。 あの態度の悪い貴族はいったい何をしに来たのか。 もしシュミット家の領内でなにかやらかしているなら、父上に報告しなければならないと思っていた。だからジークも飲んでいた紅茶をテーブルに置き、話を聞く体勢にはいった。
「ああ、あのガキは俺の所に奴隷を売りに来たんだよ」
「え? 奴隷ぐらいで? それだけじゃないでしょ? 奴隷なんて別に珍しくもないし」
そう奴隷は別に珍しくないのである。
帝国内で奴隷は、その扱いや種類は別として基本的に合法である。 基本的に合法としたのは各領地における領法によって違法なものが出てくるからだ。 例えば奴隷の扱いとして、領内の住民に階級があり、その最下層として奴隷が存在する領地もあれば、犯罪者や借金を返済できなかった者のみが奴隷になる領地もある。 それで言うとシュミットの街は後者と概ね同じで、犯罪者は鉱山奴隷や農奴として国に管理され、借金奴隷に関しては競売にかけられるが、奴隷商人が領内で免許制となっており、違法な商人には罰則が適用されるのである。
「いや、あのガキが俺に持ちかけてきたのは、恐らく拉致してきた奴の売買だ」
その言葉に驚きを隠せなかったのはリゼッタである。
このシュミットの街では奴隷に関しての法律は非常に厳しいものがある。 例えば同じような奴隷法を施いている街であっても、他種族に関してはある程度グレーゾーンだったりする事はある。 しかしシュミットの街は他種族を上手く扱って利益を上げている街だ。 そんな街で拉致した奴隷が売れると考える阿呆がいるとは思わなかったのである。
「拉致って本当? それが本当なら館の領兵が出てくる類の大問題なんだけど」
リゼッタの言葉に今度はハビエルが頭を抱える。
「そうなんだが、どうにも証拠がなくてな。 あくまで仮定の話しとして奴は話していたし、実際の商品を見たわけでもない。 それに俺は奴隷商人の免許は持っていないしな。 買った上で、確かめてレギウスに報告するわけにもいかん。 仮に持っていたとしてもあんな胸糞悪い企てに関わりたくもないし、関わったが最後、この街で今後も商売続けていけると思うか? 思わんだろう」
証拠がないと言われれば捕まえるわけにもいかない。
リゼッタとしても一応領主であるレギウスに報告する事にはなるが、証拠がない以上できたとして監視程度である。 だが、それにも問題はある。 なにせ相手は子爵家の嫡男である。 下手に監視がばれて文句を言われた場合、いくら子爵家より上位である辺境伯家であったとしても、証拠もないのに監視していた、犯罪者扱いしていた等と知れれば大問題である。
「わかったわ。 一応この件を報告はするけど、いいわよね」
「もちろんだ。 むしろ報告してもらわなければ困る。 俺が関わっていると思われるのも問題だからな。 それと注文書の内容は時間がかかりそうだ。 入荷したら届けさせるが、届け先は領主館でいいのかな?」
「それで構わないわ。 行きましょうジーク」
「お世話になりました」
そう言ってリゼッタとジークは商会を後にした。
路地裏から彼らを観察している者も一緒に。
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リゼッタと共に大通りを抜け市場へ向かう。
だがジークは商会を出てからずっと感じている、後ろからの視線に苛立っていた。
「先生、後をつけられていますよね」
そうね。とリゼッタは額に手を当ててため息をつく。
「やっぱり気づくわよねぇ。 なんというかわざとバレるように尾行しているか、それともよほどのマヌケかのどちらかだと思うわ」
「ですよね……街に出てからやたら視線は感じていたんですけど、同じ人間がずっと後方にいて隠れもしないって僕でも気が付きますよ」
「それで、どうしたい?」
リゼッタはジークに尋ねる。
この問いかけは非常に悩む。 正直もう尻尾で薙ぎ払ってしまいたい感じはあるのだが、尾行者たちの狙いがわからない。 個人的には颯爽と倒して捕縛したい気持ちが強い。 視線も尾行も鬱陶しく感じているし、何より伝記で読んだ捕り物には非常に興味があったからだ。
(といっても……ここで騒動を起こしたら父上や兄様たちになんていわれるか)
出る前に散々心配された事を思い出してジークは憂鬱になる。
(僕が騒動を起こして、やっぱり問題になったかってなったら、今後家から出してもらえなくなるんじゃないかな)
「先生。 ここでうまく撒けたら、あいつら巣穴に戻ってくれますかね?」
「んー戻るとは思うけど、難しいと思うわよ。 馬鹿みたいにバレるの承知でついてきてるから、この距離だと、いきなり走り出しても対応してきそうだしね」
と言われた事でジークは再び思案を巡らす。
ジークとしては父や兄にばれることなく騒動を治めたい。 ついでに言えば悪者退治もしたい。 ただし目立つ行為はできない。 ならどうしようかと考えたその時、ジークは一つの案をひらめいた。
「先生。 彼らの狙いってなんだと思います?」
「そうね。 私かジークのどちらかなのは確定ね。 ただ、どうしたいのかまでは分からないわね。 といっても殺す気なら仕掛けるのによさそうな場所で来てないから、殺される可能性は低いとおもうわよ」
「なら僕ちょっと捕まってみます」
ジークは黒い笑みを湛えながらリゼッタにそういいってのけた。
これから頑張って書いていきたいと思いますので
興味を持っていただけたり、面白いと思っていただければ幸いです
まだまだ至らない所もあると思いますが、楽しんで執筆していきたいと思います。
誤字脱字等ありましたら感想等で教えていただけると幸いです。




