第七話「姉貴」
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「もう、飽きたろ――」
直径五mの円の《光》に話しかけてるとか、変な感じ――
――真実――
――そう思いながら、俺はポケットから懐中電灯を取り出し、《光》へ向けた後、カチッとスイッチをオンにした。
たちまち、その《光》は姿を消す。
何も、声もなく消え去る。
「なんだったんだよ」
自分でも怖いくらいの、低い声だけがその空間に溶け込む。
そしてまた、世界が動き出す。
何故、俺が懐中電灯を取り出したか。
それはあの日に『彼女』が教えてくれたからだ。
あの日――……、
じじじじじじじじじじじじじじじ。
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ。
ずっと聴いていると、何となく言葉を言っているような。そんな感覚に陥った。
それが夏。
「テレビ、始まるわよー!」
お母さんが一階から呼ばれた。姉貴はもう成人しているから、二階にいるのは俺だけだ。
「はーい」
適当に、芯のない返事をして階段を下りる。今日は楽しみにしていたバライティー番組のスペシャルだった。
リビングに入り、テレビの前のソファに視線を向ける。すると、くるくるの巻き髪をした女がソファの傍に座り、低いテーブルの上に置いてある何かをお母さんと二人で見ている光景が目に入った。
姉貴、帰ってきてたのか。旦那さんはどこい――お父さんと酒飲んでる。
「久しぶりーっ!」
姉貴が振り返り、満面の笑顔を向けた。お母さんに似て、ひまわりみたいな笑みを浮かべる。
「久しぶり」
「あっれー? やだ、思春期?」
「彼女の一人くらい顔ださないかしらー?」
あははは! と、お母さんと笑う。前からこんなんだっつーの。
「あ、この写真見て見てー! 懐かしくない?」
バライティー番組まではあと五分ほどある。何度も見たCMを眺めるのも嫌なので、姉貴から一枚の紙……いや、写真を受け取る。
そこには、こげ茶色のストレートの女の子が映っていた。年は十代前半だろうか。
一面に咲くラベンダー畑と、女の子が着ている白のレース調のワンピースは、色彩が合っていた。
「この子は私には似なくて、あんまり笑わない子だったよねー!」
「うんうん! 可愛かったけど!」
お母さんらは楽しそうに談笑しているが、俺にはこの女の子が誰か全くわからなかった。
何だか、頭が痛くなってきた。カレーを食べ過ぎたか?
「こいつ、誰だっけ?」
姉貴に写真を差し出して問いかけると、姉貴は「まったまたー!」と笑う。
「あんた、妹の小さい頃も覚えてないの?」
……妹?
妹なんていたか?
頭痛が酷くなってきた。バライティー番組は録画しているし、今日は寝るか。
「寝るわ。おやすみ」
「あらら、寝ちゃうの? おやすみー」
お母さんは声のトーンをいつもより落とし、姉貴は元気良く「おっやっすみー!」と俺の背中に声を当てた。
リビングを抜け、階段を上がり、自分の部屋のドアを開ける。
すると、そこには誰かいた。
「自分の彼女のことも忘れちゃったのかしら?」
暗くて、顔まではっきりとまだ見えない。少しだけドアから覗いた廊下から差し込んだ光が、「誰かがいる」と言う事実を明らかにした。
「誰だ……?」
と――
誰かの手のひらが、俺の背中を押した。
「なっ」
突然のことで対処しきれなくなり、そのままこけかける寸前で立ち直る。後ろでバタンッとドアが勢い良く閉まる音がした。
大きな影が迫ってきた。思わず後ろへ逃げる。けれど二、三歩でドアにぶち当たる。
頭が追いつかず、首に冷たい指が巻ついても対処できない。
どんどんくいこんでいく。
「愛してる」
右耳に優しい、妖しい声が触れる。
「……愛してる」
勝手に口が動いた。知らないのに。
知らない、はずなのに。
何故か口に馴染んで入るような。
体に力が入らなくなり床に横たわる。その間も、冷たい指は首にくいこんでいた。
息が、吸えない。
水が、俺の頬に落ちてきた。けれど自分のではなかった。
指が離されるが体は動かない。
しばらくして、頭にゴヅンと衝撃が……。
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