覆される精霊の定義
どこまでもマイウェイな精霊女王。
精霊の国から来た使者はとんでもない事実をバラす。
走りこんできたお子様、名前をエリーナという。お子様に見えるが精霊国のかなり上の役職らしい。
「マイア女王、人里に下りて買い食いされたあと、どちらにいかれたのですか!」
あまりの剣幕におどおどする精霊女王。
「エリーナよすまぬ。実は精霊であることがなぜかバレてだな」
針のむしろという名の応接間には国王さまにシルフィール、精霊女王、地精霊、いましがた走りこんできたマーガレットさんとエリーナ、そして僕がいる。
ほかの皆さんはまだお宅訪問を楽しんでいるようだ。まぁこの場には居ないほうがいいだろう。
女王の言い訳をかいつまんで説明すると、変装をして屋台でB級グルメをむさぼっているところを、精霊探知機を持った黒ずくめの集団につかまり、洗脳まがいのことをされ、おかしな薬液に浸されてゴーレムにくくられ、僕に助けられ、現在に至る。と。
実際にはクーデターなどは起こっていなかった。
女王の所在については精霊ネットワーク的なもので、僕の周りにいる精霊から精霊の国へと伝わったようだ。
「女王様、どうしてクーデターなどと」
僕は頭痛がする頭をマッサージしながら質問する。
頭痛と頭がかぶっているがそのくらい深刻なのだ。
「わらわの身柄をどうにかしようなどと、クーデター以外に何があるのだ!」
一理あるようで一理ない。
連れ去った人間がマイア女王を王族とわかっていればありえる話だが、行き当たりばったりな犯行であればただのかどわかしだろう。
精霊を連れ去ること自体、かなり罪が重いと思うが。
「精霊国でクーデターなど起こるはずもありません!」
「それと人里に降りて屋台で食い倒れる精霊国の王族など、わたくしは存じ上げません!」
エリーナのきつい一言。なぜかシルフィール姫がぴゃ!と飛び上がる。
迎えが来た以上、これでようやく精霊女王ともおさらばだ。あでぃおす!もう吸われるだけの生活ともおさらばだ。
「ここで残念なお知らせがあります」
エリーナが暗い顔で宣言した。
「女王さまの出入りで場所が突き止められたのか、盗賊一味と思われる集団が精霊国への侵入を何度か試みたため、わたくしが出た後、門が隔離閉鎖されました。賊の脅威がなくなるまでしばらくは戻れません」
いわゆる締め出しである。精霊の国はこことはすこし異なる空間にあるらしく、門を閉じると物理的な移動手段は無いそうだ。
門自体は人の目には決して触れないよう偽装されていたはずが、どこかのくいしんぼうさんにより明るみに出てしまったらしい。
「そうなのか!そうなのか!それは残念である!わらわのような王族が長期にわたり下界で過ごすなど身の危険を感じる!」
約1名が浮き足立っている。
「そうは思わぬか、エイト!」
こちらに回ってきたので誰にパスしようかと辺りを見回すが、本人を除いて全員どこか違う方向を見ていた。
「女王さまの安全を考え、地精霊と共に城と迎賓館をつなぐ通路に設置された地下シェルターに隠れられてはいかがでしょう。あそこなら誰も行きませんし」
僕がゴーレムといっしょにメテオイグナイターでぶっとばした地下通路はまだ工事中らしく、立ち入りは禁止されている。
人の住めるシェルター部分は健在だ。そこに厄介払いもとい隠れていただければと思った。
「いや、ここが気に入った!先ほど見て回った際にかわいらしいスイートを見つけたのでな!あそこに」
精霊女王はここをホテルと勘違いしているのか。
「だめです!あの部屋は勇者さまと私の!」
ここまで言いかけて顔を真っ赤にするシルフィール。
「わ、私は公務の途中ゆえ、城に戻る。部屋の件はこの家の主であるエイト殿に一任しよう!」
国王はそう言い残すと残像だけを置いて消えた。
