魔素のプールと花咲か勇者(じいさん)
ひさびさの「境界の地」からスタートです。
おなじみの真っ白な部屋。
目の前には体操服にブルマといういでたちのようじよがいて、うわめづかいをしている。
「預言書」の悪ふざけだろうと思い、付き合うことにする。
「失礼ですが、どちらさま?」
「おにいちゃん。わからないの?」
「わからないのさん?ですか」
「おにいちゃん、じょうだんはやめて?」
「僕の名前はジョー○ンでもナ○キでもありません。」
バスケットもやらないのにバスケットシューズを好んではいていた昔の僕を思い出す。
目の前の幼女は唇をぎゅっと噛んで、目にうっすらと涙が見える。
「…おにいちゃん…おにいちゃんがいじめる…」
直後にダムが決壊した。
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いまだにしゃくりあげる「預言書」、今は十六夜と呼んでいるが、顔を涙とはなみづまみれにしてこちらを見上げる。
「どうしていじわるをするの?おにいちゃん」
すっかり人格が変わってしまったようだ。
「悪かった、十六夜。ブルマなんてはいているから、何かの余興かと思って悪乗りしすぎた」
「このおようふく、みおぼえがない」
さっきのショックで精神が完全にスイッチしたようだ。どうしたら治るんだろう。
「十六夜…」
若干のためらいはあったが、ショック療養として「ぶちゅー」をかましてみる。
「ぷはっ!おぬし!小僧!いったい何のまねじゃ!」
「おお、もどった。よかった。精神が壊れたのかと思って心配したんだよ!」
「戻った?何を言っておる。さっきのはわしの演技じゃ!たまにはこういうノリもいいじゃろ。種明かしまで待てぬとはせっかちだぞ小僧」
「そうですか。それは失礼をしました」
せりふがぼうよみになる勇者。
僕は勝手知ったるなんとかで、十六夜を抱えて「境界の地温泉」の浴場に行き、スキル「猛獣愛撫」を炸裂させた。
「またもや…」
浴室のタイルに出来た水溜りをシャワーで流す。
そのまま流れで入浴となる。
相変わらず、膝の上が指定席とばかりにくつろぐ十六夜。今日は白いスク水だったので、追加でうめぼしをおみまいした。
※うめぼしとはナックルによるこめかみぐりぐり攻撃である。
こめかみのあたりをさすりながら十六夜が話す。
「ふむ。魔素のプールに魔果実、精霊を動力源にしたゴーレム、精霊国のクーデター、地精霊の迷宮に「りざーどまーん」の集団とな」
僕は精霊女王との仮契約の話もした。
十六夜は僕の胸を触りながら
「たしかに精霊の気配がある。これならばエーテル中毒にならずに済むだろう。しかし魔力の変換量が少なすぎるの。仮契約では能力が限定されるのかも知れぬ」
「突発的に意識を失うことはなくなるだろうが、あの娘っ子からあまりはなれぬほうがよかろう」
「それとおぬし、竜の娘っ子との決闘、忘れているわけではなかろう。十分にきをつけるのじゃ。主に話がこじれる方向で」
いろいろと考えすぎてのぼせそうなので、「境界の地温泉」からあがることにした。
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十六夜の寝室まで、例によっておひめさまだっこをする。
「あいかわらずスケール感の狂う部屋だなー」
だだぴっぴろい部屋の真ん中にあるベッドに十六夜を運ぶ。
さらに例によって十六夜とベッドの上だ。
「おぬしとこうしていると、忘れてしまった昔を思い出す。生活は苦しかったが、仲間もいて、みな仲良く暮らしておった。戦争に巻き込まれ、避難先で保護を求めて軍の施設に」
「…おぬしに話すようなことでもなかったの。忘れてくれ」
僕は何も言えなかった。代わりに十六夜を抱きしめる。
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昼近くになってようやく目が覚めた。夜明けにベッドに入ったから仕方ないとしよう。