「あ、待つのだマッスルキング!久々に会ったというのに挨拶もなしか!」
国王さまと精霊女王は知り合いだったのか。そういえば国王さまが精霊の国のことを聞いてもなにも驚かなかったのが気になっていてすっかり忘れていた。
流れを変えるために、前々から疑問に思っていたことを聞いてみる
「女王さま、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」
「エイトよ!わらわは取り込み中じゃ!」
いまにも始まりそうな猫科の戦い。
もふもふきゃっとvsもふもふたいがー無制限一本勝負。
「失礼とは思いますが、精霊という定義がすごくあやふやに思えるのですが、その件ですこしお尋ねしたいと思いまして」
「いきなりだな、エイト」
シルフィール姫とキャットファイト寸前だった精霊女王がこちらをみる。
「たとえば、この世界の人に宿るという精霊の分身、姫さまに宿る光の玉の精霊、時々僕に話しかけてくる姿の見えない精霊、シースとレーネのような物に宿る精霊」
「そして地精霊に女王さま。すべて同じ「精霊」なのでしょうか」
精霊女王はすこし考えてから答える。
「根源は同じだが、進化の道筋が異なるとだけしかいえぬ。同じといえば同じ、違うといえば違う」
「わらわのように「人」の形を取り、国を作って暮らすこともあれば、地精霊のように人里近くに居を構え、利益を分かち合って人と共に生きることもある」
「エイトのまわりにいる精霊は人に見える体をもたず、気まぐれに人と関わりたのしんでおる」
「シルフィールの精霊とエイトに仕えている双子については精霊だろうという以外、わらわにも良くわからん」
「つかみどころがないのが精霊だ」
「ちなみに人に宿る精霊の分身だが、エーテルを魔力に代謝する「器官」を指す。エイトの世界でいうところの「ミトコンドリア」に近いかも知れぬ。特に知性など持たぬ細胞の寄り集まりとでも言おうか。この細胞はどのような生き物であれ母から子に受け継がれるのだ」
いま知った驚愕の事実。
マーガレットさんの口が開いたままだ。この場にサバンナさんやシルビアさんがいたらどんな反応があっただろう。
「わらわがエイトに与えた分身は、その「器官」の働きを代行するものだが、わらわに準じた「知性」を持つ」
精霊女王は僕から吸い上げた記憶からなにかを検索している。
「しかし、エイトの記憶は見ていて飽きない。エイトはこれだけの情報をどうやって得たのだ?普通の人間であればおぼれてしまうほどの。もう少し吸わせてもらえればさらに鮮明な」
「女王さま!これ以上勇者さまを「吸う」のはおやめください!」
シルフィールが抗議する。
「おぬしも吸ってみればいい、おぬしの精霊の助けを借りればもしかしたらエイトの秘密を吸い出せるかもしれぬ」
なにこのみせいねんをかどわかすようなことば。
僕の秘密か。特に知られて困りそうなのは本の隠し場所くらいか。いや本の内容すら吸いだされるのであれば隠し場所などどうでも!
「私が勇者さまのことを知るのであれば、勇者さまにも私のことを知ってもらいたいと思います。勇者さまに私のことを知る手段がないのであればやりません。相手のことを一方的に知るのは卑怯だと思います」
「対等でありたいということか。ならば、わらわの秘密もエイトに与えるとしよう」
あいかわらず斜め方向だ。
この後、記憶交換会が開催された。女王から受け取った記憶の洪水はなかなか刺激的な内容であった。
他人の記憶を無理やり植え付けられるというのはちょっと怖い気もしますが、すごく気になります!
次回
精霊の追憶(仮題)
8/29 文章加筆
冒頭に加筆しましま
実際にはクーデターなどは起こっていなかった。
女王の所在については精霊ネットワーク的なもので、僕の周りにいる精霊から精霊の国へと伝わったようだ。