寝室は死屍累々という感じであった。
隣のベッドに寝かされたマーガレットさんの上に双子やもえ、フィリーが積み重なりマーガレットさんがうなっている。
僕のベッドには姫さまのほかにお子様サイズになった精霊女王や地精霊が伸びている。
ルティリナは部屋の隅で僕の上着を毛布代わりにして丸くなっていた。
「おはようございますエイトさま。もうお昼ですが一応おはようですね」
僕が起きたのを察知したのか、ソネッタさんが寝室に様子を見に来てくれた。ちなみにドアは壊れたままである。
腕にしがみついた姫さまをそっと剥がすと、隣の広間へ移動した。
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広間には、ドラグさんとテスラがいた。エキドナさんはドラクさんの看病をずっとしていて、先ほど眠ったばかりだという。
「勇者エイトさま、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません。私が商人にだまされなければこのような事態には」
「いえ、こちらこそ庭先や森を壊してしまって」
「いえ、皆の命を救ってくださったのです。むしろあの程度で済んで本当によかったと思っています」
魔果実のことを聞いてみた。商人は真っ黒な実を集めていたようだが、軽い洗脳状態にあったせいか、記憶があいまいだという。
壊した部分をこのままにしておくのも忍びないので、軽く食事を取ってから庭先や森の修復を手伝うことにした。
姫さまたちも起きだした。みんなひどい顔をしている。
いちばんひどいのは僕だったようだ。
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赤竜王を使い、大きいクレーターを優先的に埋めていく。
「ザ・シード」は巨大なスコップに変化し、赤竜王の手に握られている。
「スコップも武器だから問題ないのか…」
燃えるような真っ赤なトラクターならぬゴーレムは僕の指示にしたがって作業をこなす。
助手席には姫さまともえがいるが、まだ眠そうだ。赤竜王の動きに合わせて舟をこいでいる。
双子は後部座席におさまってすやすやと睡眠中だ。
夕べは後部座席があったとは気づかなかった。
小さなクレーターや小ぶりの倒木などはバラの騎士団のみなさんやルティリナが手際よく処理している。
地精霊は小人集団を繰り出してバラの騎士団の手伝いをしていた。
フィリーにはテスラや屋敷の使用人のみなさんと屋敷周囲の片づけをしてもらっている。
その間に魔導士のみなさんが魔素のプールを調べている。詳しいことは城にサンプルを持ち帰って調べるようだ。
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「さて、これをどうしよう」
目の前に広がる魔素のプール。
周囲を覆っていた魔導障壁が無くなり、瘴気を放つこれを放置すれば魔獣を引き寄せるに違いない。
地精霊に魔素を吸い上げてもらおうと思ったが、さすがにこの量は無理だという。
精霊女王は「きんにくが…きんにくが…」とうわごとのように繰り返しまったく使えない状態だ。
「あるじさま…「ザ・シード」を」
もえが「ザ・シード」を僕に手渡す。
「「ザ・シード」は世界樹の種子です。あるじさまになら本来の使い方が出来るはずです」
僕の頭の中に起動ワードが流れ込んでくる。
「大地をあるべき姿に 種子よ芽吹け!ザ・シード!」
「ザ・シード」を魔素プールのそばに突き立てる。
手のひらから大量の魔力が吸い出され、剣が輝きを増す。
「勇者さま!土が!」
姫さまの指差す先、魔素の汚泥が土がもつ本来の黒さに変わり、その表面を緑色の葉が徐々に覆っていく。
魔力の急激な開放により立ちくらみを起こしそうになったが、姫さまが支えてくれた。
ほんのわずかな時間で魔素のプールは緑豊かな土地に変貌した!
「これが「ザ・シード」の力。そうか、もえは大地を芽吹かせる「萌」だったのか!」
「ありがとう、もえ!」
「あるじさま…」
もえをなでなでしながら感動に浸っていると、地下からむさくるしい断末魔のような声が聞こえる。
地精霊が「ああっ!そういえば」と声を上げて、地下に吸い込まれる。
30秒ほどで地精霊が戻ってきた。
「た…たいへんです。この下にあるわたしの迷宮を占領していた「りざーどまーん」が全滅しています」
魔素のプールの下が地精霊のなわばりだった。今朝出て行った二人がすぐに帰ってこられるわけだ。
ちなみに本来の出入り口はずっと離れた場所にあるようだ。
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僕と姫さま、ソネッタさん、マーガレットさん、テスラ、ルティリナは地精霊の手引きで迷宮をショートカットし、最深部の地下砦に進んだ。
万が一の戦闘に備えて精鋭(僕を除く)チームで挑んだものの、肩透かしを食らった。
荒れ果てた地下砦には動くものは無く、薄汚れたよろいや武器、そして「りざーどまーん」数千体分と思われるやや大きめの魔導結石が山になって残っていた。
「「ザ・シード」の浄化の余波がここまで届いていたのか。もしかして力入れすぎたのだろうか?」
迷宮内は瘴気のかけらもなく、当分は魔獣が発生しそうに無いという。
「わたしのお城が…」
地精霊ががっくりと肩を落とす。
しばらくの間、地精霊と精霊女王は僕があずかることになった。
ふとひらめいたことがあった。
「マーガレットさん、この大量の魔導結石は冒険者ギルドで買い上げてもらえるのでしょうか?」
「ええ、特に討伐依頼が無くても魔導結石は重要なものですので、買い上げは可能だと思いますが」
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足りるのかどうかはわからなかったが、魔導結石を売ることで得たお金から、地精霊へのお見舞金を差し引いた分をテスラに渡すことに決めた。
「これはテスラの領内の迷宮から出たものなので、売ったお金のうち地精霊へのお見舞金以外は税金の未払い分と領内の復旧に使ってください」
号泣したテスラに抱きつかれてサバ折されるかと思ったのはひみつだ。
竜亜人の力、まじこわい。
地精霊にお見舞金の話をしたらいらないと断られました。
その代わり時々吸わせてほしいそうです。ボクノカラダ(魔力)ガメアテナノネ。
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夕食の時間。
ドラグさんとエキドナさんに何度も感謝され、テスラは上気した瞳で僕を見つめ、姫さまはあきらかに不機嫌で。
「見ようによってはエイトさまがワイバーン家の借金を肩代わりして、あとはわかります?」とソネッタさんにこっそり言われて、すこし顔が青くなった。
つまりはテスラを買い取ったようなものだ。このままワイバーン家が税金を滞納すれば、テスラは借金のカタに国に身柄を取られ、迷宮送りとなっていただろう。
皆がお食事を楽しむ中、ちょっとだけ頭が痛くなった僕は早めに休まさせてもらうことにした。
寝室にはなぜか精霊女王がいた。いまだに双子のようなサイズである。
僕が「りざーどまーん」を全滅させたと聞いて、ようやく立ち直ったものの、まだお子様モードからは抜けられないようだ。
たぶん魔導結石の件を聞いていたのだろう、こんな質問をされた。
「えいと、おかねはいらないの?おんなのこもいらないの?めいよもいらないの?えいとはなにがほしいの?」
僕には答えられなかった。僕がほしいもの。僕の希望。多分だれにも叶えられないだろうから。
お茶を濁すように答える。
「みんなの笑顔かな」
僕は精霊女王を抱き枕代わりにして寝ることにした。
急に情緒不安定になり、なぜか涙が溢れてとまらない。女王の山脈(今は平地)を借りて声を押し殺して泣く。
「えいとのうそつき」
精霊女王の独り言は勇者には届かなかった。
「預言書」は勇者と話すうちに過去の自分を取り戻していきます。
そして勇者の本当の願いとは。




